2008.2.2更新

中国人技能実習生残業代等請求事件

事件名:労働審判手続請求事件
     (中国人技能実習生残業代等請求事件)
内  容:未払い賃金の請求、強制貯金の返還請求
当事者:中国人技能実習生 (女性) 4名
         VS 個人事業者 (商号ABA (アバ))
係属機関:岐阜地方裁判所民事2部 平成19年(労)第8号
1月31日の第三回期日で、「研修生期間の残業代支払い義務がある。」 ことを前提とした、画期的な勝利的調停が成立しました。
  調停の内容 相手方は申立人らに対して金600万円を支払う。
    1.400万円は調停の席上、支払い。
    2.200万円は、3年間36回の分割払い。
紹介者:指宿昭一弁護士
連絡先:日本労働評議会 岐阜県本部 委員長 石原裕美子
      〒502-0933 岐阜県岐阜市日光町9丁目26番地日光ビル303
      電話&FAX 058-295-5523

【事件の概要】
1、当事者 申立人 中国人技能実習生 (女性)4名
        相手方 個人事業者 (商号ABA (アバ))

2、請求の内容の概要
  不払時間外労働賃金等  約 797万円
  強制貯金             288万円
  合計             約 1085万円

3、請求の原因の特徴
(1) 残業代として時給300円しか支払っていないので、最低賃金×割増率 (時間外労働25%、深夜労働25%、休日労働35%) と既払額の差額を請求した。

(2) 毎月3万円ずつの強制貯金をさせられており、しかも、返還を求めても返還しないため、その返還を請求した。

4、現時点の状況
  労働審判第1回期日に向け、原告と打ち合わせを行い、準備している。原告は、日本語の会話がほとんどできないため、ボランティアの通訳を頼む必要がある。

【これまでの経過】
  1年ほど前から、日本労働評議会 (労評) 岐阜県本部に、外国人実習生からの相談が多数寄せられ、相談者が組合加盟して、 団体交渉及び労働基準監督署への申告により、使用者に適法な賃金を払わせる活動を行っていた。
  本件相手方の企業 (ABA) においては、別の中国人実習生たちに不払残業代を支払ったものの、彼女達は中国に帰国後、 2万人民元の保証金を没収された上、2万6千人民元の損害賠償請求をされ、第1審では敗訴し、控訴中である。

  このように、相手方が悪質であり、また、団体交渉における請求では誠実な回答をせず、労働基準監督署の指導監督にも従わないため、 本年10月26日に労働審判を申立て、同日、岐阜労働基準監督署に最低賃金法違反、労働基準法違反等の罪名で刑事告訴した。

【一言アピール】
  中国人技能実習生4名が、10月26日(金)、岐阜地方裁判所に、未払い賃金を請求する訴訟を提起し、4名が働いていたABA (アバ) を刑事告訴しました。

  4名は、2005年(平成17年)、第一次受入機関であるソーイング・ワン協同組合を通じて、岐阜県内の縫製関係各社に研修生として来日しました。 しかし、登録された研修、実習先企業とは違う企業で働かさせられたり、最低賃金を大幅に下回る違法な低賃金で働かされてきました。 しかも、手当や賃金の大半は半ば強制的に貯金させられ、生活費としてわずかな金額しか受け取ることができず、 パスポートや外国人登録証までも取り上げられていました。

  今回の申立人4名が働いていたABA (アバ) という会社は、今年2月、同社に働いていた中国人実習生4名 (今年3月に帰国) が、 違法な低賃金を岐阜労働基準監督署に訴え、是正勧告を受けたにもかかわらず、引続き最低賃金以下の賃金で実習生を働かせていました。 しかも、ABAは、今年8月、出入国管理局から不正行為の認定を受け、実習生たちは実習途中で帰国せざるを得なくなってしまいました。 しかし、会社は、契約不履行についての責任も明確にせず、違法な低賃金によって生じた未払い賃金さえ支払おうとしませんでした。

  このような状況の中で、ABAで働く4名の実習生とソーイング・ワン協同組合傘下の別会社で働く2名の実習生たちは、未払賃金の支払い等を求めて、 日本労働評議会 (略称:労評) 加盟し、各社に対して団体交渉を行ってきました。
  しかし、各社は要求に応じず、ABAに対しては、岐阜労働基準監督署へ申請し、再び、是正勧告も出されましたが、事業閉鎖を理由にして、 まともに未払い賃金を支払おうとしていません。

  ABAで働く4名は、各社の不正行為に対して、断固として闘う決意を持って、本年10月26日、岐阜地裁へ労働審判の申し立てを行い、 ABA事業主を岐阜労働基準監督署に刑事告訴しました。

 岐阜県は全国で最も多くの研修生、技能実習生が働いています。とりわけ岐阜の縫製業は研修生、技能実習生によって支えられているのが現状です。 研修生は日本に来るために中国の送出し機関(会社)に多額の保証金、担保を預け、来日しています。現状を訴えようにも二重、三重に圧力があります。

  研修・技能実習制度は、国際貢献をその目的に掲げていますが、実際は低賃金労働力の確保としてあり、日本の受入機関と中国の送り出し機関が結託して、 不良企業や悪質な協同組合が不当に利益を得ている実態があります。このような構造の中で、事情も知らずに来日した研修生、技能実習生たちが犠牲になっています。

  本件申立人等技能実習生たちの切実な願いが実現され、一日も早く安心して帰国できるよう、皆さんのご協力を心から訴えます。

【調停成立までの経過】
1  申立人らの1085万円の請求に対し、相手方は、第1回期日前に330万円の強制貯金分を任意に支払った。

2  残りの755万円の請求のうち、相手方は85万円につき消滅時効を主張し、申立人らはこれを争わなかった。

3  申立人らは不払残業代670万円を主張したが、相手方は、「研修生の期間中は労働者ではなく、残業代の支払い義務はない。」 と主張して、 実習生期間中の不払残業代として345万円を支払うという調停を求めた。従って、研修生期間中の残業代325万円の請求権の有無が唯一の争点であった。

4  審判官は、「(本件の場合) 研修生期間の残業代支払い義務がある。」 ことを前提として、申立人らの請求額をベースに調停手続を進めた。 その結果、相手方も、研修生期間中の残業代支払い義務を認めざるを得なくなり、支払能力がないことを理由に、減額と分割払いを求めてきた。

5  申立人らは、相手方の支払能力不足による強制執行の困難を考慮し、670万円の残業代請求の1割を減じて、総額600万円、うち200万円は3年間、 36回の分割払いという調停に応じた。

【原告ら代理人のコメント】
  「研修生期間中の残業代支払い義務」 を認めることを前提とした画期的な調停である。実体は 「労働法の適用されない低賃金労働者」 でしかない研修生の権利、 人権を守るための一里塚としたい。これを契機に、研修期間中でも、実体として労働を行っている場合 (長時間残業の場合はこれにあたる) には、 時間外労働に対して残業代が支払われるという扱いが定着することを望む。 特に、各労働基準監督署は、「研修生の期間中は労働者ではなく、残業代の支払い義務はない。」 とする取り扱い方針を直ちに改めるべきである。

   資料 成立した調停の内容

(取材・報道大歓迎)
○連絡先
  日本労働評議会 岐阜県本部 委員長 石原裕美子
   〒502-0933 岐阜県岐阜市日光町9丁目26番地 日光ビル303
   電話 058-295-5523
○労働審判申立人等代理人
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   弁護士 指宿 昭一

文責 弁護士 指宿 昭一