2010.8.3更新

JCO臨界事故住民健康被害訴訟
〜原子力行政に屈した司法
事件名:損害賠償請求事件
事件の内容:1999年9月30日のJCO臨界事故の際、JCOから道路1本
        隔てて向かいの自ら経営する工場で何も知らずに作業を
        していて被曝した住民が健康被害について損害賠償を求
        めた事件
当事者:控訴人 住民
被控訴人:株式会社ジェー・シー・オー、住友金属鉱山株式会社
係属機関:最高裁第1小法廷(白木勇裁判長)
2010年5月13日上告棄却
紹介者:海渡雄一弁護士
連絡先:原子力資料情報室


【事件の概要】
  原告夫妻は、1999年9月30日のJCO臨界事故の際、JCOから道路1本隔てて向かいの自ら経営する工場で何も知らずに作業をしていて被曝した。 臨界事故の発生した転換試験棟から直線距離にして約130メートルの距離である。

  妻は事故直後激しい下痢や胃潰瘍を生じ、その後PTSD (心的外傷後ストレス障害) ないしは、うつ症状となり長く寝込み、自殺未遂で入院することにもなった。 夫は、臨界事故前から紅皮症という皮膚病に罹患していたが事故前には回復していた皮膚症状が事故後悪化し、その後悪化した状態が続いた。 2人は、2002年9月、これらの症状は臨界事故によるショックやストレス、被曝の影響によるとして損害賠償請求訴訟を水戸地裁に提訴した。

【地裁判決】
  2008年2月27日午前10時、水戸地裁 (志田博文裁判長) はJCO臨界事故住民健康被害訴訟について、住民側の主張を全面的に退ける判決を言い渡した。

  この判決は原告らの症状と事故との因果関係を否定して請求を棄却したものである。 水戸地裁は、「訴訟上の因果関係 (相当因果関係) の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではないが、 経験則に照らして全証拠を総合検討し、 特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、 通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とする」 と判示し、 原告の立証は高度の蓋然性に達していないとして、因果関係を否定した。

  この判示は、東大ルンバール事件判決と呼ばれる (最高裁昭和50年10月24日第二小法廷判決)。 本判決では 「高度の蓋然性の証明」 という点に重点が置かれているが、この判例の判断基準は、公害・医療事故訴訟などにおいては、 高度の自然科学的知識が要求されるときは、公的調査機関の不備、加害者の非協力、被害者の貧困などの諸要因からして、因果関係の立証が困難であり、 被害者の救済を期待し得ないので、原告の立証責任の緩和のために定立された基準なのである。 判例の趣旨を曲解し、その文言だけに依拠して原告に極端に高度の立証義務を負わせた判決は明らかに誤っている。

[弁護団からのアピール]
  私達は、これまで、原発関係の裁判で、何度も住民側の全面敗訴判決を受けてきた。 しかし、私達は、裁判官が住民側の勝訴判決を書く勇気を持てなかったためであり、その背景にはまだ被害者が出ていない事実があるのではないかと思ってきた。 現に私達が担当したケースでも中部電力の浜岡原発等での原発労働の後白血病になって死んだ労働者の労災申請では労災認定がなされた。 また、最近では原爆症の裁判では行政が認定しなかった原告たちに勝訴判決が相次いでいる。 現実に被害者がいる訴訟で、しかもPTSDやストレスによる悪化という 「被曝」 そのものを理由にしなくても原告勝訴判決を書くことが書けるという道まである訴訟で、 被害者を完全に切り捨てる冷酷な判決を目にするとは夢にも思わなかったのである。
  上告予定であり、今後もご支援をお願いしたい。

文責 NPJ編集部