2009.5.15更新

タクシー運転者から家族を奪うな!
〜運賃値下げ誘導通達の違法性を争う訴訟
事件名:タクシー運賃ダンピング認可通達国賠
内  容:国交省が発出した、タクシー運賃を安値誘導しようとする通達
     によって精神的苦痛を受けた運転者らが慰謝料を請求する
     訴訟
当事者:タクシー運転者、タクシー利用者 VS 国
係属機関:東京高等裁判所
  2009年5月12日 控訴棄却判決
      控訴人 (原告) の 声明文
紹介者:村上一也弁護士
連絡先:村上一也弁護士

【事件の概要】
  規制緩和政策の一貫として、タクシー運賃がターゲットにされた。もともと、タクシー業界は、 企業努力により何らかの工夫をして合理化されるものではない点に特徴がある。しかも、タクシー運転手の給料は、完全歩合制になっているところが多い。 そこへ歯止めのない安値競争が始まると、タクシー会社にとっては一台あたりの収益は減少するが (例えば、3万円→2万円)、 増車することで全体の収益は確保できる(例えば、200台→300台)。 しかし、運転者は歩合制のため、給料は減る一方だ (歩合率が5割として、1万5000円/回→1万円/回)。 しかも、タクシー業務は夜勤を伴うため、月に13〜14回しか乗務できない。回数を増やすことはできないのだ。
  現在でさえ、タクシー運転者の給料は、生活保護所帯の収入を下回っているという見方もあるのに、さらに、大口顧客に対する割引などの導入を促す通達が出てしまった。

  タクシー運転手は、我先に乗客を拾おうとして危険な運転をしたり、少しでも多くの乗客を乗せようとしてつい速度を上げてしまう。 家族を養うことすらできなくなるという危機感に押しつぶされそうになりながら…。他方、乗客もそのような運転で自らの安全が損なわれているのではないかと危惧している。

  そこで、タクシー運転者20人と利用者4人がこの通達によって、精神的苦痛を受けたとして東京地裁に国賠を起こした。

【通達の内容】
  問題の通達は、2004年に発せられたもので、簡単な手続きによって、大企業や官庁など大口客に対する割引や特定の曜日による割引を可能とする。 これまでは、値下げにあたって、運転者の給料への配慮などが一応なされていたが、この通達によって、そのような配慮をほとんど不要とした。

  道路運送法が2000年に規制緩和されたことなどによって、大阪などでは運賃が大幅に下がったが、東京では下がらなかったことから、 この通達が発せられたという見方もある。

  【裁判の経過】
  原告らは、ダンピングにあたるなどとして、通達の違法性を主張した。そして、いつしか、この訴訟自体が行き過ぎた規制緩和に対する労働者の抵抗のシンボルとなった。
  現在導入されようとしているタクシー運賃値上げにおいては、値上げ分を運転者の賃金に反映させるような仕組みが導入された。
  しかし、2007年12月13日に下された東京地裁判決はまったく事実を見ようとしないものだった。原告らは直ちに控訴したが、東京高裁は5月12日、控訴を棄却した。
  判決は残念だったが、原告らを支えた全自交労連は、【すでに政府・国土交通省もタクシー規制緩和の見直しへと方針転換を行い、 今国会に台数を抑制し減車を促す 「特別措置法」 を提出するに至っている。一方で民主党は本日、運賃の適正化を主眼とした道路運送法改正案を国会に提出した。
  こうした情勢の変化を導いてきたのは、この裁判闘争であった。 裁判所の不当判決にもかかわらず、ハイタク労働者は運動的に大きな前進を勝ち取ってきたことを確信するところである】と訴訟の意義について語っている。

[参考資料] 東京新聞 こちら特報部 2007.12.14

[参考資料] タクシー「規制緩和」の失敗 ひろばユニオン 2007.12

文責 NPJ編集部