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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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北朝鮮は一方的に非核化の約束を破ってきたのか(下)

2017年12月7日

6 六者協議が始まってから決裂までの期間を振り返ってみます。まず注目したいのは、「初期
 段階の措置」の履行の重要な段階で決裂した六者協議の再開をどうするかという決定的な時
 期である2009年1月にオバマ政権が成立したことです。

  私も北朝鮮核開発問題の推移を注視していたので、オバマ政権にはなにがしかの期待を持っ
 ていました。政権発足時にホワイトハウスのHPに「オバマ・バイデンアジェンダ」がアップ
 されていました。オバマ政権の基本政策を表明した内容でした。それを読んだ私はとても驚
 かされた記憶が今でも強く残っています。なぜなら、北朝鮮問題については何も言及されて
 いなかったからです。オバマ政権は北朝鮮政策に対しては関心がないという意味に理解せざ
 るを得ませんでした。このオバマ政権の無関心さが「戦略的忍耐」と表現されているよう
 に、要は米国からは平和的解決のためには何も積極的に働きかけないということとなりまし
 た。

  六者協議が決裂に至る経過を見れば、2005年9月共同声明発表直後から始まった国務省の経
 済制裁が、北朝鮮に対して強い対米不信を与えたことを指摘せざるを得ません。これはおそ
 らくはブッシュ政権内部での政策の調整ミスだったかも知れません。しかし北朝鮮の強硬な
 反発と行動を見れば、その影響の大きさは分かります。

  「初期段階の措置」が合意された後の六者協議決裂は、米朝双方に問題があると思いま
 す。しかし六者協議決裂と私は表現していますが、2008年12月は最終的な決裂ではありませ
 ん。その後の経過を見た上で決裂と表現しています。
  2008年12月以降、北朝鮮は「六者協議は永久になくなった。六者協議へは二度と復帰しな
 い。」と表明していましたが、中国をはじめ関係国による再開に向けた外交努力が行われ、
 北朝鮮も再開に向けた協議には応じていたのです。

  2009年1月成立したオバマ政権の北朝鮮政策が、その後の六者協議再開を妨げてきたと考え
 ざるを得ません。その意味で米国の政策上の失敗と言えるでしょう。
  オバマ政権は、北朝鮮に対する経済制裁を強化しながら、北朝鮮の六者協議復帰を要求
 し、北朝鮮が六者協議へ復帰しなければ、何らの見返り条件を与えない、復帰には北朝鮮が
 非核化についての措置をとる必要があると主張し、北朝鮮は復帰の条件として経済制裁解除
 を要求するなど、「鶏が先か、卵が先か」という堂々巡りを繰り返し、結局六者協議再開は
 出来ないまま北朝鮮の核開発、弾道ミサイル開発は急速に進みました。

  オバマ政権と同じ轍を踏んでいるのがトランプ政権です。オバマ政権による政策をすべて
 否定しようとしているトランプ政権ですが、こと北朝鮮政策を見れば、トランプ政権とオバ
 マ政権とはほとんど同じです。違う点とすれば、トランプ政権の方がより軍事的抑止と制裁
 強化に傾斜しているということでしょう。

7 安倍首相は、対話のための対話は無駄だと述べて、あたかもこれまでの四半世紀にわたる
 北朝鮮の非核化のためにとられてきた政策すべてが無駄であったとし、その責任が約束を破
 った北朝鮮にあると述べています。しかしこの評価は以上に見てきたことからも間違いであ
 ると言わざるを得ません。

  実は日本政府も合意事項を履行しなかったことがあります。六者協議において合意された
 100万トンの重油に相当する経済・エネルギー・人道支援の提供は、北朝鮮を除く5カ国が順
 番に実施することになっていましたが、日本の番になったとき(日本の分担は20万トン相当)、
 拉致問題を理由に支援を拒否したのです。そのため、米国はオーストラリア(六者協議参加国
 ではありません)に日本の分担分を肩代わりするよう打診しました。

  拉致問題は六者協議の議題ではありません。しかし日本政府は拉致問題を六者協議に持ち
 込んで、いわば足を引っ張る役割を果たしたのです。
  安倍首相だけではなく、すべての政党も同じように北朝鮮側による約束違反だけを指摘し
 ています。マスコミも25年間の北朝鮮との交渉では、北朝鮮があたかも一方的に約束を破っ
 てきたと報道しています。私たちもそのことを疑っていません。
  しかしこれは決して北朝鮮核開発問題をめぐる歴史の検証には耐えられない見解です。

8 私は前回二回に分けてアップした「私たちは北朝鮮脅威論にどのように向き合うのか?」に
 おいて、北朝鮮の脅威だけを強調するのではなく、こちら側も北朝鮮の脅威になっているこ
 とを認識すること(脅威の相対化)が必要と述べました。例えば、北朝鮮が弾道ミサイルを発射
 すれば、マスコミはすべて北朝鮮の挑発と言います。しかし、グアムから飛来した戦略爆撃
 機B1-Bが朝鮮半島を飛行したり、日本海で米海軍空母部隊が韓国海軍や海上自衛隊と軍事演
 習をすることを決して挑発とは言いません。

  私たちが日常的に接する北朝鮮情報は、この様に強いバイアスがかかっています。そのよ
 うなマスコミ情報の中で生活していると、北朝鮮に対する認識にもバイアスがかかるのは当
 然でしょう。
  北朝鮮をめぐる問題でこの様に一方的に北朝鮮の脅威をあげつらうようでは、平和的手
 段、対話による解決を求める声が起きるはずもありません。

  北朝鮮核開発をめぐる米朝協議、六者協議の経過を、北朝鮮の約束違反と一色で塗りつぶ
 す評価も同じことです。私たちは北朝鮮問題を平和的手段、対話により解決を図ろうとすれ
 ば、これまでの歴史を踏まえた上で、偏見や曇りのない目でこの問題を見なければならない
 と思います。

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