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新検事総長に託された課題

寄稿:飯室勝彦

2020年7月23日

 新しい検事総長の座と、検察庁法の改正をめぐる法務検察の混乱は、改正法案の廃案と林真琴・新検事総長の就任で決着した。検察の基本的理念が問われた混乱である。林氏には与えられた課題を実現し、国民の期待に応える責任がある。

◎発端は政権側の思惑
 ことの発端は、安倍晋三政権が従来の法解釈を変更して黒川弘務・元東京高検検事長の定年を延長したことだった。情況から政権に近い立ち位置の黒川氏を次の検事総長にする布石とみられた。加えて国会に提出された検察庁法改正案には時の政権による人事介入を制度的に可能にする思惑が秘められているように見えた。

 世論の強い反発を受け、政府は改正法案の成立をあきらめざるを得ず、黒川氏は新型コロナウイルスの感染拡大防止のための自粛期間中に賭け麻雀をしていたことが発覚して辞職した。
 結果として新しい検事総長は検察側の予定通り林氏で落着し、政権側の思惑は実現しなかった。

◎世論の基本は「検察不信」
 黒川氏の賭け麻雀が検事としてはもちろん市民としても倫理に反していたことは間違いない。その大きなインパクトが検察庁法問題への批判を増幅したことは確かだが根底にあるのは検察不信だ。多くの国民が検察と政治との距離、政治的中立性に疑念を抱き、「検察は政治、とりわけ政権側の意向を忖度している」と疑っている。政治家の関係する疑惑について納得できる捜査結果が示されないからだ。

 甘利明・元経済再生担当相の金銭疑惑、森友学園の国有地売却をめぐる文書改竄は関係者が不起訴になったうえ、不起訴の理由も説得力のある説明はなされていない。安倍首相夫人、昭恵さんの関与が取りざたされた森友学園への国有地売却そのもの、あるいは安倍首相との関係が話題になった加計学園の学部新設については、厳密な捜査が行われたようには見えない。

 前法相、河井克行・衆院議員と妻の案里参院議員の選挙違反こそ詳しい捜査で起訴したが、自民党から河井陣営に渡された 1 億5,000万円については捜査するかどうかも示されていない。

 自民党資金は、税金が原資である政党助成金、財界などからの寄付などさまざまだが、いずれにしろ公のカネだ。選挙に際し他陣営の10倍にもなる巨額のカネが河井陣営に渡ったのはなぜか。その思惑、狙い、使途など徹底的に解明されなければならない。

◎課題は疑念解消、信頼回復
 黒川氏の定年延長や検察庁法改正については、松尾邦弘・元検事総長らOBが声を上げるまで法務検察の内部から外部へ異論がほとんど聞こえてこなかった。だいいち法務省内部に多くいる検事の協力がなければ改正法案自体準備できなかったはずだ

 こうしたことを裏返せば国民の疑念を解消し、信頼を回復する検察業務の運営こそ林新総長に与えられた課題といえる。

 検察は起訴する権限をほぼ独占している強大な権力機関である。その権力は国民から託されている。公平、公正、謙虚、透明でなければならず、政治の最高権力者が関係するケースであっても毅然たる姿勢で取り組むのは当然である。起訴できない、あるいは起訴できるがしない場合にはその理由を国民に明確に説明すべきだ。

 近年、検察は原則として不起訴の理由を明らかにしない。これは実態としては検察が刑事責任の有無を最終的に決める権限を握っているようなものである。その裏で重大な事件が闇に葬られることも起こりかねない。国民に対してもっと透明であるべきだ。

 森雅子法相は先ごろ有識者を集めて「法務・検察行政刷新会議」を設け、議論を始めた。① 検察官の倫理 ② 法務行政の透明化 ③ 日本の刑事手続きが国際的な理解を得るための方策――について半年を目途に提言をまとめてもらうという。
 新検事総長は、いまさら有識者の声を聴くまでもなく「あるべき検察の姿」は描けているはずだ。林氏は2010年の大阪地検の証拠改竄事件の後、最高検で検察改革の指揮を執り、検察の理念として「国民の信頼を基盤」とすることを掲げた。
 それを実現するために先頭に立つことが林・新検事総長の最大の使命である。

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