2008.12.2更新

日の丸君が代強制反対〜嘱託不採用撤回裁判〜
事件名:日の丸君が代強制反対 嘱託不採用撤回裁判
係属裁判所:東京高等裁判所第4民事部(稲田龍樹裁判長)
        事件番号 平成20年(ネ)第1430号
次回期日:1月16日 午前11時から 進行協議期日。場所未定。
次回期日の内容:今後の訴訟の進行について協議します。
           この日までに双方の主張が出そろうことになります。
           また、元教員側から文書提出命令申立をしています
           ので、その採否が決まります。そのほか、今後の立
           証についての協議が行われる予定です。
           進行協議手続きは、裁判官と原告、被告との間で、
           今後の裁判手続きの進め方について協議をする場
           です。非公開のため、傍聴できません。
紹介者:雪竹奈緒弁護士、平松真二郎弁護士
連絡先:「日の丸・君が代」 強制反対・嘱託採用拒否撤回を求める会
     (連絡先) 宮坂 明史  a.miyasa@f2.dion.ne.jp


【事件の概要】
(1) 当事者
  1審原告:東京都立学校の元教員13名
  1審被告:東京都

(2) 請求の内容の概要
  1審原告各人に対する16か月分の給与相当額及び300万円の慰謝料の請求

(3) 事件の概要
  2003年10月23日に東京都教育委員会は都立学校校長に対し、卒業式、入学式等において、教職員らが国旗に向かって起立し、国歌を斉唱すること、 国歌斉唱はピアノ伴奏で行うこと、国旗掲揚及び国歌斉唱に際して教職員が通達に基づく職務命令に従わない場合、 服務上の責任に問うことを内容とする通達を発した (いわゆる10.23通達)。 この通達以降、すべての都立学校において、校長より各教職員に対し、卒業式・入学式等において指定された席で国旗に向かって起立し、 国歌斉唱する (音楽教員はピアノ伴奏する) 等という内容の職務命令が出されるようになった。

  通達直後の卒業式・入学式等において、240名以上の教職員が通達及び職務命令に違反したとして、懲戒処分や嘱託再雇用拒否等の不利益処分を受けた。 その後も毎年、数十人単位で懲戒などの被処分者が出ている。

  原告らは、都の退職後最大5年の再雇用制度に基づき、都立学校再雇用職員を希望したものであるが、 上記通達に基づく職務命令に従わなかったとして懲戒処分を受けたことをもって、再雇用職員不適格とされ、不合格となった者である。

  本件は、教職員である原告らが国旗に向かって起立し、国歌を斉唱することを強制されることは、思想・良心の自由、信教の自由、教育の自由を侵害するものであり、 かかる通達及び職務命令に従わなかったことをもって不合格とすることは許されないとして、再雇用職員給与相当の賃金、慰謝料の請求をした事案である。

【訴訟に至る経過】
  2003年10月23日にいわゆる10.23通達が出された後、東京都の教育現場には激震が走った。 全国でもとくに自主独立の気風が強い都立学校の教育現場では、多くの学校で創意工夫に満ちた卒業式がなされ、 また君が代斉唱の際には保護者・生徒に対し 「内心の自由」 が説明されていた。 通達では、教職員らの起立斉唱義務のみならず、「実施指針」 において、国旗の掲揚の時間から掲揚方法、卒業式等の会場設営、 教職員の座席指定に至るまで非常に詳細に規定されており、教職員や生徒の思想良心の侵害に加えて、 行政の介入により長年培ってきた自由な教育現場が変容させられてしまうと多くの教職員が危惧を抱いた。 教職員らによっていわゆる 「予防訴訟」 が提起されたが (別項 「予防訴訟」 参照)、 通達に基づいて校長による職務命令が出され、通達に基づく式が強行された。

  通達直後の卒業式・入学式等において、240名以上の教職員が通達及び職務命令に従わず、懲戒処分や嘱託再雇用拒否等の不利益処分を受けた。

  定年後再雇用は都の職員の定年後勤務を保障する制度であり、希望すればほぼ全員が合格するといわれていた。 しかし、2005年度及び2006年度の再雇用職員に応募した原告らは、 10.23通達に基づいて出された職務命令に違反して懲戒処分を受けたことを理由に再雇用不合格とされ、それ以降の最長5年の職を失ったため、 賃金の一部と慰謝料を求めて訴訟提起をした。

【第1審の経過】
  本件訴訟に先立って提起された 「予防訴訟」 の第一審においては、2006年9月21日、東京地裁民事第36部 (難波孝一裁判長) において、 10.23通達及びこれに基づく職務命令の違憲性を認め、 教職員らに起立・斉唱の義務はないとする原告勝訴の判決がなされていた (別項 「予防訴訟」 参照)。

  しかしその後、2007年2月、別件 「ピアノ訴訟」 (10.23通達前の小学校での事件であり、10.23通達そのものの合憲性を判断したものではない) で、 最高裁において、入学式での校長の君が代伴奏命令に従わなかった音楽教師に対する懲戒処分を合憲と判断した判決が出された。

  これも本件に先立つ解雇訴訟(同じく再雇用職員に関するものであるが、合格した後に懲戒処分を理由として取り消された点で、本件と異なる。 詳細は別項 「君が代解雇訴訟」 参照) では、 2007年6月20日、東京地裁民事第11部 (佐村浩之裁判長) において、第一審判決では、このピアノ訴訟最高裁判決に大幅に依拠し、 職務命令が直ちに原告らの歴史観・世界観等を否定するものとは言えないとし、原告らの請求を全面的に棄却した。

  本件では、2008年2月7日、原告勝訴の判決が言い渡されました。裁判所は、原告らに対する嘱託採用拒否は、 これまでの嘱託採用制度における判断と大きく異なるものであり、君が代斉唱時の不起立をあまりにも過大視する一方で、 原告らの勤務成績に関する他の事情を考慮した形跡がなく、客観的合理性や社会的相当性男著しく欠くものであって、 都教委は再雇用の判断に際して裁量権を逸脱・濫用したものであって違法であるとの判断を示しました。

  判決では、原告らが有していた定年等退職後の再雇用に対する期待は法的保護に値するものであることを認め、 かかる期待権を侵害した都教委の違法な採用拒否に予知、原告らは1年分の賃金相当額と弁護士費用相当額の損害賠償として合計2757万円余りの支払いを命じました。

【一言アピール】
  日本人である以上、日の丸掲揚、君が代斉唱は当たり前ではないか、と思う方も多いかもしれません。 しかし一方で、日の丸・君が代の歴史的な経緯などから、どうしてもそれらを受け入れられない人がいるのも事実です。 外国籍の生徒・教員もいます。どうしても嫌だ、という人に、「懲戒処分」という圧力をかけてまで、一律に従わせようとしたところに、本件の問題があります。

  10.23通達は直接には教職員を対象としていますが、一方で都教委は卒業式等でこれまで行われてきた生徒たちへの 「内心の自由」 の説明を禁止し、 また生徒の不起立が多かった場合に教員を指導等の処分にする、ということも行っており、 通達が教職員を通して「生徒たちをも一律に従わせる」という狙いを持っていることも明らかです。

  都立学校は全国でも自由・独立の気風が強いという伝統があり、学校ごとの特色を生かした卒業式等が行われてきました。 また、障がい児学校では、車椅子の生徒等のために、壇上に上がらない形式 (フロア形式) ・対面形式などの工夫をしていました。 通達は、それらの学校ごとの創意工夫も認めず、一律に壇上での卒業証書授与を強制したことも大きな問題です。

  現在、東京では10.23通達をめぐって、多くの裁判が提起されています。 この解雇訴訟のほかに、「事案の概要」 でも紹介した、通達による起立斉唱義務不存在確認・不利益処分禁止等を求める訴訟 (予防訴訟)、 嘱託再雇用を合格取消しされた人の訴訟 (君が代解雇訴訟)、 国歌斉唱時の不起立等によって懲戒処分を受けた人たちの取消しを求める訴訟 (処分取消し第1次・第2次訴訟)、 などがあります (これらの訴訟の詳細は別頁でご紹介します)。

  教育現場は、日本の未来を担う子どもたちを育成する場です。この裁判の行方は日本の将来に直接関わってきます。 他の関連訴訟と共に、東京の教育現場を守るためのこの訴訟、ぜひご注目ください。

文責 弁護士 平松真二郎