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【NPJ通信・連載記事】ホタルの宿る森からのメッセージ/西原 智昭

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ホタルの宿る森からのメッセージ第18回
「内戦の背後にある資源の呪い、しかし国立公園は死守・その5」

2014年10月22日

▼不穏は続く、しかしネコはぶつなよな

ボマサも不穏になってきた。ジョニイは興奮しながら「問題多し」という。ジョニイのもたらした情報はわれわれが雇わされたコブラは、“偽りのコブラ”らしい。つまり、コブラと称してわれわれの基地に常駐している連中は、単なる小銭稼ぎのごろつきにすぎない。これはまずい。「コブラを交代させなくてはならない」とジョニイはカボに出かける。しかもプロジェクトのボス、マイク・フェイがセスナで来る日が近付き、その着陸の安全性に神経を尖らしている。

国立公園への責任感、嫁・子供の安否などもあって、ジョニイのいらだつ心境はうかがい知れる。気持ちは痛いほどわかる。しかしそのはらいせとして、ジョニイはネコをぶつ。プロジェクトの基地で何年か住みついている“ピィウィ”という名のメス猫だ。「ネコは関係ないぜ」とジョニイに静めると、オレのやったことのどこが悪い、と自己の興奮度を正当化し、もう聞く耳ももたない。それほど、われわれの緊張感も通常の敷居を超えてきたのだ。

内戦は続く。国立公園維持のための必要最小限のオペレーションは日々続ける。密猟対策のための最小限のパトロール。基地運営管理の仕事。車やモーター、発電機の修理・メンテ、建物の掃除や修復など。通常、ボスのマイク・フェイはボマサに不在。ガボンなどの隣国に滞在、そこの銀行からプロジェクト用のお金を下ろし、あるいは通常の連絡の可能な隣国の都市からWCSニューヨーク本部などと連絡し、プロジェクト資金のやりくりについて交渉を重ねる。そしてマイクはお金を携えて、ときおりセスナにてボマサへやってきた。

そうしたある日、マイクは、ぼくを正式にWCSコンゴ・プロジェクトの一員として雇いあげる計画があることをぼくに告げる。しかもプロジェクトの中心的存在CTPとしてだ。CTPとは、Conseilleur Technique Principalという仏語の略で、主任テクニカル・アドバイザーというような意味だ。実際にはジョニイの補佐として、国立公園運営・維持に関わる諸事のマネージメントとして仕事をすることになる。

思えば、ぼくはンドキのWCS基地の「内戦時留守役」の大役を任せられたが、当時単にWCSの「協力員」にしかすぎなかった。実際WCSとの契約もないしWCSからの給与はないし、現地での食費を賄ってもらっていただけだった。本来の「籍」は京都大学のポスドクの「研修員」であった。しかし、その研修員の任期が切れるときが近づいてきていたのは確かであった。そうした折に、マイクのこの仕事のオファー。研修員ののちどこか大学の助手として日本に残るか、マイクの言葉をありがたく受け取って、WCSに就職するか?その岐路に立つことになったのである。

しかしまだ内戦は終わっていない。

コンゴ共和国各地でコブラの暴動が始まる。内戦を鎮圧すべき多国籍軍は形成されないようだ。理由は不明だが、コンゴ駐在の仏軍に、米英軍が参加しないという。不穏な日々は続く。「ニセ・コブラ」を追い出したものの、いつ次のコブラがボマサへ来るのか、落ち着かぬ日々は続く。ジョニイの家族の消息は依然不明だ。寂しさを紛らわしたいジョニイは、ボマサの近くに来ている昔の愛人を呼びたい、と。残念ながらその日、ジョニイは毎日の業務を無断で放り出した。気持ちを察するが、仕事はきちんとやってほしい。

果たしてまたもやコブラが来た。3回目だ。表敬訪問と異邦人チェックのためだという。リーダー格の男はいかにも紳士的であったが、二人の若い兵士の一方はビールを飲み少し野卑に見えたが、ぼくがリンガラ語を話してからすっかりなごむ。コブラ訪問ももう慣れっ子だ。相手もいきなりまず歯をむき出してくることはない。適当にもてなし、会話をすれば済む。このときぼくのリンガラ語は武器となっていたようだ。「オッ、この白人、リンガラ語、知っているぜ」「どこで覚えたんだ?」「もうコンゴ人同然じゃないか」ぼくの流暢なリンガラ語に兵隊も任務とは違う話を始める。一通り会話を終わったころには、すっかりピリピリとしていた緊張感はなごんでいる.

ジョニイの精神的不安定はなおも続く。ジョニイの政治力なしではコブラとの対話もむずかしい。彼の存在は国立公園にとって、WCSプロジェクトにとって絶大だ。しかしときに、聞かぬ耳を持つのには正直言って辟易する。あまりに一方的なのだ。ある日、ジョニイはサンガ州の州都ウエッソにボートで行くという。消息のわかったらしい家族に会いに行くためだ。ボマサからウエッソまでのボートの燃料ガソリンのことを考える。ストックは意外に少ない。カボ止まりで、そのあと伐採会社のトラックを利用できないものだろうか。ガソリンのことをジョニイに説明する。ジョニイはそれをぼくが燃料の無駄遣いをとがめている、家族に会いに行くことを否定しにかかっている、とでも思い違いしたらしい。彼の興奮、止まらない。「もうお前とは理解し合えない」と、捨て台詞を残して部屋へ去る。めしも一緒に食べない。強烈である。

▼内戦の終焉

当時の大統領のリスーバは追放される形でコンゴ共和国を去り、旧大統領でコブラ兵士を率いる反体制派のサスーが勝った。首都ブラザビルは略奪のほしいままらしいが、一応戦争は終結したのだ。約4ヶ月に及んだ内戦は終焉した。茫然とすごした(耳を澄ませながら)時間は大きい。決して戻せない時間。しかし耐えしのいだ。そして、ぼくは日本の大学に残り安定した生活ではなく、不安定ではあろうがWCS職員としての仕事を始める決意もしなければならない。いずれにせよ、当面は、どういう政治体制下であれ、ぼくはジョニイとプロジェクトを、国立公園管理を正常通りに回復させていかなければならなかった。

ジョニイは通常業務に忙しい。地元の情報をもとに、マルミミゾウの密猟が起こったらしい地域にチームを送り込む。チームは象牙などを押収したが、密猟者は逃げたらしい。

これ以上、国立公園、あるいはその周辺域でのゾウの密猟を起こさせてはいけない。ジョニイはそうした行動にきわめてテキパキと動く。頼りになる男である。

しかし、ジョニイはやはりいつもの元気がない。終戦とともに、ジョニイの嫁の消息が入ってきた。ウエッソにいるという情報だ。ジョニイはウエッソへ。しかし嫁や子供たちは見つからなかったという。しかし嘆かわしい気持ちでボマサに到着するや否や、ウエッソの無線から別の消息が入る。ジョニイの嫁たちはたった今ウエッソに到着したという。しかし嫁は怪我をしたという。ある町から脱出しウエッソ方面へのトラックに乗っていたとき、何かの反動で荷台から振り落とされ、腰かどこかを強く打ったということだ。とにもかくにも、ジョニイは再びウエッソへの道を急ぐ。プロジェクトは金が尽きた。またジョニイがウエッソヘ向かったのち、大切な通信手段である無線機が故障。内戦が終わったとはいえ、尋常でない状況は続く。

ボマサ基地での筆者とマルミミゾウ©西原恵美子

ボマサ基地での筆者とマルミミゾウ©西原恵美子

 

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