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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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安保法制懇はどのような議論をしているのか(2)

2014年5月6日

第1 第3回で議論されたこと(5事例7ケース)─続
1  第2事例 我が国の船舶の航行に重大な影響を及ぼす海域(海峡等)における機雷の掃海
シーレーン防衛として議論されている事例ですが、どの海域・海峡かは何も述べていません。 しかしながらこの事例で想定されているのはホルムズ海峡の機雷封鎖以外にはありません。 インドネシアやマレーシアがマラッカ海峡を機雷封鎖するなど誰も考えていないでしょう。 2012年8月、第3次アーミテージレポートがホルムズ海峡での機雷掃海を要求しています。安保法制懇はこの要求に応えようとしているのでしょう。

全体状況からこれだけを切り離して議論していますので、具体的な想定がわかりにくいのですが、イランがホルムズ海峡を機雷封鎖するのは、 イスラエルがイランの核施設を先制攻撃し、イランとイスラエル、さらには湾岸諸国を巻き込んだ地域紛争となり、 米国はイスラエルとの集団的自衛権行使で参戦するケース以外には考えられません。それに我が国が集団的自衛権を行使するというのです。 配付資料を見ると、個別的自衛権行使とも読める内容ですが、ホルムズ海峡が機雷封鎖されて我が国への原油輸入に重大な支障が生じたとしても、 我が国に対する武力攻撃ではないので、個別的自衛権行使の場面ではありません。

このようにして始まる武力紛争へ我が国が集団的自衛権行使で荷担することが、国際法上許されるのかをまず議論すべきです。 イスラエルによるイラン核施設先制攻撃で始まる武力紛争では、イスラエルの攻撃は国際法違反になると思われるからです。 それを抜きにして安保法制懇は議論しているのです。

軍事的にもこの議論は稚拙です。イランとイスラエル、米国との大規模地域紛争のまっただ中で機雷掃海をするということは、 1991年に湾岸戦争終結後のペルシャ湾の遺棄機雷を海上自衛隊掃海部隊が掃海したこととは訳が違います。 イランからの航空・海上攻撃、地対艦ミサイル攻撃などを想定しなければなりません。 当然、掃海部隊以外にも護衛艦、補給艦が随伴して防護しなければならない作戦になります。 航空攻撃を想定するのですから、イージス護衛艦がイラン空軍機への攻撃をしなければならないでしょう。 つまり、自衛隊は本格的なイランとの戦闘に参戦するということです。戦闘海域での機雷掃海はきわめて危険な作戦になるはずです。 この様な戦闘に我が国は参戦するという決断をすべきなのでしょうか。まずこの点を議論すべきです。

この大規模地域紛争では、機雷掃海をしたところでそれで武力紛争は終結したわけではないし、シーレーンの安全が確保できたわけではありません。 ペルシャ湾からオマーン湾へ抜けるシーレーンが通るホルムズ海峡で、イラン空軍の航空攻撃や地対艦ミサイル攻撃もありうるわけで、 この様な海域をタンカーが航行することはあり得ないでしょう。この海域を航行していた民間船舶が武力攻撃で船体に損傷を受けても、 船舶保険は出ないし、何よりも船員が運航を拒否するでしょう。

では何のための機雷掃海なのか。安保法制懇はさも原油輸送ルートを確保するためであるかの議論をしていますが、 本当の目的は、イランとの武力紛争でペルシャ湾とオマーン湾の制海権を確保して、イスラエル、米軍がイランを敗北させるための軍事作戦への参加なのです。 安保法制懇の議論は 「お為ごかし」 という外ありません。こんな議論に私達はだまされてはいけません。 戦争には必ずウソがつきまとうと言いますが、既にこの段階の議論からその特徴が現れていると思います。

安保法制懇は、機雷掃海で我が国への原油輸入の大部分が途絶すると想定していますが、そもそもイランとイスラエル、 米国が湾岸地域で武力紛争を起こせば、ホルムズ海峡へ機雷を敷設するか否かにかかわらず、それ自体で民間船舶の航行は不可能になり、 原油輸入が途絶するでしょう。シーレーンの安全を確保するというのであれば、この様な武力紛争を起こさせないための我が国の外交努力こそが必要です。 現在イランの核開発疑惑を巡り、イランと6カ国、IAEAとの間で外交的解決のプロセスが進んでいます。 初期段階の措置が始まり、それに伴う経済制裁の一部解除が行われ、7月の最終合意に向けた交渉が進展しています。 5月には最終合意文書の案が作成されるとみられています。この様な状況の中で我が国が取るべき途は、外交的解決を図るための支援です。 この様なプロセスが進んでいるときに、イランとイスラエル・米国との武力紛争を想定した議論をすることは、外交的解決へ水を差すことになるでしょう。

2 第3事例 米国が武力攻撃を受けた場合の船舶の検査等の対米支援
配付資料では米国が大規模な武力攻撃を受け、且つ我が国は直接攻撃を受けていない事態を想定しています。 しかしこのような想定は現実にあり得るのでしょうか。まず、どこの国が米国に対して大規模な武力攻撃をする能力や意図があるというのでしょうか。 あれば教えてほしいくらいです。この想定は戦争シュミレーションゲームの世界でしかありえません。 もしありうるとすれば中国、ロシアかも知れませんが、そうなれば、戦略核兵器の応酬を含む第三次世界大戦です。 在日米軍基地が集積している我が国が直接攻撃を受けない事態は想定できません。我が国も壊滅的被害を受けるでしょう。 臨検どころの問題ではありません。いずれにせよこれも非現実の世界です。

3 第4事例 イラクのクウェート侵攻のような国際秩序の維持に重大な影響を及ぼす武力攻撃が発生した際の国連の決定に基づく活動への参加
これも湾岸戦争と同じ事態を想定したものです。この様な大規模地域紛争がこれから将来起こりうるというのでしょうか。 第1事例の朝鮮半島以外に想定が可能な事態とすれば、ロシアによるウクライナ侵攻、中国による台湾侵攻、 中国によるフィリピン領域への侵攻くらいかも知れません。いずれも安保理常任理事国による国際秩序の破壊です。 しかしながら残念なことにこのような事態では、安保理は拒否権行使で機能しないことを安保法制懇は忘れてはいないでしょうか。 クウェートを侵略したのがイラクであったから国連安保理は武力行使容認決議678号を採決できたのです。 安保理が動けないのに我が国はどうやって関わるというのでしょうか。

安保法制懇は、このような事態で我が国が参加しなければ、我が国有事の際国際社会は支援してくれないと危機を煽っています。 安保法制懇が我が国有事で最も可能性が高いと考えているのは、尖閣を巡る日中間の武力紛争と思われます。 この場合にも中国は拒否権を行使するので、安保理は機能しません。米国が安保条約第5条で軍事支援するかは大きな疑問符がついています。 どこの国が中国との武力紛争で我が国を支援するというのでしょうか。 望むべくもない他国の支援を得るために、国連の集団的措置へ武力行使で参加するよりも、歴史問題をきちんと解決して、 平和国家としてアジア諸国の信頼を勝ち取ったり、外交による武力紛争を防止した方が現実的な政策選択でしょう。

4 第5事例 我が国領海で潜没航行する外国潜水艦が退去の要求に応じず徘徊を継続する場合(武力攻撃に至らない事態)の対応
この事例は集団的自衛権でも個別的自衛権でもない。いわゆるグレーゾーン事態です。 現在の国内法制では、有事と平時を画然と区別し、有事(我が国への武力攻撃とそのおそれ)では自衛隊が武力行使をし、 それ以外の平時では警察権の行使としています。グレーゾーン事態も平時の一部にすぎません。 自衛隊法の海上警備行動や弾道ミサイル破壊措置は警察権の行使であり、この場合武力行使はできません。

ここで想定されているのは中国海軍潜水艦による東シナ海での領海侵犯事例です。 国連海洋法条約では、潜水艦は他国領海を無害航行する権利があります。 その場合浮上航行し、国旗を掲げ、領海を停船などせず速やかに通過することが求められています。 潜没して領海を航行することは国際条約違反ですが、武力攻撃・武力行使ではありません。

この事例は、2004年11月に中国海軍漢級原子力潜水艦が石垣島と多良間島間の日本領海を潜航した事件を想定していると思われます。 このときは意図的な領海侵犯ではなかった(船長の操船ミス)とされています。 海上自衛隊P3Cが音響機雷を投下して警告し、中国潜水艦は速やかに領海を離脱しました。

安保法制懇の議論は、配付資料によると 「ギリギリでの対潜水艦爆弾(爆雷だ)投下」 をするというものです。 これはきわめて危険な挑発行動であり、もし潜水艦が撃沈されれば深刻な武力紛争になるし、日本が先制攻撃という国際法違反を犯したことになります。 なぜなら、我が国領海を他国潜水艦が潜没して航行しても、違法な武力行使ではありません。 むろん武力攻撃にもなりません。ですから安保法制懇も個別的自衛権行使の場面ではないと断っているのです。 例え均衡のとれた対抗措置が認められるとしても、爆雷攻撃は許されません。

そもそも潜水艦は潜行中に敵航空機や敵水上艦艇に発見されればきわめて脆弱です。潜水艦自身で自己防護はほとんどできないからです。 攻撃の意図がないことを示すため、いやでも速やかに領海を離脱せざるを得ません。 それへ敢えて爆雷を投下するのでしょうか。軍事的必要性は全くありません。 この事例でなすべきことは、外交ルートでの厳重な抗議と再発防止のための協議です。 安保法制懇の議論は、始めから中国が戦争を仕掛けていると考えているのでしょう。

安保法制懇はこの事例以外にも第6回会議でグレーゾーン事態を多面的に議論しています。 その趣旨はいずれも武力行使・武器使用を行うというものです。尖閣諸島を主として想定したグレーゾーン事態論は、 対中国との関係できわめて挑発的な軍事政策になります。グレーゾーン事態で自衛隊が出動すれば、中国は必ず中国軍を出動させるでしょう。 軍事的な一触即発となり、偶発的な武力紛争から予期しない本格的な武力紛争へと発展するリスクが高い事態となります。 私達はこの様な軍事政策を是とするのでしょうか。そのために憲法第9条の解釈を変更し、防衛法制の改正もするのでしょうか。 もし爆雷投下の結果日中間での深刻な武力紛争に発展するおそれを考えれば、安保法制懇の議論は正気の沙汰とは思えません。

第2 第6回で議論された5事例
5事例はいずれも 「武力攻撃に至らない侵害に対する措置」 として検討されています。グレーゾーン事態でのマイナー自衛権の問題です。

この問題の理論的背景(国際法上の議論)
国連憲章第2条4項は 「武力行使」 を違法としています。 他方で憲章第51条はその例外として 「武力攻撃」 の場合には国連憲章第51条で自衛権行使を容認しています。 「武力攻撃」 は 「武力行使」 のより重大な形態です。では 「武力攻撃」 には至らない違法な 「武力行使」 に対して、 対抗措置としての何らかの違法性のない武力行使が可能なのでしょうか。この場合個別的自衛権は行使できませんので、 国連憲章第2条4項に反することにならないのでしょうか。

この論点はさらに、憲章上の自衛権とは別に慣習法上の自衛権が存在するのかという論点とも関連しています。 慣習法上の自衛権とは、憲章が制定される以前に慣習国際法上認められてきた自衛権のことで、 その要件はカロライン号事件(1837年)で米国務長官ウェブスターが定式化した要件が必ず引用されます。 日本政府は慣習法上の自衛権があることを一貫して述べています。その上で、武力攻撃に至らない武力行使に対しても自衛権行使が可能とします。 これがいわゆるマイナー自衛権と称している問題です。しかしこの政府見解は、以下に述べるように国際法の解釈としては問題が多いものです。

カロライン号事件はそもそも戦争や武力行使が違法化される以前の国際法時代のものです。 言い換えれば、自衛権が国際法上意味のある概念として登場する以前の時代のものです。 その上、事件そのものは自衛権行使に該当するような事案ではありません。憲章第51条の自衛権以外に慣習法上の自衛権を容認する見解は、 武力行使禁止原則に立った国連憲章の妥当する範囲を限定する結果となります。 慣習法上の自衛権を認めても、憲章はその要件を制限していると考えざるを得ません。そう理解しないと国連を創設した目的にも合致しないからです。 また国連加盟国は憲章第103条(国連憲章上の義務の優先)に拘束されます。 また、国連憲章は一般国際法の特別法と位置付けられるので、特別法が一般法に優先するはずです。

国際司法裁判所(ICJ)ニカラグア事件判決(1984年)はこれらの問題に言及した ICJ として唯一のものです。 判決は慣習法上の自衛権を認めながら、その内容と範囲は憲章第51条とほぼ一致すると述べました。 ただ判決は傍論で、「そのような行為(武力攻撃に至らない程度の違法な武力行使の意味-井上注) の犠牲となった国による均衡のとれた対抗措置を正当化することができるだけであろう。」 と述べています。 「均衡のとれた対抗措置」 について判決は何も述べていません。これは傍論であり、かつ断定的な判断ではなく、 判決はあくまでも武力攻撃以外の武力行使に対しては、憲章第51条の自衛権を否定しているのです。

  *判決は武力攻撃を 「武力行使の最も重大な諸形態」 とのべ 「他のより重大でない諸形態」 と区別した。 前者の具体例として 「正規軍の越境攻撃」、「それに相当する重大性を有する武力行為を他国に対して実行する」 武装集団等の派遣や、 それに対する 「国家の実質的関与」 を挙げている。 それに対して、兵器または兵站支援の供与の形で行われる他国の反徒への援助は、後者の例としている(他国への干渉にはなる)。

次号は第6回会議で議論された5事例について述べ、その上で安保法制懇がどのような提言をしようとしているのか、 安保法制懇の議論や集団的自衛権行使容認論の重大な欠陥を指摘する予定です。

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