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“異常な政権”との決別

寄稿:飯室 勝彦

2018年5月9日

 証拠を目の前に突きつけられてもシラを切り続け、いざとなれば証拠の変・偽造さえして国民を欺く。ルールは自分に都合よく解釈・運用し、さすがにそれは無理と分かればルールを勝手に変える。--安倍晋三首相を中心とする権力者たちによって、日本の民主主義は崩壊してしまった観があるが、国民は反立憲政治をいつまでも見逃してはいない。

◎盛り上がらない改憲論議
 ことし2018年5月3日の憲法記念日、安倍首相は改憲派の集会に外遊先からメッセージを寄せ、「この1年間で改憲の議論は大いに活性化、具体化した」「いよいよ改憲に取り組むときがきた」と檄を飛ばした。
 しかし憲法記念日を前に各メディアが実施した世論調査では、改憲の機運など国民の間に盛り上がっていないことがはっきりした。
 たとえば朝日新聞の調査では、安倍政権下での改憲に「反対」が58%で「賛成」は30%だった(5月2日付け朝刊)。毎日新聞の調査によると、憲法第9条第1項(戦争放棄)第2項(戦力不保持)を維持したまま「第9条の2」を新設して、自衛隊の存在を明記する自民党改憲案への賛否が27%対31%で「分からない」と答えた人が29%もいる。世論は3分裂だ(5月3日付け朝刊)。
 これでは改憲機運が高まったとはとうてい言えない。政権応援団のようなメディアでさえ「遠のく改憲発議」(産経新聞)「憲法論議再加速図る」(読売新聞)という見出しで慎重な見方を報じた(いずれも5月3日付け東京版)。読売が、機運盛り上げを図るかのように、首相の改憲私案を大々的に報道した昨年とは大きな違いである。

◎気づき始めた危険な体質
 憲法に定められた統治の原則や普遍的な価値観を尊重しないのが安倍首相の基本的な体質だ。人類の長年にわたる知的な思考、実践、経験などの蓄積である憲法に敬意を払おうとはしない。日本国憲法の掲げる「非軍事」の理念など歯牙にもかけず、むしろ敵視しているように感じられる。
 その反映だろう、政権を批判する野党の国会議員に面と向かって「国民の敵」と罵詈雑言を浴びせる自衛官=軍人まで現れた。「国民の敵」という言葉はともかく、暴言を吐いたこと自体は本人も認めたのに、防衛省は自衛官を懲戒処分にあたらない「訓戒」ですませた。単なる内部規律違反としての扱いである。
 1938年、法案審議中の国会で軍人が議員を「黙れ!」と怒鳴りつけた事件を想起させるではないか。首相自身、国会での審議中に野党議員の発言を封じようとしたことが少なくない。
 改憲機運が盛り上がらないのは、多くの有権者が遅まきながら安倍政権のこうした危険な体質に気づいたからであろう。

◎国民を冒涜する反立憲
 森友学園、加計学園をめぐる疑惑、自衛隊の海外活動日報が消えた問題、財務省のセクハラ問題などでも、政権側はことごとく不誠実な対応しかしていない。そこに浮かび上がったのは反立憲の政治姿勢である。
 森友、加計問題の様ざまな証拠が示すのは、安倍首相、首相夫人に近い人物に行政が特別の便宜を図ったのでないかという強い疑いである。個別法規との適合性はもちろん、公務員に「全体の奉仕者」たることを求めている憲法との関係でも重大な疑念が生じている。国会で追及するのは当然である。

 日本国憲法が定める統治原理は三権分立によるチェック・アンド・バランスであり、立法府、行政府、司法府が互いにチェックし合ってこそ民主主義を健全に維持発展させることができる。行政府は立法府の追及に真摯に対応しなければならない。
 それなのに、安倍政権は証拠無視の言い逃れに終始し、追及のために野党が憲法規定に基づいて行った、臨時国会の召集要求を放置したうえに野党の質問時間を減らしてしまった。
 あまつさえ書類を書き換え、会計検査院や国会に改竄文書を提出することまでしていた。立法府の構成員として独立した判断と行動を求められる与党議員も、ほとんどが政府行政権力への追随に腐心している。

 一連の問題への安倍政権の対応は国会、その背後にいる国民を冒涜するものだが、野党は政権の横暴に対抗する効果的な手段を持ち得ていない。いまの安倍政権と国会との関係は、三権の均衡どころか、行政による立法の実質的支配である。安倍首相は「私は立法府の長」と口を滑らせたことがあるが、単なる失言ではなく意識の上では本音だったのではないか。
 
◎首相の改憲主導は本末転倒
 財務省の福田淳一次官(当時)によるセクハラ問題では当初、麻生太郎財務相をはじめ省ぐるみで福田氏をかばおうとした。守り切れなくなって処分したものの、麻生氏は被害女性を貶めるような発言を一度ならずした。女性の人権に対する配慮はまったく感じられなかった。
 異常を異常と思わない異常な安倍政権の下で官僚機構も劣化している。人事権を武器に恐怖心を煽られている官僚たちの目と耳には主権者、国民の姿も映らず声も聞こえず、政治権力者の顔色ばかりをうかがう”忖度行政”が罷り通るようになった。
 異常の最たるものは安倍首相が改憲を主導していることである。党の尻を叩き、あちこちで檄を飛ばし、改憲案まで自ら提示している。
 「憲法とはとかく暴走しがちな国家権力に国民が加える制約」とは民主国家における常識だ。制約されるべき側である行政の最高権力者が改憲の旗を振るのは、悪いたとえかも知れないが、泥棒が自分を縛る縄のない方や縛り方にあれこれ口を出すようなもので、本末転倒もはなはだしい。
 だが、積み重ねられた知的営為の普遍性に対する理解も敬意も欠けている安倍首相は、そんな理念などどこ吹く風だ。

◎迫られる民主主義の再構築
 世論はさすがに安倍政権の異常さに気づき始めた。3月から4月の間に行われたメディアの世論調査では内閣支持率が急落し、不支持が支持を上回っている。支持と不支持の割合はたとえば……共同通信37.0%対52.8%、時事通信38.4%対42.6%、朝日新聞31.0%対52.0%、毎日新聞33.0%対47.0%、NHK38.0%対45.0……といった数値で、読売新聞の調査でさえ48.0%対50.0%である。
 このデータは、モリ・カケ問題で逃げ切りを許してはならないという国民の怒りの表明であり、憲法を無視する安倍政治に対する不信任の表明である。
 
 憲法に敬意を払わない者に憲法を論じる資格はない。いまこそ反立憲主義の安倍政治と決別するチャンスだ。日本の民主主義の立て直しが迫られている。

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