2010.3.30更新

NTT西日本50歳定年制強行見せしめ配転無効訴訟
〜何のための(大阪〜名古屋)新幹線通勤?〜
事件名:NTT西日本50歳定年制強行見せしめ配転無効訴訟
       〜何のための (大阪〜名古屋) 新幹線通勤?〜
  2009年1月15日、1審判決を大幅に上回る合計原告17名について、また、一審が慰謝料の支払いを命じていた原告3名についても金額を増額して、 NTT西の配転は違法であるとする判決が出ました。
  2009年12月8日、最高裁判所第三小法廷は、被告の上告棄却の決定及び上告不受理の決定を行いました。
  これにより、NTT西日本に対し、通信労組組合員17名全員に対し総額900万を支払うよう命令した大阪高裁判決(平成21年1月15日)が確定しました。
紹介者:西   晃 弁護士
連絡先:原告団HP
     弁護士 西   晃   電話 06-6361-7090


【事件の概要】
(1) 空前の 「NTT11万人リストラ」 計画と脅し
  2001年4月、NTTは利益の最大化のため、空前の 「11万人リストラ計画」 を発表しました。これは51歳以上の労働者の大幅賃下げを狙ったものです。 すなわち、NTT東西会社などの業務を100%出資の新設子会社=アウトソーシング会社 (OS会社) に 「外注」 し、51歳以上の労働者をNTT東西会社から 「退職」 させ、 賃金が約3割ダウンとなるOS会社で 「再雇用」 して、従来と同じ仕事をさせる、というものです。

  この脱法的な 「退職再雇用」 を労働者に同意させるため、NTTは、「退職再雇用に応じない者は異職種全国配転に同意したものとみなす」 との脅しを仕掛けてきました。 2002年5月以降、NTT東西会社は、この退職再雇用の強要に応じなかった51歳以上の労働者に対して、従来の仕事を取り上げ、 全国各地への期限なき異職種遠隔地配転を命令しました。

(2) 原告らの苦悩
  配転により、ある者は病気の家族を残して初めての単身赴任を強いられました。またある者は大阪から名古屋まで往復4時間以上、 定期代年間200万円以上をかけて新幹線通勤を強いられました。しかし、そのような苦労に値するだけの仕事は何一つなかったのです。
  この配転は、遠隔地配転で単身赴任や長時間通勤を強要するだけでなく、労働者から仕事に対するやりがいや生きがいを奪い、あわよくば自ら退職していくことを狙った、 見せしめ以外の何物でもなかったのです。

(3) 立ち上がった原告(23名)と会社追随の不当な大阪地裁判決
  このような見せしめ配転に対し、全国各地で無効確認と慰謝料を求めての裁判が提起されましたが、大阪では、第1次訴訟 (4名)、 第2・3次訴訟 (19名) 合わせて23名による訴訟が提起されました。

  2007年3月18日、大阪地裁第5民事部 (山田陽三、川畑正文、細川二朗裁判官) は、原告23名のうち、2名に各80万円、1名に40万円の慰謝料請求を認め、 残りの原告らの請求を退ける判決を下しました。

  判決は、リストラそれ自体の必要性についても、本件配転の必要性についても、ことごとく会社の主張をなぞるものでした。 配転については、OS会社に仕事が移ってNTT西日本本体に仕事がない以上やむを得ないというのです。この点に関しては全く不当判決というほかはありません。

(4) それでも無視できなかった本件配転の非人道性
  一方でこのような不当判決ではあるものの、裁判所も本件配転の非人道性を無視することはできませんでした。
  すなわち、老父母の介護の必要があったK氏、妻が肺がんで手術したばかりであったM氏、糖尿病に罹患していた I 氏について、 会社はその事情を知っていたにもかかわらず本件配転を行い、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせたとして、 慰謝料の支払 (K、M氏にそれぞれ80万円、I 氏に40万円) を命じたのです。

(5) 控訴審における攻防
  本件は双方が控訴し、現在大阪高裁第6民事部 (渡邉安一裁判長 平成19年(ネ)第1401号 配転無効確認等請求事件) に舞台を移して主張の応酬が行われていいます。
  私達としては、本件配転のもつ異常性・非人道性をさらに明確に主張・立証し、一審判決の到達点をさらに伸ばし、勝訴原告を増やして行きたいと思っています。 そしてさらには、本件リストラ配転自体の違法性をも明らかにしていきたいと思い控訴審を闘っています (弁護団は以下の11名:河村武信、田窪五朗、出田健一、横山精一、城塚健之、西 晃、増田尚、中西基、井上耕史、成見暁子、大前治)。

(6) 手続きの経過
2008年2月8日(金)午後3時 弁論
  弁論事項=会社側 (NTT西日本) の主張に対する原告側の反論陳述。また、原告側証人の申請。

  3月14日の期日では、原告が申請した証人6名の内3名が採用されました (残りの3人は採用留保)。これに関しては6月6日 (金) に尋問期日が入りました。 採用された3名は、大阪→名古屋という遠距離配転にあたって、それぞれ自身の健康問題や親族の介護問題等、特に深刻な問題を抱える原告の方々です。 控訴審裁判所の問題意識も上記の点にあるようです。

  4月25日の期日では、裁判所の関心が配転による個別被害 (通常甘受するべき損害があるか否か) にあることが明確になりました。
  勝訴した原告はもちろん、甘受するべきとして損害が否定された一審原告についても、可能な限り多くの原告の勝利をめざして頑張りたいと思います。

  6月6日の期日では、終日、一審原告4人の本人尋問でした。
  体内に一旦発病したらほぼ助からないウイルスが存在しており、一審判決でも健康状態の維持には特段の配慮を必要とすると言及されたにもかかわらず、 敢えて本人の意に反する (更なる) 配転を強行しようとした会社。
  奈良から近鉄・新幹線を乗り継いで往復5時間をかけて通勤していた労働者の苦悩。
  糖尿病の持病をかかえ、食事管理、健康管理に特段の留意が必要であるにもかかわらず、これを全く考慮しなかった会社。
  妻のガンが再発し、余命幾ばくもない状態にもかかわらず、なお名古屋単身赴任にこだわり続けた会社。
  4人はそれぞれの立場から、今回の遠距離(大阪〜名古屋)配転が如何に非人道的なものであるかを見事に証言しました。

  また一方でこのような単身赴任あるいは新幹線通勤を強いる合理性が全くないことも証言で明らかにしてもらいました。
  裁判官にも十分伝わったのではないかと思います。

  この日で事実調べは全て終了しました。次回 (8月27日) に最終準備書面をそれぞれ陳述し、終結予定です。

  8月27日の期日では、一審原告・一審被告それぞれ主張整理の準備書面を陳述し終結しました。
  終結に際して一審原告らは原告ら代表者 (田井さん) と原告ら訴訟代理人 (河村武信弁護士) からそれぞれ意見陳述を行いました。 この間の不当な異職種、かつ長距離配転によって身も心も苦しめられた原告らの思いの集大成として堂々と意見陳述を行いました。 判決は少し先の来年 (2009年) 1月になりましたが、一審判決を更に前進させる良い判決を期待しています。
  ご支援して頂いた皆様に感謝申し上げます。そしてこれからもどうかよろしくお願い申し上げます。

  2009年1月15日、1審判決を大幅に上回る合計原告17名について、また、一審が慰謝料の支払いを命じていた原告3名についても金額を増額して、 NTT西の配転は違法であるとする判決が出ました。

(判決の骨子)
1 職種・勤務地限定の合意はない。

2 NTT 11万リストラ、いわゆる 「構造改革」 の必要性自体はあった。

3 配転に関する業務上の必要性について判断。
  (1) (九州・四国から) 大阪への配転命令については、大口ソリューションという会社の主張は採用しないが、 配転の必要性はあると判断 (これに該当する一審原告4名については敗訴)。
  (2) (名古屋への配転命令については) 名古屋地区での強化は認められるが、一審原告らが担当した営業業務については、営業成果が上がらないものであったり、 現地での作業業務も単純なものであった。「従業員に新幹線通勤や単身赴任などの不利益を負わせてまでするほどの業務上の必要性は認められない」 と明確に判断。 これに該当する一審原告17名が勝訴。

4 慰謝料額は名古屋配転を命じられた17名の一審原告全員について認容。
  (1) 長距離通勤や単身生活によるストレスを共通の損害とした上で、慰謝料を1人40万とした。
  (2) その上で個別事情を考慮し、心身の状況や家族の介護など個人的事情を考慮し、慰謝料を1人20〜80万加算し、60万 (1人)、80万 (1人)、 120万 (2人) とした。総額は900万。

(判決に対する評価)
1 九州・四国地方から大阪への配転は各地の訴訟と共通の類型ですが、仕事の内容、研修、ステップアップの見込みがないことなど、 かなりの部分について私たちの主張を認めています。それでも負けたのは、アウトソーシングで仕事がなくなったから仕方がないじゃないの、ということです。 会社主張をほとんど論破し、立証でも圧倒し、首の皮一枚にまで会社を追いつめましたが、最後の最後で逃げられてしまったという感じです。

2 1、で会社主張のかなりの部分を論破した結果、名古屋配転の必要性に関して (必要性なしとする判決部分) は完勝です。 逆に言えば、それほどに会社の配転命令には無理に無理を重ねていたということの証左です。

3 損害論では新幹線通勤、単身赴任とも、肉体的・精神的負担、経済的負担に加え、自由時間の減少、地域活動・社会的活動上の不利益を認めています。 また、高年齢者特有の不利益も正面から認めています。これは今後の配転命令と安全配慮を巡る議論に相当の影響を与えるものではないかと思います。

4 慰謝料額も同種事案の中でもなかなかの水準 (1人40万〜120万) ではないかと思います。

5 総じて、配転命令の必要性と損害論に関して、今後の裁判実務にもかなりの程度影響を与えうる重要な判断を含む判決だったと思います。
  (ほぼ確実に) 最高裁に舞台を移すことになります。今後とも全国の皆様のご支援をお願い申し上げます。

   [共 同 声 明]
   NTT11万リストラを断罪 大阪高裁で画期的勝利判決!!
    2009 (平成21) 年1月15日
                    NTTリストラ大阪訴訟原告団
                    NTTリストラ大阪訴訟弁護団
                    全労連NTTリストラ闘争本部
                    NTTリストラ事件大阪支援共闘会議
                    通信産業労働組合


  2009年12月8日、最高裁判所第三小法廷は、被告の上告棄却の決定及び上告不受理の決定を行いました。 これにより、NTT西日本に対し、通信労組組合員17名全員に対し総額900万を支払うよう命令した大阪高裁判決(平成21年1月15日)が確定しました

(判決の意義)
(1) 今回の最高裁判決は、原審大阪高裁判決を追認したもので、独自に判断をしたものではありませんが、 大阪高裁の以下の判断を維持したものとして高く評価することができます。
  @ 大企業における企業再編に伴う大合理化の推進過程における組織的、集団的な配転であっても、 個々の配転先において、その従業員を配転させる業務上の必要性が個別的に認定される必要のあること。
  A 配転に際し、長時間の長距離通勤による肉体的・精神的、経済的負担等、及びそれらに伴う精神的ストレス等を、 育児介護休業法26条の趣旨をも踏まえて検討する必要があること。
  B 配転に関する適正手続についても、個別の配転の必要性、配転先での担当業務、復帰の時期について説明することが必要であり、 また配転時に使用者が認識し、あるいは容易に認識できた事情をもとに不利益性を判断すべきこと。

(2) また、今回の大阪高裁判決・最高裁判決は、司法裁判所として、NTT(西)のあまりの行きすぎたリストラ配転に対し、 一定の歯止めをかけようと意図したものであると思われますが、その流れは、平成22年3月25日の高松高裁判決(2度目の配転に関し、 「不当な差別的意図を推認でき、配転命令権を乱用した違法な命令」 とし、1人当たり200万円の慰謝料を支払うよう命じた)にも表れています。

(判決後の運動等)
  「仕事と人間らしい生活との調和」 「ワーク・ライフ・バランス」 という視点を転勤・配転においてもなお一層考える必要性は改めて言うまでもありません。 この事件の判決文(大阪高裁)の中で、「余暇の活用」 「地域活動」 や 「社会活動」 を考慮するべき要素として掲げられたこと、 これらの点を発展的にとらえ、労働者の生活向上に向け、今通信労組は意気軒昂で活動をしています(判決後、通信労組には新たな仲間も増えて来ています)

文責 弁護士 西  晃