2009.12.18更新

保育園民営化住民訴訟(練馬)
〜年度途中の民間委託を強行し混乱が!〜
事件名:保育園民営化住民訴訟 (練馬)
        〜年度途中の民間委託を強行し混乱が!〜
事件の内容:区立保育園の民間委託が無効であること等の確認を求め
        る訴訟
当事者:練馬区立保育園に子どもを預ける保護者2人 VS 練馬区長
係属機関:東京地方裁判所民事第38部合議B1係
       事件番号 平成18年(行ウ)第305・306号
       2008年12月19日、区長の裁量権大幅に認める原告敗訴の
       判決、原告は直ちに控訴。
       東京高等裁判所民事24部は、2009年10月22日、控訴棄却
       の判決を下した。 (都築弘裁判長、平林慶一裁判官、比佐
       和江裁判官、事件番号:平成21年(行コ)第36号)。
       原告らは、上告を断念し、確定した。
紹介者:大八木葉子弁護士
連絡先:練馬・保育園民営化住民訴訟を支える会
       鈴木弘子 TEL&FAX 03-3977-5517
原告によるブログ


【事件の概要】
(1) 当事者
  原告: 練馬区民
  被告: 練馬区長

(2) 請求の内容の概要
・被告練馬区長が志村豊志郎 (区長) に対して損害賠償すべきとの請求
・被告区長が業務委託を受けた株式会社に対する損害賠償をすべきとの請求

【本件の経過】
・2005年2月10日:9月から委託という方針を志村区長が発表。
・ 4月11日〜22日:プロポーザル公募。応募は株式会社5社のみ。
・ 6月26日:選定委員会 (第一次選定) が 「該当事業者なし」 と結論。
・ 7月11日:練馬区が議会に、その結論を 「選定に至らず」 と言い換えて報告。
・ 7月15日:練馬区が 「選定会議」 を設置。
・ 8月12日:第二次選定でピジョン株式会社が選定される。
・ 9月 1日:準備委託開始。
・12月 1日:本格委託開始。

【手続きの経過】

(地裁判決まで)
  2006年3月30日 住民監査請求
    同年5月29日 監査請求棄却
  2006年6月26日 提訴

  6月4日の期日では、当該保育園から転園した園児の保護者の方の証人尋問が行われました。 尋問によって、委託前後の園内での混乱状況等が明らかになりました。

  7月11日の期日では、詳細な陳述書を予め提出した上で保護者の方の証人尋問の採用を求めましたが、残念ながら採用されませんでした。

  9月12日の期日について
  原告、被告ともに最終準備書面を提出し、原告のお2人の意見陳述を行い、弁論が終結しました。
  意見陳述は、2人で15分という限られた時間でしたが、区長による委託の進め方の問題点を指摘し、裁判所に英断を求める内容であり、傍聴席から拍手が送られました。

   ※ 意見陳述書 宮下 智行   笠本 丘生  2008年9月12日

  2008年12月19日、原告の請求を棄却する判決が出ました。
  控訴する予定です。

(控訴審)
・ 本件は練馬の区立保育園でトップをきって民間委託された光が丘第八保育園について、区長自らが委嘱した選定委員会の 「該当事業者なし」 の結論を覆すとともに、 当該保育園保護者との合意を反古にして、年度途中の委託を強行したことは区長の裁量権を逸脱しているとして、 他園に子どもを預ける保護者が住民訴訟として訴えたものである。本件の地裁判決の評価について、控訴理由書の概要を記す。

【控訴理由書の概要】(09年2月16日提出)
1. 区長の裁量権の制約に対する原審の判断は誤りである。
  「区長の裁量権は、保護者の保育所選択権 (児童福祉法24条) によって大きく制約される」 との原告の主張に対し、同法施行規則38条で、 「当該児童福祉施設を廃止することさえできるのを前提とする手続きを規定していること」 を理由に原告の主張を排斥したのは、 区長の広範な裁量権を認める根拠にならない。むしろ 「区立保育所は公の施設として、基本的には住民福祉の増進に資するように設置及び管理されるべき」 を重視すべきで、これが行政の裁量を限定するための指針となるべきである。

2. 本件民間委託の必要性はなかった。
  練馬区の場合は財政状況は改善状況にあったのであるから、急いで民間委託をする切迫した必要性はなく、慎重に検討できたはずである。
  原審は、最小経費性、最大効果性の原則を、民間委託化の理由に安易に結びつけ、 民間委託によって 「1保育所あたり年間4500万円から6000万円程度の経費を削減できる」 と認定しているが、これは表面上だけで認定したもので、重大な誤りがある。 当職らは現在、会計学の専門家に保育園の民間委託に関する経費削減効果の検証を依頼している。

3. 9月年度途中の異常さ
  年度途中の委託は子どもにとって大きな負担になるだけでなく、委託先にとっても人集めなどに大きな困難をもたらし、特に社会福祉法人の場合、 4月に募集をはじめて9月に委託を受けること自体実質的に不可能である。光が丘第八保育園の退職者と転園児童が、 民間委託から3年以上たった現在でも後を絶たないと言うこと自体、年度途中委託の失敗を何よりも物語っている。 なぜあと3ヶ月待って年度初め委託ができなかったのかという疑問があり、この面でも区長の裁量権逸脱は明らかである。

4. 手続きに関する裁量権の逸脱又は濫用
  行政権の行使は主権者たる国民に由来しているのであり、手続きの透明性、適性は、民主主義国家として厳しく審査されなければならない。 区長自らが委嘱した選定委員会が 「該当なし」 との判断を行ったことは最大限尊重されなければならない。 それは年度途中委託に対する混乱の危惧が最大の理由である。
  その後、光が丘第四保育園・高野台保育園が2年連続で外部有識者の入った選定会議が 「受託予定事業者なし」 の結論を出し、 それぞれの委託が1年ずつ延期されていることをみれば、光八の選定委員会の結論だけが覆されるのが合理的な裁量であるとはとても言えない。
  選定委員会のあとに区が一方的に選定会議を設置したことは、光八保育園と行政で構成する対策協議会での合意を反古にしたもので、 これも民主主義じゅうりんの重大性がある。住民訴訟でこそ、その手続き過程の瑕疵は厳しく審査されなければならない。

5. 保育の質の低下
 区議会で行政側は 「(民間委託は) 保育の水準を維持し、サービスの向上をはかることが基本」 と再三述べている。 ところが、(1) ピジョンの職員と保護者の間で信頼関係が形成できず、転園していく保護者が多かった、(2) 事故報告数が平成18、 19年度において他園に比べはるかに多い。(3) 保護者に対するアンケート結果をみても、保育の質の低下が著しい。 (4) 行政は職員の定着率が著しく悪いためにピジョンに改善勧告、改善要請を出さざるを得なかった・・・など、保育の質の低下はあきらかである。 原審では、「待機児解消対策や延長保育、一時保育などの新たな要望に対するサービス拡充のためには (一時的な) 保育の質の低下はやむをえない」 と論理展開しているが、被控訴人の行政側でさえこうした論理展開はしていない。 仮に 「一時的混乱」 だとしても (控訴人は永続的に続く混乱だと思うが)、その混乱の中にいた子どもと保護者にとっては取り返しのつかない不利益になるのである。

・控訴審第1回裁判
  2009年4月23日に行われ、原告側は5人の証人申請をするも、 裁判所は財政問題に関する山口不二夫・明大教授の鑑定書による証人採用の可能性を認めたのみで、ほかの4人の証人申請を却下。
  控訴審の第2回裁判 (7月23日) は、山口不二夫・明大教授 (会計学) が事前に提出した練馬区の財政分析と民間委託による財政効果に関する鑑定書に対し、 裁判所が証人として採用するかどうかの判断をどう下すかが焦点です。山口教授による分析は練馬の区立保育園の民間委託は緊急性も必要性もないうえに、 財政効果を何らもたらさず、むしろ財政を悪化させるものでしかないことをシャープに明らかにしたもので、大変説得力のあるものです。 今回のこの鑑定書は、区政全般の基本的なあり方を考えるうえでも大変参考になる貴重なものです。裁判傍聴あるいは報告集会参加者に有料で配布します。

  7月23日の期日では、山口不二夫・明大教授の証人採用が、見送りとなったため、結審し、次回期日に判決が言い渡されることになった。

  原告・支える会を中心とした 「民間委託を考える会」 では 「区立施設の民間委託  本当に安上がり?サービス向上なの?」 のタイトルで、 9月27日午後1時─4時に練馬区職員研修所 (200人収容) で集会をもつ。
  保育園、学童クラブ、図書館からの分野別の報告をしてもらったあとで、裁判で区財政の分析、保育園の民間委託による財政効果の鑑定書を提出した山口教授、 民間委託で心的外傷を受けた保育士・子どもについて意見書を提出した山本由美・東京田中大学准教授による講演を予定。

【一言アピール】
  練馬区では、平成21から28年度の8年間に16園の区立保育園を民間委託する計画を発表しましたが、 遡ること2年前、平成17年9月という年度途中の時期に光が丘第八保育園の運営を株式会社に委託しています。

  この民間委託には様々な問題があり、練馬区民である二人の原告が子どもを保育園に預ける親の思いから、東京地方裁判所に訴訟を起こしました。 当初は本人訴訟 (弁護士が付かない訴訟) でしたが、裁判の途中から弁護士が代理人となりました。

  民間委託自体の是非という点を除いても、「年度途中の9月」 に民間委託を実行することには様々な混乱が予想され、多くの反対がありました。 委託業者を選定する選定委員会でさえ 「該当する業者がない」 という結論を出しました。 それにもかかわらず、練馬区は、すぐに練馬区職員で構成される選定会議を設置して業者を選定し、 民間委託 (9月からは準備委託、12月から委託) を開始してしまったのです。

  このような経緯で民間委託が開始されたところ、大量の職員が退職するという事態が生じ、練馬区としては、 業者に対して改善勧告に引き続き改善要請を出すことになりました。
  この流れの中で最大の被害者は子ども達です。子ども達に対する保育の質を維持するため、今回の民間委託の問題性を司法の場で明らかしていく必要があります。

  この裁判を支える会も作られました。皆様ご支援よろしくお願いします。
  カンパもお待ちしています。

    カンパ先:みかん組 郵便振替:00150−9−335751

  また、現在、保育園の民営化・民間委託問題が全国の自治体で進められており、保護者・住民の相談体制の確立が急務になっており、 全国弁護士ネットワークの立ち上げを準備しています。

文責 弁護士 大八木葉子