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【NPJ通信・連載記事】高田健の憲法問題国会ウォッチング/高田 健

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安倍改憲をめぐる情勢と私たちの課題

2017年12月27日

安倍自民党の改憲動向

 今年5月3日の安倍首相による憲法9条に自衛隊の存在を書き込むという発言以来、自民党や改憲派は執拗にその実現に向けて動いてきた。
 安倍首相らによる奇襲攻撃ともいうべき10月22日の総選挙の結果、自公与党で衆議院の3分の2議席、その他の改憲賛成政党を含めれば実に衆議院の8割まで占めるに至った改憲勢力の動きは活発だ。

 安倍首相は、自民党憲法改正推進本部長に、自らが属している派閥の会長・細田博之氏をあて、この間、安倍首相の意を受けて改憲を推進してきた幹部たち、すなわち病気で引退する保岡興治・前本部長と、息子に跡目を譲って議員を引退した高村正彦副総裁を特別顧問として引き続き改憲推進ができる体制を整えた。
 ちなみに推進本部の事務総長は、日本会議議員懇談会メンバーの根本匠・元復興相、事務局長は、神道政治連盟国会議員懇談会メンバーの岡田直樹だ。
 これらの極右がリードする布陣で、従来から野党に甘いと定評のある中山太郎初代憲法調査会会長のながれを受け継ぐ自民党憲法族の船田元・元本部長や中谷元・本部長代理らを封じ込める体制をとった。
 2017年11月の現在、自民党はこの改憲推進本部で、改憲原案作成のための議論を続けている。

 この特別国会の所信表明演説では、安倍首相はあえておなじみのハイテンションの主張を避け、「与野党の枠を超えて、建設的な政策論議を行い、ともに、前に進んで行こう。ともに、困難な課題に答えを出していく。そうした努力の中で、憲法改正の議論も前に進むことができる」と呼びかけるにとどめた。
 衆院選では自民党は5つの重要公約の1つに改憲を挙げた。
 しかし、安倍首相は総選挙中の街頭演説で改憲問題にほとんど触れず、「争点隠し」との批判を浴びたほどだ。
 しかし、今回の所信表明演説といい、街頭演説といい、これが安倍首相の改憲への熱意の低下をしめすものでないことはあきらかだ。
 それは狡猾な政治的術策に過ぎない。

 すでに自民党改憲本部は11月16日に「合区解消」の議論を本格化させ、今月から来月にかけて高等教育無償化、緊急事態関連条項、自衛隊の明記について、を議論する方向だ。

改憲案~その1~合区解消

 9月20日以来、約2か月ぶりに開かれた11月16日の改憲推進本部の議論では、参議院議員選挙で県境をまたいで合区とされている選挙区の解消をめざして、憲法47条、92条の改憲を目指すことが確認された。
 47条は、「選挙区……に関する事項は、法律でこれを定める」とあるのを、「各都道府県から1人以上選出できる」主旨の一文を付け加える。
 地方自治体の組織、運営に関して定めた92条も、これに準じて改めるという。
 自民党はこれを次期参院選(2019年7月)までに改めようとしている。
 そのためには、来年の通常国会で与野党協議を具体的に始めなければ間に合わないことになる。
 石破茂・元幹事長は、「法の下の平等」を定めた憲法14条との関係で、この改憲案は不明確と批判した。
 17日、公明党も、「国会議員を全国民の代表と規定した憲法43条と矛盾する」と批判し、ブロック大選挙区制を主張した。
 共産党も、全国をブロックに分ける比例代表制を提案した。

 「憲法9条を壊すな!実行委員会街宣チーム」のリーフレットで私たちが指摘してきたように、国会議員は地域の代表ではなく、「全国民」の代表だ。
 14条との関係で必要な1票の格差の是正は、全国比例代表制で解決できる。
 もともと国家財政を理由にして、国会議員の定数を次々と減らしてきたことが問題で、他の先進国の議員数から見ても、日本の国会議員数は決して多すぎない。
 財源問題は、他の予算や歳費の問題で解決できる。
 これは改憲に値しないというのは、当たり前の議論だ。
 こうした自民党の改憲案が、野党各党や、世論の多数から理解されるはずがない。

改憲案~その2~教育無償化

 教育の無償化はどうか。
 これは教育無償化改憲を自党の看板にしてきた「維新の党」を安倍改憲に引き込むために、安倍首相らが掲げているものだが、かつて民主党政権時に反対した自民党の中からも広く疑問が出されている。
 公明党や他の野党も批判しているが、これは改憲の問題ではない。
 法律を作ればいまでも実現できる問題で、課題は財源問題だけだ。

改憲案~その3~緊急事態条項

 緊急事態条項の導入には、問題が2つある。
 1つは現在、自民党がこの改憲課題で言っている内容は、緊急事態における国会議員の任期延長を憲法に盛り込むことに絞った改憲案であるということと、もう1つは、それにとどまらずに緊急事態における首相の権限の強化まで踏み込んだ改憲案にするかどうかという問題だ。

 第1の国会議員の任期延長論は、以下のようなものだ。
 大災害などで選挙が実施できなくなった場合に国会議員の任期を延長する「緊急事態条項」を創設する。
 安倍晋三首相は「緊急時に国民の安全を守るため、国家や国民がどのような役割を果たすべきかを憲法に位置付けることは大切な課題だ」と述べている。

 しかし、自民党の推進本部の会合では「任期延長を先行させれば、保身に走っていると国民からみられかねない」などの理由で、批判が相次いでいる。
 公明党にも強根強い批判がある。
 私たちは、憲法54条の規定で大災害時には参議院が緊急集会を開催できること、衆議院の任期満了時でも被災地以外は予定通り選挙を実施し、被災地は公選法57条で繰り延べ投票にすればよいことから任期延長は必要でないと指摘している。
 あえて憲法を変える必要はないことは明白だと考える。

 第2の問題は、いま自民党は言及していないが、このところの改憲論議で「緊急事態条項」の改憲(加憲)として一般的に説明されることが多い問題だ。
 この中に、緊急事態における首相権限の強化が含まれる可能性は否定されておらず、それは従来から私たちが指摘してきたように、ナチスの国家授権法に類するような危険があることを意味する。

 第1の災害時の国会議員の任期延長論は、この非常事態条項導入の突破口になる可能性がある。
 自民党の2012年の改憲草案は、大規模災害や内乱時に首相が「緊急事態の宣言」を発し、法律と同じ効力がある政令を内閣が制定できる、財政措置もできる、地方自治体にも命令できるなどと定めている。
 これによって緊急事態には基本的人権や財産権の制限が可能になる。

 国会議員の任期延長などと愚にもつかない理由で緊急事態条項を入れておいて、この条項を国家緊急権のような首相権限の強化の方向に拡大していくとしたら、より重大な問題だ。

改憲案~その4~自衛隊の根拠規定

 9条1項、2項をのこしたまま「自衛隊の根拠規定」を付加するという、5月3日の安倍9条改憲案については、本誌で幾度も述べてきた。
 これが憲法9条1項、2項と矛盾するという指摘は広く各界から出ており、公明党などにも躊躇がある。
 自民党の細田改憲本部長は11月11日、「現行の憲法解釈は、自衛隊は2項と矛盾しないというものだ。そうであれば、2項が禁止する戦力は一種の『攻撃的戦力』であり、自衛隊の根拠規定を加えても論理的に何の問題もない」と述べた。
 これはごまかしだ。
 現在の自衛隊は「戦争法制」のもとで集団的自衛権を行使する自衛隊であり、海外で米軍と共に攻撃的な戦争が可能とされている。

 この自衛隊を憲法に書き込むことは、戦力不保持と交戦権否認を定めた9条2項に矛盾する。
 この場合、後法優越・優先の原理から、3項が優先され、2項が否定される。
 11月20日の特別国会で、衆院の代表質問に立った立憲民主党の枝野代表は、集団的自衛権行使を可能にした安全保障関連法を「立憲主義の観点から決して許されない」。安倍政権が目指す改憲について「今ある憲法を守ってから言え。それがまっとうな順序だ」と指摘した。
 まさに憲法を守れないものに改憲を主張する資格はないのだ。

 極右組織「日本会議」の櫻井よしこ、田久保忠衛、三好達らによる「美しい日本の憲法をつくる国民の会」などは、「現行憲法では、自衛隊は明記されておらず、『憲法違反』の存在といわれています」「憲法に自衛隊を明記しよう」「ありがとう自衛隊」というキャンペーンを始めており、①365日24時間、日本の守りに専念。②国際平和協力活動に、世界各国で貢献。③国民の暮らしを守るため、年間500回の災害救助へ、などと宣伝している。
 しかし、憲法違反の集団的自衛権を行使できるようになった自衛隊を憲法に書き込めば、日本は憲法で「戦争ができる国」になる。

安倍自民党の改憲スケジュール

 安倍首相周辺では、改憲作業について最短コースで、来年1月からの通常国会に改憲原案の提出、国会終盤の改憲発議、秋以降の国民投票実施というスケジュールを狙っている。
 この間、安倍政権による森友・加計疑惑隠しの動機によって、臨時国会も開かれず、国会が不正常な状態に置かれてきたことから憲法審査会は開かれていない。

 世論や国会の各党の反発を考慮して、安倍首相や自民党幹部たちは「改憲はスケジュールありきではない」などといいながら、改憲の準備を急いでいる。
 2018年早々に召集されることになる通常国会では、憲法審査会は早期に再起動されるにちがいない。
 開催のテンポや議題は、与野党の厳しい闘いになるだろう。
 3月末までは18年度予算の審議があり、3月には自民党大会が予定されている。
 この大会で自民党は憲法審査会の改憲論議を加速させるか、改憲原案を確認することになる。
 自民党はそのあと、通常国会末の5~6月に改憲案の本会議採決・改憲発議をねらっている。18年9月は自民党総裁選挙だ。
 安倍の3選を可能にするためには、改憲の道筋をつけておかなくてはならない。

 この発議のスケジュールが世論の動向を反映して、また、党内論議や公明党ほかの野党との調整の成り行き次第で、18年秋の臨時国会、あるいは19年の通常国会にずれ込む可能性はある。
 その場合、18年11月3日に絡んで、明治150年を祝い、現行文化の日(憲法公布記念日)を「明治の日」にしようというキャンペーンも展開されているだろう。
 19年には、4月末に予定されている天皇代替わり行事があり、3月下旬から4月にかけての統一地方選がある。
 19年7月は参議院選挙だ。
 また、18年から19年全体をとおして、東京五輪の前段キャンペーンが行われ、社会には日の丸の旗が舞うことになる。

 今回の総選挙で、自民党は衆院で3分の2の議席を得たことにより、最長で2019年7月の参院選まで改憲発議可能なタイムリミットを得たことになる。
 私たちは、公選法と改憲手続き法の投票運動の仕組みの違いから、国政選挙と国民投票の同時実施は困難だと指摘してきたが、自民党内で与党に有利に働く参院選と改憲国民投票の同時実施論が根強くあるのも、この計算からだ。
 同時実施のためには、国民投票は発議後60日から180日以内に実施しなくてはならないので、180日とすれば18年末の臨時国会で発議が必要になる。60日とすれば、天皇代替わりの歴史的お祭り騒ぎ直後の19年連休明けに発議すれば間に合う。

 18年発議という、わずか1回の国会で改憲の発議をする企ては、乱暴極まりないことであるが、参院選と同時投票というのも乱暴な話だ。
 このような無茶な改憲を許すことはできない。

安倍改憲の前の困難

 しかし、この企てには困難も多い。安倍首相が最も重視する9条に自衛隊を付加する改憲案には、支持母体の一つの日本会議の田久保忠衛会長が、総選挙後、右から「欺瞞的でなまぬるい」とかみついているし、自民党内でも石破茂・元防衛相をはじめ、2項と新3項は矛盾するという批判は根強い。
 公明党も、党内や支持母体の創価学会のなかに自民党に限りなく引きずられることへの不安が大きく、党幹部も安倍改憲案に慎重姿勢を示さざるをえない。
 「維新」は安倍9条改憲に反対してはいないが、9条改憲が最優先課題という位置づけではないし、「希望」の中では明確に反対派が存在する。
 これらの政党の動向に多くを期待することは禁物だが、しかし世論によって変化するのも事実だ。

 世論は、朝日新聞(10月23、24日調査)で「自衛隊明記」反対45%、賛成36%、共同通信(11月1、2日)で反対52・6%、賛成38・3%だが、NHK(10月16日)は賛成29%、反対22%と結果が分かれた。
 各種の世論調査で、安倍9条改憲に反対する世論が相当に根強くあることはあきらかだが、NHKで「どちらともいえない」が40%を占めたように、自衛隊明記の9条改憲案の危険性が十分に浸透しているとはいえない。
 特に年代別調査(朝日)で、18~29歳で賛成が49%、反対が34%という結果は重大で、他の年代すべてで反対が多かったことと比べて、大きな課題だ。若者たちが戦後民主主義の洗礼から遠ざけられていることの反映だろう。
 男性は45%が賛成で、女性は28%だった。

 また、安倍内閣が取り組むべき政策の優先順位に関する共同通信の世論調査(2つまでの選択。11月1、2日)では、年金・医療が42・5%、景気・雇用が39・6%で、「憲法改正」は6・8%で8番目に過ぎなかった。
 世論は改憲を求めていないことの証明だ。

改憲国民投票について

 国民投票についても、本誌はそれへの安易な幻想に警鐘を乱打してきた。
 多くの人々の努力の結果、第1次安倍政権時代に設計された現行改憲手続法(国民投票法)が、民意を正当に反映できない悪法であることは、運動圏ではかなり知られるようになってきた。
 発議後の国民投票運動期間におけるテレビやその他のメディア(新聞やインターネットを含む)の広告宣伝の不平等の問題、国民運動期間の短さ(最低60日)、最低投票率規定がないこと、公務員や教育従事者の国民投票運動の制限が強すぎること、などなどを含め、問題があまりにも多い。
 これによって、国民投票が資金力、組織力のある改憲派に有利な仕組みになっている。
 一部には憲法審査会と国会が、この改憲手続き法の「改正」をおこなうことに期待する人もいるが、同法の成立過程から見て、国会の多数である改憲派がそれに乗る可能性はほとんどないとみなくてはならない。
 私たちは全国的な大衆運動の強化によって、この悪法・改憲手続き法のもとで改憲発議を企てる安倍政権の策動を打ち破る必要がある。

 だからこそ、目下の運動の課題は「国民投票に備えよう」ではなく、「改憲発議を阻止しよう」だ。
 この闘いの大きな展開なくして、万が一、国民投票が強行されたときに、それに反撃できるような足場は作れない。
 運動を広げ、大きくして、改憲派に改憲をあきらめさせる、あるいは動揺させるようなたたかいを作り出すことがカギになる。

 衆院憲法審査会がまとめた今年7月の「憲法改正」や「国民投票制度」についての超党派の訪欧調査団の報告書によると、EU離脱の是非を問う国民投票を実施した英国のキャメロン元首相は、調査団に国民投票で支持を得ることの困難さを説明し、「(実施には)少なくとも60%程度の賛成者がいる状況が必要」と強調、調査団の改憲派の議員を驚かせたという。

 「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」が呼びかけた「3000万署名」運動は、いま各地で急速にひろがっているが、この運動の成否がいま安倍首相らが企てている来年夏の改憲発議をくいとめることができるかどうかの天王山になる。
 集会、デモ、スタンディング、戸別訪問などなど、全国津々浦々の市民による創造力を駆使した行動で奮闘したい。

 そのためにも、12月16~17日、東京で開催される第20回「許すな!憲法改悪・市民運動全国交流集会」に結集し、今後の安倍改憲阻止の闘いの方向の議論をへて、共有し、共に歴史的な闘いをたたかい抜きたい。
                           (「私と憲法」199号所収 高田健)

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