2008.5.19更新

薬害C型肝炎福岡訴訟
事件名:薬害C型肝炎福岡訴訟
全国の訴訟の現状:
   東京地裁 東京高裁→係属中
   大阪地裁 大阪高裁
     →平成19年12月7日、高裁より和解骨子案が出る予定
   福岡地裁 福岡高裁 →平成19年11月13日 和解勧告
   名古屋地裁 名古屋高裁→係属中
   仙台地裁 仙台高裁→係属中
  その後は2月7日13時30分から大阪高裁大法廷にて期日予定。
  それまでに国や企業の対応次第で、和解期日となるか弁論期日と
  なるかは未定。
紹介者:後藤景子弁護士
全国弁護団HP


【事件の概要】
(1) 原告:薬害被害者 (全国では117名)
   被告:国 (厚生労働省)
       田辺三菱製薬株式会社
       日本製薬株式会社

(2) 請求の内容の概要
  C型肝炎感染の危険性の高いフィブリノゲン・クリスマシン投与によるC型肝炎感染についての (国家) 賠償請求

(3) 請求の原因の概要
 ア フィブリノゲン・クリスマシン投与によるC型肝炎感染の危険性
    フィブリノゲンもクリスマシンも血液製剤の一つであり、止血剤として広く医療現場で使用された医薬品であり、売血由来の血漿を原料としていた。 売血は献血に比べて輸血後感染症の危険が高い。売血者の肝炎罹患率は相当高率であり、売血は、献血より4〜10倍の輸血後肝炎の危険性があると報告されている。 プール血漿の供血者には、一定の割合で肝炎ウイルス保有者が含まれているため、 供血者の数が多くなればなるほどプールへの肝炎ウイルス汚染血の混入は避けがたいものとなる。

 イ フィブリノゲン・クリスマシンの有効性
  (ア) 血液学的有効性
    血液凝固には、全ての血液凝固因子が必要であり、どれか一つが欠けても血液凝固は完成しない。よって、出血傾向にある者に対し、 フィブリノゲン製剤単独投与を行っても血液凝固過程の異常を改善することはできない。

  (イ) 客観的資料の不存在
    1964年にミドリ十字がフィブリノゲン製剤の製造承認の申請時に提出した後天性疾患に関する一般臨床試験報告5報には、 輸血等が併用されているものやフィブリノゲン値が測定されていないにもかかわらず効いたとする主観的なものが多く、 これらの報告からは本剤が有効であったかどうかは確認できない。
    1985年10月に被告国は、非加熱フィブリノゲン製剤を再評価指定し、1986年2月、ミドリ十字は同製剤を再評価申請した。 この再評価の中出、1987年7月、被告国は、「後天性低フィブリノゲン血症」 については、「フィブリノゲン製剤の有効性を証明する客観的なデータなし。 有用性なし、適応を吟味しバックグラウンドを備えた臨床試験が必要である」と内示した。

    これに対しミドリ十字は、1988年2月、「後天性低フィブリノゲン血症」 については、 製剤そのものの有用性評価に主眼を置いた知見報告・臨床報告などの公表論文がないことを認めた。

  (ウ) FDAの承認取消し
    さらに、アメリカFDAは、1978年、フィブリノゲン製剤の承認を取消したが、その根拠として有効性なきことを以下のとおり述べている。 「ヒトの止血過程は、一連の複雑な血管及び生化学上の反応から成るものであることから、 フィブリノゲン値のみが適切な治療に関する有効な指標となるとは必ずしもいえない。 フィブリノゲンの投与のある患者では殆どの場合多種の異常が存在しているので、フィブリノゲンの単独投与のみでは正常な血液凝固は得られない。 このようなことから、フィブリノゲン (ヒト) の臨床効果を評価することは困難であり、その使用が有効とされる適応症はほとんどない。」

  (エ) クリスマシン
    1976年にクリスマシンが承認されるに当たり、クリスマシンの有効性を示す臨床比較試験資料は一切存在していない。
    先天性第R因子欠乏症だけではなく、新生児出血等の疾患にも幅広く適応があるものとされていた。
    しかし、第R因子のみが欠乏しているわけではない症例に対し、第R因子の補充が有効性を持たないのは、フィブリノゲン製剤と同じです。

 ウ C型肝炎の重篤性
  C型肝炎は予後が不良で治療が困難であり、重篤な疾患である。C型肝炎の特徴は、非常に高い頻度で慢性化する点にある。 そして、一旦慢性化すると自然治癒は極めてまれであり、HCVが自然排除されることはまずない。その後もHCVの持続感染により肝炎が持続し、 多くの症例で肝硬変に、さらには肝細胞癌へと進展し、ついには死に至る。

  C型肝炎は治療が困難であり、インターフェロンによる治療が行われるようになった現在でも治療効果がない場合も多く、 かえってインターフェロン治療によって副作用が生じる場合もある。

 エ 国・企業の責任
  (ア) 国の責任
    1964年フィブリノゲン製剤承認
    1976年クリスマシン製造承認の違法・過失
    1978年に適応限定しなかった違法・過失

  (イ) 企業の責任
    1964年フィブリノゲン製剤販売開始
    1976年クリスマシン製造販売開始の責任
    1978年フィブリノゲン適応限定しなかった違法・過失
    1979年クリスマシン適応限定しなかった違法・過失
  
 オ 損害
  HCV感染被害は、生命・身体・健康に被る
  肝硬変・肝ガン→1億円
  慢性肝炎→6000万円
  肝酵素値が正常範囲内にとどまる感染者→3000万円

【全国の訴訟の経過】
  平成18年 6月21日 大阪判決 フィブリノゲン:国・製薬企業に勝訴
               (1987年4月以降)
               クリスマシン:国・製薬企業に敗訴
         8月30日 福岡判決 フィブリノゲン:国・製薬企業に勝訴
               (1980年11月以降)
               クリスマシン:国・製薬企業に敗訴
  平成19年 3月 4日 東京判決
              フィブリノゲンとクリスマシン:国・製薬企業に勝訴
               (1987年〜1988年の指示警告義務違反)
  平成19年 7月31日 名古屋判決 フィブリノゲン:国・製薬企業に勝訴
               (1976年以降)
               クリスマシン:国・製薬企業に勝訴
               (1976年12月以降)
         9月 7日 仙台判決
              フィブリノゲン・クリスマシン:国・製薬企業に敗訴
        11月 7日 大阪高裁和解勧告
        11月12日 福岡高裁和解勧告
        12月 7日 までに大阪高裁和解骨子案が出る予定

【新法の成立】   「薬害肝炎救済法」 が1月11日成立。福田総理大臣は法律成立に合わせて談話を発表。
  薬害肝炎全国原告団弁護団は1月15日、国 (厚生労働大臣) との間において基本合意書の調印式を行い、 希望する原告全員が、福田総理大臣との面談にのぞみました。

  2002年10月の提訴以来5年、ようやくここまでこぎつけました。調印式は確かに一つの区切りですが、肝炎問題解決への始まりでしかありません。
  5高裁、5地裁での和解・追加提訴にくわえ、真相究明に関する検証会議の速やかな開催、 C型肝炎だけではなくB型肝炎などに関する治療費助成の要求など問題は山積み。薬害肝炎全国原告団弁護団は既に新たなスタートを切っています。

  平成20年2月4日福岡高裁、第1陣原告16名が国との間で和解が成立しました。 平成19年2月19日の福岡高裁第1回期日から約1年での和解となりました。大阪高裁では、同日13名が和解成立、18日にも18人が和解しました。
  これで、薬害肝炎全国原告団が、国と和解した原告数は全国で47人となりました。

  そして2月20日には、福岡地裁でも第2陣・第3陣41名のうち、大半の原告の和解が成立しました。本年度中は毎月、全国一斉追加提訴を行っています。

【新法成立後の初和解】
  平成20年5月14日、福岡地裁において、薬害肝炎救済法成立後の原告5名 (平成20年1月31日提訴) が、国との間で和解しました (企業との裁判は継続)。
  薬害肝炎全国原告団弁護団として、新法成立後提訴について、全国で初和解ケースとなります。

  和解成立後、福岡県弁護士会館3階ホールにおいて、実名公表原告の小林邦丘さん、弁護団代表浦田秀徳弁護士らが記者会見を行いました。
  小林さんは、「先日、法律ができる前に提訴した九州原告59名は全員和解成立していました。 本日は、法律ができた後に提訴した方々の初めての和解が成立したということで、非常に嬉しく思います。まだまだ被害者は埋もれています。 掘り起こしが少しでも進むことを期待したいと思います」 と述べました。

【今後の日程等裁判情報】

文責 弁護士 後藤景子