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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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安保法制、30防衛大綱そして憲法9条改正の本当の狙いは中国との戦争だ(3)完

2019年4月9日

10 中国との近未来の戦争を想定した30防衛大綱

 30防衛大綱は「Ⅱ我が国を取り巻く安全保障環境」の中で、我が国に脅威を与える国のトップに中国を挙げ(25防衛大綱では北朝鮮の次でした)、その記述の量は、25防衛大綱が21行であったものを30行と大幅に増やしました。その軍事的脅威として「新たな領域における優勢の確保を重視している。」と述べて、日米の「領域横断作戦」能力を阻害しようとしていることを強調しています。これと併せて「接近阻止/領域拒否」(A2AD)能力の強化を述べています。
 
 30防衛大綱は、その記述の多くを「領域横断作戦」に費やしています。そのために必要な新しい装備を挙げています。これらの新しい装備は、未だ研究段階を含めて実戦配備されていない兵器が含まれます。いわば近未来の兵器です。  
 
 そもそも「領域横断作戦」の本家本元の米国ですら、「領域横断作戦」は発展途上の作戦概念です。自衛隊にはそのような能力はありません。防衛省・自衛隊は米軍の後追いで研究している段階です。そのため30防衛大綱は読んでもなかなか分かりづらい内容です。「領域横断作戦」自体がわかりにくいですが、もう一つ分かりづらいものに、「総合ミサイル防空能力」があります。30防衛大綱では、「Ⅳ防衛力強化にあたっての優先事項」の中の「(2)従来の領域における能力の強化」の一つの項目として「総合ミサイル防空能力」として位置づけられています。
 
 30防衛大綱では「総合ミサイル防空能力」につき、「弾道ミサイル、巡航ミサイル、航空機等の多様化・複雑化する経空脅威に対し、最適な手段による効果的・効率的な対処を行」うものと説明しています。従来の弾道ミサイル防衛に少し能力を付加したものと言う程度の説明に過ぎませんが、じつは「領域横断作戦」と不可分なもので、重要な位置づけになっています。

 「総合ミサイル防空能力」で防衛対象としている巡航ミサイルの脅威とは、中国軍の巡航ミサイルのことです。北朝鮮軍は巡航ミサイルを持っていません。航空機も防衛対象としてあげていますが、北朝鮮空軍は日本への攻撃能力はありません。これも中国空軍機を想定しています。この点からも30防衛大綱が中国の軍事力に対抗するものであることが分かります。

 「総合ミサイル防空能力」と類似するのが米軍により現在開発中の統合防空ミサイル防衛(IAMD)です。この概念は,弾道ミサイル・巡航ミサイル・航空機・無人機・短距離ロケット弾・野戦砲弾・迫撃砲弾までも防護対象にします。「敵の航空・ミサイル能力から悪影響を及ぼしうる力を無効にすることにより、米本土と国益を防衛し、統合部隊を防護し、行動の自由を可能にするために行う諸能力と重層的な諸作戦の統合」と定義されています。

 「重層的な諸作戦」は、①敵の航空機・ミサイル攻撃を未然に防止する(敵策源地への攻撃の意味)②攻撃してくる敵の航空機・ミサイルを破壊(防空作戦やミサイル防衛の意味)③攻撃を受けた場合の影響を最小にする(基地の抗堪化、被害復旧の迅速化の意味)です。クロスドメイン・オペレーションの一角を構成すると思われます。30防衛大綱でも「領域横断作戦に必要な能力の強化における優先事項」の一つに総合ミサイル防空能力を挙げていることからも、クロスドメインの一部を構成することが窺えます。

 米軍はIAMDを開発中です。そのため全体像は未だ不明ですが、同盟国のアセットを組み込むことにも積極的です。自衛隊はこれへ参加することを検討していると思われます。米海軍が運用を始めている共同交戦能力(CEC)はIAMDの構成要素ですが、海上自衛隊も導入し始めています。30大綱で導入を決めたE2Dや、現在建造中の新しいイージス護衛艦「まや」にはCECを搭載します。

 既に導入を決定したものを含め30防衛大綱が105機導入を決定したF35にもCEC能力があります。
 30大綱が領域横断作戦能力を最も重視し、総合ミサイル防空能力もそれの一角に位置づけていることは、いずれの作戦概念でも、自衛隊は米軍の後追いになること、装備の共通化を進めること、戦域での圧倒的なC3ISR(指揮・管制・通信・情報・警戒監視・偵察の略)能力を米軍が持っていることから、自衛隊は丸ごと米軍主導の作戦に組み込まれることになるでしょう。

11 「領域横断作戦」をキーワードにした30防衛大綱は専守防衛政策を否定する

 二隻のいずも型護衛艦の空母への改修と、それへ搭載するF35Bの導入、長距離巡航ミサイル(スタンドオフミサイル)の導入は、敵基地攻撃能力を否定している専守防衛政策に反するものです。しかし個別の装備の導入にとどまらず、「領域横断作戦」能力や「総合ミサイル防空」能力の保有は自衛隊そのものを大きく変革させるものです。それにより自衛隊と米軍は一体となった作戦行動-それも米軍主導の作戦に自衛隊が従属する-を取ることになります。

 専守防衛政策は、必要最小限度の我が国防衛を自衛隊が担当し(拒否的抑止=楯)、敵国への攻撃は米軍が分担する(懲罰的抑止=矛)という日米の役割分担の上に成り立つ防衛政策です。攻撃・防御が不可分となっている領域横断・IAMDへ自衛隊が組み込まれれば、もはやこの役割分担は失われるでしょう。 

 後年30大綱は米軍と自衛隊との一体化(というよりも融合化?)に大きく踏み出した歴史的防衛政策を打ち出したものと評されるかも知れません。

12 憲法9条改正を想定している30防衛大綱

 私は30防衛大綱が9条改憲を想定したものであると考えています。30防衛大綱の実施は、9条改正を求める強い圧力になるでしょう。
 
 安保法制が施行された後に作成された2016年度以降の防衛白書は、我が国の防衛政策の基本政策の一つに専守防衛を挙げています。集団的自衛権行使を可能にした安保法制の施行後であっても、それ以前の防衛白書の専守防衛の記述とは一言も違いがないものとなっています。つまり政府は現在も専守防衛政策を基本政策として維持しているのです。そのため、保持できる自衛力にも制限があると述べています。攻撃的兵器例えば攻撃型空母、大陸間弾道弾、戦略爆撃機は保有できないと述べています。自衛権行使にも地理的限界があるとし、交戦権の行使も否定されています。
 安保法制施行後においても専守防衛政策をそれ以前と同様に基本政策にしなければならない理由は、自衛隊が憲法9条に反しない実力組織であるとの立場を維持しなければならないからです。専守防衛政策を公然と否定すれば、その瞬間から自衛隊は憲法9条に違反する戦力になると判断されるのです。
 専守防衛政策を維持している以上、保有する防衛力の行使には様々な制約が課されているのです。そのため、いずも型護衛艦の空母化でも、空母や母艦という言葉を避けて、多用途運用護衛艦と称しています。これは言葉のごまかしにすぎませんが、空母ではないと説明するため、米海軍の攻撃型空母のように早期警戒機を搭載しないとか(30防衛大綱で導入を決めた早期警戒機E2Dは攻撃型空母艦載機として開発されたものです)、必要なときだけにF35Bを搭載すると述べて、その運用に歯止めをかけると説明せざるを得ません。

 しかしこれでは新たな装備の能力は十分に発揮できません。米軍との共同作戦を円滑に遂行しようとしたり敵基地への攻撃を可能にしようとすれば、9条の改正が必要になります。

 30防衛大綱で導入しようとしている「領域横断作戦」や「総合ミサイル防空能力」は、米軍の軍事行動との一体化を決定的に深めるものになるはずです。専守防衛政策により自衛隊の運用に制約を課すことになれば、米軍の軍事行動にも制約が生じることになるでしょう。これ以上の作戦を自衛隊は出来ませんとはとうてい言えなくなるのではないでしょうか。

13 第四次アーミテージ・ナイレポートが示唆するもの

 アーミテージ・ナイレポートは、米国の対日政策に関する超党派の提言として、2000年10月に初めて発表され、その後2018年8月の第四次レポートまで、その内容は我が国の安保防衛政策を規定してきたと評されています。第三次までのレポートの内容は、我が国に対する集団的自衛権行使を提言してきました。第四次レポートの大きな特徴は、我が国が集団的自衛権を行使することを当然の前提として、様々なことを提言していることです。

 発表された時期からも、30防衛大綱に反映させることを意識したものと思われます。30防衛大綱では「Ⅴ自衛隊の体制等」の「1領域横断作戦の実現のための統合運用」において、統合幕僚監部の体制の強化、将来の統合運用の在り方について検討」すると述べています。これは具体的には、統合幕僚長の下に統合幕僚副長を1名増員して、統合幕僚副長が三自衛隊の統合司令官となって軍事作戦を指揮するという体制にすることと言われています。四次レポートでは「日本の合同作戦司令部を創設せよ」と提言していますが、30防衛大綱のこの箇所に取り入れられています。
 
四次レポートは,日米の結合した合同機動部隊を西太平洋に創設せよと提言しています。これについて30防衛大綱は特に触れていません。しかし、「領域横断作戦」を米軍と一緒に遂行しようとしているのが30防衛大綱ですから、事実上日米の合同機動部隊となるでしょう。

 米軍は地球をそれぞれの地域に分割して、それぞれの地域を分担する戦域統合軍を配備し、一人の司令官が四軍を統合指揮する態勢をとっています。中東を除くアジア太平洋からインド洋、アフリカ東海岸までは、インド太平洋軍の管轄で、在日米軍もこれの下部組織です。日米の合同機動部隊とは、いわばインド太平洋軍の東アジア任務部隊の一部に自衛隊が組み込まれるというものではないかと想像します。

 これまでもアーミテージ・ナイレポートはその後の我が国の安保防衛政策を規定してきました。第4次レポートは、30防衛大綱の行き着く先、それは憲法9条改正後の防衛政策、自衛隊の姿、軍事態勢が日米一体化を深めて、日米の合同部隊となることを示唆していると考えます。
                                         (完)

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