保育所民営化反対控訴審〜一審では画期的勝訴!
事件名:横浜市立保育園廃止処分取消請求事件
内 容:市立保育園の民営化を阻止するための訴訟
当事者:園児及び保護者 VS 横浜市
係属機関:東京高等裁判所
2009年1月29日 保護者敗訴判決、保護者らは上告受理申立。
参考記事 (JANJAN)
紹介者:秦 雅子弁護士
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【事案の概要】
本件は、横浜市が市立保育所のうち4つの保育所を、平成16年3月31日をもって廃止する内容の条例を制定し、
その施行に伴ってこれらの保育所は民間の社会福祉法人が運営することとなったところ、
廃止された各保育所に入所していた児童及びその保護者である原告らが、横浜市に対して、上記条例の制定は、
原告らの保育所選択権等を侵害するものであって違法であるとして、「廃止処分」の取消しを求めるものです。
同時に上記処分等により被った精神的損害についての賠償を求めた事案です。
一審は、2006年5月22日、横浜市の性急すぎる民営化の手続きは違法と指摘し、現在も保育園に通う園児の保護者について、1世帯あたり10万円、
合計280万円の支払いを命じました。その後、横浜市が控訴し、次回控訴審判決が下される予定です。
一審判決は、非常に画期的なので、以下、判決の内容を詳細にご報告します。
【一審判決の概要その1〜民営化の影響について】
本件民営化が実施された場合、平成16年4月1日を境にして保育士等の大部分が入れ替わることになる。
例えば、保護者の転勤等で児童が保育所を変わる等のことは珍しいことではないが、このような場合は、
一定の保育環境が確立している保育所に当該児童が入っていくのであり、受け入れる保育所側も当該児童に対して特別の配慮をすることが可能である。
民営化の場合には、移管先保育所の保育環境が十分に確立していないところに、本件4園でいえば60人から150人もの児童が同時に新たに受け入れられるのであり、
保育所側でも個々の児童の把握に困難があることは否定できない。
この保育環境の変化に対する個々の児童の反応は様々であると思われるし、将来的な予測は困難としても、
少なくとも民営化後相当の期間にわたって相乗的な混乱が起こるであろうことは容易に想像できる。
【一審判決の概要その2〜違法性について】
入所児童がいる保育所を民営化するについては、
当該保育所で保育の実施を受けている児童及び保護者の特定の保育所で保育の実施を受ける利益を尊重する必要があり、
その同意が得られない場合には、そのような利益侵害を正当化し得るだけの合理的な理由とこれを補うべき代替的な措置が講じられることが必要であると解される。
本件改正条例制定時点において、本件民営化について大方の保護者の承諾が得られているとはいい難い状況であった。
のみならず、これら保護者と被告との関係は、本件民営化に向けて建設的な話し合いが期待できるという状況にはなく、
早急に信頼関係の回復が見込める状況にもなかったといわざるを得ない。
そして、横浜市が主張していた3か月の引き継ぎ及び共同保育期間ということについては、十分な根拠があるとはいえないし、
保護者の納得が得られていない状況下では、なおさらのことといえる。
このような状況下にあった平成15年12月18日の時点で、平成16年4月1日に本件民営化を実施しなければならないといった特段の事情があったとはいえない。
このような民営化は、児童及び保護者の特定の保育所で保育の実施を受ける利益を尊重したものとは到底いえない。
よって、横浜市が、本件改正条例の制定によって、上記民営化を平成16年4月1日に実施する (平成16年3月末日をもって本件4園を廃止する。) としたことは、
その裁量の範囲を逸脱、濫用したものであり、違法であると認めるのが相当である。
【一審判決の概要その3〜事情判決について】
本件4園が廃止されてから既に2年余りが経過しており、既に保育所の建物、敷地は売却ないし貸与され、
保育士等もそれぞれ新たな職場で勤務しているものと推測されるから、上記取消しによって法的には横浜市の設置する保育所としての地位を回復するとしても、
現実問題として従前の保育環境が復活するわけではない。
そして、その一方で、上記期間の経過によって、本件各新保育所では新たな保育の環境が形成されるとともに、
新たに同保育所で保育の実施を受けるに至った児童も存在するものと考えられる。
現時点で本件改正条例の制定を取り消すことは、これらの新たな秩序を破壊するものであり、無益な混乱を引き起こすことにもなりかねない。
そこで、本件改正条例の制定を取り消すことは公の利益に著しい障害を生じるものであり、公共の福祉に適合しないものと認められるから、
行政事件訴訟法31条1項を適用して、本件改正条例の制定が違法であることを宣言することにとどめ、原告らの請求は棄却することとした。
【一審判決の概要その4〜国家賠償請求について】
横浜市が本件4園を廃止することが直ちに原告らに対する不法行為になるとまでは解されないが、横浜市としては、
平成16年4月1日以降も保育期間が満了しない児童らが本件4園で保育の実施を受ける予定であったのであるから、
本件4園を廃止、民営化する場合には、これによる児童への悪影響を最小限にとどめるに必要な措置をとり、
また、そのような観点に立って民営化の実施時期を定めるべき注意義務を負っていたものといえる。
そして、本件改正条例の制定により、本件4園を廃止、民営化する時期を平成16年4月1日としたことが、
その裁量権を逸脱、濫用したもので違法と解されることは前述したとおりであり、上記の注意義務に照らすならば、
この点は国家賠償法上も原告らに対する違法行為となるものと解される。
【控訴審判決】
2009年1月29日、渡辺等裁判長は、民営化を違法とした1審判決を取り消し、訴えを全面的に退けた。
※資料
大阪府大東市の保育所民営化に関する大阪高裁判決に関する解説
(保護者側が損害賠償を得た画期的判決・処分取消は否定)
地裁、高裁、最高裁のアウトライン
【原告団声明】
「横浜市のやり方は間違っている」という一審の判断が維持されず、本当に残念です。保育園は 「明日を信じられるところ」 であることが、大切だと思います。
「明日を信じられること」は、子どもたちだけでなく、人にとって幸せの出発点です。
今日と明日の繋がりを断ち切る保育園の民営化は、この幸せの出発点を奪ってしまいます。
子どもの怪我は10倍以上に増え、どの園でも、子どもの園からの脱走、赤ちゃん返りなど、心への影響が現れます。
そして、親には、子どもの怪我、赤ちゃん返りなどは、子どもからの発育が順調ではないというサインとして、のし掛かります。
それなのに、自分は子どもを守ってあげられないという無力感が、絶え間なく親を襲います。渦中にいらっしゃらない方には信じて頂けないかもしれませんが、
子どもの保育のことを考えたくないという精神状態にまで親が追い込まれることは、珍しいことではありません。
私たちは、こうした子どもと親の辛い現実を裁判所に理解してほしいと思っていました。
一方、横浜市は、「保護者が選べるのは、認可園にするか無認可園にするだけ」 とか、「親が子どもを預けることを躊躇するようにならなければ、
保育の内容は変わったとは言えない」 という暴論にたって、平成16年から保育園を売り始め、いまもそれを押しすすめています。
こうした横浜市のやり方は、国の 「保育指針」 や、横浜市の 「よこはまの保育」 に書いてある保育の原理、
一言で言えば 「子どもを大切にしようという心」 に反している、と私たちは訴えてきました。
今回の判決は、保育の原理からかけ離れた横浜市の主張を追認しており、どう考えても、不当なものです。
しかし、私たちは希望を失っていません。「子どもを大切にする」 ことは、時代を超えて正しいことだと思います。
いつの日か、今回の判決が改められ、第一審の判断の良識が認められることを、私たちは信じています。
今回、私たちの声と願いは、裁判所に届きませんでしたが、保育政策に関わる全ての人が、箱から人へと、そして何より 「子ども第一」 へと、
明日を信じられる保育政策へと方向転換を図ってくれることを、私たちは心より願っています。
最後に、この裁判に興味を持つという形で、個人寄付、団体としての寄付という形でこの裁判を支援してくださった方々に心より感謝申し上げます。
そして、この裁判を支えて下さった、代理人の海渡先生、秦先生、猿田先生、金高先生には感謝の言葉もございません。本当にありがとうございました。
文責 NPJ編集部


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