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【NPJ通信・連載記事】高田健の憲法問題国会ウォッチング/高田 健

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「臨戦指針」としての日米ガイドライン再改定阻止へ

2014年10月29日

日米安保のガイドライン(日米防衛協力のための指針)が年末に再改定されようとしている。政府によると、その骨子に当たる「中間報告」が、間もなく10月上旬にワシントンで開かれる日米外務・防衛局長級協議でとりまとめられ、発表されるという。当初、発表は9月中旬と言われ、最近では9月下旬と言われていたが、「文言調整に手間取り」(※註)、延期されたのだという。「中間報告」の分析は間に合わないが、この小論ではこの「中間報告」を前にして、論じておきたいことについて書いてみようと思う。

<日米ガイドラインの経過と変質>

1978年、米ソ冷戦時代に日米安保の運用指針として日米当局の間で取り決められた「ガイドライン」は、今日では旧ガイドラインとよばれ、日米安保体制下での日米両軍の軍事的役割分担、日米共同作戦計画を決めたものだ。当時の福田内閣は同時期に有事法制の研究を閣議決定した。このガイドラインは米国ではウォー・マニュアルとよばれる。 しかし、旧ガイドラインは「日本有事」における日米両軍の軍事的役割分担の合意に止まっており、海外での共同作戦は想定されていなかった。

このガイドラインは90年代になって北朝鮮の核開発疑惑やミサイル発射実験を受けて想定された朝鮮半島危機への対応として改定された(いわゆる新ガイドライン)。

1997年のガイドライン改定の際に、新ガイドライン安保体制を批判して、これを「臨戦指針」と規定したのは、政治評論家の山川暁夫だった。

1993~94年、朝鮮半島の第1次核危機とよばれる北朝鮮の核保有疑惑問題で、アメリカが事実上の北朝鮮攻撃の臨戦態勢に入ったとき、日本政府はこれに呼応する対米軍事支援を即座に準備することができなかった。当時はまだ、戦争を可能にするための改憲の世論は高まっておらず、集団的自衛権の行使を禁じた憲法9条の政府解釈が朝鮮半島での米国の軍事行動の支援に歯止めをかけていたからだ。

こうした日本の対応に危機感を覚えたアメリカ政府は、95年12月、日本政府が朝鮮半島有事の際に行うべき米軍への膨大で、詳細な支援要綱(在日米軍司令部が作成した1059項目)を日本側に提出した。しかし、平和憲法の縛りの下で日本政府はこの米国の対日要求に応えることを「不可能」とした。あわせて韓国政府のシュミレーションが想定される第2次朝鮮戦争では200万人の死者が出ることを予測した事情もあり、米国は北朝鮮攻撃を断念し、急きょ、カーター元大統領を訪朝させ、米朝合意を結ばせることで危機を収拾せざるを得なかった。この屈辱的な事態が米国による日本政府に対する有事法制・戦争法制の整備への強い要求となった。これに沿って1999年には「周辺事態法」が制定された。以降、武力攻撃事態対処法(2003年)、国民保護法(2004年)、ACSA=日米物品役務相互提供協定改定(2004年)など、日本は着々と「戦争のできる国づくり」のための法制化を進めることになった。

<新たな戦前の時代のガイドライン再改定>

その後の政権交代と自民党の復権を経て、2013年10月3日、安倍政権の下で開催された、日本側・岸田文雄外相、小野寺五典防衛相、米側・ケリー国務長官、ヘーゲル国防長官による日米安全保障協議委員会(「2+2」)は、<より力強い同盟とより大きな責任の共有に向けて>を共同発表した。それは、新たな「日米同盟の戦略的な構想」を主題とするものであり、北朝鮮・中国の「脅威」にたいして、「アジア回帰」を打ち出したオバマ政権の米国が、日本の役割を拡大させつつ、「実効的」で十全な協力体制をとろうとするものだ。<共同発表>では、その「基礎となる取り組み」として、①日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の見直し、②安保・防衛協力の拡大、③在日米軍再編を支える新たな措置などをうたい、ガイドラインの見直し・再改定を確認した。

そこで日本側は具体的なとり組みとして、①国家安全保障会議(NSC)設置及び国家安全保障戦略(NSS)策定の準備、②集団的自衛権の行使に関する事項を含む安全保障の法的基盤の再検討、③防衛予算の増額、④防衛大綱の見直し、⑤防衛力の強化、⑥地域への貢献の拡大、などを約束した。

そして、「共同発表」は日米の戦略が「アジア太平洋地域およびこれを超えた地域における安全保障および防衛協力の拡大(を基礎としていく)」とのべ、日本の「地域及び世界の平和と安全に対してより積極的に貢献する」との決意を確認し合った。まさに海外で積極的に戦うことの確認だ。ガイドラインの見直しの目的は①日米防衛協力の中核的要素である日本に対する武力攻撃への対処能力の確保、②同盟のグローバルな性質を反映する協力範囲の拡大、③地域のパートナーとのより緊密な安全保障協力の促進、④協議・調整メカニズムの強化、⑤相互の能力強化に基づく適切な役割分担の提示、⑥効果的・効率的・シームレスな対応を確保するための緊急事態における防衛協力の指針となる概念の評価、などとした。

これでわかるように昨年の2+2で米国に約束した「具体的なとり組み」は安倍政権はほとんどの項目を、世論を無視し、国会を無視してすでに強引にやってのけた。

2+2の「共同発表」は、「(安倍首相が進めている)集団的自衛権の行使に関する事項を含む自国の安全保障の法的基盤の再検討(を米側が「歓迎」した)」として、その推進を確認した。そして、これら長年にわたる米国の集団的自衛権行使の要求に応えて、安倍政権は本年7月1日、歴代政府の集団的自衛権に関する憲法解釈を、世論に逆らって閣議決定を強行した。そしていま、17年ぶりに行われる年末の日米ガイドライン再改定に向けて、突き進もうとしている。安倍政権は集団的自衛権の閣議決定で立憲主義にそむく政治手法をとっただけでなく、本来はガイドラインに先立って臨時国会で「集団的自衛権」関連法案の改定に着手する段取りだったが、ここでも極めて乱暴なやり方を進めようとしている。日米ガイドラインを先に協定した上で、関連法制の審議を来年の通常国会でするという無法このうえないやり方にでている。

<国会無視、民意無視の独裁的政治手法による戦前への突入>

間もなく中間報告が出されるが、政府がすでにメディアに漏らしているところでは再改定では現行ガイドラインにもとづいてつくられた周辺事態法が認めていない周辺事態の際の米軍への武器・弾薬の提供や、米軍戦闘機への空中給油などを認めるという。99年の周辺事態法制定当時の論議では、こんなこと、ありえないはずだった。同法は朝鮮半島有事などの際に、「後方地域」での給水・給油や医療提供などは認めていたが、武器・弾薬の提供と戦闘のために発進準備中の戦闘機の給油と整備は、米軍の武力行使と一体化するおそれがあるとして認めていなかったもの(読売)。安倍政権は立憲主義・法治主義・議会制民主主義を全く度外視して「臨戦指針」をつくろうとしている。

8月20日の読売は次のように報じている。

「政府は年末のガイドライン改定を受け、来年の通常国会で関連法案の成立を目指す。ただ、具体的法整備の形式をめぐっては、周辺事態法屋自衛隊法、日米物品役務相互提供協定(ACSA)などをそれぞれ改正する案と、周辺事態法を廃止して新法を制定する案の両案が検討されている」。

9月10日の毎日は以下のように報じている。

「新たなガイドラインは、武装集団が離島を占拠するなどの武力攻撃に至らない『グレーゾーン』から日本有事まで、切れ目のない日米協力の実現が柱だ。……現行ガイドラインは(1)平時(2)周辺事態(3)日本有事――について自衛隊と米軍の役割分担を規定しているが、……沖縄県・尖閣諸島周辺への中国の進出を踏まえ、これまで規定がなかったグレーゾーン事態について平時からの協力自公として盛り込む方針だ。周辺事態と日本有事にしか設置の規定がない『日米調整メカニズム』を常設とし、グレーゾーン事態でも即時に日米が連絡をとり、効果的な作戦を実施できる体制を構築する方向で調整が進んでいる」

これとあわせ、集団的自衛権の閣議決定に関連する戦争法制は都合10数本にもなり、来年の通常国会ではこれらが予算と統一地方選が終わった春以降、一括法案の形で出されるともいわれている。安倍内閣はこれら国の前途を左右する最重要法案を、国会で保有する圧倒的多数の議席に依拠して力任せに成立させようとの魂胆であり、まともに議論しようとは思っていない。

国会での議論と承認すらないままに、今回のガイドライン再改定は、この国とんでもない危険なところに引きずり込もうとしている。いま、政府はこれらの日米共同作戦体制の強化のために、沖縄の辺野古新基地建設の暴力的強行や米軍のオスプレイの訓練飛行の全国展開など在日米軍の強化を進めながら、一方で5兆545億円に上る史上最高額の軍事予算を2015年度予算の概算要求に盛り込んで、南西諸島への侵略排除を口実にした日本版海兵隊・水陸機動団の建設をすすめ、オスプレイの導入や強襲揚陸艦、無人偵察機、イージス艦などの新規購入に着手し、自衛隊の海外での作戦能力を飛躍的に強化しようとしている。

安倍政権による日米ガイドライン再改定は日米両軍が共同して海外で戦争をする体制づくりであり、許すことができない。

※註 「文言調整に手間取り」とは、おそらく「尖閣諸島」でのグレーゾーン事態、有事における米軍出動をめぐっての日米両政府の立場の違いではないかと思われる。米国内には「たかが無人の岩礁の問題」で、日中戦争に引きずり込まれてはかなわないという意見がある。これがガイドラインにどのように表現されるか、要注目だ。

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