2010.6.1更新

川崎中国人研修生事件〜研修時代の残業時給は500円〜
事件名:川崎中国人研修生事件
係属機関:横浜地方裁判所川崎支部民事部
       事件番号 平成20年(ワ)第373号
  5月18日、第一審判決が言い渡されました。被告ら(反訴原告ら)の請求を一切認めない、不当な内容でした。
  5月31日、被告(反訴原告ら)は、上記判決に対して控訴しました。
紹介者:安孫子 理良弁護士
連絡先:川崎中国人研修生事件弁護団
     (代表) 東京都新宿区高田馬場4-18-10
          サンハイツ高田馬場503
     電話 03-6427-5902 FAX 03-6427-5903 弁護士 指宿 昭一
     全統一労働組合・外国人研修生権利ネットワーク
     東京都台東区上野1-1-12 新広小路ビル5階
     電話 03-3836-9061 FAX 03-3836-9077


【事件の概要】
(1) 当事者
  原告 (反訴被告) (株) I 工業 (川崎市内、左官業)
  被告 (反訴原告) 元中国人研修生 (技能実習生)

(2) 請求の内容
  本訴 債務不存在確認請求事件
  反訴 未払い賃金等反訴請求事件

(3) 請求の原因の内容
  原告は、平成20年3月まで、原告のもとで研修・技能実習を受けていた被告らに対し、賃金支払債務がないことを確認するとともに、 技能実習終了後団体交渉中に被告らが居住していた建物の賃料を請求しています。
  これに対し、被告らは、原告に対し、研修・技能実習期間中の未払賃金・残業代等合計約425万円を請求する反訴を提起しました。

【これまでの経過】
  原告は平成20年5月13日、全統一労働組合との団体交渉を一方的にうち切り、被告らに対し、債務不存在確認の訴訟を提起しました。
  これに対し、平成20年6月1日に結成された研修生弁連所属の弁護士6名が、川崎中国人研修生事件弁護団を結成しました。

  平成20年6月27日、被告ら(反訴原告ら)は、原告(反訴被告)に対し、未払賃料等を請求する反訴を提起し、 その後、原告に対し、社長からの暴力等を理由とする慰謝料請求を追加しました。

  平成21年9月29日、10月6日に、原告(反訴被告)代表者と中国から再来日した被告(反訴原告)1名の証人尋問が行われました。

  平成22年2月2日に、二年近くに及ぶ審理の末、結審されました。

  平成22年5月18日、第一審判決が言い渡されました。その内容は被告ら(反訴原告ら)の請求を一切認めない、不当な内容でした。

  平成22年5月31日、被告(反訴原告ら)は、上記判決に対して控訴しました。

【一言アピール】
  被告らは、平成17年3月に研修生として来日し、平成20年3月まで、原告のもとで、研修・技能実習を受けました。
  被告らの受けた研修は名ばかりで、仕事の大部分は掃除や後片づけである上、原告は、原告の不正行為や残業代未払などの発覚をおそれたためか、 被告らが毎日書く日記に仕事のことを書くことを禁じ、被告らが仕事のことを書くと激怒し、 被告李さんの髪をわしづかみにして振り回すなどの暴行を働きました。
  被告らの研修時代の研修手当は6万円、残業時給500円、技能実習時代の基本給は12万5千円、残業時給900円。 その上、被告らには、1人あたり200万円以上の賃金・残業代の未払があることが明かとなりました。
  被告らは、全統一労働組合に加入し、平成20年2月に原告に対し、団体交渉を申し入れました。
  しかし、原告は、被告らに対する暴力行為にシラをきり、相手方弁護士は団体交 渉に1回応じただけで、すぐに団体交渉を一方的にうち切り、 本件訴訟を提起しました。
  本件は、最低賃金違反、残業代・賃金不払い、強制貯金や旅券の取り上げ、暴力行為等、 研修生・実習生の置かれた劣悪な研修・実習実態を明らかとする訴訟です。

  第1審判決は、反訴原告らが、研修生から技能実習生へ移行する際に技能検定試験に合格していたなどの形式的な理由のみで、 反訴原告らの研修時代の労働者性を否定しました。平成22年3月25日三和サービス事件名古屋高裁判決、 平成22年1月29日に熊 本地裁判決はいずれも、「研修生及び技能実習生の入国・在留管理に関する指針」 等に反して、 研修生に被実務研修が研修時間全体の3分の1に満たなかったこと、時間外研修が行われていなかったこと、 研修と技能実習の作業内容に差異がないことといった点に注目し、研修生の労働者性を肯定しました。 これらの事情は、本件事件でも同様に認められる事情です。
  それにもかかわらず、第1審判決は、これらの事情につき何ら判断すとなく、形式的な理由により研修生の労働者性を否定した極めて不当な内容です。

  反訴原告らは控訴審において、反訴原告らが労働者であることとともに、反訴原告らの受けた人権侵害を引き続き主張・立証していきます。

  取材・報道は大歓迎いたします。

文責 弁護士 安孫子 理良