2009.12.9更新

痴漢えん罪でっち上げ事件国家賠償訴訟

事件名:損害賠償請求訴訟 通称 「沖田国賠訴訟」
内  容:違法な捜査や身柄拘束に対する国家賠償請求及び女性に対
     する損害賠償請求
・ 2008年11月7日、最高裁で判決言い渡しがなされ、女性に対する請求について棄却した原判決が破棄され、 東京高裁に差し戻すと判断がされました。(東京高裁第2民事部)
・差戻審(大橋寛明裁判長)の判決は、2009年11月26日、言い渡され、痴漢を認定した1、2審判決を覆し、 痴漢行為を否定したが、女性の虚偽通報を認めることもできないとして賠償請求は棄却した。
上告予定。
紹介者:鈴木 剛弁護士
連絡先:沖田国賠訴訟 (痴漢でっち上げ事件) に勝利し、検察・警察を
      ただす会
      TEL 042-524-1532 (国民救援会三多摩総支部内)


【事件の概要】
  (不起訴となった刑事事件)
  1999年9月2日、本訴原告沖田氏は、JR車内で携帯電話で大声で会話していた女性に注意したところ、逆恨みした女性が国立駅前交番の警察官に、 腰に股間をすり寄せる痴漢行為を受けたと虚偽の申告を行った。女性の弁を鵜呑みにした警察官は、帰宅の途にあった沖田氏を駅前ロータリー上でいきなり逮捕。 沖田氏は、その後21日間の身柄拘束を受けたが、結局、嫌疑不十分で不起訴となった。

  (本国家賠償請求訴訟の請求の概要)
  自称被害者である女性は、携帯を注意されたことを逆恨みし、虚偽の被害事実を警察官に申告した。
  警察官は、沖田氏が痴漢行為をしたという確たる証拠もなく、いきなり現行犯逮捕をしており、違法な公権力の行使にあたる。
  検察官は、沖田氏に勾留の理由や必要性がないにもかかわらず、勾留請求、勾留延長請求を行った。

【手続きの経過】
  (文書廃棄問題)
  裁判の中で、検察庁が、刑事事件の刑事記録を保管期間中に廃棄したということが明らかになった。
  弁護団は、警察に残っていた刑事記録の写しを提出するよう、文書提出命令を申し立てるが、原審 (東京地裁八王子支部) は、 捜査の秘密の維持、関係者のプライバシー保護の観点からこれを棄却。弁護団は即時抗告した。抗告審である東京高裁は、 これらの利益はすでに失われているとして、記録の一部について原決定を取り消して原審に差し戻した。

  (証拠調べの状況)
  @ 証拠調べの中で、女性と携帯電話で会話していた男性が、検事に対し、自分は女性が痴漢にあっているような会話は聞いていないなどと、 女性と食い違う証言をしていたことが明らかになった。

  A 女性と沖田氏の体格差 (女性の身長が高い) から、女性の申告する被害 (腰に股間を押しつけられた) が実際には不可能であることが明らかとなった。 なお、女性は法廷においては、被害部位は太股であったと証言内容を変更している。

  B 警察官が証言する逮捕状況が、廃棄された文書中の現行犯逮捕手続書の記載と矛盾することが明らかになった。

  (一審判決)
  第一審の判決は、検察官が嫌疑不十分で不起訴としたはずの、沖田氏の痴漢行為を認定したうえで、請求を棄却するという、驚くべきものであった。 内容も、「女性が携帯電話を注意されたという些細な出来事で、虚構の被害を申告するなど通常想定できない」 などとする偏見に充ち満ちたものであった。

  先に述べたように、女性の身長が高く、沖田氏の陰部は女性の太股にも届かない。すると、第一審の裁判長は補充尋問を行い、 女性に対し 「押し当てられたのは下腹部ではないか」 と数回にわたり質問し、ことさらに証言の変更を促した。
  女性が、証言を維持したところ、判決では、女性のこの証言は無視され、沖田さんは、「下腹部を女性に押しつけた」 こととされた。

  (二審判決)
  このように、第一審判決は、女性の証言を都合良く変更した上で、痴漢行為を認定するような矛盾に満ちたものであった。 ところが、控訴審でも痴漢行為を認定し、控訴は棄却された。

  原審の矛盾点を意識したのか、控訴審では、逮捕当時、沖田氏が警察らの問いかけに逃げ出そうとする等の不審な挙動を行ったことを強調している。 しかし、このような事実は、現行犯逮捕手続書には一切記載されていない。

  この矛盾点について、控訴審は、沖田氏は、駅前で警察官にいきなり逮捕されたとするが、 警察官がこのような強引ともいえる逮捕手続をしたとは到底考えられないとし、手続書に記載がないことも、それなりに了解しうる。などとしている。

  (最高裁)
  2008年9月29日、最高裁で弁論が開かれました。
  本期日は、上告人沖田氏の請求のうち、「女性」 に対する 「上告受理申立」 に限って行われました。違法逮捕、違法勾留についての請求は棄却されました。
  期日では、今までの弁護団の主張を総括した弁論が約30分間、沖田氏自身の意見陳述が10分間ほど行われました。

  沖田氏は、本訴訟を起こした理由として、犯罪者の汚名を雪ぎ、真実をひろく知ってもらうためであると述べました。 提訴を決断するに際しては深く悩んだこと、検察庁による刑事記録の廃棄、真実を述べない警察官証人、さらに第一審、控訴審判決等、様々な失望があったとしました。 そして、最高裁には、真実に光を当て、正義を実現するという裁判の目的にしたがった裁きを求めるとしました。

  この期日には、女性も出頭し、自身の意見を述べました。第1審での尋問では、供述変遷の理由を問われると、 (変遷の理由は) 「なぞ」 であるなどと言っていた女性でしたが、今回の陳述では冒頭から涙を浮かべ、マスコミや沖田氏の支援者が恐ろしく、 夜も眠れなかったなどと訴えました。そのうえで、沖田氏はうそつきであり、自分の主張こそが本当だと述べましたが、その根拠については明らかにされませんでした。

  このような意見陳述を受け、裁判所は次回11月7日3時に判決を言い渡すことになりました。社会問題化している 「痴漢えん罪」 に最高裁の審判が下されます。

  (最高裁の判断)
  2008年11月7日、注目の最高裁判決の内容は、女性に対する請求について原判決を破棄し、東京高裁に差し戻すというものでした。
  判決のポイントは、「被害」女性とこの女性と携帯で通話していた男性との供述の食い違いにあります。

  上告審では、高裁の認定について、「是認することができない」としました。男性の証言内容は、女性の証言内容と「看過し得ない食い違い」 があるとしたのです。
  そして 「同人 (男性) が電話を通して聞いた被上告人と上告人の発言の内容を○○検事の証言及び陳述書のみによって認定した上、具体的根拠が乏しいまま、 男性の電話に聞こえた本件車両内での騒音等を被上告人に有利に推測して、○○に対する男性の供述内容と整合しない被上告人の供述の信用性を肯定し、 男性の供述と合致する上告人の供述の信用性を否定して、上告人が本件痴漢行為をしたものと認定したことについては、 審理不尽の結果、結論に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるといわざるを得」 ないとしました。

・最高裁判決の感想
  沖田さんをはじめとして、この裁判を支えた多くのかたがたは、痴漢えん罪を生み出す、警察・検察の杜撰・違法な捜査を正すため、この訴訟を提起しました。 その意味からは、警察・検察の違法を認めなかった本判決には不十分な点が含まれます。

  しかし、本判決は、客観的証拠との整合性を無視し、被害申告を鵜呑みにしてきた、原判決を厳しく批判しています。
  最近 (12月9日) 痴漢えん罪事件の刑事事件 (沖田事件とは別件) でも、最高裁は口頭弁論を開くことを決定したそうです。
  これらの動きは 「裁判員裁判」 の実施計画などを理由に、刑事裁判に対する市民の関心が高まる中、「常識的」 な裁判をせよ、 という最高裁のメッセージなのではないでしょうか?
  裁判員制度の賛否はともかく、裁判所に対する監視活動を盛んにして、「変な判決は出させない」 との声を、裁判所に送り続けましょう!

(差し戻し審)
  2009年7月2日午前10時から、最高裁判決で問題となった女性の話し相手の尋問が行われた。
  刑事事件を担当した小池検察官によると、事件当時、女性が携帯で話した内容と、電話の話し相手が聞いた女性の話の内容が以下のように食い違っていた。

<女性の証言>
女性:変な人が近づいてきた
女性:離れてよ
沖田:電車の中で携帯電話は止めなさい
女性:変なことしておいて何言っているんですか
沖田:電車の中で携帯電話は止めなさい
女性:分かったわよ。切るわよ。

<話し相手の証言>
女性:変な人が近づいてきた
沖田:電車の中で携帯電話は止めなさい。

  検事は、このような食い違い等から、女性の申告の信用性に疑問を持った結果起訴を見送ったかにも思われるが、本件の1回目の控訴審では、 この通話相手の尋問請求を却下した上で、通話相手の上記供述は信用性がないとして、請求を棄却していた。
  これに対して最高裁は、女性の話と、通話相手の話には看過出来ない食い違いがあり、 この通話相手の証人尋問を実施しなかった高裁の審理には審理不尽の違法があるとして判決を取り消した。
  このような経緯を経て、ついに通話相手の尋問が実現した。通話相手は、女性の 『変な人が近づいてきた』 との声に続いて 『電車の中で電話しちゃいけない』 との声を聞いたとし、女性の 『変なことしておいて何言ってるんですか』 などという声は聞かなかった、と明確に証言した。
  この通話相手の証言は、過去、小池検事に話した内容と違わず、また、十分な信用性も認められるものであった。 女性の 『被害申告』 の虚偽は、ますます明らかになったといえよう。

  8月27日の期日では、前回の証拠調べ 「女性の通話相手への証人尋問」 を踏まえての主張を行いました。

  原告弁護団は、証人尋問の内容を前提に、今までの立証活動を総括する準備書面を提出し、当日は、3名の弁護士が内容をかいつまんで弁論しました。 主張内容は
・最高裁の判決は、女性と通話相手の供述の齟齬(ずれ)を鋭く指摘している。
・今回、通話相手の尋問により、このズレはますます深まった。
・この論点以外の多くの証拠によっても、女性の虚偽申告は明らかである。
・防衛医大事件の判決など、被害申告を鵜呑みにせず、慎重に信用性を判断することが、今日痴漢事件では求められている。
などの点でした。
  また、原告沖田氏本人が、この10年の思いを語りました
  被告女性側の代理人も弁論を行いました。被告代理人は、控訴審を根拠に、女性の発言と証人の供述に不一致はないと主張しました。

【一言アピール】
  本訴訟は、「国賠訴訟を通して、警察・検察をただす」、という趣旨で提起されたものであった。 提訴から5年余りが過ぎ、「ただされるべきは裁判所ではないか」 という感想を多くの関係者が持つに至った。

  判決の全文を紹介できないのが残念であるが、原審・控訴審とも、理由らしき理由さえ見いだすことができない。 あるのは 「女性がありもしない痴漢被害をでっち上げるはずがない」 「警察が、女性のいうままに、いきなり現行犯逮捕をするようなことをするはずがない」 という一方的な先入観である。

  たたかいの場は最高裁へと移された。この裁判で私たちは、単に裁判に勝利するだけでなく、市民の皆様に広くこの事件を知ってもらい、 警察、検察、裁判所をただす動きに加わっていただきたいという思いを持っている。

文責  弁護士 鈴木 剛