2013.10.17更新

ILO国家賠償請求訴訟
事件名: ILO国家賠償請求訴訟
係属裁判所:東京高等裁判所 藤村啓裁判長
事件番号:平成19年(ネ)第3636号
当事者:JR不採用とされた国労闘争団員ら6名 VS 国
内  容:国鉄民営化に際しての組合は無かったと虚偽の情報を流した
     国に対し、謝罪広告と慰謝料の支払を求める裁判です。
4月23日に原告の控訴を棄却する判決が出ました。
     原告団・弁護団の声明 2008.4.23
     東京高等裁判所判決 2008.4.23
弁護団は、5月2日に上告と上告受理申立てを行ないましたが、上告は棄却されました。
紹介者:萩尾健太弁護士


【事件の概要】
  国鉄分割民営化、JR発足に際しての国労組合員、全動労組合員のJR採用差別について、国労と全動労は国際労働機関 ILOに対して ILO87、 98号条約違反として申立てた。それに対し、日本政府は、傘下の労働者救済機関である中央労働委員会の公定力ある決定の認定に反して、 組合差別を否定する情報提供をなした。そのことが行政一体の原則、労働委員会制度の尊重、 政府は労使の一方に偏してはならないと言う ILOの3者構成主義に反して違法であり、原告らの団結権、公正な情報提供による救済への期待権を侵害し、 名誉を毀損した。

【これまでの訴訟経過】
  2004年5月提訴
  2007年6月22日 東京地裁民事19部判決
  情報提供行為の違法性に触れず、権利侵害に関しては、団結権侵害については損害との相当因果関係を否定し、期待権については、 ILOに申し立てたのは国労なので、個々の組合員には法的保護に値する期待権は認められないとし、 名誉毀損については、国労組合員についての指摘は原告ら個人を特定したものではないとした。

  労働者個人に由来する団結権についての理解を誤ったものであるとともに、行為の違法性に踏み込まない逃げの判決である。
  2007年12月19日、控訴審第1回口頭弁論期日。

  次回、結審予定。
  行政法学者首藤重幸早稲田大学教授の意見書提出と原告の意見陳述予定

  4月23日に原告の控訴を棄却する判決が出ました。

    原告団・弁護団の声明 2008.4.23
    東京高等裁判所判決 2008年4月23日

【事件の背景】
1  国鉄分割・民営化という国家的不当労働行為
  今から20年前、時の中曽根政権 (1985年〜87年) は、「国鉄の再建には分割・民営化しかない。」 という大々的にキャンペーンを展開し、 これに反対する国労・全動労・動労千葉の各組合に対しては、JR不採用の脅しによる組合脱退・会対抗策が苛烈に行われた。 国鉄は分裂し、組合員は4分の1以下に減少し、この過程で国鉄職員の自殺者は約200人に及んだ。

  中曽根元首相は後に、国鉄分割・民営化の戦略的狙いを、「国労を潰して総評を潰し、護憲勢力を根こそぎにして、改憲への道筋をつける。」 とともに、 「利潤原理」 を労働者・国民に浸透させ、「この国のかたち」 を根本的に変えていこうというものであったと語っている。

  1986年4月から翌年4月までに7万7020名が国鉄を退職させられ、JR各社に採用されたのは20万0650名であり、 北海道・九州を中心に国労・全動労などに所属していた7628名の国鉄職員が、国鉄を承継した国鉄清算事業団に送られ、 その内、1047名が3年後の1990年4月に解雇された。

  まさに、国鉄分割・民営化は、「この国のかたち」を変えるために強行された国家的不当労働行為であった。

2  国鉄闘争の経緯と 「四党合意」
  1997年、国労・全動労・千葉動労は、JR各社を相手として、不当労働行為の救済としてのJR職場復帰を求めて全国の地労委に救済を申し立て、 1988年以降、すべての地労委でJR各社の不当労働行為を認め、採用取扱いを命じる勝訴命令を得た。 にもかかわらず、前述のように、清算事業団は1047名への解雇を強行した。各組合は闘争団・争議団を組んで長い闘いに入った。

  1994年以降、中央労働委員会は、JR各社の不当労働行為を認めたものの、一部の者の救済を否定するなどの命令を出した。 JR各社、組合双方がこれに対して東京地裁へ行政訴訟を提起した。

  1998年5月28日、東京地裁は、JR各社に使用者性がないとしてJR各社の不当労働行為を否定し、中労委命令を取り消す逆転判決を出した。 これを受けて動揺した国労本部は、2000年には 「JRに法的責任なし」 を認め、裁判取り下げを先行させるという自民・公明・保守・社民の 「四党合意」 承認を、 7月の臨時大会に提起した。多くの闘争団員やその家族の反対のまえに、臨時大会は休会となったが、2001年1月の大会で、会場周辺を機動隊で制圧し、 「四党合意」 承認を決定するに至る。 同日、36闘争団のうち18闘争団と7闘争団員有志が 「私達は要求実現まで、政府・JRを相手に闘い続けます。」 という反対声明を公表した。

3  「闘う闘争団」 による鉄建公団訴訟提起
  2002年1月、国労闘争団有志283名 (後に追加して295名 )が、旧国鉄清算事業団=鉄道建設公団に対して地位確認、慰謝料、 名誉回復措置を求める訴訟を東京地裁へ提起した。これが鉄建公団訴訟である。原告団を支援する共闘会議も、約20万名を傘下にして結成された。

  2003年12月、JR差別事件で最高裁は、国労・全動労のJR相手の採用差別に関する不当労働行為救済申立事件で、 「JR各社の使用者責任」 を免罪する不当判決を出したが、その判決文中で 「不当労働行為があったとすれば、国鉄、清算事業団は責任を免れない。」 ことを明言した。

  2003年、鉄建公団は独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構に再編される。2004年11月には、国労闘争団有志9名 (現在、追加者含めて35名) が、 鉄道運輸機構を相手に第2次訴訟を提起。同年12月には、動労千葉争議団9名、全動労争議団58名が相次いで鉄道運輸機構相手に訴訟を提起し、 裁判は労働組合の枠組みを超えて広がっている。また、国労・全動労・動労千葉3闘争団・争議団を中心とした集会開催等の大衆運動も取り組まれた。

4  ILO国賠訴訟の提起
  中労委を取り消した東京地裁判決に対して、1998年、国労・全動労は ILO事務局は日本政府の98号条約 (反組合的差別待遇に対する保護) 違反を申し立て、 結社の自由委員会で受理された。1999年11月、結社の自由委員会は、団結権侵害の事実を暗黙の前提とし、その回復を求めた中間勧告を行った。

  しかし、日本政府は2000年2月に反組合的差別はなかったとする虚偽情報を ILOに提供したため、同年10月の結社の自由委員会は、 反組合的差別の存在を否定し、「四党合意」 受入を勧める最終勧告を行った。

  2004年5月、鉄建公団訴訟原告団長他が、ILOに虚偽情報を提供した日本政府に対し謝罪広告掲載と慰謝料支払いを求める国家賠償請求訴訟を、 東京地裁に提起。2007年6月、東京地裁は請求を棄却する判決を出した。原告は控訴し、東京高裁で審理中。

5  鉄建公団訴訟判決 (難波判決)
  2005年9月15日、東京地裁民事36部 (難波裁判長) は、裁判所として初めて採用差別の不当労働行為を認定し、 原告らの 「期待権」 を侵害したとして慰謝料 (1人500万円) とその利息の支払いを命じた(難波判決)。
  現在は、東京高裁民事17部で控訴審の審理が行われている。

6  「JR採用差別問題」 全面解決に向けて
  2006年12月、国労及び闘争団 (追加提訴を含み542名) は鉄道運輸機構に対し損害賠償請求を求める訴訟を、東京地裁に提訴した。 また、横浜地裁にも3名が地位確認と損害賠償請求を求める訴訟を提訴した。

  上記難波判決後、4つの訴訟原告団 (4者) と組合及び支援団体 (4団体) が連携して、共同行動を行う体制が形成され、 「JR採用差別問題」 全面解決に向けた取組みが行われている。2007年11月には、4者4団体主催で、「『JR採用差別』 全面解決を迫る全国大集会」 が行われ、 7300名が結集した。

【今後の予定】
  判決報告集会 2008年3月13日 18時30分 全水道会館4階
  (取材・報道大歓迎)

【連絡先】
  ○鉄建公団原告団事務局
  東京都千代田区飯田橋3-9-3 SKプラザ3F
  電話 03-3511-3386 FAX 03-3511-3386

  ○弁護団事務局長
  東京都渋谷区桜丘町4番23号 渋谷桜丘ビル8階
  渋谷共同法律事務所
  電話 03-3463-4351 FAX 03-3463-4345
  弁護士 萩尾健太

文責 弁護士 萩尾健太