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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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日本が航空母艦を保有する日

2018年1月6日

1 12月25日から27日にかけて、新聞各紙で防衛省が空母保有構想を検討していることが大きく報道されました。その内容は、ヘリコプター護衛艦いずも、かがを改修して、F35Bライトニング戦闘機を搭載して運用できるようにする、来年行われようとしている防衛計画大綱の見直しへ盛り込まれることも想定しているというものです。

2 現在の防衛計画大綱(25大綱)は第二次安倍内閣が2013年12月に閣議決定したもので、10年間の防衛計画を定めた基本文書です。5年経過で見直すことも述べています。

 25大綱から5年経過する来年12月の見直しを前提に、防衛省内部で検討が進められています。それも25大綱の修正というよりも、新しい大綱の策定を目指していると思われます。その理由は、北朝鮮情勢の緊迫化が背景となっています。

 これまで新聞で報道された次期防衛大綱の内容としては、長距離巡航ミサイル保有ですが、これに空母構想が明らかになりました。この二つはいずれも、専守防衛政策を大きく踏み越える内容として、憲法9条に直接抵触するものです。今回は、空母構想について少し詳しく述べてみたいと思います。

3 空母構想の具体的な内容は、海自最大の艦船である護衛艦いずも、かがの改修です。両艦は基準排水量19500トンです。艦船の大きさを表す世界標準の単位は満載排水量です。基準排水量は、満載排水量から燃料と水の搭載量を引いた数字です。軍事問題に詳しいある新聞記者に以前に聞いたところでは、基準排水量の1.5倍が満載排水量に相当するとのことでした。そうすると、いずも、かがは満載排水量が約3万トンに相当することになります。

4 いずも、かがは全通甲板といって、上部甲板が船体全体を1枚で構成している空母と同じ型です。これと同じタイプは、護衛艦ひゅうが、いせ、輸送艦おおすみ(同型艦にはしもきた、くにさきがあります)です。

 いずも、かがは14機のヘリコプターを搭載し、同時に5機が甲板上で離発艦出来ます。そのためヘリコプター空母とも称されていました。いずも、かがは、当初から空母に改修されるのではないかとささやかれていたようです。なぜなら、両艦の航空機格納甲板の天井高、格納甲板から飛行甲板へ航空機を運ぶエレベーター、開口部はF35Bのサイズに合わせていたというのです。

今回報道された空母構想は、ヘリコプターに代わり米海兵隊航空部隊が運用しているF35Bライトニング戦闘機を搭載して運用するというものです。F35Bは、三タイプあり、F35Aは空軍用でこれを自衛隊に配備する計画です。F35Cは海軍用で、攻撃型原子力空母に搭載されます。F35Bの特徴は、エンジン排出口を下向きへ可変でき、その他の装置を併せて垂直離着陸や短距離離着陸が可能という点です。ですからカタパルトのない強襲揚陸艦や、いずも、かがでも離着艦できるのです。

米軍はF35Bを強襲揚陸艦(満載排水量4万数千トン)へ搭載して、海兵隊航空部隊が航空作戦にあたります。防衛省が検討しているものもこれと基本的に同じ運用構想です。

5 米軍は、F35Bライトニング戦闘機を搭載する強襲揚陸艦のことをライトニング母艦と呼称しているようです。実は、海軍へ配備する予定のF35Cの実戦配備が遅れており、2018年以降になる見込みです。現在攻撃型原子力空母に搭載している戦闘機はFA18スーパーホーネットです。

 F35Bとスーパーホーネットを比較すると、その特徴はステルス性能においてF35Bは格段の能力を持っていることです。そのため、仮に両戦闘機が空中戦闘をした場合、F35Bはスーパーホーネットの敵ではないというのです。

 F35Bを搭載したライトニング母艦は攻撃型原子力空母よりも攻撃能力が高い、だから建造費用も運用費用も遙かに高価な原子力空母はもはや時代遅れだという議論もあるくらいです。むろん、中国が運用している空母遼寧やロシアの本格的空母よりも攻撃能力は上回るといわれます。

6 我が国の基本となっている防衛政策である専守防衛政策では、日本が攻撃されたときに相手の攻撃を排除することに徹し、相手国を攻撃することは米軍の役割で、自衛隊はその後方支援を行うというものです。米軍は「矛」自衛隊は「楯」という役割分担です。専守防衛政策では、空母のような兵器は本来不要です。

7 専守防衛政策とは、1970年第1回防衛白書において「我が国の防衛は専守防衛政策を本旨とする。」と明記され、その後の防衛白書で「相手からの武力攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のために必要最小限度にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限度のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢」と定義され、安保法制施行後の2016年、2017年度防衛白書でも、これと全く同じ定義で日本の防衛政策として維持されています。

 つまり、専守防衛政策は自衛隊が憲法9条に適合するという証ともなっているのです。ですから、安保法制が合憲であると政府が主張する限り、専守防衛政策という旗は降ろせないのです。

8 専守防衛政策の結果、敵基地攻撃能力は法理上9条に反しないが、防衛政策として保有しないとか、性能上専ら相手国の領土の壊滅的破壊に用いられる兵器(具体例としてあげるのがICBM、攻撃型空母、戦略爆撃機)の保有は許されない、等の政府見解となります。

9 来年度の防衛大綱見直しに向けて、巡航ミサイル保有や空母保有構想は、これまで維持してきた専守防衛政策からの脱皮を狙っていると言わざるを得ません。

 安保法制は9条に違反する法律ですが、この上さらに安倍内閣は9条改正を行おうとしています。それにより9条2項の制約を取り払おうというものです。空母保有構想も巡航ミサイル保有計画も、専守防衛政策を否定することで、9条改憲に先行させて既成事実化をはかるものです。

10 北朝鮮の脅威や中国との尖閣諸島をめぐる紛争などから、特に中国の軍事力に対抗するためには空母構想が必要だ、憲法9条でも許されるとする立場があります。しかし、この論者でも専守防衛政策を正面から否定しないでしょう。政府も防御的な運用をするのでこれまでの政府答弁と整合すると説明するでしょう。

 ところがいずも、かがへF35Bを搭載する構想を新聞が報道するよりも以前に「軍事研究」誌12月号が「海自いずも型空母とF35B」という論文でこのことを詳細に紹介していました。これによると、いずも型空母の運用構想は、中国海軍との軍事力比の改善、海軍力によるプレゼンス強化、船団護衛や対地攻撃、外洋作戦などの新任務対応だと述べています。

プレゼンス強化とは艦砲外交の意味です。これらの運用構想は専守防衛政策では説明できません。この論文はそのことを十分意識しており、いずも型空母不要論に対して、専守防衛の範囲なら合理性がある、基地航空隊で十分だとしています。言い換えれば、いずも型空母は専守防衛政策を超えるものということなのです。

11 いずも、かがを空母に改修するという構想にはもう一つの狙いがあります。それは、F35Bを運用する米海兵隊航空部隊に、空母に改修されたいずも、かがを実戦で使用させるというものです。海上自衛隊と米海軍は三軍の中で最も一体運用が進んでいます。この構想は情勢緊迫状態での敵国面前での共同訓練(威嚇目的の共同訓練です)や重要影響事態、国際平和共同対処事態での後方支援、存立危機事態での集団的自衛権行使などの際に、米海兵隊のF35Bの飛行甲板代わりにいずも、かがを使用させるのです。その際に、次の戦闘に飛び立つ準備をしているF35Bに対して、給油や弾薬の補給、整備をするというものです。いずれも安保法制で可能となった任務です。

12 いずも、かがを改修して空母として使用するという構想は、安保法制をより効率的に実行することに加えて、近い将来に憲法9条改憲をにらんで、それを先取りする既成事実を作ろうというものと考えられます。私は安保法制が憲法違反であること、9条改憲を許してはならないとの立場から、防衛省が検討している空母構想の危険性を多くの方に知ってもらうため、この文章を書きました。

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