2007.11.24

根岸病院事件〜非組合員との団結こそ!
事件名:中労委命令の取消訴訟
内  容:中央労働委員会が、非組合員の初任給の決定につき団体交
     渉を拒否した使用者 (病院) 側の行為を不当労働行為と認定
     して下した救済命令に対して、使用者側がその取消を求めた
     訴訟。
当事者:根岸病院VS労働組合
係属機関:最高裁判所
紹介者:井堀 哲弁護士

【事件の概要】
  根岸病院は、東京都府中市にある日本で最も古い精神病院の一つである。
  しかし、根岸病院の経営者は、根岸病院の労働組合に対して長年にわたり不当労働行為を繰り返してきたために、 労働委員会で不誠実団交を理由とする不当労働行為救済命令が相次いで出されている。本件もその一つである。

  根岸病院が新規採用の職員に対する初任給を一方的に切り下げたため、労働組合が病院側に対して切り下げ措置の撤回を求めて団体交渉したところ、 病院側がこれを拒んだ。

  この病院の対応を不誠実団体交渉に該当するか否かが争われた事件である。

【経緯】
  労働委員会に対して救済申立を行った。その結果、東京都の労働委員会も、中央労働委員会も、初任給の決定を団体交渉事項と認定し、 団体交渉を拒否した病院の行為を不当労働行為と認定した。

【第一審の判決】
  これに対し、病院側は、中労委命令の取消を求めて東京地裁に提訴した。
  東京地裁民事36部 (難波孝一裁判長) は、 1.初任給が適用されるのは切り下げ後に入職した職員に限られる、 2.新規採用者の初任給の切り下げが、直ちに既採用者の組合員の賃金額に影響して不利益が及ぶことはないこと等を理由に、 初任給の決定は、団体交渉事項に当たらないと判断し、病院側を勝訴させた。

【控訴審で逆転勝訴】
  しかし、東京高裁第14民事部 (西田美昭裁判長) は、非組合員に対する事項であってもそれが将来にわたり組合員の権利に影響を与える可能性が大きく、 かつ組合員の労働条件とのかかわりが強い事項」については、団体交渉事項に当たるべきとして、初任給の切り下げはこれらの 1.2.を充たすとして、 団体交渉事項に当たると判断した。

  現在、最高裁に上告され、係属中である。

【本件訴訟の意義】
  高裁判決は、非組合員に関する事項でも組合員の団結力に重大な影響を及ぼす可能性のある事項については、義務的団交事項に該当するとの判断を明確に示した。

  これによって、「非組合員と組合員の差別化」 を利用して組合の団結力をそごうとする使用者側の思惑は阻止され、かつ労働組合の団結力は維持されたと言えよう。

【今後の予定】
  本件は高裁で勝訴したため、最高裁に係属中である。
  もっとも、根岸病院を相手とする労働事件は多数係属している。詳細な情報は追ってご連絡致します!

文責 NPJ編集部