2013.10.22更新

熊本市政務調査費返還請求訴訟
〜政務調査費とは、いったい何か〜
事件名:熊本市政務調査費返還請求訴訟
           〜政務調査費とは、いったい何か〜
事件の内容:熊本市長に対する市議会議員への政務調査返還請求
        事件
係属機関:熊本地方裁判所民事2部 高橋亮介裁判長
事件番号:熊本地方裁判所平成19年(行ウ)第10号
  2010年3月26日、熊本地方裁判所民事第2部(高橋亮介裁判長)は、熊本市長幸山政史に対し、 2005年度当時の熊本市議会議員12名に対して交付した政務調査費のうち、 事務所費及び調査旅費の合計478万1414円の返還を12名の議員(当時)全員に対して返還請求すべきことを命ずる判決を下しました。

  熊本市政務調査費訴訟の判決声明
     熊本市政務調査費を透明にする会 一同 2010年3月26日

  上記地裁判決を被告側がすべて受け入れて、1審が確定しました。
  原告等はその後、訴訟ではなく、住民監査請求を通じて議会の自浄機能を求めて活動継続中です。
紹介者:板井俊介弁護士
連絡先:熊本中央法律事務所 TEL 096-322-2515


【熊本市における政務調査費の使い道の実態】
  熊本市では、条例に基づき1ヶ月ごとに20万円 (年間240万円) が市議会議員個人に交付されている。 しかし、それらのうち、少なくない金額が議員が経営する会社の事務所賃料に支払われたり、高級コーヒーカップの購入に当たられたり、 あるいは、年度末の3月末ころになって事務用家具をまとめ買いしたりなど、すでに提出された領収証から、疑問ある実態が明らかになった。 それらは、すべて 「事務所費」 の名目で支出されたものである。
  また、研修の名目で遠方に旅行に出かけ「調査旅費」を支出した疑いもある。

【争点】
  主な争点としては、(1) 領収証の添付がない場合の違法性、(2) 事務所費を政務調査のための事務所以外に支出している場合の違法性、 (3) 観光旅行と政務調査の区別、が挙げられる。

【手続の経緯】
  2008年4月に提訴した本件訴訟では、政務調査費の目的外使用についての立証責任を公権力側に転換した仙台高裁判決に基づき意見陳述を繰り返してきた結果、 裁判所も被告側に 「領収証を提出されてはどうか」 と促すに至り、政務調査費の使い道の裏付けとなる領収証を各議員から提出させた。

  当時は、条例上、領収証の提出の提出義務はないとされていたが、そのような中で、領収証を提出させた裁判所の訴訟指揮は、 まさに被告側に立証責任を転換させたものである。

  提出された領収証に基づき、原告ら市民側は、これまで12名の議員に対して2通ずつ準備書面を提出した。 これに対する議員側からの反論は、主に 「原告らの主張は細かすぎて、むしろ議員活動が制限されるので、かえって妥当ではない」 というものである。

  原告らは、何も有効な議員活動を制限するような意図はない。むしろ、このような訴訟を起こしたくはない。 しかし、やむなく原告らが本訴訟を提起せざるを得ないほど、政務調査費の使途は杜撰だったといわざるを得ないのである。

  議員の各位に市民の血税に対する良識があるのであれば、疑いのある支出については自主返納をすべきである。
  それが、良識ある地方議会議員の取るべき態度であり、市民が期待する政治である。

  [2009年3月6日 (第9回口頭弁論) の内容]
  これまでの弁論で、一部の議員を除き、すでに大まかな議論は終えた。もともと、政務調査費訴訟は、一円単位に及ぶ金銭の議論であり、 細かい議論をすればどんどん些細な議論に突き進み 「木を見て森を見ない」 ということとなる。
  もっとも、審理のわかりやすさのため、今後は数百に及ぶ領収証ごとに、原告 (熊本市民) と被告側 (各議員) がどのような主張・反論をしているかを、 一覧表にまとめる作業をしなければならない。
  熊本では、熊本県のみならず熊本市も1億円単位の不正会計が明るみに出て、様々な膿が出つつある。 次回までに原告側も主張を終え、各議員の証人尋問を行うよう裁判所に求めていくこととなろう。

  [第11回弁論での攻防]
  第10回口頭弁論までに原告側は多数の争点の一覧表作成を終え、9月14日の第11回弁論では、12名の議員の証人尋問を実施するかどうかが問題となった。

  この裁判期日までに、12名の議員らの全員が 「もうこれで十分に立証責任を果たしたから、この上に証人尋問まで必要ない」 という意見書を提出していた。 原告らは、それでも 「まだ不明な点があるので、尋問を実施していただきたい」 として尋問の実施を求めたが、裁判所は 「尋問は不要と考えています」 と表明した。 これを受け、住民側弁護団は、「そういうことであれば、裁判所も判決するに十分な資料が揃ったものと理解していると受け止めます。」 と表明し、 この裁判を長期間担当した高橋裁判長に判決を書いてもらうことを希望して、「次回まで更に追加で立証を行い、次回での結審を希望します」 と表明した。

  裁判は、このような経緯を辿っているが、原告団は、法廷外でも成果を上げている。 原告団の調査によれば、「領収証提出の義務づけが始まって以降、政務調査費の返還額が約4倍に増加した」 という事実が明らかになった。 この調査結果は、これまで 「本来、返還すべき政務調査費、すなわち、使途基準に合致しない政務調査費が返還されていなかった」 ことを如実に物語っている。

  この訴訟が議員の意識喚起に役立ったことも間違いないであろう。

【判決に向けての準備 第12回弁論 2009年12月18日】
  第12回弁論では結審も予測されたが、裁判所からの指示で、あと1回、弁論が行われることとなった。 というのは、裁判所は判決を下すに当たって、もう少し情報が欲しいという意向を示したからである。 次回までの、原被告の双方から、さらに主張を追加することとなった。

  本件で原告らは、熊本市の政務調査費制度を通じて、税金の使い道を正すために闘ってきたが、 それは本来、地方自治法では首長や議員の自律的な判断に求められるほか、監査委員による監査により行われることが予定されている。 その意味では、監査委員の監査の在り方を変えていくことこそが重要である。

  本訴訟において色々な主張を繰り返したが、それは、監査制度の中で、 血税の使い道が 「議員の自律性」 という一言のみでないがしろにされないようにするための手段であった。

  次回の結審弁論では、来るべき判決の監査制度に対する影響を考えつつ、私たちの主張を貫徹したいと思う。

【結審・判決へ 〜第13回弁論 2010年2月1日】
  結審弁論では、原告側からこれまでのすべての主張をまとめた最終準備書面を提出した。 これに対し、補助参加人の一人から 「最終準備書面が大部なので、もう一度反論させて欲しい」 という申し出があったが、 高橋裁判長は 「今日で結審ということはお伝えしてありますので、本日で結審します」 と述べ、引き延ばしを許さなかった。原告側にとっては当然の訴訟指揮である。

  その後、原告ら代理人の板井から、本判決の意義について 「今後の監査における重要な指針となり、 地方自治において法の支配を貫徹することとなる」 という意見陳述を行った。

【勝訴! 12名の議員全員に合計478万1414円の返還を命ずる】
  2010年3月26日午前11時00分、熊本地裁101号法廷が沈黙と緊張に包まれた。これまで13回の法廷を積み重ねてきたが、いよいよ判決言い渡しである。 これまで、原告をはじめ 「政務調査費を透明にする会」 のメンバーは、熊本市及び市議会から冷たい視線を浴びせられながらも、 地道かつ明るく運動を続けてきた。その成果と運動の社会的正当性がいよいよ証明されるのである。

  入廷した高橋裁判長が、淡々と読み上げる。「主文 1 被告は、被告補助参加人に対し、107万・・」。この時点で勝訴が決まる。 その後、息をのんで主文朗読を聞き入る。5人、6人・・・10人、11人、12名。補助参加人全員に返還を命じている。しかも金額も大きい。 2人の議員には全額の返還を命じたようだ。

  主文読み上げの後、裁判官は速やかに退廷した。その後、原告らと支援者が抱き合って喜び、私も握手を求められた。依頼者から感謝される瞬間はそう多くはない。

  熊本地裁前では 「勝訴」 「政務調査費の透明化を命ずる」 の旗だし、報告へと続く。 判決正本を受け取った私は判決内容を検討して記者会見を実施し、その足でマスコミを引き連れ、熊本市役所に出向き、被告である熊本市長幸山政史氏、 及び、被告補助参加人らが所属する熊本市議会事務局に対し、「控訴しないで判決に服することを求める要請書」 を提出した。

  熊本市政務調査費訴訟の判決声明
     熊本市政務調査費を透明にする会 一同 2010年3月26日

【控訴させない闘い】
  勝訴判決を経て、問題は、控訴をさせない闘いに推移した。これからの2週間が重要である。

文責 弁護士 板井俊介