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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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安保法制、30防衛大綱そして憲法9条改正の本当の狙いは中国との戦争だ(2)

2019年4月6日

5 軍事面でも中国包囲網の形成を進める安倍政権の安全保障防衛政策
 以下項目的に列挙します。
 
 インドとの共同軍事演習と軍事協力の深化
    2+2の設置、ACSA協定制定の協議、日米印共同軍事演習
 
 フランスとの軍事協力の推進
    2+2の設置、ACSA協定締結(2018.7)
 
 オーストラリアは既に準軍事同盟国
    2+2の定期化、ACSA協定締結、包括軍事情報保護協定(GSOMIA)締結、訪問軍地位協
    定締結交渉中
 
 イギリスとの軍事協力の推進
    ACSA協定締結、包括的軍事情報保護協定締結と2+2設置を予定

 2+2とは双方の国の防衛大臣と外務大臣という双方の国の安全保障防衛政策の両トップによる定期会合のことです。ACSA協定とは、双方の国の軍隊の軍事物資の相互融通のための協定です。GSOMIAは、双方の国の持っている軍事情報の相互提供のための協定です。訪問軍地位協定とは、共同演習で相手国の国内での自国の兵士の法的地位を定めるものです。公務中の刑事免責などを定めます。これらの諸協定はいずれも両国の軍事的関係を深めるものです。

 なぜ英国、フランス、オーストラリアなのか。英国は東南アジアへの軍的プレゼンスを強化しようとしています。シンガポールへ海軍基地を設けることを考えていると言われています。シンガポールはもともと英国領でした。

 2018年8月英海軍強襲揚陸艦が日本を訪問した際、その途中で南シナ海で航行の自由作戦を行いました。英海軍フリゲート艦と日米とが共同演習を行っています。更に2隻の空母を南シナ海へ派遣する計画です。
フランスは南太平洋へフランス領土(ニューカレドニア)を持ち、フランス海軍基地があります。オーストラリアの北部は南シナ海に面しています。

 この3カ国と安全保障、軍事政策での関係を深める意味は、中国を軍事的に包囲するということです。

6 中国との軍事作戦計画を作る防衛省

 2005年1月16日中国新聞(共同通信配信)は、防衛庁(当時)が「島しょ部防衛」を検討する部内協議で、「南西諸島有事」を想定した対処方針をまとめていたことが1月15日防衛省の内部資料で分かったと報道しました。本土から戦闘機、護衛艦の派遣、侵攻への直接対処要員(防衛部隊と奪還部隊のことでしょう)を含め55000人の陸自部隊、特殊部隊の動員を定めるものです。  

 陸自部隊だけでも全体の3分の1が動員されるのですから、海上自衛隊、航空自衛隊を併せて、自衛隊の総力を挙げた武力紛争であることが想像できます。この部内協議は、その前月に閣議決定された16防衛大綱の島しょ部防衛を具体的に協議するものであることは明らかです。
 
 さらに2006年12月30日中国新聞(共同通信配信)は、「尖閣有事日米初の演習」との見出しで、中国による尖閣諸島への侵攻を想定した日米共同演習が硫黄島近海の太平洋で行われたことを報道しました。尖閣諸島はシナリオの一つとのことですから、南西諸島防衛のシナリオを含むはずです。

 海上自衛隊と米海軍によるこの共同演習には、海自からイージス艦など90隻、P3Cなど170機の航空機、米海軍からは空母キティーホークなど十数隻が参加したもので、海上自衛隊の主力が参加した演習であったと思われます。前記防衛庁内部の「島しょ部防衛」の協議では,陸自の3分の1が動く作戦ですから、「島しょ部防衛」は自衛隊の総力を挙げた武力紛争になるということになることは、この日米共同演習からも見て取れます。
 
 このことからしても、日本政府が検討してのは,尖閣有事への対応にとどまるものではありません。東シナ海、南シナ海の広範囲な戦域での米中間の全面的な武力紛争の一つの戦場として、南西諸島が想定されていることを意味していると思われます。
 
 防衛省は2012年から本格的な対中武力紛争での作戦計画を作り始めました。私の手元にあるその一端を示す何点かの資料をご紹介します。

〇2012.3 統合幕僚長の命による統合幕僚学校作成統合運用に関する調査報告書「諸外国の最新の軍事戦略の動向に関する調査・研究」があります。
 
 これは中国との本格的・全面的な(南シナ海・東シナ海・西太平洋全域での)武力紛争を想定した戦争計画の研究です。600頁の膨大なものです。
この研究は中国との本格的・全面的な武力紛争を想定して、集団的自衛権行使容認を提言しています。安保法制が作られる前のことですから、安保法制の狙いがどこにあるのか示唆しています。

〇2016.1.24朝日新聞が報じた「尖閣有事2012年に日米研究案」の記事があります。この記事によると、日米の研究案は尖閣有事に備えるものだが、米国が策定中の作戦計画に取り込まれる、作戦計画ではより大規模な中国の侵攻を想定するとのことです。つまり尖閣有事は、より広範な戦域での米中、そして日本も加わる武力紛争の一つの場面ということです。

〇2012.3.24 防衛省内部に設置された機動展開WGが作成した「機動展開構想概案」があります。

 離島奪還作戦を、石垣島への中国軍の侵攻・占領を事例として想定した具体的な作戦とそれに必要な所要(作戦に必要な兵力、輸送力等の兵站)を研究したものです。海軍と空軍の援護を受けた4500人の中国海軍陸戦部隊と空挺部隊が石垣島へ侵攻し、待ち受ける陸自部隊2000名と、双方の残存兵力30%になるまでの激しい戦闘をし、さらに中国軍が占領後に約2000名の陸自奪還部隊が逆上陸して、双方の残存兵力が30%になるまで戦闘を続け、自衛隊が勝利するというシナリオです。その際石垣市街地が最も激しい戦場になるようです。

 中国軍が侵攻する際には、自衛隊の制海・制空権を中国軍が奪い、自衛隊奪還部隊が逆上陸する際には、自衛隊が制海・制空権を中国軍から奪い返しています。つまり、日中の陸上部隊だけではなく海上・航空部隊による激しい戦闘が前提となっています。

 なお、このシナリオでは石垣市民・島民の存在はシナリオから除外されています。住民避難は自衛隊の役割ではないと割り切っているからです。

〇2012.7防衛省作成(と言われている)「対中防衛の考え方」は、南シナ海、西太平洋での中国との全面的な武力紛争を想定した日米の共同軍事行動を研究するものです。

7 中国との戦争を想定した30防衛大綱

 30防衛大綱は2018年12月に閣議決定されました。その前から報道で海自最大の護衛艦いずも・かが両艦の空母改修と、F35B搭載がクローズアップされていました。確かにこれは専守防衛政策を否定するものですが、30防衛大綱はこれにとどまらず、より重大な中身を持っています。標語的な言い方をすれば、日米の軍事一体化の深化と専守防衛政策の否定ということになると思います。その狙いは中国です。
 
 2018年1月24日中国新聞で、「より中国を意識したものになる(政府内)、防衛省幹部『質量共に増強を続ける中国との差をいかに埋めるかが焦点だ。』、政府関係者『統合幕僚監部では、尖閣諸島をはじめとして複数の衝突ケースを想定。
様々な事態の対処方法を検討しており、こうした考えが新大綱にも反映される方向だ。』」との報道がありました。
 2018年8月31日中国新聞で「中国で、「防衛省幹部『表だって書けないが新大綱の主眼は中国だ。領域横断の防衛力構想がカギになる。」との報道がありました。

8 新ガイドライン、安保法制を実行するための30防衛大綱-キーワードは「領域横断作戦(クロスドメイン・オペレーション)」だ

 2017.8.17日米2+2共同発表文(共同発表文参照)で初めて日米間で防衛大綱の見直しの内容を合意しました。そこには次のようなことが書かれています。
   「新ガイドラインを実施すること及び同盟を強化するさらなるコミット
    メントを追求、次期中期防期間(25大綱の中期防は2017年度で終了)
    を見据えて、同盟における日本の役割を拡大、防衛力を強化させる、
    そのために事務当局へ、新ガイドラインの実施を加速し、安保法制で
    さらなる協力の形態を追求することを指示。同盟の抑止力及び防衛
    を一層強化することの死活的重要性を強調。」

 共同発表文は30防衛大綱の目的を端的に示しています。それは、新ガイドラインを実行すること、安保法制でのさらなる協力の形態を追求することです。30防衛大綱の前の25防衛大綱は、未だ新ガイドライン、安保法制はありませんでした。しかも「安保法制でのさらなる協力の形態を追求」するのです。安保法制をさらに上回る日米軍事協力を求めているといえます。

 新ガイドラインではただ1カ所で「領域横断作戦」という言葉が登場することは既に述べたとおりです。ところが30防衛大綱は、その記述の多くを「領域横断作戦」に費やしています。30防衛大綱が示した新たな防衛力構想である「多次元統合防衛力」は、「領域横断作戦」の別称と考えてもよいほどです。このことは、新ガイドライン以降の日米の軍事協力の態勢が、「領域横断作戦」を軸にして進展させられたことを示していると思います。

9 「領域横断作戦」とはどのようなものか

 新聞報道で30大綱に関する報道が出始めたことから(2018年1月23日防衛大臣記者会見以降)、私は「領域横断作戦」がキーワードになるであろうと考えていました。そのため、「領域横断作戦」に関するいくつかの文献資料を読んだり調べたりしていました。軍事問題の素人の私にとっては難しい内容で、これを説明する自信はあまりありませんが、私が現在理解していることを説明します。

 ドメインとは作戦領域のことで、領域横断作戦とは、従来からある陸・海(海中を含む)・空の外に宇宙・サイバー空間・電磁スペクトラムを統合した作戦概念を表します。現代武力紛争では新しいドメインがその成否を分ける重要な分野として登場しています。

 これは現代武力紛争の特徴を踏まえた概念と思われます。その特徴とは、コンピューター・電波(電磁スペクトラム)、宇宙空間の様々な機能の衛星とその中継アセット(地上基地、水上艦、潜水艦、ステルス戦闘機、早期警戒機、無人機等)を繋ぐ戦闘ネットワークが優劣を決する分野となっていることです。そのネットワークを活用し、長距離、精密誘導、無人攻撃を組み合わせて、敵の射程距離外から、敵レーダーに探知される前に攻撃(スタンドオフ攻撃)を行います。

 しかも攻撃するアセット(イージス艦のような水上艦艇、空対地・艦ミサイルを発射する戦闘機、爆撃機等)は、自らは敵の姿は探知していなくても、他のアセットが探知した情報に基づき攻撃をし、攻撃アセット以外のアセット(早期警戒機やF35等)が発射されたミサイルを標的へ誘導することも可能です。

 レーダー電波は直進するので、水平線以遠や島影に隠れた目標を探知できません。これを前進配備したE2Dや無人偵察機、人工衛星により探知し、戦闘ネットワークで目標データを共有し、直接目標を捕らえていないアセットからでも攻撃可能となるのです。「領域横断作戦」は、敵の探知距離の外側から敵の縦深(懐深い拠点)を攻撃するもので、そのためにスタンド・オフ攻撃兵器が不可欠になるというわけです。

 簡単な言い方をすれば、米軍(自衛隊)が探知した敵の航空機・水上艦艇・ミサイルを自衛隊(米軍)が攻撃するというものです。
 中国が採用しているとする接近阻止・領域拒否(A2/AD)に対抗するために米軍が開発している作戦概念が統合海・空戦闘構想(IASBC)で、その中核概念がクロスドメイン・オペレーションです。

 中国との武力紛争では、中国軍による米軍の戦闘ネットワークに対する先制攻撃(衛星攻撃、サイバー攻撃、地上のレーダー・通信施設への攻撃、レーダーを妨害する電子戦)、在日米軍基地や自衛隊基地への先制攻撃を想定しています(統合幕僚学校平成23年度指定研究「諸外国の最新の軍事戦略の動向に関する調査・研究成果」参照)。「領域横断作戦」では、互いの「領域横断作戦」能力を巡る攻防が重視されるのです。そのため宇宙アセットの防衛と電子戦能力の向上が重要で、30大綱の内容にもなっています。
                                       (続く)

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