2013.10.17更新

強盗殺人被告事件(再審) (布川事件)
事件名:強盗殺人被告事件(再審) (布川事件)
係属機関:水戸地方裁判所土浦支部刑事部
2011年5月24日 無罪判決
2011年6月7日 水戸地検は控訴を断念し、桜井さん、杉山さんの無罪が確定
紹介者:三浦 直子 弁護士
連絡先:桜井昌司さん・杉山卓男さんを守る会
     〒113-0034 東京都文京区湯島2-4-4
       平和と労働センター・全労連会館5F
     日本国民救援会 東京都本部内
     TEL 03-5842-6464 FAX 03-5842-6466
     ざ・布川事件HP


【事件の概要】
1 捜査の経過
(1) 事件発生
  1967 (昭和42) 年8月30日、茨城県利根町布川 (ふかわ) で一人暮らしの大工の屍体が発見された。
  屍体の状況…口の中にパンツを押し込まれ、首にパンツが巻き付けられていた
  現場の状況…8畳間と4畳間の堺のガラス戸が倒れ、そのガラスが割れ、室内には物色の跡があった。
  茨城県警は強盗殺人事件として、取手警察署に捜査本部を設置した。

(2) 別件逮捕と自白の強要
  県警は犯人検挙に至らず、付近の素行不良者を次々と別件逮捕してアリバイを追及しては、捜査線からはずしていくということを繰り返していた。
  10月10日 桜井昌司さん (当時20歳)、窃盗事件 (友人のズボン1本
         窃盗) で別件逮捕
  10月15日 桜井さん、強盗殺人の虚偽の自白をさせられる
        ←連日、深夜に及ぶ取調べ、偽計 (ポリグラフ検査の結果
        「全て嘘とでたぞ」 等) により自白を強要された
  10月16日 杉山卓男さん (当時21歳)、暴力行為で別件逮捕
  10月17日 杉山さん、杉山さん同様に虚偽の自白をさせられる自白
         ←偽計 (「おまえの相棒 (桜井) が、おまえとやったと言っ
         ているぞ」 等) により自白を強要された
  10月23日 両名、本件強盗殺人事件で逮捕

(3) 逆送、別件起訴後勾留を利用した取調べ
  いったん土浦拘置支所に移監したにもかかわらず、否認したら、再び警察署へ逆送し再び自白を強要される。
  11月13日 有元検事、両名について否認調書を作成
         本件については処分保留 →書類上釈放
         桜井さんは窃盗、杉山さんは暴行・傷害・恐喝で起訴
         →結局、勾留継続
  12月 1日 桜井さんは取手署へ、杉山さんは土浦署へ逆送
  12月28日 本件について起訴


2 確定審の審理経過
  〜裁判では、一貫して否認、無実を訴えるが、有罪確定
  1968 (昭和43) 年 2月15日 第1回公判 (水戸地裁土浦支部)
  1970 (昭和45) 年10月 6日 第1審判決 (同上) 有罪・無期懲役
  1973 (昭和48) 年12月20日 第2審判決 (東京高裁) 控訴棄却
  1978 (昭和53) 年 7月 3日 第3審判決 (最高裁第1小法廷)
                   上告棄却

【有罪確定後の動き】
1 第1次再審請求
  1983 (昭和58) 年12月23日 第1次再審請求申立
                    (水戸地裁土浦支部)
  1987 (昭和62) 年 3月31日 第1次再審請求棄却 (同上)
          同年 4月 4日 即時抗告申立 (東京高裁)
  1988 (昭和63) 年 2月22日 即時抗告棄却
          同年 2月25日 特別抗告申立(最高裁第1小法廷)
  1992 (平成 4) 年 9月 9日 特別抗告棄却

2 仮出獄  〜29年間 (!) 獄中生活を強いられる〜
  1996(平成 8年)年11月12日 杉山さん 仮出獄
           同年11月14日 桜井さん 仮出獄

3 第2次再審請求 〜現在に至る
  2001 (平成13) 年12月 6日 第2次再審請求申立
                   (水戸地裁土浦支部)
  2005 (平成17) 年 9月21日 再審開始決定 (同上)
          同年 9月26日 検察官 即時抗告申立
                   (東京高裁第4刑事部)
  2008 (平成20) 年 7月頃  (早ければ7月、遅くとも9月)
                    高裁決定!!

【第2次再審請求での争点】
1 布川事件の特徴と確定審の判断
(1) 2人が本件の犯人であることを示す物証は、何もない。
・現場の室内な物色された跡があり、かつ、現場から多くの指紋が採取されが、2人と一致する指紋は全くない
・2人の足跡もなければ、その他2人の遺留品もない
・盗まれた金品が、2人の近くから出てきたわけでもない

(2) 事件と2人を結び付ける直接証拠は取調段階の 「自白」 のみ
  確定審は、自白は信用できるとした
  → 「指紋がないからといって犯人でないとはいえない」

2 土浦支部再審開始決定 (2005年) の判断
  以下の点を理由に再審開始決定がされた。
(1) 事件と2人を結び付ける直接証拠は、2人の 「自白」 のみであるから、 新証拠により請求人らの自白の信用性が動揺すれば確定審の有罪認定も動揺するという証拠構造

(2) 自白は、殺害行為の方法・順序という枢要部分で、死体の客観的状況と矛盾する可能性が高い
  ←桜井さんの自白では 「パンツが短くて (被害者の) 首にまわらなかったので、両手を被害者の首に押し当てて首を締めた」 (扼頸)
  ところが、・死体検案書には 「頸部に絞痕あり」 「絞頸 (推定)」 の記載あり
・パンツは軽く伸ばすと67センチ、被害者の首に充分まわる!

(3) 自白は,虚偽の自白を誘発しやすい状況でなされた疑いがある
←・自白に至る過程をつぶさに検討、実質的に自白の任意性を否定
・桜井さんを取り調べた警察官が、確定審公判で 「ない」 と証言した桜井さんの自白テープが開示され、中断された形跡発見

(4) 木村鑑定などの新証拠が確定審の審理中に提出され、これと既存の全証拠とを総合的に評価していれば、 有罪認定に合理的疑いが生じたものと認められ、無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したときにあたる。

3 抗告審 (東京高裁第4刑事部) の審理経過
(1) 即時抗告した検察官の提出証拠は2つだけ
・殺害行為に関する自白は信用できるとする三澤 (東京観察医務院長) の供述調書
・桜井さんの自白テープが中断された形跡なしという捜査報告書

(2) 弁護側の立証 〜再審開始した原決定を新証拠によって補強
 → 再審開始決定すべきことがいっそう明らかに!
・殺害自白について 佐藤喜宣教授 (法医学) 意見書 (新証拠110) 等
・桜井さんの自白テープについて 音響専門家、中田宏鑑定書 (同119)
 → 13箇所もの編集があったことが判明
・ポリグラフ検査鑑定書に関する越智准教授の報告書 (新証拠126)
 → 「全て嘘とでたぞ」 偽計により桜井さんが自白した
・便所脱出実験報告書 (新証拠140、141)
 → 桜井さんの自白の不自然さ、不合理さが判明

【2008年の動き】
1 弁護側、検察官、双方、既に最終意見書を提出済み。
  近く (早ければ7月中!) 東京高裁決定予定!! ☆☆☆ご注目下さい。

2 2008年6月7日(土) 13時〜16時30分 弁護士会館17階
  布川事件シンポジウム 《えん罪をただす再審を!》
  鹿児島、志布志事件弁護団や北九州、引野口事件の元被告人片岸さん及び弁護団とともに、えん罪防止のために捜査過程の違法性を検証します。
  日弁連主催 入場無料、事前申し込み不要です。

3 2008年7月14日、東京高裁第4刑事部 (事件番号 平成17年(く)第455号 裁判長 門野 博)において、 再審開始を支持する決定が出され、検察側の抗告が棄却されました。

【書籍のご案内】
1 桜井昌司 『獄外記』
  仮釈放で社会に帰ってからの活動の記録と自分の思いを綴った桜井昌司さんのブログ。2006年
2 冤罪 『無期懲役刑』 の夫とともに
  桜井恵子さんのプライベートサイト。今まで公表されていなかった二人の出会いやプロフィールなどを女性らしい感性で綴っています

文責 弁護士 三浦 直子