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感染拡大防止
・・・政府の姿が見えない

寄稿:飯室勝彦

2020年8月19日


 見えない敵、新型コロナウイルスと闘う東京、大阪、神奈川、愛知などの知事の奮闘をよそに安倍晋三首相率いる政府の姿が見えない。国民の命と生活を守る感染拡大防止の戦略を示すことができず、「無為無策」と酷評さえされている政府に国民の不安は募るばかり。一日も早く国会を開いてオープンな議論で具体的戦略を構築しないと、日本社会がますます混乱する。

◎「圧倒的に東京問題」
 第一段階は比較的順調だった感染封じ込めも、感染者が急増に転じて新しい段階を迎えた。東京、大阪、神奈川、愛知などの大都市圏と沖縄などの各知事たちは感染拡大に懸命の努力を続けている。
 そんな中で菅義偉・官房長官の発言は衝撃的だった。感染者が東京で急増したことに関して「圧倒的に東京問題だ」と言ってのけたのだ。さまざまな裏事情、思惑があっての発言と伝えられるが、一般的には感染拡大防止という難題を東京に押しつけているように聞こえた。

 小池百合子・東京都知事と現政権、とりわけ菅長官とはいわゆる「そりが合わない」関係だと言われている。小池知事はメディアを通じた情報発信効果、メディアの利用の仕方を熟知し、政策の立案、実施にそれを生かしている。自己の演出にも長けており、時に自己主張のあまり政府と対立したりする。
 こうした自己主張の強さを、裏舞台で権力を振るうことの多い菅長官は苦々しく思っているのだろう、と解説する人は多い。

◎傍観は責任放棄
 しかし、そんな裏事情はともかく、日々のニュースから知事らの奮闘ぶりは伝わってくるが、感染の拡大防止のために政府が何をしているのか、あるいは何をしようとするのか信頼できる設計図が見えてこないことが問題なのだ。尾崎治夫・東京都医師会会長は雑誌『文芸春秋』 9 月号でこんな安倍政権を「無為無策」と切って捨てた (同誌=安倍政権「無為無策」が日本を壊す) 。
 菅長官の発言は何よりも重視すべき国民の安全、生命を人質にした対立の表れと聞こえる。政府が知事らを積極的に支援せず、「知事のお手並み拝見」とばかりに傍観しているとしたら許されない。国民を守る責任を軽視していると言われても仕方あるまい。

 安倍政権は「やってる感」の演出には熱心だった。閣僚に任せておいてもいいような些事もいちいち「首相の指示」「首相の裁断」などとマスコミに宣伝してきた。感染問題でも最初はそうだった。一人一律10万円の特別給付金、マスクの全戸配布などでは積極的に宣伝した。
 ところが事業の丸投げ、手続きの混乱、給付の遅延、マスクの使いにくさなど問題点が次々明らかになるにつれ軸足を経済再建に移し、感染拡大防止については基本的に個々の自治体任せだ。都道府県への支援は感染拡大地域への保健師の応援派遣くらいで、閣僚が第 3 者のような発言をすることもある。

 憲法上の義務であるにもかかわらず、野党の国会開会要求を無視し、首相がまともな記者会見もせず、国民に対する説明責任を果たさないである。

◎理念を語れない首相
 生命の安全は国民の憲法上の権利であり、政府にはそれを守る責任があるが、安倍首相はもともと理念や理想を語ることが苦手である。こんどの感染問題でも、稀に首相が語っても「手洗い徹底」「三密回避」など決まり切ったセリフを連発する。国の最高責任者が政策の理念を語ることも、国民の生命を守る政府の責任について決意を表明することもできず、幼児でも暗記しているようなスローガンを繰り返すのを聞かされるのは国民として寂しい。閣僚も「スピード感をもって」など意味不明の決まり文句を繰り返している。
 
 他方で首相、自民党は依然として改憲、そして最近では敵の基地を攻撃する能力の保持についての論議に意欲を見せている。国を挙げてウイルスと闘わなければならないときに文字通り「不要不急」の議論だ。

◎厳しい現実と不安
 コロナ禍は国民の前に厳しい現実を突きつけている。経済活動の停滞、雇用の不安、格差拡大・・・・・・何よりも命と健康の危機だ。問題は山積している。政府には眼前にある命の危機から国民を守り、国民の焦燥感、不安感を解消する責任がある。新しいウイルスと闘うもっと確実で効果的な戦略、戦術の構築を迫られている。
 それは大臣、政府の役人や一部専門家に任せるのではなく、開かれた議論の場を経て幅広い分野の知力を結集しなければならない。国会の開会がなによりも急務だ。

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