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【NPJ通信・連載記事】ペルーの今を生きる人々/五十川 大輔

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ペルーの今を生きる人々
第5回 学校教育がもたらす不幸

2014年5月5日

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リマ市内の大統領官邸の裏手を流れるリマック川と国道に挟まれた一角に、CANTAGALLO/カンタガヨ(歌う雄鶏の意)と呼ばれる地区がある。 市内で排出された瓦礫やゴミを堆積して造られた10mほどの小高い丘に、2000年頃から人々が住み始め現在に至っている。世帯数は100程度。
同区に住まう住民のほとんどが、ペルーのアマゾン源流域に暮らす先住民族、シピボに出自を持つ人々である。

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スムネルは、小学六年生。両親は互いに若い頃よりリマに移り住んだため、スムネルはカンタガヨで生まれ育った。

スムネルは、学校へ通うよりも父親について働きに出かけるほうがよっぽど好きだし楽しいという。 労働が子どものこころと健康を蝕み、勉学や遊びの時間を奪い、貧困のスパイラルを生み出すという、 子どもの労働に対する一元的な表象が支配的な私たちの社会においては、スムネルの日常と今後の人生は、悲観的なものとしてしか捉えられることはない。

スムネルの父親は、休むことなく働き続ける。日中は、リマ市から得た造園の仕事をこなし、夕刻に帰宅し少しの睡眠を撮った後、 深夜3時から鶏の集荷場へと向かい、各地の養鶏場より到着する大量の鶏の選別作業に携わっている。 これだけ働いても、日々の暮らしは一向に楽になる気配がない。

もし、両親がアマゾン源流に暮らし続け、スムネルがその土地で生まれ育っていたとしたら、彼の日常を支配する価値観や世界観は、 リマのそれとは大きく異なったものであったことであろう。

なにも、アンデスやアマゾンの世界にありもしないユートピアを見ているわけではないが、 個々の足らない部分をそれぞれの資質や役割に応じて補い合いあうのが労働の持つ重要な側面であり、 それが結果としてヒトの精神性と身体性をより豊かな次元へと高めてくれるのだということを、アンデスやアマゾンの村落を訪れるたびに、 強く再認識させられることがある。

スムネルにとって、もしくはリマに幾万と暮らす国内移住者の子ども達にとって、学校とは、人間性を培ってくれるような場ではない。 言語、生活習慣、両親の在り方までもが偏狭な 「正しさ」 を絶対視する教師達によって否定され、 蔑まれることによって、子ども達は親の出自を恥じ、自己に対する劣等感を抱き始めるようになる。

以下、スムネルと父親が働く鶏の集荷場のオーナーと学校の教師のコメントをそれぞれに掲載する。 スムネルが既存の学校へ通う意味は、いったいどこにあるのだろうか。

【鶏の集荷場、女性オーナーのコメント】
人は、生活のどんな場面においても色々なことを学ぶことができるのです。それに、学ぶ気持ちさえあれば、大学なんかいかなくたって、 本や新聞を読んで知識を深めることもできる。ただし、常に傍らにつき、しっかりと教え導いてくれる大人を、子ども達は必要としているのです。 そうでないと、子ども達は、安易な生き方に流されてしまう場合もありますから。 それが、どれだけ小さなものであったとしても、誠実さ、責任感、やさしさなどの価値を、子ども達の中に培っていく責任が、私たち大人にはあるのです。 私は、8歳のときから両親がはじめたこの仕事を手伝いはじめました。大学入学はかないませんでしたが、経営者となるための専門学校は卒業しました。 私は、自分の息子を時折連れてきては、仕事を学ばせています。 お金を稼ぐこと、自分のやりたいことを叶えるのは、容易なことではないのだということを息子にも学んで欲しいのです。 最初の頃は、鶏が逃げてもそしらぬ顔でしたが、この1羽を得るのにどれだけのお金が必要なのかなどを教えました。

沢山の子ども達が、橋の下でシンナーを吸ったり不良グループに属したりしていることでしょう、本当にかわいそうなことです。 大人達が、子ども達に生きるお手本を示し、教え導く大人達が、この社会には不足しているのです。

スムネル君には、共に働くことによって、お父さんの努力する姿をその目で見て欲しいと思います。 家庭に食べ物や衣服をもたらすのに、どれだけ早くからおきて汗をながしているのかを見て欲しい。 スムネル君に、一日働いたら次の日は休むように指示しています。彼の学校での学習に支障をきたしてはいけませんから

【教師のコメント】
私は、この子達を1年生のときから見ている訳ではなく、彼らが5年生の時から担当するようになりました。
いままで、小学校1年生から卒業までみてきた子ども達の中には、大学まで進んだ子ども達も少なからずいます。 彼らは私を慕って、今でも時折連絡を取ってきます。
私は常に、子ども達に最良の学習方法を考案し、授業に適用しようと試みているのですが、今回受け持っている子ども達にはあまり成果がありません。 それは、子ども達の家庭内での環境があまりにもひどすぎるからです。
生徒の親の中には、字を読めない人たちがいます。だから当然、子どもの宿題をみてやることすらできないのです。 計算だってまったく理解できないのです。家に帰ったら兄弟の面倒をみるよう母親にいいつけられるし、働いている子どもだって結構いるのです。

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この子達が勉強できないのは、私のせいではないのです。家の中が勉強をできるような環境になっていないのです。 けれども私は、必死で努力をしています。たとえば、この子なんかは(子どもをひとり呼びつける)、去年は字も読めなかったし計算もできなかった。 だから私は、常に彼に気を使い、あれやこれやと口やかましいほどにアドバイスをして付き添いました。おかげで、彼は字が読めるようになったのです。
スムネルは、ほんとうに落ち着きのない子どもです。去年なんてケンカばかりでした。 だから親にもいったのです、もう少ししっかりと彼のことをみなければいけませんよって。 彼は、私が少し目を離せばケンカばっかりしていました。ビデオカメラで去年の様子を撮影していたらおみせしたいくらいですよ。

【スムネルのコメント】
働くのも勉強をするのも好き。働いたら、半分お母さんに渡して食料品などの足しにしてもらいます。 残り半分で学用品や自分の好きなものを買う。先生は厳しいけれどもよい先生です。 宿題を忘れたりすると、ベルトで鞭打ちされたり、廊下に立たされたりします。だけど一生懸命教えてくれる。お父さんを尊敬しています。 お父さんは本当によく働きます。お父さんのように働き者になりたいです。 夏休みには、故郷のアマゾン、プカルパのおじさんのところでパパイヤの収穫を手伝う。 パパイヤの収穫は難しいんだ。手を滑らせたら落としてしまったら、もう売り物にならないんだ。 鶏の集荷場の仕事は楽しいよ。将来は鶏の小売卸店を父親とやれたらいいなと思う。 その時は親戚のおじさんを雇いたい。友達や若い子はだめ。だってやつらは怠け者で全然働かないんだから。

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*関連動画
「働く子どもたち物語」 先住民族シピボの子ども・リマ

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