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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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秘密保護法反対運動が示したもの

2014年5月6日

1 秘密保護法とは何だったのか
  秘密保護法は、国家安全保障は官僚の専権事項であり、国民にも国会議員にも、裁判所にも、 報道関係者にも触らせない(知らせない)という思想で一貫していました。 国民から隠す秘密は、別表で示されている外交・防衛・特定有害活動(スパイ活動)防止・テロ活動防止の四分野で、きわめて無限定なものです。 それを指定できるのは行政機関の長、と言っても官僚が幅広い裁量で指定します。 その漏えいを防ぐため最高で10年以下の懲役、1000万円以下の罰金という重罰を科すものです。

国民は主権者として、又納税者として、政府・官僚組織が税金を使って収集した秘密情報を知る権利があります。 秘密保護法は国民が特定秘密を知ろうとするだけの行動までも処罰対象にします。 他方で、官僚が違法な秘密指定、自分たちの過ちを隠すための秘密指定に対しては、何らのペナルティーも科しません。

国家安全保障に関する秘密情報の中で最も重要なものは武力紛争に関するものです。 安倍首相は日本版NSCの運用にとって秘密保護法は不可欠な法律と説明しました。 この意味は、日本版NSCが武力紛争などの危機に際して、国の司令塔になるからです。当然米国との集団的自衛権行使を想定しています。

2 自民党改憲草案を先取りする秘密保護法
自民党改憲草案は、第12条、第13条、第22条2項で、基本的人権を制限するものとして、 「公共の福祉」 からわざわざ 「公益及び公の秩序」 という新しい制約原理を導入しようとしています。 「公益及び公の秩序」 とは、自民党自身の解説によると 「国家の安全と社会秩序維持」 です。 国家安全保障のためには国民の基本的人権を制限するという思想です。秘密保護法は、国家安全保障のためには国民の知る権利、裁判を受ける権利、 報道・取材の自由を侵害してもかまわないという思想で作られています。自民党改憲草案と同じ思想です。

自民党改憲草案は、天皇を元首とし、前文は国民を国家に奉仕するものとの思想で作られています。国民主権を軽んじるものです。 国民は主権者として、政府による違法な行為を監視しそれを排除する権利を有しています。 国会は国民主権を体現する国権の最高機関(憲法第41条)として、政府を監督する権限が与えられています。 秘密保護法は国民主権に基づき政府を監視・監督する国民や国会議員の行動を犯罪として処罰するもので、国民主権を制限、否定するものです。

自民党改憲草案は第2章の表題を 「安全保障」 とし、集団的自衛権を丸ごと行使でき、そのための国防軍を設置します。 国家安全保障のためには国防軍を有効に活用するというものです。言い換えれば戦争ができる国作りのための改憲草案です。 秘密保護法は、国民に隠れて政府による戦争行為を準備することを可能にします。いったん戦争になれば、その真実を覆い隠し、 情報コントロールにより国民を誤った戦争に導くことを可能にします。

自民党改憲草案は第九章で緊急事態条項を置きます。戦争・内乱・大規模自然災害に際して、内閣へ立法権を含む強大な権限を集中させ、 国民の基本的人権保障を停止し、一時的に内閣独裁体制を可能にします。緊急事態制度を運用する政府の中枢組織が日本版NSCになるはずです。 改憲草案第99条3項では緊急事態が宣言された場合、国民には政府がとる施策へ服従義務が課されています。 緊急事態制度を効果的に運用する上で、カギを握るのが情報コントロールです。秘密保護法は情報コントロールに不可欠な法制度です。

つまり、秘密保護法は国民主権主義、基本的人権尊重主義、恒久平和主義という憲法の三大原則を侵害し、 自民党改憲草案を準備先取りする国内法制なのです。

3 国家安全保障基本法案(概要)の先行実施である秘密保護法
自民党は2012年7月6日国家安全保障基本法案(概要)を発表し、国家安全保障基本法案制定を衆議院選挙、参議院選挙の公約にしました。 国家安全基本法案は早ければ今年の通常国会へ法案が提出されるかも知れません。

基本法案(概要)は、第3条3項で秘密保護法制定を、第6条で日本版NSCの創設を求めています。 第10条は集団的自衛権が丸ごと行使できる規定になっています。第8条は自衛隊の規定ですが、第11条国際平和協力活動と第10条が合わされば、 自民党改憲草案第2章とほとんど変わらないことができるようになります。これだけではありません。 基本法案(概要)は、第3条2項で政府のあらゆる施策で国家安全保障を優先させること、 第4条で国民には政府による国家安全保障の施策への協力努力義務を課して、国家安全保障が国民の基本的人権に優越することを示しています。

この様に基本法案(概要)は単に集団的自衛権行使を可能にするだけにとどまらず、憲法の下で作られてきた国の形を根底から覆す国家改造基本法です。 どのように改造するかといえば、以上から明らかなように、戦争ができる国作りです。自民党改憲草案の重要な部分を先取りします。

秘密保護法は、基本法案(概要)で制定を求められていることと、国家安全保障を国の優先事項にして、 そのためには国民の基本的人権を制限しても良いという全く同じ思想で作られていることからも、基本法案(概要)を先行して実施するものです。 日本版NSCも同様です。

4 国民の強い反対運動に直面した安倍内閣
法案概要が公表されたのは昨年9月3日の深夜でした。それからわずか2週間のパブリックコメント期間中に9万件もの意見が内閣官房へ寄せられ、 そのうちおよそ8割が反対意見でした。法案が国会へ提出されたのが10月25日でしたが、 参議院で強行採決した12月6日までの42日間に驚くほどの多くの市民・団体が反対の意見を表明し、廃案を求める運動に参加しました。 日弁連が秘密保全法制反対のためのワーキンググループを立ち上げたのが2011年11月、対策本部を立ち上げたのが2012年2月です。 私は最初からこれに関わりましたので、丸2年間は反対運動に没頭しました。 日弁連だけではなく全国の弁護士会も早い段階から秘密保全法制反対の意思表明をし、反対運動を進めてきました。 ところが、法案概要が発表されるまで、報道機関の報道はほとんどなく、大半の国民はこの法案のことすら知らず、 知っている人も 「国には秘密があるのだから保護するのは当たり前」 という賛成の意見が多数でした。 それにもかかわらず、短期間に、(私も驚くほどに)急速に反対の意見が広まりました。

学者文化人の団体、医師の団体、宗教者団体、人権団体、法律家団体、ジャーナリスト、労働組合、反原発運動、 秘密保護法反対の市民団体など様々な分野の団体が反対を表明し、著名な俳優・映画人、文化人、学者、作家、 音楽家などが個人で反対の意思を表明しました。 11月21日は、日比谷公園で1万人が集会、パレードをし、12月6日には同じく1万5千人が集会、パレードをしました。 全国各地でも同様の集会、パレードが繰り広げられました。

9月以降私が学習会や講演会に出かけて話をしましたが、どこも主催者の予想を超える参加者で、私が約90分間という長い時間話をしても、 居眠りをせず私の話に集中して聞いてもらいました。

安倍内閣は異常なほどに法案審議を短期間にすすめました。日々高まる国民の反対運動に直面したからです。 10月26日共同通信の世論調査では、半数を超える人が法案に反対し、8割の人が慎重審議を求めるという結果でした。

5 秘密保護法反対運動は何を示したか
それでも秘密保護法案は参議院で強行採決され成立してしまいました。しかし不思議なほど私には挫折感も敗北感もありませんでした。 これはおそらく私だけではなく、法案反対運動に関わってきた方に共通していると思います。 なぜなら、あれだけの短期間に大きな反対運動になったということは、市民の間に蓄積されている戦争反対、 改憲反対の意見がどれほど強固なものであるかが示されたからです。 法案反対運動を進めてきた多くの団体、市民は、法案成立直後から秘密保護法の廃止を求める運動を起こし始めました。 と言うより法案反対運動の力がそのまま秘密保護法廃止運動へと転換しているのです。

この力はすぐに影響が出ました。通常国会へ共謀罪法案提出を予定していた政府は、秘密保護法に反対する大きな世論に直面して、 法案提出を見合わせています。むろん安倍内閣の支持率も10ポイント以上下がりました。

6 今年こそ憲法改正を阻止して政治の流れを大きく変える年に
秘密保護法が成立した直後から大きな動きが出てきました。安倍総理大臣が靖国神社へ参拝し、中国・韓国のみならず米国、 EU、国連事務総長などから批判が集中しました。安倍内閣は国際的に孤立を深めています。 安倍政権の下ですすめられている戦争ができる国作りは、今後ますます日本と周辺諸国との緊張関係を深めて、私達の平和と安全が脅かされるでしょう。

南スーダンPKOに参加している自衛隊は、韓国軍に銃弾1万発を無償提供しました。憲法9条とPKO協力法に反する行為でした。 PKO協力法は第25条で物資協力ができる規定がありますが、国会での政府答弁では武器弾薬は提供できないことを明言していました。 他国の軍隊の武力行使に密接に関わるため、憲法で禁止される武力行使に該当するうえ、武器輸出三原則にも抵触するからです。 しかし、安倍内閣はこれまでの政府答弁をいともあっさり覆しました。 このことは、秘密保護法で政府は、国民が処罰されることはない、報道機関が処罰されることはないなどと答弁してきたことが、 いかに当てにならないものであるかを示しました。

石破幹事長は、秘密を報道する報道機関に対して何らかの規制が必要だと発言しました。 秘密保護法の本当の狙いが報道機関の規制にあることを、与党幹事長の立場で明言したのです。 そして、秘密保護法の次にマスコミ既成の仕組みが必要であることを述べたのでした。

昨年12月17日に閣議決定された新防衛計画大綱、中期防衛力整備計画を読むと、 安倍内閣は本気で中国との武力紛争を戦うことを準備していることがひしひしと迫ってくる内容です。 秘密保護法も日本版NSCもこのために必要なのだと思いました。

安倍総理大臣は年頭の記者会見で、憲法解釈の見直しや憲法改正についての強い意欲を示しました。 秘密保護法、日本版NSC設置法、国家安全保障基本法は三点セットとなって戦争をする国作りの重要な仕掛けです。 憲法改正へ向けたいわばロードマップです。岩波 「世界」 12月号に 「岐路に立つ安全保障」 という論文がありました。 この中に、昨年(2012年)12月の安倍内閣発足を前に、安倍と側近グループは政権運営のロードマップを密かにとりまとめた、 そこに明記されている大目標は憲法改正と日米安保条約の全面改正だった、改憲では天皇を元首とし自衛隊を国防軍とする、 日米安保条約は日本が米国を防衛できる双務的な規定に変える、との記述がありました。 論文の著者たち(複数のようです)は、ロードマップをペーパーとして入手していると思われます。

安倍政権はこれ以上存続させてはならないと思います。秘密保護法で示された国民の強い反対運動と、引き続き取り組まれている廃止を求める運動は、 今年予定されている国家安全保障基本法案の国会提出、集団的自衛権行使容認のための憲法解釈変更、 集団的自衛権行使を可能にする自衛隊法などの改正など、憲法改正に直結する重大な問題への国民の反対運動と結びつくでしょう。 それによって安倍内閣を追い詰めて退陣を迫るものにしなければならないと思います。

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