2013.10.22更新

住民基本台帳ネットワーク差止等請求事件/北海道
事 件 名:住民基本台帳ネットワーク差止等請求事件/北海道
係属機関:札幌高等裁判所第2民事部 (末永進裁判長)
2010年2月19日、札幌高等裁判所第2民事部 (末永進裁判長)は、原告の控訴を棄却しました。最高裁判所平成20年3月6日判決を踏襲したものです。
原告らは、上告及び上告受理の申立を行った。
2011年5月10日、最高裁は原告の上告を棄却しました。
紹 介 者:青野 渉弁護士


【事件の概要】
(1) 当事者
  原告:矢口以文ほか14名(札幌市、岩見沢市、美唄市、苫小牧市、栗山町在住の市民団体代表及び個人)、弁護団47名

  被告:国、(財)地方自治情報センター、北海道

(2) 請求の内容の概要
  住民基本台帳ネットワークシステム (住基ネット) は、日本国憲法に違反するものであり、これを定めた住民基本台帳法は違憲の法律であるから、 北海道及び地方自治情報センターの磁気ディスクから原告らの本人確認情報を削除し、国への提供を停止すること。
  また、違憲の法律に基づき、原告らの同意なく、原告らにあらゆる行政事務に共通の番号を付して管理された個人情報が、 政府および自治体の間を流通していることにより受けている精神的苦痛に対する慰謝料 (10万円) を請求する。

(3) 請求の原因の概要
  1) 人格権の侵害:住基ネットの運用により、原告らは、国家・行政機関により番号で扱われることとなった。 「私は番号ではない」 と確信する原告らの嫌悪感は筆舌に尽くせない。 さらに、この番号 (住民票コード) によって、自分たちの個人情報が一元的に国家的管理を受けるようになる不安と恐怖感も著しい。

  2) プライバシー権 (自己情報コントロール権) の侵害:住基ネットの運用によって、原告らの 「本人確認情報」 は、原告ら本人の同意なく、 従来蓄積されていた札幌市ほかの自治体の既存住基台帳サーバから被告北海道のサーバに、そして被告情報センターの全国サーバに伝えられ、 記録された。原告らは、それらに蓄積された自己情報が、いつ、どこに提供されるかわからない、確認もできないという不安におとしこめられている。

  3) 行政機関における安易な利用拡大:住基法の改正時において、衆院地方行政委員会は、「システム利用の安易な拡大はしない」 と附帯決議した上、 93の事務に限って利用することを定めた。しかし、2003年の本格運用を前にして、なし崩し的に利用事務が264に増やされ、その後も増え続けている。 この事態をみるかぎり、今後利用される事務が無制限に拡大され、たとえば、警察や公安調査庁、防衛省などへの提供も 「合法化」 されて、 プライバシー権の侵害の危険がますます拡大することは必至である。

  4) データマッチングの危険性:本格運用で発行を開始した ICチップ内蔵の住民基本台帳カード (住基カード) は、印鑑証明書、健康保険証、診察券、 図書館等の利用カード、商店街のポイントカード、地域通貨、定期券等々、機能ごとに別々に付されている番号を抱き合わせることができるようになっている。 これによりあらゆる個人情報が住民票コードを検索番号としてデータマッチングされ、蓄積されていく危険性が現実のものとなっている。 現に、総務省は、各自治体に文書を出して、さまざまな個人情報を住基カードへ登載させることを指導し、かつ写真添付により身分証明として利用できることを謳い、 金融機関などでの本人確認の強化を通じて住基カードの取得を政策的に誘導し、将来において所持・携帯の義務化を図ろうとしている。

  5) 国民監視のために国民総背番号制として活用:以上のべた点や、 いま進められている住基ネットを基軸にした国と自治体間のネットワーク化 (霞ヶ関WANとLGWANの結合) は、 近い将来、国民のすべての個人情報を1本にまとめる 「国民総背番号制」 を構築し、 さらに、国家による国民の強権的な管理=監視体制を築き上げていくための危険な手段となりかねない。

【手続の経過】
  これまで14回の口頭弁論を経て、2008年1月24日に結審の予定である。とくに13回口頭弁論 (7月19日) は河村たかし衆議院議員の証人尋問がおこなわれ、 1.改正住基法の成立が委員会採決を省略して本会議で強引に採決するという異常な方法だったこと、2.国会での説明内容と実態が違っていたこと、 3.行政機関ばかりでなく民間にも住民票コードの利用を拡大できるシステムとしてつくられていること、 4.府省で「最適化計画」というコンピュータシステムの統合が進み、情報の共有化ができるようになっていること、 5.住民票コードを使った 「国民健康カード」 (現在 「社会保障カード」) (いずれも仮称) を導入し、全国民に持たせようとしていること、 6.遺伝子情報などの管理に住民票コードを使う研究も始まっていること、など衝撃的な事実が明らかにされた。

  さらに14回 (10月18日) の原告本人尋問では、1.住基ネットは費用対効果の面から見ると壮大なムダであり、ほとんど利用されていないこと、 2.市町村の運用実態は個人情報の安全性が確保されている状態ではないこと、 3.いま都道府県レベルで進められている 「地域情報プラットフォーム」 (北海道版は 「HARP」 という) は、 霞ヶ関WANと綜合行政ネットワーク (LGWAN) とが双方向で情報のやりとりができるように設計されており、 LGWANのプラットフォーム上でのシステム共通化も進められていることから、自治体の保有する個人情報もいつでも収集可能なところまできていること、 等が明らかにされた。

  2008年1月24日の期日は、約1時間半にわたり、原告側が、最終弁論や意見陳述を行いました。
  住基ネットがいかに税金を無駄に使っているか、他方で、我々のプライバシーの権利を侵害するか、という点について、詳細に論じました。

  5月29日の期日は、当初判決の予定でしたが、弁論を再開して補充弁論を実施し、改めて判決期日が指定されました。

  2008年7月10日、原告の請求を棄却する判決が出ました。(札幌地方裁判所3部合議係 (坂本裁判長) 事件番号:平成16年(ワ)第812号)
  原告は控訴しました。

   ※ 弁護団声明 2008.7.10

[控訴審]
  2009年2月27日の控訴審第1回期日では、裁判長が、控訴人・被控訴人双方に対して、追加主張の指示を行いました。

  6月12日の期日では、今後の訴訟の進行について、裁判所から積極的な指示があり、住民側・国側双方が次回までに準備をすることとなりました。
  次回期日又は次々回期日で、結審を予定しており、年度内 (平成22年3月) には判決が出る予定です。

  9月11日の期日で、住民側の主張・立証はひととおり終了しました。
  次回期日までに、国側の主張を行い、次回期日で結審する予定です。
  次回期日では、これまでの主張のまとめを、原告団・弁護団で陳述する予定です。

  2009年11月16日の期日で、住民側の最終的なまとめの主張を、原告弁護団、原告の代表が、法廷で陳述し、審理を終結しました。次回期日が、判決です。

【一言アピール】
  本件訴訟に関しては、全国で同様の差止訴訟が進められている。現在、最高裁には大阪高裁判決 (06年11月30日)、名古屋高裁金沢支部判決 (06年12月11日)、 名古屋高裁判決 (07年2月1日)、東京高裁判決 (07年10月17日) の上告事件が係属している。 このほか高等裁判所に係属中のものが11件 (東京、大阪、仙台、名古屋、福岡)、地方裁判所に係属中のものが2件 (札幌、熊本) ある。

  そのため全国弁護団は、大阪高裁判決に関して、 1.各省庁の進めている IT システムの 「最適化計画」 や 「社会保障番号」 導入の動きに伴うデータマッチングの現実的危険性、 2.愛媛県愛南町ほかの自治体の住基関連情報の流出にみられた住基ネットシステムの安全性を根底から揺るがす事実、 などに関する高裁係属事件の判決を待ってから、最高裁としての判断 (弁論) を行うよう申し入れてきた。

  ところが、最高裁第一小法廷は2008年2月7日に弁論を指定してきた。これにより、住民側が勝訴した大阪高裁判決が破棄される可能性が高くなった。 他の訴訟で、住民票コードの漏えいや、国によるデータマッチングの実態など、次々と新事実が明らかになっているなかで、 それらの新証拠が提出されている訴訟の判決を待たずに、最高裁が拙速に判決を出すことについては、原告団・弁護団として抗議しているところである。

  2010年2月19日、札幌高等裁判所第2民事部 (末永進裁判長)は、原告の控訴を棄却しました。最高裁判所平成20年3月6日判決を踏襲したものです。
  原告らは、上告及び上告受理の申立を行った。

  高裁判決は、原告らは、住基ネットにより、国民の個人情報がデータマッチングされる抽象的危険性すらない、という判断をしており、 原告らは国家の無謬性に立脚した不当判決と考えている。

文責 鈴木重孝 (北海道訴訟原告団事務局長)