普天間基地米軍爆音訴訟〜米軍機と墜落の恐怖よ、さらば!
事件名:普天間米軍基地爆音差し止め等請求事件
内 容:普天間飛行場の米軍機の騒音や墜落の危険により生活破壊
と健康被害を訴える飛行場周辺の住民らが、国を相手に、
早朝夜間における飛行の差し止め、損害賠償等を求めた訴訟
当事者:基地周辺住民400名 VS 国
係属機関:福岡高裁那覇支部民事部
(裁判官:河邉義典、唐木浩之、木山暢郎)
2010年7月29日、福岡高裁那覇支部で普天間爆音訴訟の控訴審判決が言い渡されました。
普天間爆音訴訟は夜間早朝の飛行差し止めと損害賠償を求めた裁判ですが、判決は1審判決で認められた爆音の違法性を認定し、
特有の低周波被害を認定して損害賠償認定額を倍加したものの、住民の願いである飛行差し止めは棄却しました(詳細は後記 「手続きの経過」 参照)
福岡高裁判決要旨 7/29
控訴審判決に対する声明 普天間基地爆音訴訟弁護団 7/29
普天間米軍基地から爆音をなくす訴訟団
紹介者:松崎暁史弁護士
|
【事件の概要】
普天間飛行場は、宜野湾市の中心部に位置する米軍基地である。1945年4月に沖縄本島に上陸した米軍は、住民を収容所に強制収容する等して宅地、
農地などを次々と占領して、基地を拡張していったが、普天間飛行場もこのような状況下、すなわち 「銃剣とブルドーザー」 によって建設された米軍基地である。
普天間飛行場は、岩国とならび海兵隊航空基地であり、固定翼機やヘリコプターが常駐配備され、離発着訓練や旋回訓練を頻繁に行っている。また、飛行場は、
宜野湾市面積の約32%を占めると共に、市の中心部に位置しその周辺には学校、病院、住宅等住民の生活領域が密接に隣接しているという特異性も有している。
基地周辺住民は、日々,航空機や基地騒音による健康被害 (難聴、高血圧、不眠症)、精神的被害、生活妨害、睡眠妨害等を被っており、また、
低空飛行による墜落の恐怖を感じ続けている。そこで、2002年10月、住民約200名を原告として訴訟を提起するに至った。
訴訟では、従来の騒音訴訟で主張されてきた健康被害に加え、低出生体重児 (出産時の体重が低い子ども)、
幼児問題行動、低周波による健康被害等もデータに基づいて詳細に主張している。
また、訴訟係属中である2004年8月13日には、大型輸送ヘリコプターが飛行場に隣接する沖縄国際大学構内に墜落・炎上した。
訴訟では軍用機墜落の危険性及び周辺住民の恐怖についても強く訴えている。
【手続きの経過】
第28回弁論 (2008年1月31日) では、書面を提出し、最後に島田原告団長と新垣弁護団長がそれぞれ5分、10分程度意見陳述しました (国側は意見陳述していません)。
・島田団長の意見陳述の要旨
普天間爆音訴訟は最後発の騒音公害訴訟で2002年提訴だが、その闘いは自分が宜野湾市に移り住んだ70年代から始まっていた。
当時は普天間基地が返還されることなど誰も信じなかったが、その後の運動と、今回の爆音訴訟で住宅密集地にある普天間基地の危険性が認識され、
大きく動こうとしている。
裁判所も爆音被害と正面から向かい合って公正な判決を出して欲しい。
・新垣弁護団長の意見陳述の要旨
爆音訴訟は違法な騒音があるか否かが判断されるある意味非常にわかりやすい訴訟だ。
しかし、国は各地の爆音訴訟での度重なる違法判断にもかかわらず、一向に必要な措置をとろうとせず、被害を放置し、住民は未だに訴訟提起を余儀なくされている。
裁判所は個別事件に関する判断をすることが基本ではあるが、ある場面では国の政策や政治に大きな影響を与えることができる。
それは各種公害訴訟を見ても明らかである。
普天間爆音訴訟でも国の怠慢を断罪するようなインパクトのある判決を望む。
6月26日、過去の騒音被害についての損害賠償を認容する原告一部勝訴判決が下されました。
原告側は7月8日、被告国は7月9日控訴しました。
被告国側は、爆音は受忍限度であって、違法性がないと主張していますので、危険への接近など、1審敗訴部分は全部争っています。
原告側は、差し止め請求は代表の数人に絞って、損害は1審認容額の倍額を請求しています。
普天間爆音訴訟判決要旨 2008.6.26
普天間爆音訴訟判決骨子 2008.6.26
普天間爆音訴訟弁護団声明 2008.6.26
普天間基地所属航空機による爆音被害を訴えた普天間爆音訴訟は、2010年1月28日、福岡高等裁判所那覇支部において第7回弁論を終え、
弁論終結しました。2008年6月28日に一審判決が出されて以来、約1年半の速いペースで審理が進みました。
控訴審では、一審判決で棄却された夜間の飛行差止請求、不十分な形でしか認められなかった爆音による被害と損害を中心に主張立証しつつ、
普天間基地を巡る緊迫した政治情勢に鑑み、なるべく早く 「普天間基地の航空機より発せられる爆音は違法である」
という初の司法判断を確定させることを念頭に訴訟活動を展開しました。
最後の点は、普天間基地移設問題において、「爆音のたらい回し」 は許さないという世論を形成する上で重要な点だと考えています。
一審段階での主張に加えて、控訴審で重点をおいて主張したのは、普天間基地における爆音被害の特徴(W値では測れない、墜落の具体的不安、
ヘリコプターによる低周波騒音)、爆音による健康被害(特に虚血性心疾患のリスク)、普天間基地の基地としての欠陥などです。
最後の点については、伊波洋一宜野湾市長の尋問も実施し、普天間基地の基地としての危険性、不適格性、
騒音防止協定が全く守られていない状況などを明らかにしてきました。
最終弁論では,期日にDVDの上映を法廷で行い,裁判官の視覚・聴覚に訴える試みもしました。
控訴審での原告数は396名。控訴審判決は2010年7月29日の予定です。
2010年7月29日、福岡高裁那覇支部で普天間爆音訴訟の控訴審判決が言い渡されました。
普天間爆音訴訟は夜間早朝の飛行差し止めと損害賠償を求めた裁判ですが,判決は損害賠償は認めたものの、
住民の願いである飛行差し止めは棄却しました。
判決は、海兵隊のヘリコプター基地である普天間基地特有の被害として低周波被害を認定し、また、沖縄国際大学へのヘリ墜落(2004年)を引き合いに、
住民らが感じている墜落の恐怖は現実的なものであり、住民らの精神的苦痛を増大させていると指摘しており、
騒音防止協定についても、米軍が騒音防止協定を遵守していない状況が常態化しており、
国も騒音防止措置を実効あらしめるために適切な措置をとっておらず、騒音防止協定は事実上形骸化していると指摘しています。
さらに重要なことは、クリアゾーン内に学校や病院その他の施設が存在し、基地と民間施設とが極めて近接しており、
それゆえ世界で普天間基地は一番危険な基地と称されているということを指摘している点です。
判決はこのような事情を考慮し、爆音訴訟で長年来変わらなかった損害額の基準を倍に増加させました(W75地域=月額6000円、
W80地域=月額12000円)。
これは、もし全国の爆音訴訟に適用されれば,数百億円単位で認容額が変わる可能性のある影響力の大きい判断です。
他方で、判決は飛行差し止めを従来の第三者行為論(国は第三者である米軍の行為を差し止める権限を持たないというもの)で棄却しました。
より深刻なのは、従来の第三者行為論に加え、いわゆる裁量論に近い論理をもちだして、
差止めについては司法による救済は閉ざされていると断言したことです。
現実に人権侵害が行われている状況を司法的に救済できないとするその論理は、人権救済の砦という裁判所の役割を放棄したに等しいものです。
もっとも、判決は国に対し、航空機騒音の改善を図るべき政治的責務があることを強調しており、
国が普天間基地周辺の騒音状況を改善する責務がないことを意味するものではないと指摘しています。
今回の判決が国に対する免罪符にならないことは明白です。
原告らはこのような差止めに関する判断を唯々諾々と受け入れるわけにはいきません。
島田原告団長は、判決後の記者会見で、差止めについては上告する方針であることを明らかにしています。
福岡高裁判決要旨 7/29
控訴審判決に対する声明 普天間基地爆音訴訟弁護団 7/29
普天間米軍基地から爆音をなくす訴訟団
文責 弁護士 松崎暁史
|