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危険な “消し炭政治家”

寄稿:飯室 勝彦

2020年2月18日

 “消し炭” という言葉は死語になったのだろうか。おこった炭火や燃えた薪の火を消して作った炭のことである。火つきが良くて、すぐ燃え出すので、カッとしやすく、事象に冷静に対応できない人を「消し炭のような」と評したりする。安倍晋三首相とトランプ米大統領が親密な関係を築けるのは消し炭気質という共通性があるからだろうが、“消し炭政治家” に権力を託してはおけない。

◎厳しい質問に苛立ち
 安倍首相が2020年 1 月12日の衆院予算委で、野党議員に閣僚席から「意味のない質問だよ」とヤジを飛ばして国会がまた混乱、空転した。野党が激しく抗議、与野党が協議のうえ5日後に首相が発言を謝罪して混乱は収束したが、首相のヤジや節度を欠いた答弁、反論は過去に何度も問題になった。

 たとえば2017年 6 月の衆院決算行政監視委では、野党議員が加計学園問題に関する質問を終えると「くだらない質問で終わっちゃったね」とヤジを飛ばし、学園側と首相の妻・昭恵さんとの関係を質されると「いい加減なことばかり言うんじゃないよ」と喧嘩腰で野卑な言葉を投げ返した。野党側の質問を「非生産的」「ナントカ (下司?) の勘ぐり」「真っ赤なウソ」「流言の流布」などと切って捨てたこともある。

 いずれも野党に対する敵意まるだしで、権力を握る側に求められる、理性に基づく謙抑の意識はまったく感じ取れない。国会質疑を闘争と心得て、委員会などを相手に納得させるのではなく、追及をかわしたり相手を屈服させる場と考えているように見える。

 ※引用先の出典
 20年 2 月13、14日付け「朝日新聞」朝刊、14日付け「東京新聞」朝刊など各紙

◎議会制民主主義への無理解
 安倍首相の問題発言の根底には、議会制民主主義制度のもとでの議会、議員の使命に関する無知、無理解と、自分が握っている権力の過信がある。

 民主政治の基本は三権分立によるチェック・アンド・バランスであり、議会、議員たちは政府側に事実を問いただし、必要なら是正を求める使命を負っている。議員の背後には有権者、国民がいる。監視され、チェックされる側の政府は誠実に対応し、議員や国民が納得できるよう説明しなければならない。

 しかし安倍首相は自らが万能の権力を握っているかのように振る舞う。長い間の叡智の積み重ねで定着していた憲法解釈を変更して、集団的自衛権の行使を可能にしたり、国家公務員法の解釈を変更して政権の意に沿う人物を検事総長に据える、恣意的人事への道を開いたりしたのは、その典型例と言える。首相として権力の座についたからには自分には何でも許されると考えているかのようだ。

 ただそれだけではない。数々の問題発言は、いずれも厳しい質問に攻めたてられ苦しい立場に追い込まれた場面で発せられている。いわばカッとして「思わず」出てしまった感情的、感覚的発言である。

 知的営為に対する敬意を欠き、論理的思考が苦手で、窮地に立つと感情的に反応する安倍首相の気質や思考・行動パターンは早くから指摘されている。国会では許されるべきではない節度を欠いた問題発言の数々は、事態を冷静に受け止め、誠実な議論と論理的思考を重ねて答えを引き出す熟考型とは正反対の消し炭的人格なるがゆえの業であろう。

◎類は友を呼ぶ
 安倍首相がトランプ米大統領とウマが合うのはどちらも消し炭的だからだ。同大統領はことあるごとにツイッターで発信しているが、多くは論理的思考を経たものではなく、瞬間的に打ち出される感覚的、感情的反応だ。パリ協定や INF (中距離核戦力全廃条約) からの離脱といった国際社会に大きな影響を与える事柄についてもトランプ的反応で決まった。

 このような消し炭的人物が強大な権力を握ることを恐れなければならない。イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を米軍が無人機で攻撃、殺害したことは大事な教訓になる。

 米国防総省は大統領が最も望ましい選択をできるよう、いつも非現実的なプランを含めた複数の選択肢を提示することにしており、ソレイマニ司令官の殺害は採用されることを想定していなかった、いわばダミーの選択肢だったという。ところが大統領は在バグダッドの米大使館が親イラン派に襲撃される映像をテレビで見て苛立ち、より妥当とみられる他の提案を退けて司令官殺害を命じたという。その後の米国とイラン関係の緊迫化をみるとトランプ大統領の苛立ちのツケの重さは理解できよう。
 
◎危険な「消し炭に権力」
 トランプ大統領のような消し炭的政治家が強大な米軍の最高司令官として、核兵器の発射ボタンを握っているのが現実である。トランプ氏の “盟友” とされることもある安倍首相も、いまや世界有数の軍事力を有する自衛隊の最高指揮官であり、しかも歴代の首相とは異なり軍事力の行使に必ずしも抑制的ではない。

 着火しやすい消し炭のような政治家に権力を与え、危機管理を委ねておくのは危険だ。消し炭は権力から遠ざけなければならない。

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