2009.6.9更新

大学の教室は誰のもの? 法政大建造物侵入罪
事件名:大学の教室は誰のもの? 法政大建造物侵入罪
係属機関:東京地裁刑事第21部合議 429号法廷 (警備法廷)
  5月27日、判決が出ました。被告人の内田氏には懲役1年2月、鈴木氏及び市川氏に対してはともに懲役8月、全員に対して執行猶予3年という内容でした。 弁護側は、判決について、革共同の構成員という部分をはずし、徹底的に思想弾圧ということを隠蔽することに徹した、いかにも裁判所らしい、 逃げの判決で説得力がないものと考えています。弁護側はすでに控訴しました。
紹介者:森川文人弁護士 指宿昭一弁護士
連絡先:新宿区新宿1-6-5 9階 ピープルズ法律事務所
     電話 03-3354-9662 森川文人弁護士
     f-morikawa@the-peoples.com


【事件の概要】
 公訴事実は 「被告人は、革命的共産主義者同盟全国委員会 (中核派) の構成員又はその同調者であるが、**と**と共謀の上、 中核派の賛同する平成19年11月4日開催の 「全国労働者総決起集会」 への参加を呼びかけるため、法政大学の教室内に侵入しようと企て、 法政大学の教職員又は学生でないのに、同年10月17日午後1時15分ころから同日午後1時35分ころまでの間、 同大学総長代理が看守する同大学市ヶ谷キャンパス55年館6階562番教室に侵入し、もって正当な理由がないのに、 人の看守する建造物に侵入したものである。」 とするもの。
  要は学外者の「活動家」が、休み時間に教室に入り、学生に集会の呼びかけ等を行ったところ、侵入罪で逮捕・起訴というもの。

【手続きの経過】
1. 被告人は取調段階では完全黙秘。逮捕後今日まで4ヶ月以上勾留されたまま、第1回期日を経ても保釈は認められず、 接見禁止もふされたまま (抗告により一部条件解除)。第1回法廷よりいわゆる警備法廷で、地裁の警戒体制はAクラス。
  第1回では、いわゆる罪状認否 (=法的には意見陳述) を被告人20分程度、弁護人15分程度で、無罪、公訴棄却を主張。

2. その後の裁判の経過
  今後は、警察証人4名、大学関係者3名が検察側予定の証人であり、まずは検察立証がなされる予定。

3. 現在の争点−私立大学は政治差別を正当化出来るか。
  被告人が、政治的目的を持つ個人として、大学の学生に集会参加を呼びかけるという目的で 「教室」 に足を踏み入れたことが、建造物侵入に問われている。 地検機動班6名の検事の釈明によれば、そのような個人が 「政治的組織」 に属したり同調し、その政治目的をもって、足を踏み入れることが大学当局の意思に反し、 故に 「侵入罪」 を構成するという。

  法により公の性質をもつ私立大学において、思想・政治差別による弾圧がなされ、それを国家権力が支える、ということが認められていいのか。 これが大きな争点と現時点では考えている。

  3月25日の期日では、逮捕した警察官の証人尋問が行われました。
  現場を現認しておらず、大学関係者から被告人を引き渡されたのに 「現行犯逮捕」 とされており、大学と警察の連携プレー、連携の警備体制が明らかになりました。 大学職員の撮影した現場、すなわち被告人らが行った大学の休み時間の教室での討論の様子などが法廷で上映され、盛り上がりました。退廷命令は4〜5名程度。

  4月24日の期日は、元学生部長の主尋問でした。大学が体制当番をしいて 「学外者」 というレッ テルで特定の政治行動を排除していた姿勢が明らかになりました。 続いて、反対尋問は、弁護人ではなく被告人から始めるという画期的方針。そこで一悶着アリましたが、何とか開始したものの、被告人退廷命令で公判は終了。 抗議した傍聴人も拘束され、その後、傍聴人は制裁裁判により、2日間の監置 (東京拘置所)。

  5月15日の期日では、大学側の管理担当の元学生部長 (教授) の弁護側の反対尋問で、弁護人森川&指宿が行った。
  学生のための教育環境の整備を目的と言いながら、学生の声をアンケート等で集約・分析するなどの意思も実績も大学にはないこと、 現実には、被告人らの行為により授業開始時間が遅れるなどの妨害にあたるような行為もなかったこと、などが明らかになった。
  さらには、警察に対する大学としての要請がかなり早い時点でなされており、大学の自治の原則として、 出来るだけ警察の介入は抑制的にするということは過去の方針であり、現在はそのような方針を採っていないことなどが明言された。

  6月4日の期日では、逮捕警官の尋問&元学生部長の安藤証人の反対尋問 (5月15日の続き) が行われました。 5月28、29日の大量弾圧のため、傍聴席がやや寂しく、比較的おとなしい状況でした (とはいえ、4名退廷させられました)。 冒頭、6月2日付けで、裁判長の検事に対する書面による求釈明は憲法76条3項に反し、検事に偏頗に訴訟指揮するものだと異議を書面で出し、 弁護人・被告人共々口頭で、裁判所を弾劾。裁判所は、本件の本質的な思想弾圧性を隠蔽する意向と思われれる。
  その後は、逮捕警官の尋問と、安東元学生部長の尋問。裁判所の意図に関わらず、検事は、あくまでも大学として差別的に排除を行った旨を引き出す。 「中核派・全学連」 差別が明確化してきた。

  6月18日の期日では、弁護人の冒頭陳述と被告人の冒頭陳述が行われた。5月の大量逮捕にまで続く、法大弾圧について弾劾した。 裁判所は、関連性なしと押しとどめようとするも、関連性は明らかだと押し切る。内田君の事件も、この継続的・大量 (84名逮捕) の一環の中でなされているのである。

  7月11日は、法政大学の3年生の尋問を行いました。在学生の一人として、この間の大学当局の弾圧には、不満があり、かつ萎縮もしていたが、 全学連の活動は、支持していたこと、自身も不当な処分をうけ、今は、学内集会などを企画して頑張っていること、 そして、学外者であって、休み時間の教室で学生らに訴えること (自分も教室内で体験したことがある) は重要なことだと思う旨証言しました。
 大学における表現の自由の弾圧の実態と、それを受け止める学生の生の声が赤裸々になったと思います。

  7月25日の期日では、被告人質問が行われたが、前日、被告人がまたしても建造物侵入で令状逮捕され (+2名の他大学生)、警察署からの出頭となった。 法政大の弾圧の歴史、すなわち、年々学内治安の強化を進めている事実、学生の自治権を奪っていく事実を明らかにし、 また、それに反対する表現行為及び思想弾圧の実態を明らかにした。

  8月27日は、荻野富士夫・小樽商科大学教授が証人に立ち、戦前の治安維持法下の弾圧の歴史、現在の状況の満州事変前夜との相似形、 戦前から戦後に連綿と続く治安体制等につき証言した。

  参考:
  「大学の教室はだれのもの?
  9月25日の期日では、被告人3名の意見陳述が行われました。
  本件では、従来の事件に加え、本年7月3日の事件も対象となりました。ちなみに5月29日の16名の事件も刑事15部、刑事16部で始まり、 現在、東京地裁では、毎週必ず、法政大学の建造物侵入事件の公判が開かれています。 いずれも警備法廷で、30名程度の警備員、廊下には公安警察官がうろうろいるという、その異様さだけでも一見の価値があるかもしれません。

  10月23日の期日では、実況見分調書に多くの警視庁公安一課の刑事が立会い、偏った内容になっていることが暴露され、 また、法政大学が麹町署に 「かなりの」 固定カメラの映像をほぼ定期的に渡していたことなど明らかにした。  なお、法大関係の裁判は今、東京地裁でこの21部の他、15部、16部、18部で、ほぼ毎週1回はなされており、 この間、本年4月1日から法大のキャンパスに現れた、暴力排除の為のジャージ部隊が、嘱託職員というのは虚偽で、 実は、警備会社に依頼をしていた、ということも判明した。

  11月19日の期日では、東京警備保障のガードマンの星景 (ほしけい) 氏の尋問でした。 星氏もジャパンプロテクションのガードマン (いわゆるジャージ部隊) のことは 「教職員」 と大学から教えられていたことが判明。 警備員としては、排除行為=暴力までは、とても出来ないという心裡を露呈していました。
 そして、監視カメラによる校門の映像 (検察側証拠であるビデオの上映を法廷で行いました)。学生が校内に入る風景を延々と大学は撮っていました。

  12月2日の期日では、清宮氏の主尋問、そして証拠採用された映像の展示を行いました。 (他の大学職員が「嘱託職員と聞いてます」と証言しているにもかかわらず) 清宮氏は、本年4月1日から警備員を配置した、と簡単に述べていました。
  ちなみに、その後、(被告人である) 内田氏を除く2名はようやく保釈が認められました。

  2008年12月17日の期日では、大学の元総務部長清宮証人の反対尋問が行われました。
  2006年3月に始まる法大弾圧の全貌が解明されてきました。 とりわけ、大学・麹町署・検察が知りながら警備員を大学 「嘱託職員」 と偽った内容の調書を作成したという清宮証人の証言の暴露に、 筆者は怒りを覚えます。これでは、司法制度の根底にある法曹間の最低限の信頼関係などありえません。

  2009年1月23日の期日では、被告人らによる清宮証人の反対尋問が行われました。これで、とりあえずの検察側立証は終了しました。
  同日、内田さんの保釈が決定。保釈金額は400万円です。
  これで、関係事件の被告人は全員身柄が解放されました。

  2009年2月16日の期日では、弁護人の冒頭陳述と内田被告人の被告人質問が行われました。 弁護側としては、弁護側立証を待つまでもなく、大学に入っただけで逮捕起訴という、大学・権力ぐるみの思想差別・弾圧構造が暴露されたことが総括されたと思っています。

  3月10日の期日では、被告人の鈴木氏と市川氏の被告人質問でした。それぞれ、自分が真摯に世の中のことを考えて、真面目に向き合おうとした結果、 法大闘争に出会った経緯を丁寧に展開しました。鈴木氏は、法大学生との現実的な交流・友情、市川氏は、03年ワールドピースナウのイラク反戦集会での出会い、など、 具体的に語りました。そして、さらにそれぞれが昨年逮捕後体験した取調名目の転向強要の現実を語りました。
  本人たちは完黙・非転向を貫きましたが、「お前の仲間はクズだ」 から 「お前の似顔絵を子供に描かせたぞ (?!)」 など違法取調の事実も明らかにするなど、 許し難い思想弾圧の実態を暴露しました。心に響く内容でした。
  公判での検察官の質問には黙秘しました。

  2009年3月18日の期日は、論告でした。
  被告人の内田氏は求刑懲役1年2ヶ月、同市川氏、同鈴木氏はそれぞれ求刑懲役8ヶ月、でした。
  この間、被告人らの親も傍聴にみえるのですが、最初は息子・娘に批判的だった親が段々、回を重ねる毎に、裁判所の方がおかしいのではないか、 と変化してきています。
  なお、この間、法政大学から大学の廻り200メートル圏内での情報宣伝活動禁止の仮処分の申立が、学生8名に対してなされ、裁判所もこの申立を認めました。 弁護側は、これによって、裁判所の権力としての暴力装置性がむき出しになってきた、と考えています。

  4月17日の期日では、弁護人の弁論と、被告人らの最終意見陳述が行われました。 被告人の内田氏から 「今日は、弁護人の意見が裁判所から制限されるかと思った」 と言われるほど、現状認識に基づいた弁論が展開できたと弁護団は考えています。 弁護団は、「実際、裁判所って我々に何をしてくれるんだろう?」 という思いを持っています。

  5月27日、判決が出ました。被告人の内田氏には懲役1年2月、鈴木氏及び市川氏に対してはともに懲役8月、全員に対して執行猶予3年という内容でした。 弁護側は、判決について、革共同の構成員という部分をはずし、徹底的に思想弾圧ということを隠蔽することに徹した、いかにも裁判所らしい、 逃げの判決で説得力がないものと考えています。弁護側はすでに控訴しました。

【一言アピール】
  大学というのは、どういう場所か。パブリックな場所、開かれた場所ではなかったのか。 憲法上の表現の自由の中でとりわけ優越的地位のある政治的表現の自由であるが故の権力の弾圧を認めることは出来ない。 政治表現の自由は今認められないのか。政治的結社の自由、政治的な集会の自由、いずれも憲法上、もっとも重要な人権と位置づけられているのではないのか。

  長期勾留、そして公安警察官、警備員に囲まれた警備法廷の凄まじさをまだ知らない方にはぜひ傍聴してほしいと思います。

文責 弁護士 森川文人