2008.1.14更新

自衛隊イラク派兵差止訴訟・関西

事件名:自衛隊イラク派遣違憲確認等請求控訴事件
内  容:イラク特措法に基づく自衛隊派遣の中止を求めたもの
当事者:日本の市民+イラクの市民VS国
係属機関:大阪高等裁判所
       2007年12月26日市民側敗訴判決言渡され、確定しました。
紹介者:辻 公雄弁護士
連絡先:自衛隊イラク派兵差止訴訟 (関西訴訟) 弁護団

【イラクの状況】
  今回のイラク戦争で、前述の通り、イラク民間人・外国人・米兵等多くの人々の生命が失われ、身体が傷つけられ、健康が破壊され、家族が切り裂かれ、 そして環境が破壊された。いま日本政府は、この当事者の一方である米英軍を中心とするイラク占領軍に参加し、さらにその後多国籍軍への参加を決定して、 陸海空の自衛隊をイラクに派兵し続けている。
  派兵された自衛隊員は、テロ組織などの攻撃の対象になり、前記小泉首相の発言の如く、その生命・身体が具体的な危険にさらされ、 また、逆に殺す側にまわる具体的危険にさらされる。
  加えて、恐怖と緊張、劣化ウラン弾使用による放射能汚染、劣悪な生活環境などによる精神障害、健康破壊なども強く懸念される。 国連環境計画 (UNEP) は、米英軍による劣化ウラン弾の使用を確認しており、市民団体 「イラク国際戦犯民衆法廷」 等の調査によれば、 前記の如く自衛隊が派兵されるサマワで、通常レベルの約300倍の線量が測定されたとする報告が為されている。

【自衛隊の役割】
  航空自衛隊は、C-130輸送機を使って、基本的にはクウェートの空軍基地からサマワを中心とする場所に、物資あるいは兵員を運んでいるといわれているが、 実際には、自衛隊の派遣されていないところまで飛行しているとされている。 このことは、航空自衛隊が、自衛隊に限らず、イラクに展開している米軍などに関係物資あるいは兵員を輸送していることを意味する (同調書23頁)。 同輸送機は、完全武装の空挺隊員64名を輸送する能力があり、戦闘行動として輸送してかどうかは不明であるが、そのような軍事行動への協力の役割を果たしている。  

【違憲性】
  イラク派兵航空自衛隊の輸送業務は、明らかに戦闘地域たるイラク国内にまで輸送を実施していること、輸送内容も武装した米兵を現に輸送していることを自認し、 武器・弾薬等をも輸送している可能性があること等よりすれば、政府の前記基準からしても米英軍の武力行使と一体化していると言わざるを得ないのである。
  現に戦闘状態にあるイラクへ、現に戦闘行動に従事し、また従事を予定されている武装した米兵を輸送し、武器弾薬等を輸送している可能性があること等を考慮すれば、 これが従前の政府の基準からしても 「他国の武力行使と一体化」 していると評価されざるを得ないことは明白である。
  派兵航空自衛隊の安全確保支援活動としての輸送業務は、従前の政府解釈の限界さえ超えた、 米英占領軍・多国籍軍の武力行使と一体化したものと言わざるをえず、明らかに違憲である。

【手続きの経過】
  2007年12月26日市民側敗訴判決言渡されました。違憲確認及び損害賠償請求については棄却されました。 さらに、大阪高裁は、派遣差し止めについては、請求を棄却した1審判決を取り消し、訴え自体を却下 (門前払い) しました。

  毎日新聞 参照

【控訴人の意見陳述より】
  イラク派兵は、「アメリカの戦争」 のための加担を合法化する集団的自衛権のなしくずしの現実化に外ならないということであります。
  日本国憲法第九条は、「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」 と規定し、 第九条A項は 「国の交戦権はこれを認めない」 と、まことに明確に集団的自衛権の容認を許さないことを国是として宣言しているのです。

  しかし、集団的自衛権を先取りしたイラク派兵にもかかわらず、日本のマスコミ、その論調の多くはこれを容認してきたのです。 いま朝日新聞は 「新聞と戦争」 を連載、過ぐる第二次大戦にあって朝日が軍部にどう屈伏していったのかを鋭く深く検証しています。 3日前の9月2日の連載では研究者の著作、その表現を引用しながら次のように述べています。

  「朝日はつねに 『既成事実』 をよりどころに 『満州国』 を論じた。 それは 『既成事実』 への無限の追認と追随であり 『論の放棄によって成り立つ非論理的論説』 だった」 のであります。
  小泉内閣から安倍内閣による憲法改正、集団的自衛権の露払いとしてのイラク派兵を容認することは、 警察自衛隊以来57年にわたって積み重ねてきた 「『既成事実』 への無限の追認と追随」 をさらに重ねることになるのです。

  問われているのはマスコミのあり方だけではありません。国民の司法への信頼を裏切らないために、 この法廷が 「『既成事実』 への無限の追認と追随」 から絶縁していることを証し立ててほしいと強く願うものであります。

【高裁判決を受けて】
  平成19年12月26日午後11時より大阪高等裁判所で判決の言渡しがありました。
  判決内容は、1審が人格権による派兵差止は法律的には可能だが本件では棄却するとした点を取消して棄却し、ほかの点については全て控訴を却下するもので、 1審より後退しています。憲法と戦争という問題に対して、全人格的な意思表示をせず、憲法から逃げた無機質無感動、そして冷酷な判決でした。
 これに対して、控訴人である市民側から別紙のような声明が出されました。
  判決は、自衛隊イラク派兵差止訴訟 (関西訴訟) 弁護団 HP に掲載されています。

文責 NPJ編集部