ダムの排砂を止めろ!〜出し平ダム排砂差止め・損害賠償請求事件〜
事件名:ダムの排砂を止めろ!
〜出し平ダム排砂差止め・損害賠償請求事件〜
係属機関:名古屋高等裁判所金沢支部 平成20年(ネ)第211号
(裁判長:渡辺 修明)
次回期日:11月18日(木) 午後1時30分〜
次回期日の内容:和解協議(第1審原告側の意見を聞く予定)。
非公開の手続なので傍聴はできません
紹介者:坂本義夫弁護士
連絡先:黒部川排砂訴訟支援ネットワーク 事務局 TEL 076-463-5607
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【事件の概要】
(1) 当事者
原告:富山県黒部川河口以東で操業する刺し網漁業者及びワカメ栽培組合
被告:関西電力株式会社
(2) 請求の内容の概要
出し平ダムの排砂差止め、排砂による損害の賠償
(3) 請求の原因の概要
関西電力が黒部川上流部に建設した 「出し平ダム」 は、
ダム湖底の土砂を排出 (排砂) する機能を備えたダムである (ダムに土砂が堆積すると水力発電に支障を来すため、排砂機能を設けた)。
関電は、1991年から2007年6月まで、ほぼ毎年のように計15回の排砂を行い、これまでに合計647万立方メートル (東京ドーム五杯分以上。
関電発表値であり実際はもっと多い) ものヘドロ・土砂・有機物を排出した。
この大量の排砂により、黒部川河口以東海域では、ヒラメなどの底物や養殖ワカメが獲れなくなり、刺し網業者やワカメ栽培組合が深刻な被害を被った。
【手続きの経過】
2002年12月4日、関西電力を被告として排砂差止めと損害賠償を求める訴訟を富山地裁に提起した。
2004年8月、富山地裁は、排砂と損害との因果関係を調査するため、公害等調整委員会に対し、原因裁定を嘱託した。
2007年3月28日、公調委は、刺し網漁業 (ヒラメ等の魚類) の不漁は出し平ダムの排砂の影響によるものとは認められないが、
養殖ワカメの不漁は出し平ダムの排砂がワカメの生育環境を悪化させたことによるものである、との裁定を下した。
現在は、公調委の裁定について原被告双方が主張・立証を展開しているところであるが、排砂と損害との因果関係についての主張整理が大詰めの段階に来ている。
その他、損害の存否それ自体、原告の権利主体性等も争点となりうるが、今のところは大きな争点とはなっていない。
11月28日の裁判期日では、被告関電は、公調委の原因裁定に対する反論主張をしてきた。
その要旨は、「ダム底では 『半分解状態の有機物』 なるものは生成しない。」 である。
・12月26日の期日の内容
(原告側)
→請求の拡張 (05年〜06年の各原告の損害の請求)
→準備書面陳述 (=提出の意味です)
(単位漁協を通じて県漁連から被害漁民が受領した漁業補償金の額等を具体的に主張・立証し、原告らの請求額を計算し直して主張した。)
(被告側)
→準備書面陳述
(前回原告側の主張に対する反論=公調委原因裁定に対する批判)
次回期日:2月20日(水) 午後1時30分〜
原告らが県漁連から受領した金員の趣旨・法的性質について主張する。
次々回期日:3月19日(水) 原告本人尋問 (2人の予定)
・2月20日の期日の内容
<原告側の主張>
1 県漁連から受領した金員の趣旨・法的性質等
原告ら (一人を除く) は、1996年〜97年、県漁連からある程度の金員を受領した。
これについて、当時、「排砂に関して補償金が出た」 という程度の説明は受けた。
しかし、原告らは、県漁連や単位漁協に対し、排砂に伴い関電と被害補償交渉を行う権限を与えたことはないし、
単位漁協でそのような権限を与える旨の組合員総会決議がなされたわけでもない。
また、県漁連が関電との間で、いかなる交渉を行い、いかなる合意をし、いかなる根拠で誰にどれだけの金員を配分したかは知らされなかった。
したがって、受領した金員の趣旨・性質は、原告らには正確には分からない。
ただし、この点の争いを避けるため、受領金員分の請求を減縮した。
2 原告らの交付した 「領収証兼確認書」 の意味
原告ら (一人を除く) は、上記金員の受領時、過去・将来の排砂にかかる一切の損害を填補するものとして金員を受領した旨の 「領収証兼確認書」 に署名・
押印させられた。
この書面の趣旨・法的効果については、十分な説明もなく署名・押印させられたこと、
同様の書面を2通作らされた原告が数名いることから 「例文」 に過ぎないこと等により、原告らが請求を失わせるものではない。
3 被告側学者の意見書に対する反論
被告提出の学者の意見書に対し、既提出の他の証拠を多数引用しながら、詳細な反論を行った。
<被告>
上記1、2に対し、次回まで反論する。
・3月19日の期日の内容
1 原告のうちの1人の本人尋問
2 証人 (原告であるワカメ栽培組合の組合員) 尋問
注) 原告の尋問は、「証人」 尋問とは言いません。
本人尋問、証人尋問によって、以下の事実が明らかになりました。
(1) 平成8年に県漁連の参事が説明したところでは、今後 (平成8年以後) の排砂では、これ以上有害な物質は排出されず、
排砂による被害は出ない見込みであるとのことであった。
(2) それを前提に、平成8年末、漁業被害補償金とされる金員を受け取り、今後は異議を述べないと記載された書面に署名したが、
刺し網での漁獲高は平成9年〜10年ころに激減し(本人尋問)、ワカメは壊滅的打撃を受けて休業に追い込まれた(証人尋問)。
(3) 漁業被害補償金がどこからどのような経緯で支払われたのかについては、明確な説明は受けていない。
6月11日の期日では、原被告が最終準備書面を陳述し、原告代表の佐藤宗雄氏が最終の意見陳述を行いました。
佐藤氏は、排砂後にヒラメが激減したことをあらためて訴え、漁業被害を出さないダムの運用を求めました。
本件訴訟はこの日結審しました。
2008年11月26日、原告一部勝訴の判決が出ました。
(判決概要)
1 被告は、原告わかめ栽培組合に対し、約2728万円を支払え。
2 原告のその余の請求 (他の漁業者の損害賠償請求、排砂差止請求) を棄却する。
判決について、原告側は、出し平ダム排砂のワカメへの悪影響を認めた点については高く評価していますが、
他の魚種 (ヒラメ等)・漁業 (刺し網) に対する悪影響を認めなかったことや、
ワカメへの悪影響=漁業行使権侵害を認めながら排砂の差止めを認めなかった判断には不服であるため、2008年12月10日、
名古屋高等裁判所金沢支部に控訴しました (なお、原告の1人は諸事情により控訴を断念しました)。被告関西電力も12月5日に控訴しています。
〈控訴審〉
控訴審第1回口頭弁論 (2009年5月13日)の内容は以下のとおりです。
(1) 第1審原告ら側書面の陳述
→控訴状、請求の変更申立書、控訴理由書、準備書面(1)(2)
(2) 第1審被告側書面の陳述
→控訴状、控訴理由書、控訴答弁書
(3) 第1審原告らの予定
書証の追加
証人申請 (水産資源学,海底環境に関する専門家証人)
→8月末までに。
(4) 第1審被告の予定
意見書または証人申請 (ワカメに関する専門家)
→8月末までに。
2010年8月30日の期日では、原告2名の本人尋問がなされました。
1991年の初回排砂以降ヒラメその他の漁獲量が減少したこと、現在も低迷が続いていることが明らかとなりました。
2010年11月1日(月)、控訴審(名古屋高等裁判所金沢支部)の最終弁論期日がありました。
第1審原告(漁業者)側は、出し平ダムの排砂と漁業被害との因果関係等についてまとめた最終準備書面を提出・陳述しましたが、
第1審被告(関西電力)側は最終準備書面は提出しませんでした。
この日で弁論は終結し、判決期日が2011年4月13日(水)午後1時20分と指定されました。
しかし、裁判所が、判決までの間に和解協議をしたいとして当事者双方に和解を勧告、当事者双方ともこれを受け入れたため、
今後和解協議がなされることになりました。
出し平ダムの排砂を巡っては、関西電力を相手とする本件訴訟のほか、
関西電力から40億円を超える賠償金等を得たのにその大半を漁業者に配分せず保持している富山県漁連を相手として、
受領金の引渡を請求している別訴も名古屋高裁金沢支部(本件と裁判官の構成が同じ)に継続中です。
裁判所は、この別訴と本件とが矛盾しないような一括解決を検討しているものと思われます。
第1回和解協議は11月18日(木)に予定されており、この日は第1審原告側の意見を聞くこととなっています。
【一言アピール】
黒部川には、毎年梅雨の時期、出し平ダムの排砂により、「ドブ臭」 のする土砂・ヘドロが大量に流されている。
かつて日本一の清流と称された黒部川が、排砂時にはドブ川に変貌するのである。
これまでにたれ流された「ドブ臭」のする土砂・ヘドロは、東京ドーム5杯分以上。これが河口付近の海域に悪影響を与えないとは誰が言えようか。
公調委は、魚類への悪影響は認めなかった(ただし、悪影響を認めるべき証拠が不十分であるとの論調)が、養殖ワカメについては明確に悪影響を認めている。
本件の根本的な打開策としては、排砂ゲートを常時開放または頻繁に開放するという方法もあるだろう。原告らは、そのような解決にも応じる用意がある。
支援グループ 「黒部川排砂訴訟支援ネットワーク」 の HP
文責 弁護士 坂本義夫
この写真は出し平ダムではなく、同ダムと連携して排砂している宇奈月ダム(国交省所管)のものです。この写真と同様にどす黒いヘドロ・土砂が出し平ダムで排砂されています。
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