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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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イージスアショア配備撤回を
憲法 9 条改正の推進力にしてはならない 下

2020年7月4日


9 2020年 6 月18日総理記者会見録を読むと、イージスアショア配備プロセス「停止」に同意したものの、「転んではタダでは起き上がらない」彼の執念がうかがえます。項目的に列挙します。ただし、記者会見では新型コロナ問題が大半を占めていますので、その問題は省きました。

① イージスアショア配備プロセス「停止」で穴の開いた抑止力を強化するため、何が抑止力なのか、あるべき抑止力の在り方の基本について今年の夏の国家安全保障会議で議論する。抑止力につき、政府においても新たな議論をしなければならない。

② 国家安全保障戦略のありようにつき、国家安全保障会議での議論で新しい方向性を打ち出す。

③ 専守防衛と敵基地攻撃能力保有につき、今までの議論の中に閉じこもっていいのか。

④ 自民党総裁任期中に憲法改正をやり遂げたい。憲法審査会で議論をすべき、国民もそれを聞きたいはず。

 おおむねこのような内容です。
① は、憲法 9 条と専守防衛の下での「拒否的抑止力」から「懲罰的抑止力」への転換を考えていると思われます。

② は、2013年12月の25大綱と同時に決定した国家安全保障戦略を見直すことを考えていると思われます。

③ は、わざわざ「自民党国防部会等からの提案」を引用しながら発言していますので、敵基地攻撃能力を保有することを考えていると思われます。

④ は、① から③ の発言を踏まえれば、新たな安全保障戦略の策定、敵基地攻撃能力の保有、抑止力の転換により、憲法 9 条改正を目指すというのが、私の見方です。

10 国防部会等の提案とは、直近のものでは2017年 3 月30日自民党政務調査会「弾道ミサイル防衛の迅速かつ抜本的な強化に関する提言」があります。国防部会の提言では、2009年 6 月と2010年 6 月の「提言・新防衛計画の大綱について」があり、国防部会の提言は、敵基地攻撃能力につき、次のように具体的な装備の提言をしています。

11 2009年 6 月 9 日自民党国防部会・防衛政策検討小員会は、次期防衛大綱策定に対する自民党の提言「提言・新防衛計画の大綱について」を発表し、敵基地攻撃のために保有すべき攻撃能力として「宇宙利用による情報収集衛星と通信衛星システムによる目標情報のダウンリンクと巡航ミサイルや小型固体ロケット技術を組み合わせた飛翔体 (即応性より秘匿性を重視した巡航型長射程ミサイル又は迅速な即応性を重視した弾道型長射程固体ロケット) への指令により正確に着弾させる能力」と述べています。

 これと同じ内容を2010年 6 月自民党国防部会が作成した「提言・新防衛計画の大綱について」で述べています。要は長距離巡航ミサイルや固体燃料の長距離弾道ミサイルとその運用システムを保有すべきだとの提言です。

 2017年 3 月30日自民党政務調査会提言「弾道ミサイル防衛の迅速かつ抜本的な強化に関する提言」において、「巡航ミサイルをはじめとして、我が国としての「敵基地反撃能力」を保有すべきである」としました。

12 この記者会見から見えてくるイージスアショア配備プロセス停止という事実上の撤回を安倍総理が了解したことの本当の理由は、イージスアショアを含め現行の弾道ミサイル防衛が無力化されつつあること (「ミサイル防衛を導入した時と、例えば北朝鮮のミサイル技術の向上もありますし」と彼は記者会見で発言しています) から、この際思い切ってイージスアショア配備プロセス停止したうえで、新たなミサイル防衛の態勢 (敵基地攻撃のような積極的防衛を含む態勢) を構築することを目指すという、我が国の安全保障政策を転換させるきっかけにするというものです。

 そしてこのような新たな抑止力、ミサイル防衛態勢の構築、敵基地攻撃能力の保有は、憲法 9 条改正を避けて通れないでしょう。
 ※ 敵基地攻撃論と専守防衛政策、憲法 9 条については、この連載の2009年 5 月30日「『敵基地攻撃論』が狙う 9 条改憲」をお読みください。

13 その後の政府、自民党内の動きは、このことを裏付けました。 6 月24日国家安全保障会議で秋田と萩への配備計画断念を決定しました。イージスアショア配備計画の事実上の撤回で、河野防衛大臣は米国政府との契約撤回後の違約金の協議を始めると述べました。
 
  6 月23日安倍首相は自民党役員会で、抑止力を強化するため安保戦略のありようを見直し、自民党の議論を踏まえて新しい方向性を打ち出したいと発言しました。自民党は党内にミサイル防衛に関する検討会を設置し、 8 月か 9 月頃政府に提言を出すとのことです。さらに12月には2013年12月に閣議決定した国家安全保障戦略と、2018年12月に閣議決定した30防衛大綱見直しをするとみられています。

 自民党の検討委員会の座長になると思われる小野寺元防衛大臣は、敵基地反撃能力を持つことで抑止力につながると発言し、石破元防衛大臣は、専守防衛を唱えていれば大丈夫という考えから脱却しないといけない、と述べています。今後政府、自民党内では、敵基地攻撃論と専守防衛否定論の大合唱がわき起こされる勢いです。

14 このような安倍首相の路線に対し、私たちはどのように対抗すべきでしょうか。
 相手の軍事的脅威に抑止力で対抗するという安倍首相の考え方では、軍拡競走の悪循環になることは目に見えています。現に、現行の弾道ミサイル防衛を突破できるミサイル技術として、極超音速滑空ミサイル (中国のDF17やロシアのアバンギャルドはすでに実戦配備済みです) 、超高速長距離巡航ミサイル (スクラムジェットエンジンによる極超音速巡航ミサイルを航空機から発射する、ロシアはすでに配備済みといわれている) が挙げられています。

 これらの軍事技術を防衛省、自衛隊はすでに研究しています(「研究開発ビジョン―多次元統合防衛力の実現とその先へ 解説資料スタンド・オフ防衛能力取り組み (2019年 8 月30日防衛装備庁)」、防衛省HPでダウンロードできますので参照してください。) 。

 他方米国、ロシア、中国はすでにこれに対抗する軍事技術を研究開発しています。例えば、ミサイルを標的に向けて正確に誘導飛行させるための測位衛星などの衛星システムを無力化するための電磁波技術の開発や、標的の周辺をエアロゾルで覆ってしまえば、ミサイルが標的を認識する光学センサーが役に立たなくなるなどです。このような終わりなき抑止力による対抗路線では、到底平和と安全を図ることはできません。

  6 月18日の中国新聞に、柳澤恭二氏の短い論考が出ていました。結論は、イージスアショア配備プロセス停止はミサイル防衛を見直す好機だ、日本はむしろ、相手国から攻撃されないよう外交の知恵を絞る方向へ力を注ぐべき、というものです。柳澤氏の意見は、憲法 9 条を生かせということなのでしょう。
 私もまったく同感です。

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