2010.8.3更新

中国人農業実習生訴訟(熊本第2次訴訟)
事件名:中国人農業実習生訴訟 (熊本第2次訴訟)
事件の内容:中国人女性らが最低賃金以下の給与で、しかも、中国で
        の約束と異なる労働 (二重派遣含む) を強いられたこと
        に対して、未払い賃金や慰謝料等を求める訴訟
係属機関:熊本地方裁判所民事第2部合議B係
次回期日:8月6日(金) 午後1時30分〜 熊本地方裁判所101号法廷
       多数の方の傍聴が見込まれますので、傍聴希望の方は早
       めに法廷にお越し下さい。
       午後0時50分ころから、裁判所前で集会の予定。
       裁判終了後、午後2時ころから報告集会及び記者会見の予
       定 (熊本県弁護士会館3F)。
       どなたでも参加できます。
次回の予定:結審。双方から最終準備書面が提出されます。
            2年4か月間の裁判のまとめの期日となります。
連絡先:熊本さくら法律事務所 TEL 096-320-8555
担当弁護士:村上雅人


【当事者】
  原告:中国人女性3人です。現地の派遣業者に多額の申込金・保証金を支払い、保証人を立て、自宅を担保にしたうえで来日しました。
  被告:第1次受入機関の 「社団法人熊本県国際農業交流協会」、第2次受入機関の農家2名、 それと、この制度に責任を持つべき財団法人国際研修協力機構 (JITCO) です。

【事件の経緯】
(1) 原告の女性たちは、トマト栽培をすると聞かされて来日し、農家で働きはじめました。
  ところが、受入れ農家は、トマト栽培だけでなく、イチゴ栽培、精肉、整地等の労働をさせ、他の農家への二重派遣を行いました。 これは、約束違反でもあり入管実務上の不正行為でもあります。 女性たちは、農家の間で労働力として貸し借りされることで、自分たちが物として扱われているような気になり、深く傷つきました。

  また、女性たちは、酷暑のビニールハウスでの作業や、冷凍倉庫での作業、力仕事を連日させられました。 そのような過酷な労働を強いられつつ、時間外労働・休日労働をさせられたのです。

  賃金は、最低賃金を大きく下回るものでした。

(2) 女性たちがひどい目にあっている間、被告協会は何もしてくれず、かえって、農家らの行為を容認する始末でした。
  また、JITCOは指導等の義務を何ら果たしませんでした。

(3) 2008年1月、女性らは劣悪な労働環境から退避して、次の受入れ先を探すことになりました。 しかし、結局、協会も彼女たちを助けてはくれないことが明らかになりました。
  そこで、女性らは、個人加盟の労働組合に入って、 先行する 「中国人実習生強制労働事件」 訴訟の原告の女性たちと同じく、 訴訟によって被告らの責任を問うに至ったのです。

【請求の内容】
・ それぞれが雇用されていた農家らに対し、未払賃金 (基本給と残業代・休日手当) の請求。
・ 被告全員に対し、慰謝料請求。
・ 逸失利益の請求 (外国人研修・技能実習制度は、研修が1年間で、その後2年間の技能実習です。 原告らは、被告らの不法行為によって、技能実習を途中で継続できなくなったため、継続できなくなってから来日3年後までの間の最低賃金相当額を、 得ることができなかった利益ということで請求しています。) 

【手続きの経過】
  6月13日の第1回口頭弁論期日では、訴状陳述と証拠提出。被告からも答弁書の陳述がありました。
  直前に出した準備書面と証拠は、次回提出の扱いになりました。文書送付嘱託・調査嘱託も後日検討となりました。 先行している熊本の第一次訴訟と足並みを揃える予定です。

  これまで2回の口頭弁論を経て、総論的な主張は出しつくしました。11月28日の第3回は、原告らが受けた具体的な被害を主張します。 今回で、原告の主張はひととおり出しつくすことになります。その後は、年明けの期日で被告の反論書面の提出を経て、いよいよ、尋問に移っていくことになります。

  前回までで、こちらの主張はひととおり終えました。
  次回は、いままであまり反論してこなかった被告ら (受入れ機関) が、具体的な反論の書面を提出することになっています。 こちらからも、必要があれば反論します。
  そして次回期日では、原告ら本人の尋問の実施を採用させることを目指します。

  2009年2月13日の期日では、原告らの在留期限の関係で、弁護団は、次回 (5/15) に原告たちの尋問が入るように決意して臨みました。 結局、午後いっぱいの尋問時間が確保され、1日で尋問を終えることができる見込みとなりました。

  5月15日の期日は、原告ら3人の尋問でした。
  原告らの帰国予定を延期して臨んだ尋問で、反省点もありますが、おおむね聞きたいことは聞けました。
  原告らは尋問から数日後、中国に帰っていきました。1年間続いた彼女らの頑張りを、勝利へと繋げていかなければなりません。

【執筆者の個人的な感想】
  裁判も、いよいよ佳境に入っていきます。いっそうのご支援をよろしくお願いします。

  2009年10月2日の期日の内容は以下のとおりです。
  第一次受入れ機関の被告・社団法人熊本県国際農業交流協会の元事務職員であり、原告らの技能実習1年目(来日2年目)に、 協会内部で事務処理全般を扱っていた方に証人に出ていただき、尋問しました。

  やはり、内部で実務を担ってきた方の証言は、圧倒的でした。
  協会が、第二次受入れ機関の農場らに対する適切な指導監督を怠ってきたこと、
  のみならず、社団法人みずからが違法・過酷な外国人の受入れ条件や権利の侵害を、積極的に導入・推進してきたこと、
  入国管理局等に虚偽の報告をしていたこと、
などなどが、現場で実務を担っていた人間の声により、法廷で明らかにされました。

  訴訟を大きく動かすだけの重要な証言だったと思います。

  2010年2月5日:第2次受入れ機関である農場経営者2名への尋問を行いました。
  原告らの作業の実態がまぎれもなく 「労働」 であったこと、まともな 「研修」 がなされていないこと、 最低賃金を大きく下回る報酬が違法である認識があったことなどが明らかになりました。

  2010年5月14日:第1次受入れ機関である社団法人の理事と事務職員への尋問を行いました。
  理事への尋問では、社団法人が、中国人研修生たちが本国で保証金を支払うなど多大な負担をして来日しているのを利用して、 物言えぬ彼らを安く働かせることを目的にしていたこと、農場の「研修」の監査が極めてずさんであったことなどが明らかになりました。
また、事務職員への尋問では、被告は精算して解決済みと言うのに反して、紛争の解決の合意などなかったことが明らかになりました。

【一言アピール】
  外国人研修・技能実習制度は、「技術移転等による国際貢献」 という建前を隠れ蓑にして、単純労働力の需要を満たすために利用されてきました。 裏口から大量に単純労働力を日本に受け入れるというやり方をとっているため、労働法無視、人権侵害、悪質ブローカーの介在など、 さまざまな問題がまかり通っています。

  この問題性は現在、制度自体の存続が疑問視されるほどにまで至っています。
  本訴訟においては、先行する 熊本第1次訴訟 と同様に、制度のはらむ問題点も明らかにしていくつもりです。

文責  弁護士 村上雅人