2007.11.25

提訴で法律を制定させた! 年金国賠訴訟
事件名:提訴で法律を制定させた! 年金国賠訴訟
係属機関:東京地方裁判所民事第43部 (松井英隆裁判長)
       事件番号 平成19年(ワ)第10985号
次回期日:2月1日 午前10時〜東京地方裁判所527号法廷
       傍聴を希望される方は、直接法廷にお越し下さい。
次回期日の内容:争点整理 (主に被告国の反論)
紹介者:中川素充弁護士
連絡先:オアシス法律事務所 中川素充弁護士 TEL 03-5363-0138
     弁護団員も募集しています。

【事件の概要】
(1) 当事者
  原 告:六川雅司 (ろくかわ まさし) 氏 (東京都大田区在住 78歳)
  被 告:国

(2) 請求の内容の概要
  1093万円 (受給できなかった金員およびほか慰謝料等)

(3) 請求の原因の概要
ア 事実経過
  原告は、昭和18年3月、高等小学校を卒業した後、平成元年9月3日、老齢厚生年金の受給資格を得るまで複数の企業等で就労していました。 この間、厚生年金に加入し、保険料を支払っていたのは、実際は113ヶ月でした (他の期間については、自営のため国民年金)。

  しかし、受給資格を得て、平成2年6月に大森社会保険事務所で裁定請求をしたところ、厚生年金に関して加入期間が18月として年金額が算定されてしまいました。 そこで、原告は、そんなに短いはずがないと調査をするように申し出ましたが、担当者は全く相手にしませんでした。

  ところが、平成17年2月、ふとしたことから調査を改めて依頼しました。すると、程なく、95ヶ月間の算入漏れが判明したのです。
  そこで、平成17年3月22日、正しい加入期間に基づく厚生年金の給付を申し出ました。

  もっとも、社会保険庁は、過去5年分については支払漏れの年金を支払うとしたものの、 平成12年1月以前分の年金は5年以上経過しているため時効で消滅したと言い出したのです。
  その結果、平成元年9月分から平成12年1月分までの間の、本来受給できたはずの年金約500万円が受給できなくなってしまったのです。

イ 被告国の違法性
  そこで、裁定時である平成2年6月に、厚生年金の加入期間を適切に算定すべきであるところ、それを怠った違法があるとして、国家賠償請求訴訟を提起したのです。

【手続きの経過】
  ・2007年 5月 1日 提訴
  ・報道機関からの取材が相次ぐ。
  ・国会でも取り上げられる。
  ・「年金時効特例法」の制定
  ・2007年 7月20日 第1回期日 (訴状陳述、答弁書陳述)
  ・2007年 9月14日 「年金時効特例法」に基づき、平成12年以前分の支払を受ける。
  ・2007年 9月21日 第2回期日(争点整理)
  ・2007年10月31日 総務省年金記録問題検証委員会の報告書、社会保険庁の記録管理などの問題点を指摘した。
  ・2007年11月16日 第3回期日 (争点整理)
  ・現在は、原告、被告の主張を出し合って争点を整理しているところです。

【一言アピール】
  本件は、社会保険庁の年金記録の管理がいかに杜撰であったかを象徴する事件であり、今年の「年金国会」の審議に大きく影響を及ぼした事件の一つです。
  原告の六川さんは「年金時効特例法」により、支給漏れの部分は支払われましたが、問題は根本的に解決していません。

  国は、この支給漏れの責任を認めようとしていないからです。 依然として、当時の対応については記録がない、本人がきちんと資料を示して申告しないと加入記録は調べようがないと主張しています。

  しかし、本来、年金制度は国民の安心や生活の基盤の重要な柱です。国民は、義務として保険料を払っており、その加入期間に応じて、 年金支給資格の有無、支給額が決せられるのですから、年金記録の管理は長期にわたり細心の注意を払って一貫して正確に記録を管理しなければならないはずです。 しかも、本件は、記録がありながら、記録がないと扱われていたのです。国は直ちに責任を認めるべきなのです。

  したがって、今後も遅延損害金、慰謝料の請求として、訴訟は続けていくことになります。 (なお、遅延損害金の問題は、他の保険給付や年金等にも関連する問題です。 例えば、過労死で家族を失った人が、労災申請をしたところ遺族年金の不支給決定がなされたため、行政訴訟を行ない長年かけてようやく労災と認められても、 過去の不支給分が是正されますが、その間の遅延損害金はつかない扱いになっています。これって、おかしいと思いませんか?)

  なお、担当弁護士は私ひとりです。もし、興味があって一緒に取り組んでくださる奇特な (笑) 弁護士がいましたらご一報ください。

文責 弁護士 中川素充