2009.7.8更新

植草一秀氏 名誉回復訴訟
事件名:損害賠償請求訴訟
内  容:週刊誌やテレビによる報道を名誉毀損として植草一秀氏が
     提起した損害賠償請求訴訟
当事者:植草一秀氏 vs
        講談社、小学館、徳間書店、毎日新聞社、朝日放送
係属機関:東京地方裁判所
次回期日
   (1) 徳間書店:190万円の賠償金の支払いを認めた地裁判決
             (2008.5.21) が確定
   (2) 毎日新聞社:2009年2月18日、東京高裁は、原告の請求を全
              て棄却
              2009年6月23日、最高裁が上告棄却の決定、
              東京高裁判決が確定
   (3) 講談社:110万円の賠償金の支払いを認めた地裁判決
            (2008.7.28) が確定
   (4) 小学館:2008年4月4日、謝罪広告掲載、慰謝料100万円で
            和解成立
   (5) 朝日放送:2008年10月23日、謝罪、和解金の支払、お詫び
             放送を行う和解が成立しました。
紹介者:梓澤和幸弁護士
連絡先:東京千代田法律事務所 TEL 03-3255-8877


【事件の概要】
  原告は、現在刑事事件について冤罪を主張して争っている著名な経済学者である。 その筆鋒は鋭く、最近の著書 「知られざる真実 ─勾留地にて─」 でも、小泉政権のとってきた経済政策がどのように今の日本経済に困難をもたらしたか、 また、格差社会における庶民の生活に困難をもたらしたかをわかりやすく心に染み入るように書いている。

  植草氏が冤罪事件で逮捕されるや、植草氏の人格をあざ笑い、水に落ちた犬はたたけとばかりの名誉毀損・プライバシー侵害報道が、 週刊誌や一部のテレビ・ニュースショーで展開された。ランビック に参加する梓澤、飯田、坂井、殷、 西岡の5名の弁護士、これに大西、高橋弁護士を加えた7名からなる弁護団は、英知を集め、困難の最中にある植草氏とともに名誉回復のために奮闘中である。

写真週刊誌 「フライデー」 に対する損害賠償請求事件 ‘勝訴’!
  植草一秀氏が、「フライデー」 に対する名誉毀損訴訟において、2008年7月28日、東京地方裁判所民事第33部の法廷において110万円の勝訴判決を得た。

  植草氏が逮捕された際、過去に複数回、同種の条例違反の前歴があると報道した記事が、全く真実性の証明もできない虚偽のものであり、 また、記事の根拠 (真実相当性) もないとした明快な判決であった。 特に、日本新聞協会加盟の新聞社や警察関係者からの情報に基づいて報道したとの被告 (株式会社講談社) らの主張に対し、 仮にそれが事実だとしても、それだけでは真実性の客観的裏付けにはならないと退けたのは痛快であった。 警察情報に一方的に依存する、松本サリン事件以来指摘されてきた新聞社を含む犯罪報道の構造にメスを入れた重要な判決と考える。 判決当日、テレビ各社のカメラを含め、司法記者クラブの記者席がほぼ満席となったことは、植草氏の事件についての社会的関心の高まりを感じさせた。 その場において弁護団は以下のコメントを発表した。

弁護団のコメント
  「本日、東京地方裁判所民事33部において、植草一秀氏と、週刊誌 「フライデー」 を発行する株式会社講談社及び 「フライデー」 誌編集長との間の訴訟 (平成19年(ワ)第9897号 損害賠償等請求事件) において、被告らに対し、原告に110万円の支払を命じる判決が下されました。

  本件は、講談社発行の 「フライデー」 誌2004年4月30日号において、植草一秀氏に関する虚偽の前科事実等を掲載し、 同氏の名誉を毀損したことについて損害賠償請等を求めたものです。 本日の東京地裁判決では、以下のとおり、講談社の記事内容に真実性も、また、そのような記事を掲載することについての相当性も認められないと判断されました。

  判決は、講談社の取材経緯について、「結局、取材班は、報道関係者らの間の噂に基づき、客観的な裏付けもないまま、 電話取材に対するAの回答からの感触のみに基づいて、極めて短時間のうちに自らの判断により本件名誉毀損部分を含む本件記事を作成し、 入稿を終了したものというほかない。」 と判断し、メディアの取材のあり方、 特に捜査機関等からのリーク情報に関して自らの責任で裏付け取材を行わないような取材のあり方に警鐘を鳴らしています。

  原告としては慰謝料額についてはさらに増額されても良かったのではないかと考えますが、 上記のようなメディアの無責任な取材方法によって作成された記事については、その真実性・相当性の何れも認定することできない、 と判決において明確に判断されている点は高く評価できるものと考えます。

【手続きの経過】
  植草一秀氏の虚偽の前科に関わる報道について提訴した下記の各訴訟は、仮に刑事事件の対象とされた人に対してであっても、 個人の尊厳は何ものに優るという価値 (憲法13条、憲法前文における基本的人権尊重主義) に立脚すれば、 水に落ちた犬は叩けと言わんばかりの 「弱いものいじめ」 の報道は決して許されるものではないと戸の立場から提訴に及んだものです。

  刑事事件に関わる相当な範囲での報道は、原則として、報道の自由により保護されると考えます。 しかし、提訴した5件の訴訟で問題とした記事は、植草氏の前歴等についての虚偽の事実を伝えるものであり、しかも、十分な取材が尽くされたものとは言えず、 記事としての真実性・相当性を欠くものでありました。

  以下は、関連訴訟に関する現在までの経過です。

・ 対小学館 (女性セブン) 東京地裁民事第41部
  2008年4月4日、同誌への謝罪文の掲載及び植草氏への100万円の支払を内容とする和解が成立しました。なお、謝罪文は同誌6月12日号に掲載されました。

・ 対徳間書店 (アサヒ芸能) 東京地裁民事第34部
  2008年5月21日、植草氏に対する名誉毀損を全面的に認め、同氏への190万円の支払を命じる判決が下され、既に確定しています。

・ 対講談社 (フライデー) 110万円の賠償金の支払いを認めた地裁判決 (2008.7.28) が確定。

・ 対毎日新聞社 (サンデー毎日) 2008年9月8日、東京地方裁判所民事第42部の法廷において33万円の勝訴判決
  2009年6月23日、東京高等裁判所において、原告の請求を棄却する判決
  2009年6月23日、最高裁判所において、上告棄却、上告受理しない旨の決定。高裁判決が確定。

・ 対朝日放送 (ムーブ!) 東京地裁民事第39部
  2008年10月23日、和解が成立しました。
  〈和解の骨子)
1、朝日放送は、事実無根の情報を伝え、植草氏の名誉を毀損したものであることを認め、植草氏に謝罪する。
2、朝日放送は、和解金を植草氏に支払う (金額は公表しない旨合意した)。
3、朝日放送は、和解で確定した内容の文章を2回読み上げる方法でお詫び放送を行う。
4、朝日放送は、上記3のお詫び放送を行う間、画面にお詫び文の要旨を表示する。

  10月30日に、朝日放送で2回お詫び放送が放映されました。

文責 NPJ編集部