2012.5.15更新

神田駅超高架化差止訴訟
事件名:神田駅超高架化差止訴訟
内  容:神田駅を中心とした 1.3Kmにわたる高さ約30メートルの二重
     高架の建築工事の差止め請求
係属機関:東京地方裁判所
       (第13部合議A係 山田俊雄裁判長→上田哲裁判官)
       事件番号 平成19年(ワ)第19718号
次回期日:2012年9月24日(月) 午後1時10分 民事第103号法廷
次回期日の内容:5年もの長期にわたる訴訟の論戦につき、いよいよ
           一審判決が言い渡されます。奮ってご参加ください。
連絡先:神田の環境を守る会 FAX:03-3252-4157
     神田重層架弁護団事務局 お茶の水合同法律事務所
     TEL:03-5298-2601(代) 弁護団事務局長 大辻寛人


【事件の概要】
[はじめに]
  JR東日本は、東京上野間の約 3.8qに、東北・高崎線及び常磐線と東海道線の相互直通運転ルートを整備する、東北縦貫線計画を進めている。 その中で、神田駅を中心として 1.3Kmにわたり8階建てのビルに匹敵する、高さ約30メートルの二重高架を建築しようとしている。
  この計画について神田住民らが原告となり、(1) 重層架が災害時に甚大な被害を周辺に及ぼす危険があること、 (2) 騒音、振動、圧迫感などにより、神田の生活環境が悪化し、都市が破壊されること、(3) 国鉄と交わした確認書に基づき、 重層架は建築しないという約束を根拠に、建築工事の差止めを求めている。

1 当事者
  原告 神田住民
  被告 東日本旅客鉄道株式会社 (JR東日本)

2 請求の内容の概要
  被告JR東日本は、東京駅から神田駅、秋葉原駅間の線路上において、二層以上の重層式高架橋を建設してはならない。

3 請求原因の概要
(1) 重層架は、災害時に周辺に甚大な被害を及ぼし、神田住民の生命・身体に重大な危険を及ぼす。
(2) 重層架建築により、電車の通過本数が増加し、騒音・振動が増大する。また、巨大な重層架の出現により、日照、景観、風環境に悪影響を及ぼし、 ヒートアイランド現象を惹起するなど、神田の生活環境が悪化する。
(3) 昭和58年8月31日、旧国鉄と神田住民の間で、重層架を建築しないとの確認書を交わした。今回の工事は、この確認書に基づく約束に反している。
以上を3本柱とした請求である。

【手続の経過】
1.東北縦貫線 (重層架工事) についての過去の流れ
 ※ 東北縦貫線とは、現東北新幹線の上に線路を作り (重層架橋)、東からは上野駅止まりの高崎・宇都宮・常磐の三線を東京・品川駅まで延伸し、 西からは東京駅止まりである東海道線を上野駅まで延伸し、高崎・宇都宮・常磐線に乗り入れる縦貫線路をいう。

昭和47年
  旧国鉄が、東北新幹線の神田地区通過計画を発表(新幹線東京駅延伸)。
  計画は神田駅を中心に全長 1.3q、新幹線の上に在来線(縦貫線)を乗せ、2階建てで走らせると言う重層架計画で、高さは21メートルだった。
  この計画は住民を無視し着工しようとしたので、すぐに神田地区東北新幹線対策委員会が設置され、以後10年以上にわたって反対と交渉が続いた。

昭和52年3月
  対策委員会が千代田区議長あてに 「東北新幹線計画案に反対する請願書」 を提出し、これに基づき千代田区議会が昭和52年4月8日、 議長名で時の運輸大臣、国鉄総裁、工事の責任者である旧国鉄東京第一工事局長あてに 「住民の意思を無視する東北新幹線計画に反対する意見書」 を提出した。

昭和58年8月24日
  旧国鉄との連絡会議で東京第一工事局伊藤次長から、「縦貫線は、今回の新幹線計画から取り外し二重高架を取り止めとする」 との申し入れがあった。

昭和58年8月31日
  「確認書、縦貫線については、廃止する事が提示された対策委員会はこれを評価する。これを前提として今後新幹線工事推進に伴う諸問題については、 前向きに合意するよう相互に協力するものとする。昭和58年8月31日」 という内容の確認書が、 神田地区東北新幹線対策委員長川上豊太郎氏と旧国鉄の第一工事局大島聰課長により交わされ、縦貫線は廃止された。

  ※ 以上の経過により、平成3年6月に東北新幹線東京駅始発の運行が開始されることとなった。

2.今回の計画について
  ※下記内容は、JR東日本発行 「東北縦貫線事業概要」 に基づく
  事業目的
  東京駅〜上野駅間に東北・高崎線及び常磐線と東海道線の相互直通運転ルートを整備することにより、山手線、 京浜東北線 (御徒町駅〜上野駅間) の混雑率を緩和し、相互直通運転により所用時間を短縮するとともに、 首都圏を南北に結ぶ輸送ネットワークの強化により交流の促進及び地域の活性化に寄与することを目的とする。
  ※ 京浜東北線 (御徒町駅〜上野駅間) の南行は、東京圏における最混雑区間であり、平成15年JR東日本による説明の混雑率は225%で、 この事業完成時混雑率は180%に緩和との事。(しかし、平成17年度の混雑率は214% (ラッシュ1時間) で二年間に 4.8%の自然減になっている)

  事業内容
  1 事業区間
  →東京 (千代田区丸の内一丁目) を起点とし、上野 (台東区上野七丁目) を終点とする延長約 3.8qの区間
  2 東京駅から約 0.9qは、東海道線の引上線の線路改良、そこから神田駅〜秋葉原駅間約 1.3qは、高架橋新設及び既設高架橋の改良、 秋葉原駅〜上野駅間約 1.6qは、留置線の線路改良を行うことにより、東北・高崎線及び常磐線と東海道線の相互直通運転ルートを整備する。
  高架橋新設及び既設高架橋改良区間の約 1.3qのうち、東北新幹線の上部に高架橋を新設する神田駅付近約 0.6qを重層部、 東京駅方面から重層部までの約 0.35qを東京方アプローチ部、重層部から秋葉原駅までの約 0.36qを秋葉原方アプローチ部とする。
  東京方アプローチ部と秋葉原方アプローチ部は、高架橋新設及び既設高架橋の改良を行い、重層部は、東北新幹線の上部に高架橋を新設する。

3.今回の計画の交渉経緯と現在まで
  原告が問題としているのは今回の計画も前回廃止された計画とまったく同じ計画であり、前回よりも新幹線の二階建て車輌のため更に高くなった重層部、 すなわち重層架の建築である。

平成14年6月7日
  JR東日本東京工事事務所による説明会。
  この説明会は過去の東北新幹線対策委員会の流れを汲む神田駅東地区整備協議会に対して行われたもので、それ以来、神田駅東地区整備協議会が窓口となる。 説明会において、過去にあった約束と違うなどの重層架計画に異を唱える住民の発言があった。

同年10月19日
  旧千桜小学校にて意見交換会 (集会参加者 100名)
  白紙撤回を求める決議が参加者全員一致でなされた。

同年11月20日
  住民側は、千代田区議会に対し、重層架計画の白紙撤回を陳情した。
  同様に、千代田区長に対して重層架計画の白紙撤回につき協力要請を、国土交通省 (鉄道局施設課) に対して重層架計画の白紙撤回の申し入れ。

同年12月4日
  東京都 (都市計画局長) に対し、重層架計画の白紙撤回の申し入れ。
  都庁記者クラブ (参加者24名) に資料を配付し協力を要請。

同年12月5日
  JR東日本本社 (建設工事部長) に対し計画の白紙撤回の申し入れ。

同年12月19日
  元通産大臣与謝野馨氏に面会し、協力要請。

平成15年8月4日、22日、10月7日、12月25日
  JR側との話し合いの席がもたれた。

平成16年2月28日
  JR東日本からの回答書に対する 「経過報告並びに意見交換会」 を、集会参加者約150名の関係者で開催する。
  結果は縦貫線の白紙撤回を全員一致で再確認し、さらに運動を推進させ、署名運動を行うという方針で固まった。

平成17年7月30日
  JR東日本による神田住民に対する一回目の合同説明会が旧今川中学校にて開催される。
  この説明会の中で、JR東日本の司会者から強引に環境アセスメントを行わせて貰いたいとの発言が、説明会終了時にあった。
  この発言に窓口である神田駅東地区整備協議会から反対意見がでた。

同年8月9日
  窓口の協議会よりこの説明会のこの時点での環境アセスメント申請は無効であるとの申し入れ書を各機関に提出した。
  千代田区長、千代田区議会、国土交通省鉄道局施設課、東京都庁都市整備局都市づくり政策部都市計画課に要望書を、 JR東日本本社と地元の窓口のJR東日本東京工事事務所に申し入れ書を提出した。

平成17年12月17日
  JR東日本による2回目の合同説明会が神田さくら館で開催された。
  住民側に対して、環境アセスメントの説明と実施のお願いがあった。
  会場は反対派多数。

平成18年2月1日
  JR東日本東京工事事務所より突然アセスメントを2月下旬に実施するとの 「お知らせ」 が来る。 これに対し、「住民の合意が出来ていないので、断固拒否する。」 との書面をJR側に提出し、その後21日までに関係各機関に協力要請のお願いを行った。

同年2月18日
  JR東日本東京工事事務所が地元住民の意思を無視して東京都に環境アセスメントを申請した。

同年3月18日
  これを受けて地元の反対住民及び関係者130人が集まり、アセスメントに関する意見交換会を開催し、対応策を協議した。

平成18年11月25日
  有志による 「神田の環境を守る会」 発足。「神田の環境を守りましょう」 と題して東北縦貫線反対の署名運動開始。於 旧今川中学校 出席約100名。
  当日あわせてJR東日本による東京都環境アセスメントの説明会があり、住民からは申請は認められないとの強い意見が多数出た。

平成19年1月
  東北縦貫線反対の署名運動の第一回締め切り。
  約二ヶ月間で千代田区民1,118名、千代田区以外の都民1,157名、14県民869名、外国人1名、計3,145名の署名があった。

平成19年3月26日
  「神田の環境を守る会」 ホームページ開始。
  もぐれ縦貫線 「東北縦貫線=神田重層化計画」

平成19年6月5日
  シンポジュウム開催。於神田さくら館内、千代田小学校 出席約120名
  「神田地区JR東日本新幹線重層架化を考える集い」
  「神田駅及び神田の街の動向」 と題して有名講師の講演があり、この計画の無謀さを住民が再確認する。

平成20年3月21日
  本件重層架工事が認可される (本工事の完成期限平成25年6月30日)。

同年5月30日
  JR東日本による東北縦貫線起工式、起工祝賀会開催。
  当日会場前にて、「神田の環境を守る会」 有志約30名により反対のプラカード抗議。

4.訴訟手続について
平成19年 8月 1日 住民側訴訟提起 (不作為義務の確認訴訟)
平成19年11月12日 第1回口頭弁論期日
  原告⇒訴状陳述、訴状要旨朗読、甲1号証ないし4号証提出
  被告⇒答弁書陳述、朗読、乙1号証提出
平成20年 1月21日 第2回口頭弁論期日
  原告⇒第1準備書面陳述
平成20年 4月 7日 第3回口頭弁論期日
  原告⇒第2準備書面陳述、甲5号証ないし27号証提出
  被告⇒準備書面 (1) 陳述、乙2号証提出
平成20年 6月 4日 第4回口頭弁論期日
  原告⇒訴えの変更申立書陳述 (→不作為義務確認請求から重層架工事差止請求に変更)、第3準備書面陳述

2008年9月10日 第5回口頭弁論
  原告側は、証拠を提出しました。また、原告訴訟代理人弁護士は、提出証拠の立証趣旨を陳述しました。
  ここで立証趣旨の概略は以下のとおりです。
  住民の陳述書は、被告が縦貫線事業及び重層架建築計画を廃止することを約束した事実、重層架の建築により、日照、通風の阻害、圧迫感、振動、 騒音などが増大すること、また、鉄道車両の脱線や高架からの落下などによる危険性が増大することなどについて立証するものです。 騒音測定記録は、本件重層架建築予定地域周辺において、本件重層化の建築により、列車の通過本数が増大し、 基準値を超える騒音がさらに増大する現実的危険があることを立証するものです。

  被告側は、準備書面 (3) を陳述し、環境影響評価書において、予測される騒音レベルはすべての地点で現況の騒音レベルと同程度か現況を下回る結果となっており、 原告らの主張に理由がないこと、確認書に署名した旧国鉄職員は旧国鉄の代理人ではないこと、 東北縦貫線 (東京駅〜上野駅間) 整備事業は、旧国鉄時代の事業となんら関連性を有しないことを主張しました。 証拠として、環境影響評価書、行政指針等を提出しました。

2008年12月3日 第6回口頭弁論
  原告側は今回の期日で準備書面を提出し、前回の被告主張への再反論をしました。
  神田地区が軟弱地盤であり地震に弱いこと、騒音被害の実態、東北縦貫線計画を廃止するという内容の確認合意書 (旧国鉄の工事課長が署名している。) について、当該文書が 『公文書』 であると認めた旧国鉄職員の発言を録音したテープなども証拠として提出しました。
  また,原告側大辻団長が主張要旨を朗読しました。
  主張要旨は第一に、神田地区の地盤が軟弱であり、かつ、地震の頻度も多いので重層架建築の危険性が高いこと。 また、2階建車両や駅舎の改良などで東北縦貫線計画を実現しうるにもかかわらず、 あえて危険性が極めて高い方法を採用する被告JRの営利重視の姿勢が問題であること。
  第二に、これまでの被告の反論が極めて形式的であり、原告の主張に対して実質的な反論をするものでないこと、です。
  今回、原告側の提出した再反論に対して、次回、被告が回答することとなります。

2009年2月9日 第7回口頭弁論
  被告側は、神田重層架橋工事は、環境アセスに適合し問題のないことを主張しました。
  原告側、(1)神田付近の地盤が沖積層という軟らかい地盤で構成されており、地震に非常に弱いこと、(2)首都圏における大地震発生の可能性が極めて高いこと、 (3)全国紙アンケート結果を踏まえて、近年、多くの日本人がよりよい環境を志向していると主張しました。
  その上で、原告側は、被告が実施した地盤調査に関する生の資料を法廷に提出するよう求めたところ、 被告側は、地盤調査の結果を開示する必要はないと回答しています。
  神田住民と被告JRとの間で、証拠の偏在、較差のあることが誰の目から見ても明らかであるにも関わらず、被告JRは、大企業の公的使命を果たすことなく、 地盤調査に関する資料をはじめ、各種重層架橋工事に関する資料を開示することを頑なに拒み続けています。 かかる資料は、専門家による検証のために不可欠の資料です。
  工事に関する関係資料の開示を拒み続ける被告JRの姿勢の当否についても、今後、原告側は法廷で問うていく所存です。
  また、被告側は、旧国鉄工事局長と住民代表との間で交わされた東北縦貫線工事の廃止に関する合意書についても、従前からの主張を繰り返し、 当時の旧国鉄工事局長に旧国鉄を代理する権限がないこと、合意書の内容も曖昧であることなどを指摘し、 住民を騙しすかすような旧国鉄の姑息な手段を都合よく流用しています。
  今後、原告側は、学者の意見書を提出した上で、旧国鉄と住民代表との間で交わした東北縦貫線工事の廃止に関する合意の経緯等に関して証人尋問も予定しています。

2009年4月20日 第8回口頭弁論期日
  原告側 (当方):第6準備書面陳述、文書提出命令申立書提出

  原告側は、認定鉄道事業者制度 (鉄道事業法14条) の下、神田重層架工事に関する鉄道施設変更の認可申請に際して、設計に関する基本的資料が一切、 被告から国土交通省、関東運輸局に提出されていないことを踏まえて、人の生命の安全に大きく関わらず鉄道事業において、 行政官庁によって神田重層架工事の安全性につき全く検証されていないのは極めて問題であることを強調しました。
  原告側は、神田重層架工事の安全性につき第三者による検証が必要であるとの考えに基づき、 被告が所持する神田重層架の設計に関する基本的資料等の提出することを求め,文書提出命令の申立てを行いました。
  被告側は、そもそも,原告側に神田重層架工事の危険性につき立証責任があり、被告が設計図等を提出する必要はないと主張しています。 さらに、被告は,原告側は文書提出命令を申立てることによって、審理をいたずらに拡散させていると非難してきました。
  今後、文書提出命令申立てに関する審理と、これまでの審理が並行して進行していきます。

2009年6月22日 第9回口頭弁論
  被告は、環境アセスメントや関東運輸局の工事認可を根拠として、本件重層架の安全性は確認されていると主張しました。
  これに対して、原告は、環境アセスメントは、安全性を検証するための制度ではないこと、他方、
工事認可手続において安全性を検証する上で必要な資料は一切提出されていないことを改めて指摘し、被告の主張理由に合理性がないことを強調しました。
  さらに、確認書について、被告が,権限のない工事課長が作成した文書にすぎず、なんら法的拘束力はないと主張したことを受けて、 原告は、これまで被告が工事局および工事事務所は本社を代表すると標榜してきたこと等を根拠に、確認書の有効性を訴えました。 なお、地盤の危険性に関する専門家の意見書については、9月末を目途に提出する予定となりました。

2009年10月19日 第10回口頭弁論
  原告側は、神田駅周辺に軟弱地盤が存在し、災害時に液状化する危険性があると指摘する点で専門家の意見は一致しており、 第三者による資料の検証が必要であると主張しました。
  同時に、専門家(学者)の証人尋問などを申請しました。
  被告側は、次回期日までに、安全性に関する資料の “一部” を証拠として提出して、反論を行なうと述べました。 被告側は、文書提出命令が下される前に自ら資料を提出することで裁判所に対し悪印象を与えないことを狙っていると思われます。
  いずれにしても、積極的に被告から資料が開示されることになり、大きく一歩前進しました。

2010年3月1日 第11回口頭弁論
  被告JRは、第10回口頭弁論において、神田重層架橋の安全性に関する客観的資料を被告JR側から開示する姿勢を示し、 なおかつ、被告JR内部において、神田重層架橋の安全性に関する客観的資料を調査・整理する時間として、ある程度まとまった時間が必要である旨述べました。
  裁判所は、被告JRの意向を踏まえて、第10回口頭弁論期日(2009年10月19日)から4か月以上も後の2010年3月1日に第11回口頭弁論期日と指定しました。
  しかしながら、被告JRは、4か月もの長期間の猶予を得ながら、 第10回口頭弁論期日において開示すると約束した神田重層架橋の安全性に関する客観的資料を、今回の第11回口頭弁論期日において、何ら開示することなく、 あくまでも神田重層架橋に関する被告JR職員による見解をまとめた陳述書を提出したにすぎません。
  原告代理人弁護士らは、かかる被告JR側の不当な訴訟追行の対応を追及しましたが、被告JR側は、曖昧な回答に終始しました。
  この点、留意すべきは、4か月もの長期間経過していく間に、被告JRが、刻一刻と神田重層架橋の工事を進めているという厳然たる事実です。
  被告JRの姑息ともいえる一連の訴訟対応に、原告の神田住民たちは怒りを禁じ得ません。

2010年4月19日 第12回口頭弁論
  裁判官の異動のため、山田俊雄裁判官から、上田哲裁判官に交代となり、原告の訴訟代理人は、これまで神田住民が展開してきた主張の要旨を、 新しい裁判官の前で改めて述べました。
  原告側は、被告JRに対し、田重層架の安全性を検証するための重層架橋の構造計算書や、 重層架橋の基礎となる地質に関するボーリング調査結果をまとめたボーリング柱状図の開示を求めていたところですが、 被告JRは、安全性を検証するための客観的資料を開示することなく、安全性は十分であるとの必ずしも合理的とはいえない主張を繰り返すばかりで、 今回の期日においても、安全性に関する資料を開示する姿勢は全くありませんでした。
  原告側は、文書提出に関する被告JRの反論について、液状化の危険のある砂層の存在を指摘し、 被告JRは、神田重層架橋の安全性に関する論証に成功していないと主張しました。
  今回の訴訟における一つの争点となっている文書提出命令申立てに関する裁判所の画期的判断が待ち望まれます。

2010年5月31日 第13回口頭弁論
  これまで、原告側は、文書提出に関する被告JRの反論について、液状化の危険のある砂層の存在を指摘し、 被告JRは、神田重層架橋の安全性に関する論証に成功していないと主張し、文書提出命令を促してまいりました。
  原被告代理人の激しい主張の応酬の最中、安全に関する資料の任意開示の方向性についても併せて模索されており、 被告のみが保有する安全性に関する資料の開示がどこまで実現されるか依然として先行きは不明であり、注視の必要性が高まっています。

2010年7月26日 第14回口頭弁論
  原告らは、裁判所に対し、今後、現場検証を行うよう申し入れしました。

2010年10月4日 進行協議期日
  重層架による危険性に関する主張書面を提出するとともに、原告側の証人申請につき確認しました。

2010年11月29日 証人尋問期日
  この日、原告側の増田氏、元千代田区議会議員鈴木氏が証言を行いました。
  両証人は、国鉄が東北縦貫線計画を廃止した経緯を始め、今回の紛争の核心である住民と国鉄の確認書による合意の事実について、 当時の一つ一つの体験を解きほぐしていくかのように語ってくださいました。

2011年1月17日 進行協議期日
  2011年1月11日までに、被告から開示された地質調査報告書の内容上、砂層の液状化の危険性の存在可能性につき追及する指摘を行うとともに、 さらに、文書提出命令申立に関連して、 JRが所持している重層架地域の地質および重層架構造物の構造関連の図面資料の任意開示の当否等につき協議を行いました。

2011年3月16日 進行協議期日
  前回引き続き、進行協議を行いました。

2011年4月27日(水) 進行協議期日
  文書提出命令申立に関連して、当方は、開示を求める文書を地質調査報告書に限定しました。
  この点、裁判所は、JR側に対し、前向きに文書を開示していくように求め、JR側は、資料の開示につき検討すると回答しました。
  また、当方は、JR側が、地質調査報告書等の資料を開示することを前提として、防災の専門家松田教授による見解についても提示していく旨伝えました。

2011年6月29日(水) 進行協議期日(非公開手続き)
  これまでの神田住民側の再三再四にわたる申し入れがあったこともあり、JR側から、地質調査報告書が書証提出されました。
  かかる地質調査報告書の内容の問題点については、今後、防災の専門家松田教授の(専門家)証人尋問の中で明らかにしていくことが期待されます。
  また、神田住民側は、元JR運転士の佐久間氏を証人申請しました。
  JRの運転士を長年勤められてきたプロの目から、重層架に内在する危険性の問題に鋭く迫ることが期待されます。
  さらに、原告代理人から、証拠開示に関する協議も区切りがついたこと、進行協議期日が長期化していたこともあり、 今後は、公開法廷による審理進行を促し、次回以降、改めて、公開弁論にて審理が行われますので、 奮って、傍聴等ご参加のほどよろしくお願いします。
  なお、次回期日は、主として、 次々回期日に予定されている証人尋問に関する段取りを争点との関連において定めること等が中心的主題になることが想定されます。

2011年9月26日(月) 午前10時30分〜、第15回口頭弁論期日
  今回の弁論期日では、これまでの進行協議期日の内容を踏まえて、防災の専門家松田証人(神田住民側証人)とJR工事局責任者で、 工学博士の津吉毅証人(JR側証人)の尋問を次回期日に行うことを確定しました。
  なお、神田住民側は、JRの運転士を長年勤められてきたプロの目から、重層架に内在する危険性の問題に鋭く迫ることを期待して、 元JR運転士の佐久間氏を証人申請しており、今回の期日でも、同証人の意義を強調しました。
  しかし、今回の期日において、元JR運転士の佐久間証人について、 証人として採用するか採用しないかは後日に決定するとの方針が裁判所から示されました。

2011年10月31日(月) 午後1時30分〜、尋問期日   本日は、防災の専門家松田証人(神田住民側証人)とJR工事局責任者で、工学博士の津吉毅証人(JR側証人)の尋問を行いました。
  松田証人は、中央防災会議のメンバーであった経験と地質・地形の専門分野の学識を下に、 重層架が災害時の被害ポテンシャルを高めることを強調しました。
  それに対し、JR側津吉証人は、設計に関する既定の基準をクリアしていることから問題がないことを強調しました。
  しかし、津吉証人から開陳された証言の中で看過できない点がありました。
  それは、重層架橋建築に際して、M7(マグニチュード7)の地震は想定しているけれどもM8(マグニチュード8)の地震は想定していないとの証言です。
  今年の3月11日の震災による被害回復が現在も進められている最中、JRという国を代表する鉄道会社の最前線で仕事をしている技術者が、 なんの気後れもなく、また市民が聴いて理解・納得できる解説をしようともせずに、重層架建築においてM8は想定していないとの証言を行いました。
  首都圏直下型地震が高確立で首都東京を襲うと多くの地震学者らの専門家が警告している状況下において、 理解に苦しむ姿勢といわざるをえないと言っては言い過ぎでしょうか。

2012年4月23日(月) 午後1時30分〜、最終弁論期日
  最終弁論期日が行われ、住民を代表して長谷川万里子氏による意見陳述、大辻弁護士による最終弁論がなされました。
  長谷川氏は、かつて東北縦貫線を廃止するとの確認書を全く無視したJRの対応の問題点、巨大地震も視野に入れた重層架橋の危険性、 環境問題という3つの観点から、改めて、JRの東北縦貫線事業へ警鐘を鳴らしました。
  また、大辻弁護士からも、これまでの神田住民らの主張を総括する形で、JRの東北縦貫線事業につき、法律的問題点を指摘しました。
  本件訴訟は、神田の住民の方々の心血が注がれ、およそ5年近くにもわたる長期間、審理が継続されてきたもので、 今後、裁判所による判決内容が大いに注目されます。

【一言アピール】
〜本件差し止め手続の重大な意義について〜
(以下、「原告第3準備書面第1」 より抜粋、103号法廷における大辻寛人弁護士による朗読部分)
第1 はじめに
  本項では本件差し止め手続きの重大な意義について述べる。
  この神田駅超高架化工事は、原告ら周辺住民の生活権 (憲法第25条)・人格権に真っ向から挑戦し、 また同時にJRの果たさなければならない公共性に矛盾するものである。この点について順次述べていくこととする。

  原告ら神田駅周辺住民は、何代も前から東京都の中心部に位置する街区として神田地区に居住し、その街を歴史の年月をかけて作り上げてきた。 その努力は、日々の商業・製造業・賃貸業等自己の世帯の生計をたてると同時に、それぞれの世帯の生計が近隣の生計とあいまち、 それが街の歴史を形成してきたのである。 旧国鉄神田駅は、これら都市街区の中心に位置し、とりわけ高架下の店舗並びに神田駅北口・東口・西口周辺の商店街、 並びにそれらに続く店舗・事務所の連綿とした繋がりが鍛冶町・須田町・美土代町・神保町とつながり、いずれもその町名に神田という呼称が付けられ、 まさに神田駅という駅の呼称と周辺の街区が一体となって都市を形成してきたのである。 これらの歴史の中で写真・絵画・文学等芸術作品の中にも街区の状況が反映され、文化を形成してきたのである。 JRの神田駅周辺超高架化事業は神田駅及びその周辺の街づくり・都市の形成の歴史と真っ向から矛盾するものである。

  この準備書面で後に述べる確認書は、街の歴史を守り、次の世代に住民の文化遺産を継承しようとする人々の身命を惜しまぬ継続的な活動の成果として、 旧国鉄と神田駅周辺住民の間で締結されたものである。 今回の神田駅超高架化事業はこの成果を蹂躙する。言い換えると、この事業は公共性の衣を纏いながら、まことに反公共的な目的を実現しようとするのである。

  もともとJRは駅周辺に巨大な公有地がある品川・汐留・大崎・東京・秋葉原・上野・立川・新宿等の駅については、公共の土地を民間に売却したり、 あるいは自ら開発を行ったりしつつ、駅の外に流れる乗降客についてはこれを駅構内に留めて飲食・書籍・雑貨・服飾等のテナントに高い賃料で貸し付けて商業を行わせ、 その結果、駅構外の同業の売上には多大な損失をもたらすおそれのある事業を行ってきているのである。 そして一方、通過駅については本件事業のように周辺の環境悪化などの弊害には目もくれずに事業を強行し、 前記のような優先的に開発する駅への集客を容易にしようとしているのである。 これは乗客の利便を図るという公共性の美名に隠れながら、民間企業と化したJRの営利優先の事業姿勢と言わざるを得ない。

  他方、原告らはただ単に自らの生計を守るという目的のみならず、歴史的に形成され、 いったん破壊されれば現状を回復することが困難な歴史的・文化的に形成された 「都市」 を守るためにこの手続きに立ち上がったのである。 裁判所が、原告ら住民の真摯なる主張を傾聴されるよう要望する次第である。

文責 弁護士 出口裕規