2013.10.22更新

生活保護変更決定(老齢加算・母子加算)の
取消等の請求を求める

事件名:生存権裁判
内  容:生活保護変更決定 (老齢加算・母子加算) の取消等の請求を
     求めたもの
   ※母子加算訴訟については、2010年6月、国との基本合意締結を
     受け、控訴を取り下げています。
  平成24年3月14日大阪高裁は、控訴を棄却しました。
  判決は、憲法25条の 「健康で文化的な最低限度の生活」 の判断のあり方をめぐる解釈について、 「最終的には政策の選択の問題といわざるを得ない」 として判断を回避し、平成15年閣議決定以降行われた、 結論先にありきの検討経過を無批判に是認しました。 また、原告らの生活実態についても、「支出を切り詰め、相当の不自由な生活をしている」 と言いつつ 「一定の文化的・社会的活動の機会を持っている」 などとして、「健康で文化的な最低限度の生活を下回る結果をもたらしているとまではいえない」 と、 実態からかけ離れた判断をしました。

  地裁判決自体、原告らの過酷な生活状況を理解しないものであったが、高裁判決は、さらに原告らについて不利な事実ばかりを引用し、 冷淡な判断をしました。
  高裁判決は、「一旦形成された生活水準を切り下げるのには困難なところがあることから、 保護基準の不利益変更(本件においては老齢加算の削減・廃止)についての裁量権行使には、具体的で客観的な相応の根拠に基づくことが要求される」 とし、 一見すると国の裁量権の幅を狭くするものです。
  しかし、合憲の判断を導くために、「具体的で客観的な相応の根拠」を積極的に認定したため、地裁判決よりも、 さらに国を後押しする判決となったといえます。例えば、原告らの過酷な生活状況についても、揚げ足を取るような事実を改めて認定したり、 直接には最低限度の生活水準とは関係ない国の財政状況を積極的に認定したりしています。
  結論として、裁量の逸脱濫用はないと判断し、厚生労働大臣の広範な裁量権を認めたこの判決は、司法の役割を放棄したものであり、 極めて不当な判決です。

  平成24年3月23日原告らは上告しました。
紹介者:佐野就平弁護士
連絡先:生存権裁判を支える会 (075-311-9385)
     または、生存権裁判弁護団事務局
     (つくし法律事務所 075-241-2244)


【事件の概要】
(1) 当事者
   生活保護を受給している70歳以上の高齢者、母子家庭
(2) 請求の内容の概要
   老齢加算・母子加算削減処分の取消
(3) 請求の原因の概要
   そもそも生活保護受給中の高齢者世帯、母子家庭において、経常的一般生活費に加算されていた老齢加算、母子加算があって初めて、 かろうじて最低限度の生活を維持することができていた。
  しかし、地方自治体による加算の削減により、最低限度の生活を下回ることになってしまった。 したがって、削減は生活保護法、憲法25条違反である。

【手続きの経過】
  第1人目の原告の提訴後、順次追加提訴を行ってきた。老齢加算訴訟と母子加算訴訟は、併合されていないが、事実上同一の期日で審理を行っている。
  老齢加算に関し、原告側総論主張はほぼ終了した。

  2007年11月7日の口頭弁論では、原告側は証人を多数申請したが、全国の裁判の立証を待って、その調書をもって代えることも検討中。
  原告側は、追加の主張として、WHOが、避けることができた死を減らすために健康インパクト評価をしたり、公共事業で環境アセスメントをしていることから、 日本でも生活保護を切り下げる場合はなおさら、受給者の健康についてのアセスメントをするべきであり、それを経ていない老齢加算削減は違憲違法である、と主張した。
  これは、生活保護の基準設定について裁量があるとしても、適正手続が必要である、 という主張の根拠の補強である。

  母子加算については、(老齢加算のついででやっているわけでは決してないが) 双方あまり主張がなく、老齢加算と同様の証人申請をしているところ。

  2008年1月17日の期日では、老齢加算に関し、原告側総論主張がほぼ終了したのを受け、被告側が網羅的な反論を主張した。
  母子加算で、老齢加算の進行の程度に追いついていなかった部分について、膨大な準備書面の提出、要旨の口頭陳述を行った。
  母子加算についても、主張はほぼ同様である。

  2008年4月8日の期日では、原告は、貧困論、国が老齢加算削減の根拠としたデータの元データを削除したこと等について抗議の主張、 原告の生活実態等の主張をしました。被告側は反論です。

  2008年6月24日の期日で、原告側が求めたのは、老齢加算、母子加算ともに、原告宅の検証、証人尋問、原告本人尋問でした。
  ところが、裁判所は、母子加算について後藤玲子先生の証人尋問だけ認め、他は全て、原告本人尋問すら採用しませんでした。 原告ら代理人が反発する中、裁判所は制度論の問題で実態を見る必要はない言い、実態は陳述書や検証に代わる写真で十分だと言い、次回で結審すると宣言し、 一方的に閉廷して弁論を終わらせました。

  原告らの尋問も認めずに、一方的に次回結審すると宣言するというのは、裁判所の暴挙といわざるを得ません。 原告ら、弁護団、支援者としては、緊急に対策を検討する予定です。

  9月11日の進行協議期日では、突如裁判長が交代しました。 原告本人尋問をしない、特に老齢加算訴訟については当事者や証人の話を一切聞かずに結審するという暴挙が取り消されました。

  協議としては、9月16日に予定されていた後藤証人の尋問期日は、裁判長が記録をきちんと検討する時間が必要となったこともあり、延期されました。 他の当事者・証人については、誰を採用するかどうかは、時間の関係もあって結論持ち越しとなりましたが、全く採用しないということにはならないでしょう。
  原告本人尋問については、記録上申請を却下したことになっているため、再度尋問申請をすることになりました。 次回期日の証人尋問の実施、原告宅の検証と他の証人尋問が認められるかどうかが今後の焦点になります。

  弁護団、原告・支援者らの抗議活動が功を奏し、また突然の裁判長の交代という事態があり、訴訟の進行の雰囲気が全く変わりました。 少なくとも、きちんと交渉ができるようになったのではないかとの印象です。

  11月13日の期日では、被告国が老齢加算・母子加算削減の根拠とした 「中間取りまとめ」 をまとめた、 在り方専門委員会の委員であった後藤玲子先生の証人尋問がありました。 後藤先生は、専門委員会では母子加算削減についてはそのような結論は全く出していないことや、前提となったデータの調査の仕方について問題があり、 さらに検討を要するという所で議論が終わっていることを証言されました。 国が自らの正当性の根拠としている報告書を、それを作成した委員が粉砕したわけで、非常に痛快でした。

  その後、進行協議期日がありましたが、原告ら申請の証人が採用されず、紛糾しました。 これについては、予定していなかった原告らについても尋問をするということで決着しましたが、弁護団で検討してから再度認証の申請をするということになります。

  2009年2月9日の期日では、原告4人の本人尋問がありました。原告らの尋問は必要ないとして原告ら2人の証拠申出を却下した裁判長が交代したりしたため、 2人を予定していた時間で4人の尋問を行いました。
  大法廷でテレビ画面に写真を映しながら、原告の生活実態を詳細に明らかにしました。どんな節約をさせられているのか、 どんな生活に耐えているのか、どんな惨めな思いを強いられているのか、思いが伝わる尋問だったと思います。

  5月20日の期日の内容は以下のとおりです。
  約130ページの最終準備書面の他、3通 (並行事件は2通) の書面を出したため、弁論は工夫しました。 2時間の弁論の時間のうち、1時間程度をDVDの放映に使い、後は意見陳述と書面の要旨の陳述をしました。
  単調にならないよう弁論の流れを工夫したため、弁護団長意見、憲法25条の意義を最初に述べた後、 DVD放映と原告本人の意見陳述を間に挟む形で2時間使い切りました。
  また、老齢加算事件、母子加算事件は併合されていませんでしたが、事実上一緒に弁論しました。
  内容は、意見陳述では、まさに当事者だからこそ言える、心からの叫びが伝わったと思います。 DVDも生活のわびしさ、切なさを強調でき、たとえば老人がインスタントの味噌汁を沸かし、 その中に電子レンジ用のご飯 (電子レンジを持っておられない) を入れて食事にしている姿など、生活実態があらわになったと思います。

  裁判所も見入っていました。映像を撮影しDVDを編集し弁論の持ち方を決めた弁護団員、涙を禁じ得ませんでした。
  提訴以来4年間で最もメッセージを伝えられた弁論だったと思います。

  提訴時には全く注目されていなかった事件が、今や最先端の事件であることが徐々に広まっていると思います。 取り組みは今後も続きますが、原告・弁護団・支援者ともども、頑張っていく決意を新たにする弁論でした。

  2009年12月14日、京都地方裁判所(第3民事部、瀧華聡之裁判長)は、「保護基準の変更は厚生労働相の裁量に委ねられており、違憲、違法ではない」 として、 請求棄却の判決を言い渡した。原告らは翌日控訴しました。
   (地裁事件番号 平成17年(行ウ)第8号、14号  老齢加算
               平成18年(行ウ)第14号      母子加算
              平成19年(行ウ)第16号      老齢加算)

  2010年6月23日、6月29日の期日の内容と評価を簡単に。
  6月23日は老齢加算について、同29日は母子加算についての期日でした。
  しかし、母子加算は、国との基本合意締結を受け、控訴を取り下げていますので、期日は開かれていませんし、今後もありません。

  老齢加算の方は、京都地裁の敗訴判決の批判を弁護団長から行い、控訴理由の陳述、福岡高裁勝訴についての陳述をしました。 また、原告らの意見陳述をし、全国各地で放送された映像等を元にDVDを作成し、流しました。 原告を含む生活保護受給者高齢者世帯の窮状が良く伝わる意見陳述、DVDだったと思います。
  これに対し、裁判所はあまりやる気がない雰囲気でした。そもそも1時間確保していたのですが、直前に30分に短縮して欲しい旨連絡があったりなど、 不可解なこともありました。
  福岡高裁で勝訴したとはいえ、予断は許しません。きっちり大阪高裁を監視するためにも、ぜひ大勢の方にお越しいただきたいと思います。

【一言アピール】
  生活保護の保護基準そのものを争っているため、被告は京都市ですが、実質的相手方は国です。生活保護の保護基準を争うのはあの朝日訴訟以来です。

  「加算」 とは名ばかりで、「加算」 があってこそ初めて、高齢者、母子家庭の生活保護受給者は最低限度の生活を送れるというのが実態です。 ところが、国は財政削減のために、この加算を削ることにしました。

  生活保護基準の削減は、色んな制度の削減に繋がり、収入低下、福祉の有料化、高額化を招き、貧困を蔓延させることになります。 実際に、福祉の切り捨ては始まっています。
  セーフティネットとしての生活保護制度を守るべく、裁判を通じて少なくとも加算を守ることが国民生活全体の暮らしを守ることに繋がると信じています。

  現在全国8地裁 (青森、秋田、新潟、東京、京都、兵庫、広島、北九州) で係属しています。他の地裁でも提訴予定です。 裁判には多数の方々の傍聴をお願いしたいと思います。

  取材やカンパも随時募集しております。

文責 弁護士 佐野就平