2012.2.22更新

中津川市議会における発声障がいをもつ議員への
いじめ損害賠償請求事件 (通称:小池事件)

事 件 名:中津川市議会における発声障がいをもつ議員への
       いじめ損害賠償請求事件 (通称:小池事件)
係属機関:名古屋高裁
       事件番号 平成18年(ワ)第892号
次回期日:2012年5月11日(金) 午後3時。名古屋高裁
次回期日の内容:判決。傍聴希望の方は直接法廷までお越し下さい。
       終了後の報告集会は未定。
紹 介 者:林 真由美弁護士
連 絡 先:弁護団事務局 TEL:058-264-3780
      また、中津川からは貸切バスで裁判所まで移動しますので、
      同乗を希望される方は支援する会にお問い合わせ下さい。
      TEL:0573-68-3176
      小池さん HP


【事件の概要】
(1) 原告:小池公夫さん
  被告:中津川市及び当時の市議会議員ら

(2) 請求の内容
  被告ら(中津川市及び当時の議員ら)は、原告に対し、慰謝料1000万円を支払え。

(3) 請求の原因の概要
  原告は、2002年10月に下咽頭ガン手術により声帯を失い、発声が著しく困難となった。 2003年4月の市議選で2期目の当選を果たしたが、文書での発言・ボードを使っての発言・同僚議員や職員の代読による発言などを希望しても一切受け入れられず、 事実上、議会での発言を封じられていた。

  2004年には1万4千筆の陳情署名、2005年には岐阜県弁護士会からの是正勧告を受け、原告の発言を拒否し続けることができない状況になった。 そこで議運は、今度は原告が希望したこともない音声変換装置付きパソコンによる発言と指定してきた。

  2006年12月1日、市議会本会議において、原告の希望する方法による発言を認めるべきとの決議案が提出されたが、賛成5・反対27で否決された。
  代読発言を認めないとの被告らの意思がはっきりしたことから、同月5日、提訴。

  被告らは一貫して原告の希望する代読による発言を妨害し続け、原告の議員活動に著しい支障を与えた。これにより原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料を求める。

【手続きの経過】
  これまでに口頭弁論を6回行った。事実経過や法的評価に対する主張を闘わせているところ。次回、次々回くらいから立証計画に入ると思われる。

  被告らは徹底的に争う姿勢。他方、ことあるごとに非公開での弁論準備手続を希望。

  1月23日の弁論は、原告が被告の弁解に対する反論をした。
  特に、被告が原告を 「いたわっていた」 との主張に対する強い抗議を行った。

  3月26日の期日は、原告の被侵害利益 (憲法上の権利:障害者である地方議員が発言方法を選択する自由) をまとめた主張書面を出しました。 要約して法廷で陳述しました。「分かりやすかった」 と好評でしたので関心のある方はご覧下さい。
  また、細かい事実についての認否・反論が被告中津川市から出され、原告からも前回被告議員らから出された認否・反論の書面に反論する書面も出しました。 事実についての認否・反論はおおむね出揃ったと思われます。

6月4日期日の内容
  裁判官 (右陪席。左陪席も3月に交代) が交代したことから、更新弁論を行いました。
  これまでの主張を要約し、約30分にわたって読み上げました。
  準備の過程で、争点や課題も見えてきました。
  報告集会では、原告の小池さんから、医者からがん再発の心配なしと宣言された旨の報告もあり、参加者一同喜びに沸きました。

   [資料] 主張書面

  9月3日の期日では、原告側主張の総仕上げの意味で、国際人権法から見た被告らの行為の違法性と、原告の議会での一般質問に向けた準備活動、 議員1期目の成果との比較などを準備書面として提出し、法廷で要旨を陳述しました。
  また、原告側から人証 (証人) 申出を行いました。原告本人、同僚だった議員、学者、障害者運動に関わっている障害者の方、 そして被告議員らのうち数人 (議長、議会運営委員長など) です。被告側は人証調べは不要との意見でした。

  原告側が 「声の壁」 DVDの法廷での上映を求めたところ、裁判所は期日間に検討し、実施することになった場合は次回期日で実施すると言いました。

  11月5日の期日では、本件を取り上げたテレビのドキュメンタリーとテレビニュース (既に証拠として提出済) の一部を法廷で上映しました。
  証拠調べについては、この期日での決定を求めましたが、次回に回されました。

  2009年1月14日の期日では、原告・被告双方から準備書面を提出。被告の準備書面は特に新しい主張はなし。
  原告は、被告側意見書への反論と、被告らの違法性認識に関し、市に寄せられた抗議文書などを整理。
  原告から、竹下義樹弁護士 (原告代理人の一人、京都弁護士会) の意見書を提出、要旨を竹下弁護士本人が陳述。 日本初の盲目の司法試験合格者としての自らの経験にも触れ、説得力ある話であった。
  原告からの人証請求に対し、裁判所が、とりあえず原告本人だけを採用、他の証人は保留。次回原告本人尋問が行われることに。

  3月4日の進行協議期日では、原告本人尋問の方法が協議されました。
  具体的には、原告に対する質問に対し、原告が紙に回答を書き、裁判所職員が読み上げることになりました (規則上この方法になるということです)。 被告側がパソコン音声変換ソフトによる読み上げをアピールしていましたが、採用されませんでした。
  現在、原告の陳述書を作成中です。

  5月20日の期日の内容は以下のとおりです。
  原告本人尋問を実施。傍聴券が配られましたが、何とか全員傍聴して頂いたようです。
  裁判長が交代しました。新しい裁判長は、内田計一裁判官です。
  原告は、質問に対し回答を紙に書き、これを書記官が読み上げる方法で尋問が行われました。主尋問は、リハーサルを繰り返した成果でスムーズにできました。 反対尋問も、原告は最後まで落ち着いて受け答えしました。
  裁判所から、「パソコン入力を議会事務局ですることが決定された (小池さんはパソコン入力しなくてよくなった) のはいつか」との釈明があり、 原告から回答したほか、被告側も次回までに調査の上回答することになりました。

  7月15日の期日では、被告双方から、前回期日での裁判所からの釈明 (パソコン入力を議会事務局ですることが決定された (小池さんはパソコン入力しなくてよくなった) のはいつか) に答える準備書面が出されました。
  いずれも、「パソコンによる発言を求めた最初から、小池さんに自力で入力することを要求したことはない。 小池さんがパソコンを拒否したから発言できなかっただけだ。」 という事実に反する主張です。 実際には、弁護士会の勧告が出るまで、あくまで小池さんに自助努力を求め続けたのであり、議会側で便宜をはかるような決定は一切ありません。
  この期に及んでこのような虚偽、ごまかしの主張をしてくることに大変驚き、腹が立ちました。
  ただ、おかげで次回は認否・反論が必要になり、間に合うか懸念されていた学者意見書が出せる猶予も生まれました。 また、事実の食い違いが生じたことから、これまで裁判所が消極的だった証人尋問の可能性も少し広がってきました。 その意味では、被告らは自分の首を絞めたのかもしれません。

  9月2日の期日では、原告側から学者意見書を2通提出。
  1通は、国際法学者の川島聡氏(東京大学)による、国際人権規約(B規約)違反の論証。
  もう1通は、社会保障法学者の井上英夫氏(金沢大学)による、障害者の権利の観点から見た本件の問題点。

    原告側から、前回の被告らの書面(「パソコンによる発言を求めた最初から、小池さんに自力で入力することを要求したことはない。 小池さんがパソコンを拒否したから発言できなかっただけだ。」 という事実に反する主張)に対する 反論の準備書面 を提出。
  原告側からさらに、障害者の自己決定権についての主張をまとめた 準備書面 を提出。 その 要旨 を朗読。 傍聴席の皆さんに大変好評で、朗読終了時には思わず拍手が起こりました。

  10月14日の期日の内容は以下のとおりです。
  被告佐藤個人らの準備書面9が陳述された後、こちらから証拠調べに関する意見(是非証人尋問をしてほしい)を述べました。
  その後、裁判長が被告らに対し、「被告はどう考えていますか。」 と言ったところ、
  被告らは双方とも、「主張・立証は尽きている」 と言いました。
  すると、裁判長は、「ボタンを押すだけという方法が原告に伝わったという立証はなされてないのですが、それは立証されないということですか。」 とさらに、釈明をしました。
  続けて、「会派に伝わったことまでは分かるが原告に伝わったという証明はなされていませんが。されないということならそれで結構ですが。」 とも言いました。
  それを聞いて、被告らは、「検討します。」 と回答しました。
  そして、次回期日を決めるにあたり、裁判長が、「もし被告の方でこの点につき立証されないのであれば、裁判所としてはこれ以上の立証は必要ないと考えています。」 と言いました。
  そこで、被告らが立証するか否かの返答が11月13日までになされた後、それを見て、立証がなければ次回結審ということになりました。

 裁判所がこの点(ボタンを押すだけになった時点、それが原告に伝わった時点)にこだわるのは、 これ以降はパソコンでの発言が可能だから不法行為はないと考えている可能性があります。 しかし、これ以降も原告の自己決定権(自ら希望する発言方法を選択する権利)を侵害していることは変わりなく、 むしろ希望しない方法を選択するよう押しつけられた悩みはこれ以降の方が強かったほどです。 この点を裁判所に理解させるべく、訴訟内外の活動を強化しようと、弁護団も支援する会も決意を新たにしております。

  その後、11月12日に、被告から 「裁判所から釈明を求められた点につき、11月中に陳述書または準備書面を出す」 旨の回答がありました。 特に反論・反証が必要なければ、次回結審となる可能性は十分あります。原告側は、次回結審に備え、最終準備書面作成に取りかかっています。

  2010年1月20日の期日の内容は以下のとおりです。
  先日来裁判所が問題にしてきた 「パソコンのボタンを押すだけでよくなった(原告が入力しなくてもよくなった)のはいつか、それを原告に伝えたのはいつか」 について、 被告の一人である三尾順平氏(前議会運営委員長)が 「パソコン導入が決まってすぐ伝えた」 というような内容の陳述書を出してきました。 しかし原告の主張と異なるため、原告は反対尋問を行うために証人として採用するよう強く求めました(既に原告から三尾氏の人証申請はしており、 被告側は 「必要ない」 との意見でした)。そして、裁判所が今回、三尾氏の採用を決定しました。
  原告側から見ると、被告側が自ら墓穴を掘った感はありますが、議会運営委員会の委員長という立場にあった三尾氏の尋問は重要な意義があると考えられます。

  2010年3月24日の期日では、被告三尾順平氏(前議会運営委員会委員長)の尋問を行いました。
  三尾氏は、「パソコン入力はできる人にやってもらえばよい」 と小池さんに伝えた、との供述を続けましたが、 「議会職員が入力してあげる」と伝えたことはないことは認めざるを得ませんでした。
  反対尋問に対し、被告代理人はしきりに異議を出してきたため、荒れた法廷になってしまいました。

  5月26日の期日の内容
  原告・被告それぞれが最終準備書面を提出し、原告はその要旨を読み上げました。
  結審となり、判決言い渡し期日が9月22日午前10時と指定されました。
  裁判員裁判と重なり、301号法廷が使えなかったため、隣の少し狭い302号法廷で行われました。傍聴席があふれてしまい、入れなかった人もいました。

  中津川の発声障害を持つ議員の事件は、先日(2月3日)名古屋高裁での控訴審が結審となり、判決期日が5月11日(金)午後3時からと指定されました。
文責 弁護士 林 真由美