ホームレス日本橋公園強制撤去損害賠償請求事件
〜人として生きる権利を奪われた人たち〜
事件名:ホームレス日本橋公園強制撤去損害賠償請求事件
〜人として生きる権利を奪われた人たち〜
係属機関:大阪地方裁判所第13民事部合議B係
事件番号 平成19年(ワ)第699号
2008年12月11日、判決で原告の請求が棄却されました。
被告大阪市が強制撤去の根拠としたのは、「承諾書」 と銘打つ紙一枚でしたが、承諾の有無、承諾書の有効性については、裁判所は全く判断せず、
撤去時に、原告が 「しゃあないんでしょ。」 という発言をしたため、撤去の同意があった、などとして、原告の請求を棄却するきわめて不当な判決です。
原告側は、2008年12月24日付で控訴しました。
紹介者:木原万樹子弁護士
連絡先:野宿者ネットワーク nojukushanetwork@syd.odn.ne.jp
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【事件の概要】
1 当事者
(1) 原告:2002 (平成14) 年頃以降、大阪市天王寺動植物公園事務所が強制撤去 (以下、「本件強制撤去」 という) を行うまでは、やむを得ず、
大阪市浪速区日本橋公園 (以下、「日本橋公園」) 内で生活していた者である。
原告は、本件強制撤去により、現在、大阪市西成区西成公園内で野宿生活を強いられている。
(2) 被告:天王寺動植物公園事務所 (以下、「公園事務所」という) は、日本橋公園を管轄下におく公園事務所であって、本件強制撤去において、中心的役割を果たした。
被告は、公園・緑化を担当するゆとりとみどり振興局の指示命令を介して、公園事務所を管理下におく地方公共団体大阪市である。
2 請求の内容・原因の概要
2006 (平成18) 年5月2日、被告大阪市は、たった5名に対する撤去を行うため、20〜30人もの公園事務所職員らを投与し、強制撤去を行った。
被告大阪市が、かかる強制撤去の根拠としたのは、「承諾書」 と銘打つ紙切れ一枚に過ぎず、先立つ3月27日、
全国の法律家40数名が同承諾書の有効性に疑義を呈する申入れを行ったにもかかわらず、断行されたものであった。
しかも、同強制撤去後、生活の基盤となる物件を撤去され、行き場所を失った原告が、自分の荷物についての返却だけでも求めようと考え、
連休明け直ぐの2006 (平成18) 年5月8日、支援者とともに公園事務所を訪れたところ、被告は、上記物件が既に処分された旨平然と述べたのである。
原告としては、厳寒の中で、極めて横柄な態度の阿部某を含む公園事務所職員ら複数名によって行われた、計4回にもわたる執拗な訪問に疲弊し切って、
不本意ながら、「承諾書」 に署名した。
しかしながら、上記公園事務所職員らは、それまでの経過に照らしても、原告が行き場所のないこと、承諾書の記載は本意ではないこと、
を当然のことながら熟知していたのである。
原告が上記署名を行う直前の2月末から3月にかけ、同公園内にテントを有していた3名の野宿を強いられる人たちも、原告同様、
公園事務所職員4、5名の複数回の訪問を受け、やむなく原告類似の承諾書に署名を行った。
原告は、本件訴訟によって 「承諾書」 なる書面が公序良俗 (民法90条) に反することを明確にすることを通じて、
(1) 被告の原告に対する行為の違法性と法的責任を明確にし、
(2) かかる暴挙が他の野宿生活を強いられている人々に繰り返されることを防止し、
(3) 原告のような野宿生活を強いられている人々にも当然に、社会の一員として生きる権利、具体的には、憲法の保障する個人の尊厳、生存権、財産権があることを、
司法によって確認してもらうことを目的として本件訴訟を提起した。
【手続きの経過】
被告の主張する自立支援施策があったとしても、直接自立支援センターに入所を願い出ることが出来ない原告には、代替住居を確保する術はなく、
被告が敢えて、生活保護について、教示しなかったことを準備書面で明らかにしてきた。
11月29日の期日では、被告大阪市の反論の準備書面が提出され、他方原告は、撤去現場に立ち会った支援者の陳述書を提出し、
同人らの証人申請及び行政代執行事件の記録顕出を受け、自立支援施策の不十分さを示す書証提出を申し出ました。
原告が前回の準備書面で、「公園の野宿者対策マニュアル」 (被告が書証として提出) 等にいう 「福祉的措置に居宅保護 (生活保護法30条1項) が含まれるのか」
「稼動年齢層が居宅保護を希望した場合に公園事務所職員がどのような支援を行なうのか」 について、釈明を求めたにもかかわらず、
被告は、11月29日に提出した準備書面で、全く回答しませんでした。
裁判所も被告に対して、回答を行え、という訴訟指揮を行ないました。
被告の回答が待たれるところです。
また、原告は次回、自立支援施策の不足の準備書面を提出して併せて上記施策の不十分さを示す書証を提出します。
1月24の期日では、原告側は、行政代執行の違法性を争っている靫・大阪城公園事件の書証を前提に、自立支援施策の不足 (「自立」 を問うこと自体の問題、
施設内生活環境や就労支援の不十分さ)、大阪市の野宿者マニュアルを前提としても、本件承諾の有効性を裏付けることにはならない点の主張補充をするため、
準備書面3を提出。
裁判所としては、自立支援施策が何か、ということも了解していないようだったので、 争点に直接関係はしないものの、支援施策の不足について書面化したものである。
1月24日の期日では、原告は、原告の陳述書、撤去作業時のDVDを証拠として提出、被告は、公園事務所職員2名について陳述書提出、
あわせて証人申請の予定であった。
しかし、公園事務所職員の陳述書は1名分しか提出されなかった。
原告としては、原告同様の思いをされた方のご協力も得られることとなったため、この方の陳述書と併せて次回、原告陳述書を提出し、強制撤去の詳細を明らかにする。
4月10日の期日では、原告が体調を崩してしまったため、陳述書提出は次回に見送り。
一人ぼっちで頑張っている原告が早期に健康回復してくれるよう祈っている。
5月29日の期日では、原告の陳述書を提出しました。
これまで自分と同様の被害を出さないために、独りぼっちで闘ってくれた原告の思いを、次回尋問期日で伝えたいと思います。
7月7日の期日では、証人尋問が行われました。野宿者ネットワークの生田武さんと原告本人 (以上、原告側)、被告は公園事務所職員2名でした。
生田証人は、テントを奪うということが野宿を強いられる人達にとって、命を危険にさらす意味を持つことを語ってくれました。
阿部課長は、当該公園から出て行ってくれさえすれば良い、とまで断言し、原告訴訟代理人弁護士らとしては、腹立ちを禁じ得ませんでした。
中村さんは、淡々とではありますが、力強く、当事者として、行政に他のやり方がなかったのか、きちんと検証してもらいたい旨述べられました。
証人尋問調書が出来るのを待って、最終準備書面作成に入りたいと考えています。
10月9日の期日では、原告側は 「承諾の不存在」、「承諾の無効」 の法的根拠を再確認した書面を提出。
被告から、撤去日、原告自ら荷物を出したのだから、承諾はあった、などとする書面が出たので、これに対する詳細な反論の書面も提出しました。
2008年12月11日、判決で原告の請求が棄却されました。
被告大阪市が強制撤去の根拠としたのは、「承諾書」 と銘打つ紙一枚でしたが、承諾の有無、承諾書の有効性については、裁判所は全く判断せず、
撤去時に、原告が 「しゃあないんでしょ。」 という発言をしたため、撤去の同意があった、などとして、原告の請求を棄却するきわめて不当な判決です。
原告側は、2008年12月24日付で控訴しました。
【一言アピール】
大阪弁護士会旧弁護士会館前には、青テントが立ち並んでおり、この光景こそが、野宿生活者が 「人権」 自体を否定され続けていることを物語っている。
野宿生活者の多くは、(一般の予想に反し、) 夜間から明け方にかけて働いており (2007年度調査では、72.2%が働いているとされ、
そのうち84.8%が夜働かざるを得ない廃品回収を仕事としていて、だからこそ昼間は酒を飲んで休んでいる人もいるのである)、
働いていない人も高齢であったり、健康上問題を抱えており、働きたくても働けない人たちばかりなのである (55.7%が体調不良を訴えている)。
長年日雇いの土木作業等に従事しており、50歳前後になった人が、急にハローワークに行っても、職に就くのが難しいのは当然である。
野宿に至るまでの間に、家族とのつながりを失い、あるいは、野宿生活を強いられている期間に、住民票が消除されてなくなってしまっていることが多いことも、
就職活動を阻む一因となっている。
人権規約にいう相当な生活水準 (社会権規約11条)、生活保護法で具体化された最低限度の生活 (憲法25条) どころか、
風雨を防ぐ最低限の住まいすら確保されない、ゴミをあさって 「市民」 に嫌な顔をされない、という個人の尊厳 (憲法13条) すら確保できない、
人としての権利それ自体が否定されている。
大阪市は、2003年度厚生労働省調査で野宿生活者が日本で最も多いと指摘されたことを受けてであろう、年末年始の時期に行政代執行による強制撤去を繰り返し、
他方小規模な公園では、行政代執行の手続すらとらずに、本件同様の撤去を行っている。
2007年度調査で、大阪市の野宿生活者が減少したとされる背景には、上述の強制撤去も大きな要因となっていること、
かかる強制撤去により、テントというそれまで最低限命を守っていたものすら失って、行き場所をなくしている人がいること、があるのである。
本件訴訟を紹介することで、人として生きる権利そのものを否定される人達がいるということを知って欲しい。
文責 弁護士 木原万樹子
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