2009.5.10更新

ウミガメを守ろう!〜奄美大島自然の権利訴訟

事件名:戸円砂利採取事件
内  容:住民約50人がウミガメを原告に加え、大島郡内の砂販売業者
     に海砂の採取中止を求めている訴訟
当事者:周辺住民+ウミガメ VS 砂販売業者
係属機関:福岡高等裁判所宮崎支部
  2009年4月24日判決言い渡し。控訴棄却されました。
  原告らは上告しました。
紹介者:籠橋隆明弁護士
連絡先:自然の権利ホームページ


【事件の特徴】
  開発などによって危機にひんした自然を守るため、人間が動物を代弁する 「自然の権利訴訟」 として2003年7月に提訴されました。

【弁護団による事件の説明】
  奄美大島大和村 (やまとそん) 戸円 (とえん) 集落には、戸円浜とヒエン浜という二つの美しい浜が並んでありました。 戸円浜は、黒い砂浜で山からの砂が積もってできあがりました。ヒエン浜は、沖合がサンゴの広がる海なので、サンゴが砕けて砂となり、白い砂浜となりました。 かつては、砂がこんもりと盛り上がりウミガメが産卵に来ていたのですが、砂が減少し、かつての美しさは無くなってしまいました。 これは沖合で行われている海砂の採取が原因なのです。そこで、戸円集落の人たちが砂浜を取り戻すために裁判を始めました。

  砂浜はいまではすっかり荒れてしまい、ヒエン浜では白い砂はほとんど無くなってしまいました。 かわって、漬け物石のような大きな石がごろごろしており、かつての姿は見る影もありません。
  奄美大島は亜熱帯性の気候で、沖縄と同じような浜となっています。砂浜に沿ってアダンの林があり、さらにその奥にはソテツの畑があります。 砂が無くなったおかげで波がアダンの林を襲い、アダンの堤防はいくつか決壊し、奥のソテツ畑まで波が来るようになってしまいました。 奄美大島では海は信仰と深く結びついています。砂浜が無くなるということは奄美の人たちが大切にしてきた文化も無くなるということを意味します。

  裁判では、かつての砂浜が本当にたくさんの砂を蓄えていたのか、砂利採取が砂浜の減少の原因であるのか、が争われています。 既に美しい浜は失われていますから、昔の砂浜の様子を明らかにすることは容易ではありません。 私たちは集落の人たちからの聞き取りを行い砂浜にまつわるエピソードを集めています。直近では、4月28日と29日に行いました。
  かつて、奄美の人たちは三月節句、五月節句、ハマオレ、など行事があるごとに浜に降りて皆で祝っていました。 幼稚園、小学校では浜で野外観察会が行われたりしていました。毎日のように浜に出て、終日過ごし、おなかが空くと海のタコや貝、魚をとって食べ、 のどが乾くと木の実や幹から水分を補給するというような子供時代を過ごした方もいます。 皆、砂にまつわる思い出を持っており、裁判では集落の人たちの記憶をたどり、砂浜を再現します。

  また、この裁判では多くの研究者の方々にも協力して頂いています。 東京大学の清野先生は砂浜の専門家として、衛星写真などを利用してかつての砂浜を再現しています。 また、海という複雑な現象を最新のコンピューターを使って解析し、沖合で行われている海砂採取によって海の中に大きな穴があき、 それが砂浜を減少させているのだ、ということを明らかにして頂きました。 京都大学の加藤先生には、かつて住んでいた貝や、カニの種類を分析することによって、それらが豊かな砂浜でしか生息できないことを明らかにして頂きました。

【手続きの経過】
  鹿児島地裁の高野裕裁判長 (山之内紀行裁判長代読) は漁獲量や砂浜の減少と海砂採取との因果関係を認めず、原告住民らの請求を棄却しました。

【一言アピール】
  1995年2月に提訴された奄美自然の権利訴訟は、「動物が人間を訴えた!?」 と報道され、注目を集めました。 この裁判では、アマミノクロウサギやアマミヤマシギ、ルリカケス、オオトラツグミも、ゴルフ場建設に反対して、種として訴状の原告欄に名を連ねているのです。 このように原告名に動植物や自然物そのものを連ねたり、象徴的に取り扱う自然保護訴訟が現在6つあります。

  [自然の権利] の解釈の仕方は各人各様で、いま行われている自然の権利訴訟のどれかひとつをとって、「これが自然の権利訴訟だ」 と理解されてしまうと、 ちょっと困ってしまいます。しかし、裁判に訴えてでも開発から守りたい場所(自然)がある人々の気持ちや考え方には共通点が多くあります。
  ひとつは、自然保護を裁判という議論の場に持ち込んだこと。これによって、これまで開発側との間で成り立っていなかった議論を行い、 資料を提出してつき合わせることができるようになります。動機はさまざまであれ、長年かかわり合いを持ってきた自然が改変されるとき、 物言わぬ生き物たちの代弁をかって出たいという発想が共感を呼んでいる面もあります。もちろん 「奇策」 として、問題の所在を人々に広く知らせる効果もあります。
  語感から 「動物の権利 (アニマルライト)」 と混同されますが、いくつかの明かな違いがあります。
  なお、現在進行している自然の権利訴訟の代理人(弁護士)たちは、大きく分けると関西・中部を主力にした籠橋隆明弁護士らのチームと、 東京の坂元雅行弁護士らのチームの二つがあります。

  籠橋弁護士らは、奄美自然の権利訴訟と諌早湾自然の権利訴訟を手がけ、98年暮れに、中部地方最強 (自称) の弁護団を結成し、 藤前自然の権利訴訟を提訴しました。籠橋弁護士はゴルフ場・リゾート開発を手がけてきた方で、開発の是非を問われる問題を多く扱っています。

  坂元弁護士らは、オオヒシクイ自然の権利訴訟と生田緑地・里山・自然の権利訴訟を主に手がけています。 小原秀雄女子栄養大学名誉教授 (動物行動学) らと協力した活動が多く、CITESへのオブザーバー参加や、野生生物保全論研究会での活動など、 動物保護に精力的に関わっています。

  これらの裁判を起こした人々のそれぞれの考え方や、弁護士・研究者の論文、訴状は、 『報告 日本における [自然の権利] 運動』 (山洋社) でまとめて読むことができます。


NPJ編集部