2008.5.19更新

松下PDP対吉岡力偽装請負告発解雇事件
事件名:松下PDP対吉岡力偽装請負告発解雇事件
係属機関:最高裁判所
       平成19年(ネ)第1661号地位確認等請求控訴事件
  2008年4月25日、大阪高等裁判所が、偽装請負は違法な労働者供給であり、労働者とユーザー企業との間に黙示の労働契約が存在する、 との労働者側の主張を正面から認める画期的な判決を出しました。
紹介者:村田浩治弁護士
連絡先:堺総合法律事務所 弁護士村田浩治
     TEL 0722-21-0016 FAX 072-232-7036
     原告ブログ


【事件の概要】
(1) 当事者
  原告:吉岡力氏 (元偽装請負会社労働者)
  被告:松下プラズマディスプレイ

(2) 請求の内容の概要
  大阪府茨木市にある松下PDP工場で請負会社の社員として2004年1月から稼働していた吉岡力氏が、2005年5月、大阪労働局に偽装請負を告発し、 その後、労働組合の交渉により期間工となるも、5ヶ月後の2006年1月に契約更新拒否をされたことに対し、契約上の地位の確認と損害賠償請求を求めた。

(3) 請求の原因の概要
  偽装請負により、労働者を使用していた派遣先に対し、実質上の使用者責任を問う裁判。
  請求内容は、
  ア そもそも雇用責任がもともとあったとする黙示の労働契約成立
  イ 労働者派遣法40条の4に基づく直接雇用義務が請負でもある
  ウ そもそも5ヶ月の雇用に留め、契約更新したことが違法である。
  等さらには、控訴審において
  エ 直接雇用申込義務違反による損害賠償請求を追加している。

【手続きの経過】
(1審の裁判)
  偽装請負の派遣先責任を正面から問うた裁判として注目を集めてきた。
  一審は、地位確認を認めず、慰謝料45万円を認めたのみ。控訴審が注目される。

(2審の裁判)
・2007年12月18日の期日の内容
  原告から元松下の従業員お二人の方の陳述書とPDPで働いている方の匿名での聞き取り書き (弁護士作成) を提出しました。
  松下の偽装請負が社員のリストラの穴埋めをするためのものであったことや、松下が労働局からの指導後も、派遣や請負を繰り返し、 最終的には直接雇用となったが労働実態は全く変わりなかったことなどが明らかとなりました。

  これらの証人について当方から証人の採用を申請しました。
  松下側から強く結審をもとめる意見書が出されました。裁判所は証人採用するか否かの判断を次回に回すということになりました。
  しかし、裁判長から、黙示の労働契約の論点を巡って、比較的時間をとった釈明をもとめられました。

  裁判所からは、偽装請負会社と控訴人との雇用契約をどう考えるのかという釈明がありましたので、次回までの当方の整理と相手方からの反論がされて、 証拠を採用するか否かが決定されますが、結審の可能性はあります。
  いよいよ最終盤を迎えていますので、ご注目と傍聴をお願いします。

・2008年2月13日の期日の内容
  裁判所の前回期日における釈明に対して控訴人 (一審原告の吉岡側) から主張を整理した書面を提出しました。
  裁判所は、請負会社と控訴人の契約関係をどう考えるのかという釈明を求めてきましたので、私たちは、請負会社との契約は雇用の形式だが、 実際は 「労働者供給におうじる契約」 であり、労働基準6条、職業安定法44条に反して無効である。 だから控訴人と請負会社の間には 「雇用契約関係」 はないという主張を改めて整理して出しました。
  そのうえで、重ねて松下工場で2001年頃から大リストラで社員が減った後に請負会社社員が導入されてきた経緯を、元社員の証言で立証したいと求めましたが、 裁判所は、証拠調べはしないという結論をとりました。
  そのうえで、結審して判決日は後に決めるということにして、和解勧告をしました。

  控訴人側は、職場復帰を内容とするならば、和解には応じることは可能だと考えましたので、和解の席にはつくことにしました。
  裁判所がどのような和解の提案をするのか注目されます。

・2008年2月20日の期日の内容
  2月20日和解期日が開かれました。
  裁判所からは、松下に対し、もともと有期直用をした経緯があることから、契約を結ぶ可能性はないのかという点の確認。
  当方に対しては、長期化していることがあるので、職場復帰にこだわらない解決の可能性について打診がありました。

  当方は職場復帰以外の和解はありえないことを申し上げ、松下からは退職を前提にした和解しかありえないという立場で和解は決裂しました。

  裁判所は結論を決めていた様子ではありませんでしたが、事案の経過から和解の可能性がないのか。一応の確認をする意向のようでした。
  一審以来、和解の示唆はなかったわけではありませんが、今回の和解は裁判所が本件を、 割り切って判断すればいいという事件ではないというスタンスであることだけは分かりました。判決に期待を寄せたいと思います。

  一審判決からちょうど一年目に高裁の判決日を迎えることになりました。

  2008年4月25日、大阪高等裁判所が、偽装請負は違法な労働者供給であり、労働者とユーザー企業との間に黙示の労働契約が存在する、 との労働者側の主張を正面から認める画期的な判決を出しました。

  2008年4月25日、大阪高等裁判所 (第8民事部、平成19年(ネ)第1661号地位確認等請求控訴事件)

(控訴審判決後)
  松下電気は4月28日に上告しました。5月1日 (メーデー) に、高等裁判所の判決内容である仮執行の命令を、 裁判所の執行官が送達 (債権執行の送達) する際、私たちも松下電器本社に出向いたのですが、 松下電器は (独自のカレンダーを持ち出して) 休日という主張をしたため、裁判所の執行官も門前で追い返されました。 執行停止を裁判所が認めたため、事件は最高裁判所に係属して確定を待っています。この間、本件の解決に向けて、団体交渉の申し入れもしています。

【一言アピール】
  偽装請負の真実の責任は就労先、派遣先にあるとしてその責任を追及しているトップランナーの裁判。 派遣先に責任に裁判所が沈黙するか否かが問われる重要な裁判です。

文責 弁護士 村田浩治