2010.7.22更新

公文書一部非開示決定処分取消請求訴訟

事件名:公文書一部非開示決定処分取消請求事件
内  容:北海道警察本部銃器対策課の作成した会計書類について、
     非公開とされた処分を取り消すよう求めた訴訟
当事者:市川守弘弁護士 VS 北海道警察本部長
係属機関:札幌地方裁判所
  2010年5月19日判決言渡し 請求は認められませんでした。
  なお、原告は控訴しませんでした。
紹介者:市川守弘弁護士
連絡先:フォーラム市民の目


【提訴に至る経緯】
  9月4日、市川弁護士が原告になって、北海道警察本部長を相手取って、札幌地裁に 「公文書一部非開示決定処分取消」 を求めて訴訟を提起した。 提訴に至るまでの経過は次のとおり。

  市川弁護士は、平成17年4月18日、北海道警察本部長に対して 「北海道警察本部銃器対策課 (以下 「銃対課」) の平成12年4月から同14年6月までに作成した 「一切の会計書類」 について、情報開示請求をしたが、北海道警察本部長は非開示の決定をした。
  非開示の理由は、開示することによって犯罪捜査等の秘匿を要する警察活動に支障が生ずるおそれがあるということだ。
  その前提として、開示請求された会計書類には 「適正執行分」 と 「不適正執行分」 が混在していて、「不適正執行分」 を開示すると、 「適正執行分」 の内容も明らかになるのですべて開示できない、とする。

  市川弁護士は、これを不服として北海道公安委員会に対して審査請求を申し立てたが、平成19年3月14日に棄却された。
  そこで、非開示との決定を取り蹴るよう求めた訴訟を提起した。

【適正・不適正とは】
  「適正執行」 とか 「不適正執行」 とかと説明されても良く分からないだろう。本来、予算執行に適正執行も不適正執行もあるはずがないのだが、 北海道警察には、そう言わざるを得ない理由がある。

  北海道警察では、裏金疑惑が発覚したため内部調査を行った。その結果、銃対課の捜査費等についても 「不適正執行」、 つまり裏金づくりが行われていたことが明らかにされている。
  また、銃対課に所属していた稲葉元警部も公判廷で、捜査協力者に適法な捜査費等を支払ったことはなく、ほとんどは自腹を切って負担していたと供述している。 そうしたことから北海道警察としては、銃対課のすべての予算執行が 「適正執行」 と主張はできない。 請求があれば 「不適正執行」 の会計書類は開示しなければならない。
  かといって、すべての会計書類を開示すると、さらに 「不適正執行」 が明るみに出て、内部調査の結果と食い違いが生じてしまう。 そこで、開示請求のあった会計書類には、「適正執行」 と 「不適正執行」 が混在し分けることできないとし、 「適正執行」 の部分の公文書は情報公開条例の非開示事由に該当するから、すべての文書は非開示だ、というのが北海道警察の理屈なのだろう。

  しかし、北海道警察の裏金システムでは、捜査費等はいったん全てが 「不適正執行」 されて金庫番の金庫に納められ裏帳簿で管理されていた、 と多くの道警OBが証言している。
  また、平成13年度以降は、捜査用諸雑費といい、現場の捜査員に少額 (3,000円程度) をあらかじめ渡す制度が導入された。 この制度は、その使用について捜査員が買い物レシート等を提出すれば良いことになっている。
  北海道警察は、これを 「適正執行分」 としている。
  しかし、この制度については、高知県警の捜査用諸雑費の執行について、高知県監査委員が多くの 「不適正執行」 を指摘している。

【非開示の理由】
  北海道警察は非開示の理由について、捜査員の氏名等を開示すると 「事件関係者等から捜査員が報復を受けるおそれがある」 とする。
  しかし、現場の捜査員は、常に事件関係者に顔をさらして仕事をしている。会計書類だけに名前が出ているわけではない。 しかも、過去にそうした事例を聞いたこともない。
  捜査員も公金を使って仕事をするなら、堂々と名前を公表したらいい。それとも警察官はそんなに腰抜けか。

  北海道警察の裏金疑惑は、その内部調査を基に返還額が決まり、国と北海道に 9億6,000万円を返還し幕引きとなった。
  しかし、その内部調査がいかに欺瞞に満ちていたかは多くの現職警察官が証言していた。
  この訴訟の結果によっては、北海道警察の内部調査の信憑性が根底から崩れる。
  市川弁護士の提訴は、銃対課の公文書の開示・非開示の問題だけにはとどまらず、北海道警察の内部調査の欺瞞性を明らかにする意味がある。
  北海道警察の裏金疑惑の幕は引かれてはいない。


文責 NPJ編集部