2008.9.30更新

世田谷国公法弾圧事件

事件名:世田谷国公法弾圧事件
被告人:宇治橋 眞一
被告事件:国家公務員法違反
       (国家公務員法110条1項19号、同102条1項、人事院規則
       14-7第6項7号:『七 政党その他の政治的団体の機関紙
       たる新聞その他の刊行物を発行し、編集し、配布し又は
       これらの行為を援助すること』 違反)
  2008年9月19日、東京地方裁判所刑事第11部は不当にも、宇治橋
眞一さんに対し、罰金10万円の有罪判決を下しました。
  弁護団は、同日、控訴しました。
次回期日:未定
紹介者:芝田佳宜弁護士


【事件の概要】
1 事件の概要
  厚生労働省の課長補佐、宇治橋眞一さん (当時56歳) が、2005年9月10日(土) にしんぶん赤旗の号外を配布していたところ、 午後0時過ぎ頃うっかり、警察官官舎にも配ってしまった。そこで、住民である警察官に騒ぎ立てられ、住居侵入罪で逮捕。国家公務員法違反で起訴された。

2 弁護側の主張
  弁護側は、国公法・人事院規則が憲法21条1項 (表現の自由) に違反し、違憲・無効である等のさまざまな主張をし、宇治橋さんの無罪を主張しています。

【手続きの経過】
  2005年9月10日・・・事件発生
  2006年3月24日・・・第1回公判期日
   宇治橋さん、弁護団が公訴棄却を要求
  2007年11月16日(金)
   被告人反対質問
  12月14日(金)
   憲法学者・佐々木弘通先生 (成城大学法学部准教授) 証人尋問
  2008年1月16日(水)
   憲法学者・市川正人先生 (立命館大学法科大学院教授) 証人尋
   問
  2月13日(水)
   日本国家公務員労働組合連合会関係者証人尋問

  2008年2月13日の期日では、元国公労連役員で、元労働基準監督官の山瀬証人が、1.公務員の業務は法令・規定、上司の決裁によって運営されており、 公務員個人の主義主張を公務に入り込ませることはできないこと、2.現在は、国の事務につき、国から地方への移管、独立行政法人化、 民営化などが進められており、国家公務員の身分を理由に政治的行為に対し刑事罰を科することの根拠が薄弱になっていること、 3.郵政民営化によって郵政職員の政治的行為に対して刑事罰を科した猿払事件最高裁判決が無意味になってしまっていることなど、 多角的な観点から、本件において宇治橋さんに刑事罰を科することの非合理性について証言しました。
  元公務員、元国公労連役員という経歴をもつ山瀬証人の経験と理論に裏付けされた説得的な証言が展開されました。

  3月12日(水)
   行政法学者・岡田正則先生 (早稲田大学法科大学院教授) 証人
   尋問

  「公安警察官、宇治橋さんの職場の上司の尋問等に続き、現在は、検察側立証から弁護側立証に移り、被告人質問に続いて学者の証人尋問が行われています。」

  ・3月12日の期日では、行政法学者・岡田正則先教授 (早稲田大学大学院法務研究科教授) および阿部浩己教授 (国際法・神奈川大学法科大学院長) の証人尋問が行われました。   岡田教授からは、 1.国公法・人事院規則が,敗戦後に公務員の労働運動を恐れたアメリカ占領軍総司令部が無理強いした欠陥立法である、 という制定過程の異常性、 2.懲戒処分をもってしても 「公務の民主的かつ能率的な運営」 を確保できない場合に限り、刑事罰を科することが許される、 との証言がありました。
  阿部教授からは、猿払事件後の1979年に日本が批准したいわゆる自由権規約19条により、国公法・人事院規則の規定は無効である、等の証言がなされました。
  両教授の証言は説得的な内容で、裁判長もまじめに聞いている様子がうかがえました。この証言が判決に生かされることを期待します。

  ・4月16日の期日は、検察側の論告求刑がありました。
  「国公法・人事院規則は憲法違反であり無効である、国公法・人事院規則は国際人権規約にも反している」 等の様々な論点についての弁護側の主張に対して、 検察側は 「猿払大法廷判決や堀越事件判決 (平成18年6月29日に下された同種事件判決) によって、弁護人の主張は排斥されており、 理由がないことは明らかである。」 と述べました。既存の判決を引用するだけの全く独自性のない退屈な内容でした。
  そして、宇治橋さんの行為が 「極めて政治性の強い犯行であって,犯状悪質」 であるうえ、「自己の犯行を反省する態度は全く見られ (ない)」として、 罰金10万円を求刑しました (さんざん悪し様に述べた上、求刑は左記のとおりでした)。

  6月24日の期日は、弁護側の最終弁論と、宇治橋さんの意見陳述が行われました。 弁護側は、11人の弁護人が午前10時から午後4時ころまで、350頁超にのぼる最終弁論の要旨を陳述しました。 その中で、弁護側は2006年6月29日に東京地方裁判所刑事第2部にて下された堀越明男さんに対する同種事件判決 (毛利判決) に対する批判も展開しました。 これらを受けて、当該裁判所が法の趣旨に沿った公正な判断をすることが期待されます。

    ※ 宇治橋さんの意見陳述 2008.6.28

  ・2008年9月19日、東京地方裁判所刑事第11部(事件番号 平成17年特(わ)第5633号裁判長裁判官 小池勝雅 裁判官 品川しのぶ  裁判官 橋明宏)は不当にも、 宇治橋眞一さんに対し、罰金10万円の有罪判決を下しました。
  弁護団は、同日、控訴しました。

   ※ 弁護団声明    判決要旨 2008.9.19

  この判決は、弁護人の主張を全く真摯に受け止めていない不当かつ粗雑な判決で、批判すべき点は多々あります。 一点、特徴的な点を指摘すると、『下級審裁判所である当裁判所としては、公平性、法秩序の安定性等の観点からも、同判決 (猿払最高裁判決) を尊重することが、 そのとるべき基本的立場と言わなければならない。』 との部分が挙げられます。
  地方裁判所を含む下級裁判所も法律・規則の憲法適合性を判断する職責有しているところ、これを事実上放棄することを宣言した、 逃げ腰の判決を言わざるを得ないでしょう。

【一言アピール】
  本件に先立つ、2004年3月に社会保険事務所職員の堀越明男さんが 「しんぶん赤旗」 号外配布逮捕、 起訴されるとの事件が起こりました (2006年6月29日に罰金10万円、執行猶予2年の有罪判決が下り、弁護側、検察側双方が控訴。現在東京高等裁判所にて係属中)。

  現在、従来は犯罪として扱われなかったような 「ビラ撒き」 事案が 「犯罪」 として検挙され、起訴までされる事態が散見しております。
  いうまでもなく、民主主義を支える基礎は国民の表現の自由です。 これを脅かすような警察・検察の捜査、公訴提起のあり方には断固として異議を呈していかなければなりません。

文責 弁護士 芝田佳宜