2013.7.3更新

横須賀強盗殺人米兵事件

事件名:横須賀強盗殺人米兵事件
内  容:加害米兵及び国を被告とする損害賠償請求事件
2013年6月26日付けで、最高裁判所第二小法廷(小貫芳信裁判長)が、 山崎さんの上告を棄却する、上告審として受理しないとの不当決定を出しました。
紹介者:中村晋輔弁護士
連絡先:「山崎さんの裁判を支援する会」
     〒231-0062 横浜市中区桜木町3-9
     平和と労働会館3F
     電話 045-201-3684 FAX 045-201-9644


【事件の概要】
  この訴訟では、米兵に殺害された佐藤好重さんの夫である山崎正則さんらが、加害米兵及び国を被告として、損害賠償請求をしています。

  平成18年1月3日早朝、神奈川県横須賀市において、空母キティホークの乗組員であった在日米海軍所属の米兵が、通行中の女性から現金を奪う目的で、 たまたま通りがかった何の罪もない佐藤好重さんを、極めて残虐な方法で殺害しました。

  佐藤好重さんは当時、出勤途中でした。加害米兵の残虐な犯行については、準備書面の中で具体的に論じています。
加害米兵は飲酒の後、早朝の時間帯に本件犯行に及んでいますが、米兵が飲酒をして、 深夜早朝に犯罪を起こす傾向は顕著なものです (提訴後、原告側は数多くの米兵犯罪統計等を入手しています)。
  なお、加害米兵は、横浜地方裁判所において強盗殺人罪で無期懲役判決を受けております。

【なぜ国も被告とするのか】
  国に対する損害賠償請求の根拠規定は、 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに 日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う民事特別法 (民特法) 第1条、 国家賠償法第1条です。

  在日米海軍上司は、米兵による凶悪犯罪、飲酒時の犯罪、深夜早朝の犯罪などが頻発している実態をふまえて、24時を門限とする外出禁止措置、 24時以降の飲食店街への立入禁止措置、飲酒禁止措置をとるなどして本件犯行を未然に防止することが可能であったなどとして、 原告側は在日米海軍上司の監督義務違反を主張しています。

  また、国は米兵による凶悪な犯罪から国民の生命を守る義務がありながら、警察法、警察官職務執行法の規定に基づく現場パトロール、職務質問、 避難の措置等の指揮監督を行わなかったなどとして、原告側は国の作為義務違反も主張しています。

  この事件は加害米兵が職務時間外に起こした事件ですが、そのことをもって加害米兵に対する在日米海軍上司の監督義務違反は否定できません。 残虐な殺害方法は、まさに殺人訓練をしている米兵だからこそできたはずです。 しかも、加害米兵は、当時、米海軍における職務につきストレスを溜めていたことや、米国に帰国できないことに不満を募らせていたことが、 取り寄せた刑事記録から明らかになっています(なお、墨塗り部分が多いまま刑事記録が開示された点は問題であると考えています)。
  それゆえ、本件犯行は米海軍の職務と無関係なものではないのです。

【手続きの経過】
  1月23日の期日では、原告の山崎正則さんの本人尋問が行われました。
  山崎さんは、米兵に好重さんを極めて残虐な方法で殺害された悔しい気持ちを語り、 人を殺す訓練をされた米兵に街で酒を飲ませたらどういうことになるか容易にわかるはずだとして、国を厳しく批判しました。

  5月7日の期日の内容
  横須賀刑務支所での加害米兵の被告本人尋問が行われました。
  日本で米兵犯罪が頻発しているにもかかわらず、在日米海軍が兵士に対し犯罪防止のための指導をしていないことが明らかになりました。
  加害米兵は、自分の上官の名前を覚えていないなどと述べるなど、不誠実な態度に終始しました。

  7月2日の期日の内容
  弁論更新にあたり,原告ら代理人弁護士3名による意見陳述が行われました。
  裁判所から在日米海軍司令部に対して文書送付嘱託、調査嘱託が行われることになりました。

  9月10日の期日の内容
  弁論更新にあたり原告の山崎正則さんの意見陳述が行われ、山崎さんは、米軍の監督責任を認め、 国の米兵犯罪防止対策の不十分さを厳しく指摘する判決を求めました。

  12月3日の期日の内容
  横須賀市の前基地対策課長に対する証人尋問がおこなわれました。
  横須賀市の米兵犯罪防止に取り組む姿勢に疑問をいだかざるを得ないような証言内容でした。

  3月11日の期日の内容
  傍聴席が満席となった法廷で、弁論の終結にあたり、原告の山崎正則さんと原告代理人弁護士9名による意見陳述が行われました。
  原告の山崎さんは、米軍基地があることによって起きた犯罪被害について、米軍や国に責任をとるよう求め、裁判所に対し、 米軍犯罪の被害者が二度と出ないように、米軍や国がしっかりとした手だてをつくるような判決を出すよう求めました。 これまで、原告側は、在日米海軍司令部からの調査嘱託回答書や原告側が収集した証拠に基づき、在日米軍当局による外出規制措置、飲酒規制措置、 パトロール措置等によって、加害米兵による本件犯行が防止できたことを主張立証してきました。
  また、加害米兵による本件犯行の残虐性が、米軍当局による殺人訓練によるものであることを主張立証してきました。

  5月20日の期日の内容
  判決の言い渡しがありました。横浜地方裁判所は、被告の米兵に対し、佐藤好重さんの遺族である原告らに合計約6573万円を支払うよう命じました。 他方、原告らの被告国に対する請求を棄却しました。

【判決についてのコメント】
  原告らが泣き寝入りをせず、米兵に対する勝訴判決を獲得したことに大きな意義があったと言えます。 また、裁判所が米兵に対しおおむね適正な損害賠償額の支払を命じたことは評価ができます。
  横浜地方裁判所は、米海軍人が日本国民の生命、身体等に危害を加えた場合、 当該行為が勤務時間外において職務の執行とは関係なく行われたものであったとしても、それが司令官の監督権限の不行使に基づくものと認められ、 その監督権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事案の下において、 その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、民事特別法1条等の適用上違法となり得るとしました。 これは、勤務時間外において米兵が日本国民に対する犯罪を行った場合にも、 民事特別法上の責任が問われる可能性があることを裁判所が正面から認めたものとして評価ができます。
  しかしながら、横浜地方裁判所は、佐藤好重さんに対する殺害行為が戦闘訓練を受けている兵士による極めて残虐なものであったことや、 飲酒をした米兵が深夜・早朝に犯罪を起こすことが繰り返され、在日米軍が各種団体から抗議を受けていた状況での本件犯行であったことを十分に考慮せずに、 司令官の広範な裁量を重視した上で、本件において著しく不合理な監督権限の不行使があったと認めることができないとして、 国の責任を認めませんでした。この点について、批判されるべきです。

【新たな動き】
  控訴審が東京高等裁判所で始まります。

   ※署名用紙
     米兵による横須賀の女性強盗殺人事件に関する要請書

【控訴審の経過】
  2009年10月1日、東京高裁で控訴審第1回口頭弁論期日が開かれ、控訴人(一審原告)の山崎さんと代理人弁護士2名の意見陳述が行われました。

  山崎さんは、加害米兵が好重さんの息の根が止まるまで反射的に殴り続けた原因について、一審判決がまったく言及をしなかったことを批判しました。
  好重さんが加害米兵に殺害される前から、凶悪な米兵犯罪が多発していたのに、米軍が犯罪を防止する手だてをとっていなかったことについて厳しく指摘をしました。 そして、米兵犯罪の被害者がこれ以上増えないように、国の責任を認めて、 今後、米軍や日本政府がしっかりした手だてをつくることにつながる判決を出すよう裁判所に求めました。

  代理人弁護士は、一審横浜地裁が、本件が残忍な強盗殺人事件であり、被侵害利益が生命、身体という重要なものであるという視点を忘れ、 原告敗訴の結論を導いたことを強く批判しました。
  また、控訴審の審理にあたり、裁判所に対し、在日米海軍司令部に対する調査嘱託(米海軍による外出禁止令、飲食店立入禁止令、 飲酒規制等について)の実施を求めるとともに、在日米海軍司令官の証人尋問を実施するよう求めました。

    ※ 意見陳述 控訴人 山崎正則
    ※ 司法の健全な機能を求めて 弁護士 篠原義仁
    ※ 控訴審の審理にあたって 弁護士 中村晋輔

  12月3日 控訴審第2回口頭弁論期日の内容
  東京高裁808号法廷に傍聴希望者が入りきれない状況の中、控訴人(一審原告)側が、要約すると次の内容の準備書面を陳述しました。
@ 米兵犯罪は、凶悪犯の割合が高く、軍隊の本質があらわれたものであること、
A 平成18年1月3日の米海軍軍人による本件強盗殺人事件より前に、長崎県佐世保市において、 平成8年に本件のような米海軍軍人による残虐な強盗殺人未遂事件が発生し、米海軍当局が再発防止要請を受けていたにもかかわらず、 その後も佐世保市において、米海軍軍人による凶悪事件が発生していたこと、
B 神奈川県内においても凶悪犯罪が繰り返され、 本件強盗殺人事件の約3年半前の平成14年8月には加害米兵と同じ空母キティホーク乗組員による強盗事件等が多発し、 空母キティホーク艦長の更迭にまで至ったにもかかわらず、本件強盗殺人事件が発生したことなどからすれば、 米海軍上司らの広範な裁量を認めた原判決は誤りであることを主張しました。

  また、在日米軍と日本政府が 「良き隣人政策」 による 「米兵は優しい」 キャンペーンを実施しており、危険な存在である軍隊や敵と戦う米兵の本質を知らせず、 市民を無防備な状態にしている以上、米海軍上司らが規制権限を行使して、米海軍軍人による犯罪防止対策をとらなければ、 市民が受けることになる米兵犯罪被害を防ぐことができないことも主張しました。

  2010年2月18日 控訴審第3回口頭弁論期日の内容
  控訴人(一審原告)側は、加害米兵による本件強盗殺人行為が、「職務を行うについて」 (日米地位協定の実施に伴う民事特別法1条)行われたものであることについて、 以下の点を改めて主張しました。

(1) 在日米軍基地外において在日米軍構成員の危険性が現実化し、一般市民に対して損害を生じさせた場合、 その損害は、危険を作出・支配している在日米軍当局が本来負担すべきであるという危険責任の法理からすれば、 在日米軍構成員が在日米軍当局によって緊急出動義務を免除されている場合(例えば、長期休暇中の場合)でない限り、 「職務を行うについて」 にあたると解釈するべきである。

(2) この解釈をとれないとしても、(1) 加害米兵は、米海軍における仕事や上司からの指揮命令が苦しいから本件強盗殺人事件を起こすに至ったこと、 (2) 加害米兵は、好重さんに対して、英語で 「ベース」 と横須賀基地へ行く道を尋ねて、好重さんが善意でこれに応じたところ、 加害米兵が好重さんに対し暴行に及んだ事実、(3) 加害米兵の勤務開始時刻と本件犯行時刻との時間的接着性、 (4) 加害米兵の勤務先の横須賀基地と本件犯行場所との場所的接着性等からすれば、本件強盗殺人行為は、 米海軍軍人としての加害米兵の事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連性を有するものである。

  2010年4月20日の期日の内容
  東京高等裁判所において、在日米海軍司令部に対する調査嘱託事項(米海軍軍人に対する外出禁止令、飲酒規制、飲食店(街)立入禁止令等)に関し、 裁判所、控訴人(山崎さん)、 被控訴人(国)との間で、協議が行われました。
  裁判所からの指摘を受け、控訴人側が、調査嘱託事項の明確化及び調査対象期間の限定を検討することになりました。

  2010年6月3日の期日の内容
  東京高等裁判所において、在日米海軍司令部に対する調査嘱託事項(米海軍軍人に対する外出禁止令、飲酒規制、飲食店(街)立入禁止令等)に関し、 裁判所、控訴人(山崎さん)、被控訴人(国)との間で、協議が行われました。
  前回の協議を受けて、控訴人が調査嘱託事項の明確化及び調査対象期間の限定をしたものについて、裁判所が調査嘱託を実施する意向を示しました。
  ただし、正式な決定は、後日、期日外でなされます。

  2010年12月6日の期日の内容
  在日米海軍司令部作成の調査嘱託回答書が裁判所に届いたのを受けて、裁判所、控訴人(山崎さん)、被控訴人(国)が、 今後の進行について協議を行いました。
  在日米海軍当局が、本件強盗殺人事件当時、米海軍軍人に対し、外出規制、飲酒規制等の犯罪防止措置を行っていなかったことの違法性について、 控訴人(山崎さん)側が、次回期日に向けて、準備書面を作成することになりました。
  裁判所からの調査嘱託に対し、在日米海軍司令部は、米海軍軍人に対して過去に実施された外出規制等について、 「記録がありません」 との不誠実な回答をしてきました。準備書面の中では、この点についての批判もしていきます。

  2011年2月24日の期日の内容
  裁判長がかわりましたので、弁論の更新手続が行われました。
  控訴人の山崎さんが意見陳述を行い、山崎さんは、「私は、米兵犯罪の被害者をこれ以上増やしたくない、 妻や私のような思いをする日本人を増やしたくないという気持ちで、この裁判を闘っています。 妻は米兵に殺されましたが、米軍が米兵犯罪防止のための監督責任を果たしていなかったことが違法であったと、裁判所において認めていただき、 米兵犯罪を防止するための米軍の取組が不十分であることを明確にさせたいのです。 そうしなければ、米軍が、米兵犯罪を防止するために、真剣に取り組むようにはならないと確信しているからです。」 と述べました。

  在日米海軍司令部が、裁判所からの調査嘱託(米海軍が過去に実施した米海軍軍人に対する外出禁止令、 飲酒規制、飲食店街立入禁止令などに関するもの)に対し、誠実に回答していないことについて、 米軍という機関が事実をゆがめてまでも責任を逃れようとするものであるとして、控訴人代理人弁護士が強く批判しました。

  また、米海軍軍人による事件・事故が繰り返し発生し、地方自治体が在日米海軍当局に対し再発防止を強く求めていたにもかかわらず、 本件強盗殺人事件当時、在日米海軍当局が、米海軍軍人に対する外出禁止令、飲酒規制、 飲食店街立入禁止令等の犯罪防止措置をとっていなかったことの違法性に関する準備書面を控訴人代理人弁護士が陳述しました。

  2011年5月12日の期日の内容
(1) 控訴人山崎さん側が、証拠として神奈川県内米軍事件・事故マップを提出し、横須賀基地周辺で米兵犯罪が多発していることを明らかにしました。
(2) 控訴人山崎さんの代理人弁護士が準備書面を陳述しました。

  準備書面の概要は、以下のとおりです。
1  在日米海軍司令官・第7艦隊司令官を始めとする米海軍上司らが米兵犯罪防止対策をとっていなかったことの違法性を判断するにあたり、 第一審横浜地裁判決が、軍隊の本質(軍人には高度の規律が要求され、 日常的に戦闘訓練を行っていること等)や米海軍横須賀基地の戦略的重要性等を検討することなく、米海軍上司らの広範な裁量を認めたことは誤っている。

2  一審判決が、米海軍規則の解釈をするにあたり、米海軍上司らの監督権限は、横須賀基地周辺住民を含む日本国民の生命、 身体等の安全を確保するためのものではないとしたことについて、水俣病関西訴訟最高裁平成16年10月15日判決に照らして誤っている。

3  一審判決が米海軍上司らの広範な裁量を認めた理由として、対象となる事項の 「専門性・技術性」 を上げている点については、 米兵犯罪防止措置とは、外出規制、飲酒規制、飲食店街立入規制、教育、パトロールであり、科学的に高度な専門性・技術性が要求されるものではない。

4  そして、加害米兵ら空母キティホーク乗組員については、海上軍事演習などで24時間勤務に近い過酷な職務が課されている上、 4段ベッドが数多く詰め込まれた艦船内で生活をしており、極めてストレスのたまる状況にあったこと、 平成14年8月の強盗事件の多発により空母キティホークの艦長が更迭までされたことなどから、特に厳格な犯罪防止措置をとらなければならなかった。

  2011年6月16日の期日の内容
  控訴審での最終弁論が行われ、結審となりました。

  控訴人山崎さん側が、控訴審のまとめの準備書面を提出しました。
  この準備書面の中で、加害米兵が、本件犯行の前日の夜から、日をまたいで翌朝までバーで飲酒をした上で、好重さんに対する本件犯行に及び、 米海軍横須賀基地における勤務開始時間に遅刻したことについて、犯罪防止規制以前の問題として、米海軍上司らが、 米海軍軍人に遅刻をさせない、 酔っぱらったまま出勤させない、睡眠不足のまま出勤させないという、ごく当たり前の監督行為を行っていれば、 本件犯行を容易に防ぐことができたのであり、米海軍上司らの監督責任は免れないことについても主張しました。

  山崎さんは、意見陳述の中で、加害米兵による好重さんに対する犯行について、「殴る、蹴るだけの暴行で、原形をとどめないほどのひどい姿にさせる、 これは普通の人間にできることではありません。人殺しを専門に訓練している兵隊にしかできない仕業だと思いました。」 と述べ、 一審判決が、加害米兵が米軍で人殺しの訓練を受けた軍人であることを全く考慮していないことを批判しました。
  そして、二度と同じような米兵犯罪被害者が出ないように、米軍や日本政府がしっかりした手だてをつくるような判決を出すよう裁判所に求めました。

  以下のとおり、控訴人山崎正則さんと、5人の代理人弁護士が意見陳述を行いました。

     ※意見陳述要旨 2011.6.16

【6月22日の期日の内容】
  判決の言い渡しがありました。
  東京高等裁判所は、控訴人山崎正則さんの被控訴人国に対する請求を認めず、控訴を棄却しました。

【判決についてのコメント】
第1 東京高等裁判所の判断
1 米海軍上司らの監督責任について
(1)飲酒規制について
  米海軍上司らが、米海軍人の勤務時間外の私生活上の行動に対して、その監督権限を行使するかを判断するについては、 米海軍上司らの広範な裁量にゆだねられている。本件犯行当時、在日米海軍において飲酒規制が実施されていなかったことをもって、 米海軍人に対する監督権限の行使が著しく合理性を欠いていたと認めることはできない。
(2)外出規制について
  神奈川県内では、横須賀基地が設置されていることにより、米海軍軍人の犯罪検挙数が他地域より多く、したがって、 その状況の改善が米海軍当局に強く求められていることは明らかであるが、そうであるからといって、 米海軍人による凶悪犯罪の発生の可能性に対処するため、米海軍上司らにおいて、リバティカードプログラムによる外出規制にかかわらず、 一律に深夜・早朝の勤務時間外の自由時間について規制すべき義務が生じていたとまではいえない。

2 米兵による本件犯行が民特法1条「その職務を行うについて」にあたるかについて
  民特法1条の 「その職務を行うについて」 という要件は、米軍人等の職務行為としてされた場合に限らず、その職務遂行の手段としてされた行為、 職務と一体不可分の行為、あるいは職務に付随してされた行為を含むほか、加害行為が職務行為としての外形を有している場合も含むと解すべきである。
  勤務時間外である早朝に敢行された強盗殺人である本件犯行は、在日米海軍人としての職務行為としてなされたものでないことは明らかであり、 また米海軍における軍人の職務行為遂行の手段としてされた行為、職務と一体不可分の行為、 職務に付随してされた行為あるいは職務行為としての外形を有している行為のいずれにも該当しないことも明らかというべきである。

第2 評価
 東京高裁裁判所は、日本国民の生命・身体の安全という重要な利益よりも米海軍の運用を重視したものであり、不当な判決です。 本件犯行以前から米兵による飲酒の上での深夜・早朝の犯罪が多発していたこと、平成14年8月には空母キティホーク乗組員による強盗事件が多発し、 空母キティホークの艦長が更迭される事態にまで至っていたことなどからすれば、米海軍上司らの広範な裁量を認めたことは誤りであり、 米海軍上司らの監督権限の不行使は著しく不合理なものであったとして、民特法1条に基づく国の責任を認めるべきです。
 本件犯行は、米海軍横須賀基地の近くの場所で、米兵の勤務開始時間の7分前まで行われたこと、 米兵は、米兵という地位を利用して好重さんに対し 「ベース」 と言って横須賀基地への道を尋ねて本件犯行に及んだ ことからすれば、 本件犯行は民特法1条の 「その職務を行うについて」 行われたものとして、国の責任を認めるべきです。

    高裁判決に対する声明 2012.6.22 PDF
            横須賀米兵強殺事件国家賠償訴訟原告団
            同 弁護団
            山崎さんを支援する会

【今後の動き】
 山崎正則さんと弁護団は、最高裁判所へ上告申立・上告受理申立を行ないました。

【上告審の経過】
  2013年6月26日付けで、最高裁判所第二小法廷(小貫芳信裁判長)が、 山崎さんの上告を棄却する、上告審として受理しないとの不当決定を出しました。
  日本国民の生命・身体よりも米軍の運用を優先させた東京高裁判決を無批判に追認したものであり、原告と弁護団としては受け入れることができません。
  しかしながら、米兵犯罪に対して遺族の山崎さんが泣き寝入りをすることなく、米軍と国の責任を追及したこの裁判では、 勤務時間外の米軍人による事件であっても、日米地位協定の実施に伴う民事特別法1条の適用上違法となりうるとの判断枠組みが設定されたものであり、 成果もありました。
  米兵犯罪の根絶のために引き続き、原告、弁護団、支援する会は、たたかいを続けていきます。
  皆様のご支援に深く感謝いたします。ありがとうございました。

     声明文 2013年6月27日

     山崎さんを支援する会

     〈声  明〉 2009年5月20日
            横須賀米兵強殺事件国家賠償訴訟原告団
            同 弁護団
            山崎さんを支援する会


文責 弁護士 中村晋輔