2010.8.28更新

法律を守ってよ! 〜「すき家ユニオン」

事件名:不当労働行為救済申立て事件
内  容:団体交渉拒否
当事者:すき家アルバイター VS 株式会社ゼンショー(すき家経営会社)
係属機関:中央労働委員会
  8月26日 労働者勝利命令
紹介者:笹山尚人弁護士
連絡先:首都圏青年ユニオン

【はじめに】
  私は、青年労働者の雇用の権利問題を専門とする弁護士です。
  その観点から、首都圏青年ユニオンという労働組合の顧問弁護士を担当しています。 この労働組合は、雇用形態を問わず、一人でも加入することが可能な労働組合で、文字通り青年が中心となって組織し、活動している点に特徴があります。 労働組合の運動は、従来、特定の企業の正規従業員だけで構成することが当たり前でしたが、 そのような労働組合は企業がつぶれてしまうのと同時になくなってしまいますし、青年労働者に多い、フリーター、非正規社員の場合、 一つの企業に居続けるということが少ない。そこで、そのような人たちが参加できる新しい労働組合として、2000年に結成されたのです。

  結成以来、首都圏青年ユニオンは、青年労働者のニーズにかない、着実に活動を前進させてきました。

【事件の概要】
  2006年、牛丼屋チェーンの 「すき家」 で働くアルバイトの人たちが、ユニオンに加入してきました。   彼らは、解雇されたり、時間割増の残業代を支払ってもらっていなかったり、法律によって当然に認められる権利を認められていませんでした。 そこで、彼らによって、首都圏青年ユニオン (東京公務公共一般労働組合青年一般支部の通称です) の中の一グループとして、 「すき家ユニオン」 が結成されたのです (首都圏青年ユニオンでは、分会を作っていますが、これは地域組織であり、 特定の企業名を冠する分会を作っていないため、すき家ユニオンはグループです。
  ユニオンは、団体交渉といって、組合員の問題についての話し合いをすることを会社に対して求めました。 労働組合が団体交渉を求めた場合、正当な理由がなければ会社はこれを拒否できません (労働組合法第7条)。 しかし、会社は、2007年2月から、団体交渉に全く応じなくなりました。

  参考:賃金等請求事件
  牛丼すき家 「偽装委託」 「名ばかり管理職」 事件

【申立の概要】
  会社が労働組合との団体交渉を拒否することは、禁じられている行為であり、これを 「不当労働行為」 と呼んでいます。 このような場合は、労働組合は、行政機関である労働委員会に対して、会社に是正命令を下すように救済手続きを求めることができます。

  首都圏青年ユニオンも、「すき家」 を経営する会社の対応について、この救済手続き申立を、東京都労働委員会に対して行うことになりました。
  この救済手続きは、裁判と類似した手続きを取るため、労働組合は弁護士に手続きの遂行を依頼することがあります。

  今回も、首都圏青年ユニオンの依頼があり、私、大山勇一弁護士、佐々木亮弁護士の3名で、「すき家ユニオン弁護団」 が結成されました。

【手続の経過】
  本件の救済手続き上の争点は、会社が、団体交渉を拒否していることが正当か否か、その一点にかかっています。
  会社は、首都圏青年ユニオン等が、労働組合であることは疑わしいなどの理由をあげて、正当であると主張していますが、 私たちは全く正当な理由ではないと考えています。

  2007年11月27日の調査期日で、さらに会社は、「そもそもアルバイトとは労働契約を結んでおらず、 請負類似の契約を結んでいるに過ぎない」 という主張を追加してきました。 これは、まったく論拠を欠いた審理引き伸ばしのための主張であって到底認められるものではありません。

  本件は現在、7回の調査 (裁判にいう弁論、弁論準備手続きに相当します) を経て、証人尋問手続きにあたる2回の審問を終了しました。
  1回目の審問では、ユニオンの河添誠書記長が、ユニオンが労働組合として団体交渉を申し入れていること、会社がそれを拒否していることを述べました。
  2回目の審問では、会社は、社員2名を証人としてたててきましたが、これらの証人は、客観的な事実と矛盾する証言に終始し、 会社が意図的に組合との交渉を拒否していることを浮き彫りになりました。

東京都労働委員会、組合の勝利命令を発令
  東京都労働委員会は、平成21年10月6日、組合勝利の不当労働行為救済命令を発令しました。
  命令によれば、平成19年2月2日以降、ゼンショーが行った東京公務公共一般労働組合との交渉の拒絶は、 労働組合法7条2号が禁じる 「団体交渉の拒否」 に該当し、東京都労働委員会は、 ゼンショーに対し、組合との間で組合員の残業代等の問題について誠実に団体交渉を行うべきこと、 組合に対し文書で謝罪文を交付することを命じました。
  ゼンショーは、組合員との間で労働契約を結んでいない、組合が労働組合法上の労働組合ではない、 交渉の拒絶には正当な理由があるなどとして争っていましたが、委員会はいずれの理由も退けました。

中労委命令
  2010年8月26日、中労委命令が交付された。この命令は、東京都労働委員会の命令した内容をほぼ全面的に支持し、 営業中の店舗へのビラ配布という組合の情宣活動について、都労委の命令が 「行き過ぎの面があったとも考えられる」 としていた点についても、 当該活動の態様、目的、必要性の観点からの検討を行って、「労働組合の組織、団結を擁護するという労組法の目的(同法1条)に反するところはない。」 と組合の行動が正当なものであったことを明らかにした(命令書27頁)

本命令の意義
  組合側としては、命令の内容そのものは、労働働組合法の規定に則し当然の内容と考えます。 しかし、労働組合組織が現在ない職場で使用者から不当な目に遭った労働者が、 駆け込む先として誰もが雇用形態を問わず加入できる一般労働組合は、 大変重要な存在です。こうした労働組合にとって、団体交渉によって使用者との間で話し合いで問題を解決し、 また、解決の促進の観点でビラまきや街頭宣伝などの宣伝行動を団体行動として行うことは、駆け込み寺として機能するために極めて重要な事項です。
  そしてこれらは、憲法上保障された人権でもあります。 今回のゼンショーの不当労働行為は、この一般労働組合の重要な機能を奪おうとする措置であって、 しかも理由にもならない理由をつけて交渉の機会や東京都労働委員会での不当労働行為救済申し立て手続きをいたずらに引き延ばし、 その意味で組合側は、今回の行為は極めて悪質だと考えています。

  東京都労働委員会がこうしたゼンショーの態度をきっぱりと許されないと弾劾したことは、 ゼンショーの今回の対応が社会で容認されないことを明らかにし、一般労働組合の上記の機能の重要さを公的機関が認証するものであって、 その意味で意義が大きいと考えます。

東京都労働委員会の命令に対する不服申立措置
  東京都労働委員会の救済命令に不服のある使用者は、 命令書が交付された日の翌日から起算して15日以内に中央労働委員会に再審査の申立てをすることができます。 また、命令書が交付された日の翌日から起算して30日以内に、東京地方裁判所に対し、東京都を被告として、 東京都労働委員会の命令の取消しの訴えを起こすことができます。

ゼンショーが再審査申立て
  平成21年11月11日、ゼンショーは、東京都労働委員会の救済命令に不服があるとして、 中央労働委員会に再審査の申立てを行いました。このため、この手続きの舞台は、 東京都労働委員会から、中央労働委員会に移りました。

  ゼンショーは、東京都労働委員会命令に不服があるとして、その理由を補充申立書、準備書面1、2の3通の書面で展開しています。 これに対し組合側は、答弁書及び準備書面1を提出し、東京都労働委員会の救済命令が全く正当であること、 ゼンショーの不服理由は全く理由たり得ないものであること、を主張しています。

中央労働委員会の手続き
  既に中央労働委員会では、平成22年2月8日、同4月5日と、2回の調査(裁判でいう口頭弁論)が行われました。
  1回目には、中央労働委員会から和解の意向がないかが双方当事者に打診されましたが、組合側、ゼンショー側いずれにもその気はない、ということが明らかになり、 和解の手続きは早々に打ち切られ、命令手続きに向かって審理を進めることになりました。
  2回目には、次回の審問(裁判でいう証人尋問)の手続きの審理時間等が決められました。

  5月10日の期日では、組合の書記長、河添誠及び会社の労務担当者の証人尋問を実施しました。
  組合の河添書記長は、組合として組合員の問題を団体交渉で解決する必要性が依然高いこと、会社側が都労委結審後も、 組合員を刑事告訴するなど悪質な対応をしていることを証言しました。会社の労務担当者は、従来の会社の主張を繰り返しました。
  尋問後、ただちに結審しました。

【一言アピール】
  労働組合は、一人ひとりの労働者が、使用者との関係では弱い立場にあることから、使用者と対等平等に協議交渉できるよう、 労働者が団結することを権利として保障されています。 また、団結体である労働組合は、会社と話し合うことが出来なければ意味がないことから、団体交渉することも、権利として保障されています。 団体交渉を拒否するということは、労働組合の団結体としての基礎を認めないことで、許されないことです。

  しかも、私たちの要求は、単純明快です。「法律を守ってよ」。法律通りに時間外割り増し賃金を払ってよ、会社はユニオンとの話し合いをしてよ。 それだけのことにすぎません。

  「すき家」 という、青年なら誰でもアルバイトをするようなポピュラーな職場で、法律通りの権利が認められないので、 法律に従って労働組合をつくって会社と話し合う。
  当たり前の法律どおりの原則ですが、これが実現していないのが今の世の中です。 だから、この当たり前の法律どおりの原則を実現することが、どれだけ世の中を明るく照らすことになるのか、計り知れない価値があると私は思っています。

文責 笹山 尚人弁護士  大山 勇一弁護士