保育所民営化反対控訴審〜一審では画期的勝訴!
事件名:横浜市立保育園廃止処分取消請求事件
内 容:市立保育園の民営化を阻止するための訴訟
当事者:園児及び保護者 VS 横浜市
係属機関:最高裁判所
2009年11月26日 保護者敗訴するも、条例制定は訴訟対象となるとの新判断
紹介者:秦 雅子弁護士
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【事案の概要】
本件は、横浜市が市立保育所のうち4つの保育所を、平成16年3月31日をもって廃止する内容の条例を制定し、
その施行に伴ってこれらの保育所は民間の社会福祉法人が運営することとなったところ、
廃止された各保育所に入所していた児童及びその保護者である原告らが、横浜市に対して、上記条例の制定は、
原告らの保育所選択権等を侵害するものであって違法であるとして、「廃止処分」の取消しを求めるものです。
同時に上記処分等により被った精神的損害についての賠償を求めた事案です。
一審は、2006年5月22日、横浜市の性急すぎる民営化の手続きは違法と指摘し、現在も保育園に通う園児の保護者について、1世帯あたり10万円、
合計280万円の支払いを命じました。その後、横浜市が控訴し、次回控訴審判決が下される予定です。
一審判決は、非常に画期的なので、以下、判決の内容を詳細にご報告します。
【一審判決の概要その1〜民営化の影響について】
本件民営化が実施された場合、平成16年4月1日を境にして保育士等の大部分が入れ替わることになる。
例えば、保護者の転勤等で児童が保育所を変わる等のことは珍しいことではないが、このような場合は、
一定の保育環境が確立している保育所に当該児童が入っていくのであり、受け入れる保育所側も当該児童に対して特別の配慮をすることが可能である。
民営化の場合には、移管先保育所の保育環境が十分に確立していないところに、本件4園でいえば60人から150人もの児童が同時に新たに受け入れられるのであり、
保育所側でも個々の児童の把握に困難があることは否定できない。
この保育環境の変化に対する個々の児童の反応は様々であると思われるし、将来的な予測は困難としても、
少なくとも民営化後相当の期間にわたって相乗的な混乱が起こるであろうことは容易に想像できる。
【一審判決の概要その2〜違法性について】
入所児童がいる保育所を民営化するについては、
当該保育所で保育の実施を受けている児童及び保護者の特定の保育所で保育の実施を受ける利益を尊重する必要があり、
その同意が得られない場合には、そのような利益侵害を正当化し得るだけの合理的な理由とこれを補うべき代替的な措置が講じられることが必要であると解される。
本件改正条例制定時点において、本件民営化について大方の保護者の承諾が得られているとはいい難い状況であった。
のみならず、これら保護者と被告との関係は、本件民営化に向けて建設的な話し合いが期待できるという状況にはなく、
早急に信頼関係の回復が見込める状況にもなかったといわざるを得ない。
そして、横浜市が主張していた3か月の引き継ぎ及び共同保育期間ということについては、十分な根拠があるとはいえないし、
保護者の納得が得られていない状況下では、なおさらのことといえる。
このような状況下にあった平成15年12月18日の時点で、平成16年4月1日に本件民営化を実施しなければならないといった特段の事情があったとはいえない。
このような民営化は、児童及び保護者の特定の保育所で保育の実施を受ける利益を尊重したものとは到底いえない。
よって、横浜市が、本件改正条例の制定によって、上記民営化を平成16年4月1日に実施する (平成16年3月末日をもって本件4園を廃止する。) としたことは、
その裁量の範囲を逸脱、濫用したものであり、違法であると認めるのが相当である。
【一審判決の概要その3〜事情判決について】
本件4園が廃止されてから既に2年余りが経過しており、既に保育所の建物、敷地は売却ないし貸与され、
保育士等もそれぞれ新たな職場で勤務しているものと推測されるから、上記取消しによって法的には横浜市の設置する保育所としての地位を回復するとしても、
現実問題として従前の保育環境が復活するわけではない。
そして、その一方で、上記期間の経過によって、本件各新保育所では新たな保育の環境が形成されるとともに、
新たに同保育所で保育の実施を受けるに至った児童も存在するものと考えられる。
現時点で本件改正条例の制定を取り消すことは、これらの新たな秩序を破壊するものであり、無益な混乱を引き起こすことにもなりかねない。
そこで、本件改正条例の制定を取り消すことは公の利益に著しい障害を生じるものであり、公共の福祉に適合しないものと認められるから、
行政事件訴訟法31条1項を適用して、本件改正条例の制定が違法であることを宣言することにとどめ、原告らの請求は棄却することとした。
【一審判決の概要その4〜国家賠償請求について】
横浜市が本件4園を廃止することが直ちに原告らに対する不法行為になるとまでは解されないが、横浜市としては、
平成16年4月1日以降も保育期間が満了しない児童らが本件4園で保育の実施を受ける予定であったのであるから、
本件4園を廃止、民営化する場合には、これによる児童への悪影響を最小限にとどめるに必要な措置をとり、
また、そのような観点に立って民営化の実施時期を定めるべき注意義務を負っていたものといえる。
そして、本件改正条例の制定により、本件4園を廃止、民営化する時期を平成16年4月1日としたことが、
その裁量権を逸脱、濫用したもので違法と解されることは前述したとおりであり、上記の注意義務に照らすならば、
この点は国家賠償法上も原告らに対する違法行為となるものと解される。
【控訴審判決】
2009年1月29日、渡辺等裁判長は、民営化を違法とした1審判決を取り消し、訴えを全面的に退けた。
【最高裁判決】
2009年11月26日、最高裁第一小法廷(桜井龍子裁判長)は、保育園を廃止・民営化した条例制定について 「訴訟の対象となる行政処分に当たる」 との初判断を示した。
しかし、今回の取り消し請求については、すでに園児が卒園していることから「訴えの利益がない」として、上告を棄却した。
最高裁判決の全文
※資料
大阪府大東市の保育所民営化に関する大阪高裁判決に関する解説
(保護者側が損害賠償を得た画期的判決・処分取消は否定)
地裁、高裁、最高裁のアウトライン
【弁護団・原告団コメント】
弁護団の海渡雄一弁護士は 「特定の保育園で保育を受ける地位をはっきりと認めた判決。
今後も、民営化に悩む全国の親たちが行政訴訟を起こすことができる」 と評価。
原告団代表の金道敏樹さん(50)は 「全国の子どもや父母にいいプレゼントができた」 と笑顔で話した。(東京新聞より)
文責 NPJ編集部
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