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【NPJ通信・連載記事】高田健の憲法問題国会ウォッチング/高田 健

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~安倍政権を倒して改憲発議を阻止するか、
改憲発議を阻止して安倍政権を倒すか~

2018年4月18日

暗雲晴れない自民党大会での改憲案
 自民党の憲法改正推進本部(細田博之本部長)の全体会合は3月22日、党大会に向けての議論を行い、「一任!」「一任!」の声が飛ぶ中で、石破茂元幹事長ら批判派の意見を強引に封じ込め、安倍晋三首相が求める憲法9条改正案の方向で、今後の条文化作業を細田氏に「一任」することを決めた。
 事実上の「強行可決」だ。
 翌23日に開催した自民党総務会でも不満が噴出した。
 当初、大会で行うことを目指していた条文案の発表は見送り、大会後に条文案を作成することにした。

 とりまとめられた条文案の「方向性」は石破氏らが要求した「戦力不保持」を定める9条2項の削除ではなく、1項、2項を維持して新たに「9条の2」を設け、その1項に「(9条第2項の規定は)我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織」としての「自衛隊を保持する」とする。
 この間の2項維持案では、自衛隊を「必要最小限度の実力組織」としていたが、この「方向性」からは削除することになった。

 このように書き込めば自衛隊の目的・任務は「我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置」、すなわち「自衛権」の行使であり、国連憲章51条にいう「集団的自衛権」の行使ができることになる。
 そのうえ、「必要最小限度」の規定をわざわざ外したことで、従来の「武力行使の3要件」などは突破され、武力行使は無制限になることになる。
これでは「維持された」という9条1項、2項は全く破壊されてしまう。

 加えて、今回の自民党改憲案の「方向性」は9条2項削除にこだわる石破氏らの案との対比で、より「ソフト」に見える形で政治的欺瞞を演出するなかで打ち出され、9条改憲を躊躇する公明党などが乗りやすい形になっていることは見逃せない。

 今回の自民党の9条の議論のとりまとめで、4項目の改憲案のすべてが出揃ったかたちになった。
 しかし、他の3項目の改憲案はそれぞれ憲法マターではなく、法律の改正などで解決可能なものだ。
 自民党はこのように改憲案を4項目にすることで、憲法9条改憲問題が浮き彫りになることを回避し、9条改憲を実現しようとしている。

 9条以外の他の3項目は、①参院選の「合区」解消など、②大規模災害時に政府に権限を集中したり、国会議員の任期特例を書き込んだりする緊急事態条項、③「教育無償化」だ。
 しかし、この間の改憲推進本部の議論の中で、②の緊急事態条項はとりわけ問題が大きい。
 当初は国会議員の任期についての特例を設ける問題に絞られていたが、途中からこれに緊急事態時に私権の制限を可能にするなど、政府に権限を集中することを可能にする条文が織り込まれた。

 これは、政府が緊急事態においては法律と同格の政令を作ることで、悪名高いナチスの授権法に通じる条項だ。
 どさくさ紛れにこうした危険な条項を含めた改憲案を作ったことは許されない。

長文で難解な改憲案文
 なお、今回、自民党が取りまとめた改憲条文案は長文で、結構難解なものであり、国民投票を想定した改憲案としては極めて出来が悪いしろものだ。

 未発表の9条関連条文以外だけでも、緊急事態条項(憲法第73条、64条)で約300字、合区解消(47条、92条)で約360字、教育の充実(26条、89条)で約360字だ。
 国民投票に際して、この改憲案が有権者に理解された状態で、賛否の判断を求めるには容易なものではない。
 改憲手続法では、発議後の国民投票運動期間は60日~180日と定められている。
 最短では60日もありうるわけで、この短い期間で、有権者が国民投票の準備をすることは不可能なことだ。

 その結果、現安倍政権の下で国民投票が実施されるなら、それはまさにレファレンダム(憲法など政治に関する重要事項の可否を、議会の決定にゆだねるのではなく、直接国民の投票によって決めること)ではなく、プレビシット(いわゆる人民投票。政治家が権力の維持を図るために、人気投票的に国民の信を問うような投票のあり方)となり、民意が大きくゆがめられた投票になる可能性がある。

安倍政権に打撃を与える好機到来
 このところ、森友事件の真相暴露の急展開の中で、内閣支持率が急降下し、与党・公明党のなかでも、自民党のなかでも動揺が走っている。
 ついこの前まで「安倍1強体制」と呼ばれていた安倍内閣は、内部からの批判と不満の増大にさらされている。
 内閣支持率は各調査機関で軒並み30%台にまで落ち込んでおり、第2次安倍政権以降最低値だ。
 これは当面、回復する兆しはない。
 もし、20%台に落ち込んだら、政権存亡の危機だ。
 そして、その流れはほぼ確実になっている。

 安倍首相周辺が描いていた改憲スケジュールは大きく立ち遅れつつある。
 自民党案の取りまとめが、当初、目標としていた昨年中どころか、今回の3月の自民党大会でも困難で、議論は後ずさりしている。
 自民党主流は大会後、改憲条文をまとめ、4月には憲法審査会で議論を始め、なんとしても年内には改憲発議を実現しようとしている。
 日本会議をはじめ右翼改憲勢力には、いま強い危機感がある。
 彼らはこの安倍政権のもとで改憲ができなかったら、しばらく改憲の機会は失われると考えている。

 しかし、森友問題での政府危機のなかで、国会での改憲論議が容易にすすむ状態ではない。

 与党・公明党はこの嵐の中での改憲論議に消極的になっているし、友党・維新の会も1丁目1番地の「教育無償化」にかならずしも自民党が積極的でないことも併せて、9条改憲にも及び腰になっている。
 自民党員や支持者は安倍政権の支持率急降下におびえている。
 森友事件の糾明の進展の中で今後の政局はどのように展開するのか、当事者の安倍政権にとっても見通しはつかないほどの危機に見舞われている。
 少し前までは、9月の自民党総裁選で安倍晋三総裁の3選は確実視されており、誰もがそれを疑わなかった。

 しかし、今は様相が大きく異なってきた。党内のいろいろな勢力が時を得て、うごめき始めている。
 安倍総裁の威信は急速に崩れている。
 森友疑獄事件の公文書改ざんや、自民党文教族による前川前文部次官の「授業」にかかわる憲法違反の介入に見られるような、国家権力を私物化し、憲法を破ることを繰り返す安倍政権とその与党に改憲を語る資格はない。

 安倍政権を追及し、総辞職に追い込むたたかいをいまこそ全国各地で全力で取り組まなくてはならない。
 そのための最も有効なツールは3000万人署名運動だ。
 この運動は全国各地の草の根で市民が一斉に取り組む数千万人規模の壮大な対話運動であり、改憲反対の世論を作り上げる運動だ。

 私たち市民連絡会が参加する「憲法9条を壊すな!実行委員会」は、いち早く3月5日の森友疑惑追及の官邸前行動をはじめ、街頭宣伝活動に取り組んでいる。
総がかり実行委員会と全国市民アクションもいま、連日、国会行動や街頭宣伝に取り組んでいる。
 国会前での行動も3月19日には5000人の市民が参加した。
 この後、当面する連日の国会行動に続いて、4月中旬の大規模な国会行動や、5・3憲法集会など、行動の大規模な展開が予定されている。
 全国の市民たちも行動を積み重ねている。
 国会内では立憲野党各党が厳しい論戦を展開し、頑張っている。
 これらの市民の運動と国会内の立憲野党との連携で、今こそ安倍政権を追い詰めよう。
 安倍退陣を実現する道はいくつかある。
 森友疑惑の徹底追及で安倍政権を退陣させるか。国会内外のたたかいで安倍政権を追い込んで大幅に改憲発議の時期を延長させ、改憲発議ができない状況を作って安倍政権を倒すか。
 世論を変え、安倍政権に改憲発議しても勝てないと自覚させるような情勢を作るか。
 参議院選挙まで発議を不可能にして、改憲派を追い込み立憲野党+市民の共闘で改憲派の3分の2議席確保を阻止し、安倍政権を倒すか、いずれかだ。

 目の前にある戦後史上最悪の安倍政権を倒すことができれば、歴史を大きく前に進めることができる。           

                         (「私と憲法」3月25日所収 高田健)

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