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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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国家安全保障戦略、新防衛計画大綱、中期防衛力整備計画を憲法の観点から読む(1)

2014年5月6日

憲法と安全保障防衛政策
  言うまでもないことですが、政府が策定する安全保障防衛政策は、憲法に適合することが立憲主義の要請です。 国家安全保障戦略(以下安保戦略)、新防衛計画大綱(以下25大綱)、中期防衛力整備計画(以下中期防)という三文書は、閣議決定ですから、 閣僚の憲法尊重擁護義務を持ち出すまでもなく、憲法に反することを決定できません。 これらは我が国の今後10年間ないし5年間の安全保障防衛政策を規定する基本文書となります。

三文書は安全保障防衛政策の基本文書として、安全保障防衛政策の是非という観点から読むこともできます。 私は法律家として三文書を立憲主義の観点から分析しようと思います。その際、基準となる憲法規範は憲法9条になります。

安保戦略、25大綱、中期防の関係
防衛大綱は抽象的な内容が多いため、防衛政策を理解するためには中期防とセットで読まなければ、具体的な中身はわからない仕組みです。 25大綱は安保戦略の防衛政策を具体化するものです。安保戦略は、「(我が国の防衛の)中核を担う自衛隊の体制整備にあたっては、 本戦略を踏まえ、防衛計画の大綱及び中期防衛力整備計画を含む計画体系の整備を図る」 と述べているように、25大綱・中期防の上位文書という関係です。

ところが、安保戦略を策定するための有識者懇は2013年9月に作られていますが、25大綱はそれに先立ち6月には自民党提言がなされ、 7月にはそれを踏まえた防衛省が中間報告を作成し、有識者懇が作られた9月当時には、25大綱は概略ができていたので、 安保戦略はいわば付け足しの観が否めません。安倍内閣もこれを忠実に実行しようとの姿勢は見受けられません。 安保戦略は、冒頭から我が国の安全保障を巡る環境は厳しいと述べ、それを改善するため、安保戦略は中国と戦略的互恵関係を作り、 韓国との友好関係を強化するという戦略を打ち出しているのです。 ところが、靖国神社参拝と対中・韓外交を眺めると、安保戦略など無関係といわんばかりに見えます。 安倍首相は、自分の個人としての政治信念を貫くことを、日本の安全や国益に優先させているのです。

前置きが長くなりましたが、ここでは25大綱、中期防を中心に見てゆきます。

25大綱の特徴(22大綱との比較で)
1 25大綱は、以下に詳しく述べるように、憲法改正を先取りし、解釈改憲、立法改憲を準備するものです。また、軍拡を指向するものです。
2 中国との武力紛争を戦うための防衛大綱
防衛大綱は10年間の防衛計画を定めるものです。22大綱からわずか3年でなぜ25大綱なのでしょうか。 この疑問が25大綱の特徴を理解する鍵になると思います。22大綱と比較しながらそのわけを考えてみます。

新しい防衛大綱を策定する理由として二つの理由を挙げています。中国の脅威と北朝鮮の脅威です。 この二つの脅威が3年前よりも高まったとの認識なのです。北朝鮮脅威は 「我が国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威」、 中国に対しては 「我が国として強く懸念」 と書き込んで、22大綱よりは一層踏み込んだ脅威認識を示すのです。 しかしこれだけでわずか3年後に新しい防衛大綱を策定する理由としてはいかにも根拠は乏しいように思えます。 22大綱も中国・北朝鮮の脅威を強調した防衛政策を策定していましたし、 防衛大綱の末尾には必ず情勢の変化に応じて修正するとの 「留意事項」 があるからです。

25大綱を22大綱と比較しながら読んだ最も強い印象は、25大綱は中国との武力紛争を本気で想定し、戦う態勢を急速に作ろうとしているということです。 25大綱を読み解く一つのキーワードは 「グレーゾーン事態」 と思います。25大綱では7回登場します。 その意味は 「領域主権や権益等をめぐり、純然たる平時でも有事でもない事態」(安保戦略10頁)です。 ちなみに大綱には 「事態」 という言葉が多用されていますが、「紛争」 と読み替えたほうが理解しやすいでしょう。 22大綱は1回しか出てこず、それも一般的な国際情勢として述べているだけなのです。 平時でも有事でもないグレーな事態を、日本の基本的な防衛政策のキーワードにすれば、それこそ明確な防衛政策ではなく、グレーなものになります。 有事でなければ防衛力の出番ではなく、警察力の出番になるはずですが、防衛政策にこれを位置づけるのですから、 防衛力行使の限界がきわめて曖昧になります。

25大綱は、「グレーゾーン事態」 を国際情勢一般にとどまらず、我が国周辺を含むアジア太平洋の安全保障環境に位置付け、 さらに我が国防衛力の構築の目的、日米同盟強化に位置付けています。 グレーゾーン事態とは言うまでもなく中国と日本との間の東シナ海を巡る各種紛争を意味しています。とりわけ島嶼部防衛に結び付けられています。

防衛力の役割として 「各種事態における実効的な抑止及び対処」 を挙げ、具体的には5つの事態(正確には6つの事態)を挙げます。 ア 周辺空海域における安全確保、イ 島嶼部に対する攻撃対応、ウ 弾道ミサイル攻撃対応(ゲリ・コマ対応を含む)、 エ 宇宙空間・サイバー空間における対応、オ 大規模自然災害への対応というものです。 この各種事態は22大綱と同じものを列挙していますが、グレーゾーン事態を強調する25大綱では、 アイウエの4事態は中国との武力紛争を想定していると理解できます。 さらに、島嶼部防衛では、その記述内容は22大綱とほとんど同じですが、「島嶼への侵攻があった場合には、これを奪回する。」 と22大綱にはない強い表現となって、読んだ際にドキッとしました。でも、中国軍が島嶼部を占領するということは、 自衛隊による島嶼部周辺海空域での優勢が崩れて、中国軍が制海権、制空権を握っているのですから、どうやって奪回するのでしょうか。 奪回部隊はみすみす撃破されるために行くようなものです。

25大綱に 「自衛隊の体制整備にあたっての重視事項」 という項目があります。これは22大綱にもありますが、25大綱は極めて詳細です。 ここに25大綱の特徴がよく表れていると思います。ここで強調されているのは、海上・航空優勢の確保とそのための警戒監視能力と輸送能力、 指揮統制・情報通信能力です。海上・航空優勢を維持し、東シナ海での中国軍の動きを早期に察知し、機動展開能力を高めた自衛隊により、 迅速に対応するという戦術のようです。海上・航空優勢と機動展開能力強化は中期防が最も重視しています。

25大綱、中期防は新たな能力向上型迎撃ミサイル(PAC-3 MSE)導入や、防衛力の運用基盤の強化の最初に基地の 「抗たん性」 を挙げています。 25大綱は、中国との武力紛争で、我が国に対する中国からの航空攻撃、弾道ミサイル、巡航ミサイル攻撃を想定しているのでしょう。 「抗たん性」 とは、基地や防衛施設が敵の攻撃を受けても破壊を免れたり、破壊されてもすぐに修復できる能力を意味するものです。

防衛力増強の項目も中国との武力紛争を想定しています。 護衛艦部隊・潜水艦部隊・航空警戒管制部隊・空中給油・輸送部隊を増強すると述べているのです。

このような防衛政策は、憲法9条の恒久平和主義に抵触するものになるでしょう。次に憲法9条とのかかわりで25大綱を読んでみましょう。

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