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【NPJ通信・連載記事】ホタルの宿る森からのメッセージ/西原 智昭

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ホタルの宿る森からのメッセージ~アフリカ熱帯林・存亡との戦い
第8回 「ゴリラとの遭遇(その3)~星空を眺めながら夢を見る」

2014年5月17日

写真19               沼地に半身埋まりながら水草を食べるゴリラ © 永石文明・撮影

「音楽の起源」よりも先に、「トイレの起源」ごときの行動を見せてくれたゴリラたち。では、彼らはどのように食事をし、眠るのであろうか。こうしたことも、地味ではあるが、初期の調査では知ることが必要であった。直接に観察できるほど、野生のゴリラはわれわれの存在に慣れていなかったが、間接的な証拠からそうした彼らの日常が垣間見えたのである。それを同じ場所に棲むチンパンジーと比較しながら、紹介したい。

「襟巻」チンパンジー

夕刻のことであった。キャンプへ向かおうとしていたわれわれにチンパンジーの騒ぎが聞こえる。ぼくと先住民のガイドはそのチンパンジーを探しに来た道を引き返す。チンパンジーの声は次第に近付いてくる。どうやら何頭かが樹上にいるようだ。一頭の大きなオス。それをとりまく何頭かの個体。何か果実でも豊富に実っている樹木なのか。20m樹上の彼らを観察し始める。

ん?中心にいるオスのチンパンジーはなにか首にかけている。胸の方に見えている部分は細いが先端になにか重石でも付いているように、小気味よくブランブランしている。そこに双眼鏡を当てる。なんとそれは動物の足だった!小型ダイカー(レイヨウ類:ウシ科の動物)の蹄だ。そして首にかかっているのは、もうほとんど皮だけになったダイカーの胴体部分で、反対側にぶら下がっているのは、もう完全な形を残していないがどうやらダイカーの頭だ。しとめた小動物をまるで襟巻きのように首に巻きながら喜々とするチンパンジーがそこにいたのだ。

しとめたダイカーを首からぶら下げていたオスのチンパンジー © 西原智昭・撮影

しとめたダイカーを首からぶら下げていたオスのチンパンジー © 西原智昭・撮影

不器用さをパンチングで補う

ゴリラはチンパンジーと違って、肉食はしない、ただし、アリやシロアリは食べる。しかし、ゴリラはどうも器用でないようだ。チンパンジーがシロアリ釣りなどで道具使用することは広く知られていることであるが、野生のゴリラでは同様な道具使用行動はいまだ報告されていない。道具の使えないゴリラがシロアリ食べるときは、シロアリ塚を直接パンチングで破壊し、その中にいるシロアリをつまむか、あるいは壊れたシロアリ塚の破片から出てくるシロアリを手のひらの上に落として食べるのだ。ちなみに、チンパンジーが食べるシロアリ種はキノコシロアリの一種でわりと大型でありが、ゴリラのメインとするシロアリ種はこれとは別種の小型の種だ。

ゴリラのパンチングで壊れたシロアリ塚の破片。通常この中に数mmのシロアリが巣くっている © 西原智昭・撮影

ゴリラのパンチングで壊れたシロアリ塚の破片。通常この中に数mmのシロアリが巣くっている © 西原智昭・撮影

ゴリラと同じ場所に生息するチンパンジーは時期を問わずつねに果実を主食としている。興味深いのは、ゴリラとチンパンジーの生息域が完全に重なっている上に、採食メニューの中の果実の多くの種類が両類人猿で重なっていることだ。しかしこれまでに両類人猿の間で顕著な敵対関係はみられていないばかりか、同じ樹木の上で同時にゴリラとチンパンジーが果実を食べているのが何度か観察されている。

チンパンジーはゴリラに比べ樹上移動能力ははるかにすぐれ、チンパンジーの主食である果実を容易に追い求めることができる。その一方でゴリラは地上を中心に生活し、特に沼地利用についてはゴリラが独占している。例外的に湿地林の中の樹木に果実が実りチンパンジーが採食することがあるが、チンパンジーはゴリラのようには沼地を歩くことはめったにないのに対し、ゴリラは沼地に沈みながらでもその水草を食べたりする。

星を見ながら夢を見る

ゴリラは毎晩寝場所を変える。グループならまとまった場所にみなで寝る。そして乳飲み子を除いては一頭一頭のベッドを作る。通常は草をうまく折りたたんで多少寝心地のよいものを作る。もし草があまりないようなところであれば、枯葉のみを地面に敷いてその上に寝る。場合によってはそのまま地面の上にも寝てしまう。ときには木の上にも作る。チンパンジーが通常10m以上の高い場所にベッドを作るのに対し、ゴリラはせいぜい10m未満の高さである。

ゴリラのある地域の頭数や密度を推定するときに、直接の観察による頭数カウントが思うように行かないような状況では、多くの研究者は発見されたベッドの数を手がかりに推定密度を算出する。その手法は数学的に定式化されており、ンドキでも同様の手法で大雑把な密度を調べることができた。

ゴリラのベッドをいくつも見ているうちに、気になることがあった。草本を折りたたんでベッドを作ると、たいていの場合その上ががら空きとなる。つまりブッシュもなく、大きな樹冠もない。直接に空が見える。とすれば、もし夜雨が降れば、ゴリラはずぶぬれになるのだろう。冷たい雨にぬれ、眠れぬ夜を送るのだろうか。

典型的なゴリラのベッド。クズウコン科の葉を折りたたんで快適なベッドを作る© 西原智昭・撮影

典型的なゴリラのベッド。クズウコン科の葉を折りたたんで快適なベッドを作る© 西原智昭・撮影

しかしもし夜快晴ならば、きっとゴリラは寝る前に夜空を一瞥し、満点の星に気付いているのかもしれない。月でも出ている折なら、月を眺めては、わがゴリラ生についてなにやら思いをはせているにちがいない。その気持ちよさを考えると、雨のときのことは取るに足らぬ心配ごとなのかもしれない。

不器用であっても、果実やシロアリを食べていくゴリラ。ドロドロになっても幸せそうに水草を食べるゴリラ。そして星を眺めながら夜を過ごすゴリラ。隣のグループとも平和的なゴリラ。なによりもチンパンジーほどには騒がないゴリラ。静かなゴリラたち。

しかし、どうしたら、ゴリラにもっと近づけるのであろうか…。それには、何段階ものステップと、先住民の特殊技能と長期にわたるプロジェクトを待たなくてはならなかったのである。(続く)

 

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